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ソードアート・オンラインーツインズー

作者:相宮心
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SAO編-白百合の刃-
  SAO26-Yui Suzuna

「えっと…………兄の話をまとめると、森の噂を聞いた兄とアスナは噂を確かめるべく、森へ向かうと、ユイちゃんが倒れていて、放って置くわけにもいかず、とりあえず家に連れてきて……今に至るってこと?」
「そういうことだ。これで誤解は解けただろ」
「ほんと解けてよかったよ……」

 兄は椅子で寝ている妖精のような少女、ユイちゃんのことを私とドウセツに話してくれた。それと同時に、私もスズナのことを兄とアスナに話した。
 それで共鳴するかのように、ユイとスズナには偶然とは思えない共通点が見つかった。
 まず一つが、ユイちゃんとスズナは同じ記憶喪失であること。何故、ユイちゃんとスズナが記憶喪失になったのかもわからない。兄は記憶がないのは、精神にダメージを受けているのではないかと推測している。となると、スズナも同じような理由なのだろうか? そうだとしたら、偶然に二人共記憶喪失になることなんてあるだろうか? その可能性はなくはないけど、今はそれを確かめる術はない。
 また、二人とも私達を親と認識している。家族の温もりを求めているのかは決定づける理由がないものの、生まれたてのヒナは最初に見たものを親と認識するって聞いたことある。それが私達を親と認識する理由ではないかと思っている。
 もう一つの共通点はユイちゃんもスズナと同様にカーソルは表示されないことだった。家に入れたんだからNPCでもないし、クエストの開始イベントもないようだった。
 二人の違うところを挙げると、外見が違うところと、スズナは表情が貧しい点に対して、ユイちゃんは幼児退化のように言葉が乏しいところ、それ以外を除けば、ユイちゃんとスズナの存在はまったく同じとも言っていいだろう。

「ねぇ、スズナちゃん」
「?」

 アスナがドウセツの膝の上でミルクを少しずつ飲むスズナに声をかける。スズナは視線をアスナの方へ向けてから首を傾げた。

「スズナちゃんは……ユイちゃんのこと知っているかな?」
「ん…………わかんない」

 スズナは首をかしげて考え込むが、首を左右に振って口にして、兄とアスナを不思議そうに見つめる。でもすぐに視線はミルクの方へと戻り、再びミルクを少しずつ飲み始めた。

「う~ん……ユイとスズナは境遇も年齢も共通点あるから、姉妹だと思っていたが……」
「記憶喪失なら確かめようがないもんね」

 兄は腕を組みながら悩み、アスナはスズナとユイちゃんの関係性と存在に悩んでいた。兄が思うことはこの場にいる私達が思うところなんだろうね。スズナとユイちゃんはそれぞれ別の場所で倒れていたが、特徴や境遇が偶然には思えない。姉妹だと考えてもおかしくないが、確実に確かめる術は、今は持ってない。姉妹ならどこかしら似るところはあるとは思うんだが……それは追々確かめるしかない。
とにもかく、ユイちゃんが起きないと今のところなにも進展や発展はない。

「私達スズナをさ、どうにかしたいから兄達に相談してきたの」
「俺もキリカ達に協力してもらいたいところだった」
「……そのわりには、ユイちゃんを隠していたそうじゃない」
「そ、それは……お、お前が急に現れるから、心の準備が……」

 なんだよ、そのこじつけは。それで納得すると思っているのか?
 仕方ない、納得しよう。

「とにかく、昨日、新聞を見て訪ね人コーナーにも村にも情報がなかったから、『はじまりの街』に行ってみようかと思うんだが」

 あ、話逸らした。
 でも、『はじまりの街』か……スズナとユイちゃんのステータスと両親のことを考えると、最初から一番安全な『はじまりの街』は最初に訪れるべき場所だろう。他に手掛かりがない以上、兄の意見に賛成だ。

「確かに『はじまりの街』なら、なにかわかるかもしれないね」

『はじまりの街』
 あの場所で兄と合流して、クラインと出会って、茅場晶彦がデスゲームをさせた。
 名の通り、全てが始まった場所。
 アインクラッド最大の都市でデスゲーム化した影響から、一番安全と取るプレイヤーが生活しているために、どこよりもプレイヤー人数は多い。もしかしたらスズナやユイちゃんを知っている人物がいるかもしれない。

「ちなみに聞くけど、昨日、新聞を見てスズナの情報は……」
「なかった」

 兄の返答で、この層には記憶喪失の二人の情報はないことはわかった。

「なら、ユイちゃん起きたらすぐに行こっか」
「昼飯食ってからな」
「昼飯って……まだお昼まで三時間あるじゃないか……まぁ、いいけども」

 昼前に行ったとして、店で食べるよりかは、アスナやドウセツの手料理を食べたほうが美味しいので兄の提案を拒む必要はなかった。

「それにしても……」

 スズナを抱えている、ドウセツを見てアスナは微笑みながら口にした。

「ドウセツ、ママ似合っているね」
「母親に似合っているとかあるの?」
「似合っているよー。ママそのものって言ってもおかしくないわよ。ねー、スズナちゃん」
「?……うん」
「スズナを困らせるようなこと言わないの。それとスズナはわからなかったら、素直に頷かないの、いい?」
「はい、お母様」
「わかればよろしい」

 そう言って、ドウセツはスズナの頭を優しく撫でた。無表情に近いが、スズナの表情は穏やかで心地良さそうに見えた。
 だが、どういうことだ。おい、ドウセツ、いつもの毒はどうした? かわいいから良いけども、その優しさを少しは私にも与えてほしい。二人っきりになったら言ってみようかな。
今は、近所のお母さんが立ち話で盛り上がるようにドウセツとアスナとで会話しているので、そっとしとくとしよう。心なしか、アスナの見方が人妻にも見える。兄と結婚して、ユイちゃんという子供がいるからだろうか。それとも、アスナの動作と口調が近所のおばさんっぽいから、一時的に年上に見えているからなのか? なんかそんな人と相思相愛になっている実の兄に苛立ちを覚える。クラインが羨ましむと同時に、兄に怒りをぶつける気持ちが沸くのもわかる気がする。
 ゴホン。
 お母さん達の会話は長くなりそうな気がするので、我々双子であり、お父さん同士で雑談でもすることにしよう。

「兄もパパになったでちゅか、よかったでちゅね~」
「俺のこと絶対にバカにしているだろ」
「あれ? だってユイちゃん幼児退化したみたいなこと言ったじゃん……」
「俺はしてねぇし、それとその口調でユイには話すなよ。気持ち悪い」
「実の妹に気持ち悪いとか言うなんてサイテー」
「だったらその赤ちゃん口調で話すなよ」

 まったく、なんでこんな兄のことをアスナは好きになってしまい、そして両想いになってしまったのだろうか。兄にはもったいない相手だ。私からすれば、ゲームが異常に上手なネトゲオタクの人見知りに過ぎないのに……いや、そもそも今暮らしている世界がゲームの世界なんだから、兄にとってSAOはリア充に分類されているのか。納得するようで納得しないな。
 …………それにしても、兄に恋人か……。

「ん? なんだよ、ジッと見つめて……」

 僅か数秒間の空間と時間。
記憶が過ったものは、私と兄がこの世界で過ちを犯してしまった出来事、『月夜の黒猫団』の実質全滅させた出来事。
特に私にとっても、兄にとってもサチが失ったことに関しては、記憶を消去してなかったことにしたい出来事。私と兄がサチを殺したと言っても過言じゃない。
 だから、“もしも”の話。
 
“もしも”、アスナが“いなくなってしまった”ら……その時、兄は…………。

 …………いや、そんな風に考えるのは止そう。例え、その時が来たとしても、言うべきことではない。うん、反省。

「……いや、私か見ても兄はギリギリ合格点かなって、思っただけさ」
「何がだよ」
「兄の顔。イケメンじゃないけど、年上にはなんかモテそうだなって」
「なんでお前が俺の顔を見て評価しているんだよ……」
「ボロクソに酷評しないんだから、感謝しなさい」
「偉そうだな……そういうお前はいつまで経っても結婚なんてできなさそうだな」
「そんなこと言う兄サイテー、自分はいるから、結婚できるぜみたいな?」
「ぜってぇバカにしただろ」
「恋人がいる兄が悪い。全部兄のせい」
「いい加減だな。だが、少なくともお前よりかは現実的だぜ。アスナがいるからな」
「うぜぇ」

 兄の先行く未来に、ドン底へ落ちてしまうかもしれない通過地点のことを心配してしまったなんて言えるわけがない。だいたい、そんなことを兄に話したとして、なんの話をしているんだよって笑われてしまうのがオチ。
 それに兄だって成長しているんだから、私が過激に心配するのはなんか違う気がするし、ふと過ちの記憶が蘇ったから、忠告するのも違う気がする。
 でも……そうね……。
 それでも心配してしまうのは、私の悪い思考なのかしらね。

「ところで前々から思っていたんだけど、兄っていつからアスナのこと好きになったの?」
「あぁ……それはだな……」
 
 兄はアスナがいるのにも関わらず、好きになった理由をベラベラと喋ってくれた。当然の結果、赤面しながらアスナは兄に愛の体罰を与えた。私はその時、ドMに目覚めないか心配していたが、兄が「そんなこと心配するなよ」と発してきたので、その可能性はなくなったとホッとした。そんなこんなで他愛のない話をあれこれしつつ、時間は圧倒言う間に流れる。アスナが頃合いを見て昼飯作る時だった。

「あ、ユイちゃん……」

 アスナはユイちゃんが起きたことに気が付き、視線はユイちゃんに向ける。ユイちゃんがゆっくりとまぶたを開き、数回パチパチと開いたり閉じたりする。そしてユイちゃんは寝る前と違う空気を察したのか、私とドウセツに顔を向ける。そして見比べてからユイちゃんの口が開いた。

「まま? ぱ……ぱ…………だ、れ?」
「えっとね、私はキリカ」
「きい……か? ぱぱ……じゃないの?」
「いや、どう見た……」

 自分はパパではないと否定しようと言いかけた時、その謎は解明され、脳にひらめきを走らせた。ユイちゃんが私のことをパパと勘違いしているのは、私がキリトパパの双子の妹だから勘違いしたんだろう。
そう思っていると、ユイちゃんのパパさんが変わりに紹介してくれた。

「ユイ、この人は俺の妹だ」
「いもおと?」

私の変わりに兄が説明すると、ユイちゃんは首をかしげる。言葉の意味を理解しているのか考えていると、ユイちゃんはにっこりと笑いだした。あぁ……可愛い。今すぐに抱きしめたい。

「それでね、ユイちゃん。こっちは、ドウセツ。わたしの友達」
「どお…つ?」

 次にアスナはドウセツをユイちゃんに紹介した。

「ママに似てるー」

 ドウセツを見つめては、ユイちゃんはにぱーって笑った。ドウセツがアスナに似てい……る? 私はアスナとドウセツを見比べる。すると、ドウセツはそれを一発で見抜いて口にし始めた。

「見比べても一目瞭然でしょ。アスナと私は似てないわ」
「な、何故わかった……」
「キリカは特に単純だからわかりやすいわよ。流石ね、その単純さには私には持ち合わせていないわ」
「あ、褒めてないんですね」

 ドウセツの言葉を使う、皮肉と賞賛の違いがこれほどまでにわかりやすいのは、ある意味流石としか言いようがない。というか、そもそもドウセツは私を褒める気なんてさらさらない。
 でも、しょうがないことじゃないのか? 今までドウセツと一緒にいて、アスナとドウセツが似ているなんて思ったことないんだから、見比べてしまうのは自然なことである。

「……アスナは、ドウセツと似ているなってところはないの?」
「う~ん……今までドウセツと似ているとは言われたことないわね」
「まぁ、アスナはドウセツみたいにクールじゃないし、皮肉も毒舌も吐かないからな。似てはないだろう」
「なによ、キリト君! それじゃあ、わたしがまるで遠回しにバカみたいな言い方じゃない!」
「ば、バカにしてないって! アスナとドウセツとでは考え方も見方も違うだろ!」

 遠回しに馬鹿にされた嫁さんは夫にポカポカとじゃれ合うように何度も攻撃をしていた。その様子はまるで幸せいっぱいのイチャイチャ夫婦劇場の一幕を見ている気分であった。
感想としては、見るものではない。余所で二人っきりでやってほしいところが、正直の感想だ。ドウセツなんかガン無視しているし……。

「あ、そう言えば……」

 急にアスナは手を止め、何かを思い出すように口にし始めた。

「よくイリーナさんから、私とドウセツは姉妹みたいだって言われていたんだよね」
「そうなの?」
「うん、わたしが姉でドウセツが妹」
「あー……」

 なんとなく想像できる。配置としてはぴったりだろう。ドウセツという妹が身勝手な行動と毒舌と皮肉に振り回されて、尻拭いさせられ、苦労する姉のアスナが浮かぶわね。。うん、想像できる。
 
「それは私とアスナがよく一緒にいたから姉妹と例えたんでしょ。私とアスナと似ている理由にはならないわ」
「う~ん……それもそうか。わたしには妹はいないしね」
「私も姉なんていないわ」

 妹はいないってことは、兄や弟、姉はいるのかな? そこらへんは今度兄に聞いてみようかな。多分、兄には話すと思うし。
 まぁ、わかっていたけど、二人は姉妹ではない。つまり

「結局、ユイの勘違いなのか?」
「だと思うよ。ヒラメとカレイを見間違える人だっているんだし、ドウセツをアスナと間違えそうになっただけじゃない?」
「……それもそうだな」

 兄は私の推測に納得する。なんで間違えたかなんて深く考えることでもないだろう。今のユイちゃんは原因不明の幼児退化似合っているのだから、ドウセツとアスナを見間違えそうになることもなくはない、はず。

「ユイちゃん、私達と仲良くしてくれるかな?」

 ユイちゃんは少し考えて、にっこり笑いながら元気よく言った。

「うん!」

 可愛いなぁ……スズナと同様に抱きしめたいな~……。

「そのにやついた顔、余所では見せない方がいいわ。人が一歩かニ歩下がられても良いなら止めはしないけど」

 ユイちゃんとスズナがいるから、ストレートに毒を吐かないけど、遠まわしいながらも確実に毒をぶつけてくるドウセツの毒舌はある意味才能の一つだと身を知った。べ、別にいいもん。余所では人が引かれるような表情なんてしないし、今後ともなるべくそんな顔する予定ないもんね。
 よし。そんな可愛い可愛いユイちゃんに、うちの可愛い可愛いスズナを紹介しよう。

「それで、こちらがスズナ」
「すずな?」

 ユイちゃんにスズナを紹介すると、ジーっと、ユイちゃんはスズナを見つめていた。

「…………」
「…………」
「…………?」
「…………?」

 二人は見つめ合いながらお互いに声を出すことなく、合わせ鏡のように首を傾げていた。その仕草に、思わずキュンとしてしまう。
 ヤバい、なんて可愛い子達なんだ。今すぐにでも抱きしめたい。お持ち帰りしたい。

「ねぇ、スズナ。ユイのこと知っている?」

 衝動が抑えられなくなってしまい、手遅れになる前にドウセツがスズナを守るように声をかけた。うん、助かった。

「わかんない……」

 スズナはドウセツを見上げては首を振る。アスナも同様にユイちゃんにスズナについて訊ねたが、スズナと同様だった。

「う~ん……ユイちゃんとスズナちゃんは接点ないのかな……」
「考えても仕方ないさ。アスナ、とりあえず腹ごしらえだ」
「とりあえず食えって言う、兄の発想はどうかと思うが……そうしよっか」
「そこで認めるあたり、貴女とキリトは兄妹なのね」

 むぅ……本当にドウセツの言う通りだからなにも言い返せない。
 そういうわけでアスナは慣れた手早さで料理を振る舞い、ユイちゃんとスズナのために甘いフルーツパイ、女性用のタマゴとハムのサンドイッチ、そして兄にはマスタードたっぷりのサンドイッチを作ってくた。

「なんで兄だけ特性サンドイッチなのよ……」
「辛いのが好きだからな。キリカも食うか?」
「食う」

 マスタード入りのサンドイッチを口に入れる。
 ……うん。思っていたよりも辛くなかった。
 その一方、スズナは淡々とフルーツパイを食べ続けるのに比べて、ユイちゃんはフルーツパイを他所に兄が食べているサンドイッチに興味津々のようだ。

「ユイ、これはすっごく辛いぞ?」
「う~……パパとおんなじのがいい」

 ユイちゃんはどうしても兄が食べているマスタード入りのサンドイッチを食べたいそうだ。それに対して兄は、ユイちゃんにサンドイッチを一つ差し出した。

「あむっ」

 受け取ったユイちゃんはためらわずに小さな口を精一杯あけてがぶりついた。

「お父様、お母様」

 その様子をスズナは見ていて、ユイちゃんと同様にマスタード入りのサンドイッチを食べたい様子だった。可愛い。

「スズナも食べたいのか、何事も経験だぞ」
「なんで兄が答えるのよ」

兄はスズナにもサンドイッチを差し出して、小さな口でモクモグ食べ進む。

「おいしい」
「お、ユイは中々根性のある奴だ」

 ユイちゃんはマスタードたっぷりのサンドイッチが気に入った様子でにっこり笑っていた。

「…………からい」

 しかし、スズナにとっては辛かったようだった。

「スズナはまだ早いか」
「でも、おいしい……」
「そうかそうか、なら晩御飯は激辛フルコースに挑戦しような」
「兄だけでやっていろ」

 まだ子供なのに激辛食べさせようとしないでよ。ついでにスズナを巻き込むな。辛いって言っているだろ。とりあえず兄の発言はなかったことにして、私達は雑談しつつもサンドイッチを食べ続けた。辛いサンドイッチを食べたスズナは合わないようだったので、それ以降はマスタード入りのサンドイッチには手を出さずにフルーツパイを好んで食べていた。それに対してユイちゃんはマスタード入りサンドイッチが気に入ったのか、全てを平らげた。
 当たり前だけど好みの違いは二人にあった。姉妹だったら、似るところもあるだろうけど……昼食している時はそんなところはなかったから、姉妹じゃないってことかな?
 これも当たり前だけど、それだけではわからないわね。

「あ、そうだ。ユイちゃんのウインドウ開いてくれる?」
「そう言えば、スズナのトップ画面が変だって行っていたな。やって見るか」

 兄とアスナはユイちゃんにウインドウを開くようにと訪ねたが、スズナと同様に何のことかわからなかった。兄が手本を見せると、おぼつかない右手で動きを真似たがウインドウは開かず、ムキになって左手で振るとウインドウが表示された。

「でた!」

 ユイちゃんは嬉しそうににっこりと笑った。アスナはユイちゃんの右手を取り、可視モードのボタンをクリックする。

「な……なにこれ!?」

 アスナは“それ”を見て驚愕した。

「どれどれって、これは……ドウセツ」
「スズナと同様ね……」

 ユイちゃんもスズナと同じ、装備フィギュアと『アイテム』と『オプション』しか存在しなかった。そしてユイのHNは『Yui-MHCP001』と表示されていた。違ったのは数字だけだった。

「スズナも、MHCPって表示していて数字は000だったんだけど……これなに?」
「わからない」
「兄でもわからないか……」

 スズナはゼロが三つ、ユイちゃんは一の位が数字の1。二人の共通点があるとしたら、数字が0のスズナが姉で、1はユイちゃんが妹という、数字基準で姉妹説が立てられるが、真相はどうなんだろう。単なるバグで表示されているかもしない。
 でも、スズナとユイちゃんが無関係ではないってことにはなる……かな。流石に、子供で、記憶を失っていて、ウインドウがおかしい共通点が単なる偶然で一緒になるとは思えない。確証はないが……無関係ではないことは確かになってきた。

「…………これ以上考えても答えは出ないようね」

 みんなが悩んでいて、沈黙を作る。
 何分経たないうちにドウセツが口にすることで沈黙を破った。そしてアスナは肩をすくめて、ユイちゃんに新しい服装に着替えさせた。



「ユイちゃん、見覚えのある建物とかある?」
「うー……わかんない」

 アスナは兄に抱かれるユイの顔を覗き込みながら訊ねてみる。ユイちゃんは石造り建物を見渡すも。難しい顔で眺めるも首を振って答えた。

「スズナちゃんは?」
「わかんない」

 次にアスナはスズナにも訊くも、首を左右に振って知らなかった。

 第一層『はじまりの街』
 名の通り、全プレイヤー達がソードアート・オンラインのゲームを始まる場所であり、旅立つ場所でもある。そして、茅場晶彦によってデスゲーム宣言をした場所でもある。
 今や『軍』のテリトリーになってしまったものの、この街はアインクラッド最大の都市であり、一言で言うと、とにかく広い。物価は安く、宿屋の類も大量に存在し、冒険に必要な機能は充実している。 もちろん、生活するだけでも十分に暮らしていけるくらいの充実さもある。
 充実している……はずなのだが……。

「ねぇ、人少なくない?」
「キリカちゃんもそう思った?」
「そりゃ……ねぇ……・」

 私達が来ていた場所は、デスゲーム宣言したゲート広場。そこは全プレイヤー一万人を収容した場所であり、とてつもなく広い。上層にある大規模な街では、ゲート広場は無数のプレイヤーが世間話やら、パーティーを募集している人も入れば、今日のような青空日和は外に出て過ごす人もいるはずだ。しかし見渡してみれば、ゲートか広場の出口へと移動する者しか印象はなく、やたらと元気に呼び込みをするのはNPCぐらいしかいなかった。

「兄、『はじまりの街』に住んでいる人って、どれくらいかわかる?」
「そうだな……生き残っているプレイヤーが約六千、『軍』を含めると三割くらいがはじまりの街に残っているらしいから、二千弱ってことになるな」
「二千弱ねぇ……とてもそうは見えないけど」
「そうだな」

 二千弱のプレイヤー達が一斉に籠り祭りでも開催しているのかしら? それともみんなでフィールドに出ているのかしらね。
 『はじまりの街』の住人は誰よりも死の危険を恐れているから、例え誰でも倒せるモンスターでも負ける可能性を秘めてしまうことを考えると、みんながみんなフィールドの外へ出ることはないはず。そしてみんながみんあ部屋に籠ることなんてはないはずなんだけど……。
 誰もが人が少ないことに疑問を持つ中、ドウセツはいつもの口調で話し始めた。

「外にいないなら、中にいるんじゃないの?」
「中って……家の中?」
「そうでしょうね。普通に考えて『はじまりの街』が普通じゃないのは見渡してみて、考えればわかることじゃない」
「まぁ……外にいなければ中にいるんだろうとは思うけど……みんながみんな部屋に引き籠っているわけじゃないでしょ」
「なら部屋に籠る理由があるってことになるでしょ」

 となると、異常と思われる『はじまりの街』に必ず原因があることになる。二千弱のプレイヤーがいるのにも関わらず、ほとんどのプレイヤーが家の中にいる。

「基本的に『はじまりの街』の住人は、モンスターと戦うことを恐れた人達が多い。傷つくのが怖いから街に引き籠るとすれば、今はこの街を恐れて家の中に引き籠っている」
「要するにこの『はじまりの街』支配するような人達がいるってことだろ」

 兄の言う通り、その答えにたどり着くだろう。

「そんな人達がいるとしたら……」

 アスナがぽつりと言いながら、頭の中では思い当たる人達を想像していた。ドウセツの言葉が正しいなら、今は『はじまりの街』はモンスターのような恐怖があるから一番安全な家の中で身を守っている。そして兄の言葉が正しいのなら、街を支配するような力を持っている人が、異常とも思われる原因の元凶。

「普通に考えて『軍』だよね」
「だな」
「そうね」
「あら、バカのくせによくわかったわね」
「バカにするな。これくらいわかるわ!」
 
『軍』は現実世界でいう警察の位置に近い、その立場として利用すれば一歩もフィールドの外に出たくないプレイヤーを支配することも出来るだろう。
 でも、『軍』全員がそんなことするのかな……。

「とりあえず、詳しいことは誰かに聞き込みでもしようぜ」

 兄の発言で私達は同意し、私達はとりあえず広場から大通り入った。そして中央に立つ大きな木の下に座り込むおじさんを見つけたので、訊ねて情報を貰うことにした。
 情報としては、東七区にある教会には子供プレイヤーが集まっているそうなので、もしかしたらスズナもユイちゃんもそこに行けばなんとかなるらしい。
 他の情報としては、人が少ない理由の一つがドウセツの推測通り、宿屋で籠っていることだった。その理由が徴税と言うカツアゲを逃れるためだとか、相手はチンピラとかそう言うものではなくて、逆らい難い『軍』が取っていることだった。
『軍』がプレイヤーに対しての徴税という名のカツアゲには気になるが、今はとりあえず、おじさんの情報をもとに東七区の教会に行って、スズナとユイちゃんについて訊ねてみることにした。
その道中、ユイちゃんとスズナは眠りに落ちた。

「変わる?」
「別に良いわよ」

 筋力パラメータ補正のおかげで、十歳程度の体格でもドウセツはスズナの重さでも持てるようになっているから腕が疲れることはなくなっている。

「ねぇ、あれじゃない?」

 歩くこと数十分。アスナが指した先には色づいた広葉樹の林の先には一際高い尖搭があり、教会の印である十字に円を組み合わせた金属が搭のてっぺんにつけていた。
 間違いない、あの建物が教会だ。

「さ、行きましょう」

 ドウセツが先頭に立ち、教会へと進もうとした時だった。

「ちょ、ちょっと待って」

 アスナがドウセツを呼び止めた。

「……なに?」
「あ、そのさ……もし、あそこでユイちゃんとスズナちゃんの保護者が見つかったら……置いてくるんだよね」
「そうよ」

 ドウセツは後ろを向かずに答える。
 そして私はアスナが何を思っているのかを理解できた。ドウセツに至っては、呼び止めた時点でわかっていたのかもしれない。
 アスナは迷っている。少ない期間でもユイちゃんを家族として、本当の娘のように愛しているに違いはない。それはドウセツも同じはず、母のようにスズナを接しているのを私は見た。
 ドウセツとアスナが持っている愛しさは同じだ。でも、ドウセツはアスナと違って、最初から決めていた。

「……アスナ」

 ドウセツは振り返ってアスナを見つめる。珍しく、その瞳はどこか力強いような感じがした。
 もしかして……怒っている?

「例え家族を見つかったとしても、アスナはその家族の娘を奪って自分達の娘にするつもりなの?」
「それは……っ」
「いい、アスナ。貴女はユイを産んだわけじゃないわ。産みの親がいることなら、ユイとアスナは別れることは必然よ」
「……わかっている」
「わかっていても、それを実行するのとでは同等じゃないわ」
「…………」
「更に言えば、わかっていることを実行できないことは結局わかっていないだけになるのよ。今のアスナはわかっているフリをしているだけだわ」

 初めて見た気がする。呆れたり、人を見下したり、毒を吐いて冷酷なことを言ったりすることもある。それがドウセツであることは知っている。
 でも、初めて、ドウセツが真っ直ぐにアスナに怒っている姿を初めて見た。

「ユイと別れたくないと言う想いは、別の傷跡を残すことになってしまうわ。アスナも、ユイも、ユイの家族も、そしてその周りの人々さえもいらない傷跡を刻み、それに巻き込まれることだってあるのよ」
「…………」
「もしユイと別れたくない、ずっと側にいると少しでも思っているなら、今すぐ捨てなさい。その考えは褒められたことじゃないし、他人の子供を奪った最低の悪人だわ」

 指摘されたのか、怒られたのか、それともアスナもドウセツが真っ直ぐに叱っている姿を初めて見たからか、俯いてしまい気を沈んでしまった。
 アスナの気持ちはわからなくはない。別れは誰だって寂しいし、愛する分だけ寂しさも増す。だけど、ユイちゃんとは別れなければいけない。無論、スズナもそうだ。何故なら、ユイちゃんとスズナの両親は私達ではなく、別にいるんだから……。

「アスナ……」

 落ち込んでいるアスナを兄が慰めようと近づいた時。アスナは顔を上げて口にした。

「そうだよね。ごめん、ドウセツ。別にユイちゃんとは二度と会えなくなるわけじゃないもんね。行こ、キリト君」
「あ、あぁ……」

 アスナは頬笑み、兄と一緒共にドウセツを追い抜いて教会へと歩き出した。
 寂しさを誤魔化そうと、無理に笑っている……わけでもなさそうだった。

「…………ドウセツも、アスナの気持ちわからなくはないでしょ?」
「……どうかしらね」

 ドウセツは小さな声で受け流して、アスナの跡を追うように歩きだした。

「いろいろあったのかな……」

 毒を吐き、冷淡なことで辛辣な発言をすることは多かったけど、さっきみたいに真っ直ぐアスナを見つめて怒ったのも、なにがあったからなんだろう。それこそ、ドウセツの過去になにがあったとか。
 いずれ私がそのことを知る日が来るのかな。
 ううん、来るのだろうね。その理由を、その真意を。 
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