| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

アパートの物音

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
次ページ > 目次
 

第二章

「ゴキブリとかムカデとか蜘蛛とかゲジゲジとかな」
「虫だったのか」
「ああ、幸い俺掃除はいつもしてるからな」
「奇麗好きだからな、お前」
「部屋には出てなかったけれどな」
 それでもというのだ。
「俺の部屋アパートの一階の端にあるだろ」
「そういえばそうだな」
「あそこアパート建てる前は沼地でな」
「じめじめしていてか」
「俺の部屋の場所は特に水はけが悪かったらしくてな」 
 それでというのだ。
「気温が高めで湿気もあってな」
「虫が多いんだな」
「そうなんだよ、実は外も蚊とか多くてさ」
「そうなんだな」
「昔から住んでる人から聞いたよ、結構虫の多いアパートで」
 足立は蕎麦を食べながら話した、結構コシがあり風味もつゆもいい味だ。
「特に俺の部屋はだよ」
「そうした場所でか」
「天井裏とか下とか壁の中とかな。コンクリートじゃなくて中に隙間がある場所にな」
「虫が大勢いるんだな」
「巣を作ってな。動き回っていて」
 そうしてというのだ。
「音がしていたんだよ」
「そういうことか」
「お坊さんが言ってくれたよ、霊とかじゃなくて」
「虫か」
「時々でもバルサン炊いて夏でも蚊除けした方がいいってな」
「そんな厄介な場所だから家賃も安かったんだな」
「そうだな、道理で事故物件でもないのに安い筈だよ」
 中根に納得した顔で述べた。
「安いには理由があるな」
「アパートの部屋でもそうだな」
「ああ、けれど広くて設備よくて安いのは事実だしな」
「それじゃあこれからもか」
「時々バルサン炊いて奇麗にして念の為にホウ酸団子とか置いてな」
 虫への対策を話していった。
「蚊への対策もな」
「していくか」
「蚊取り線香とペープマット買うな」
「そうしてか」
「夏は過ごすな、考えてみたら祟りよりも怖いしな」
「ムカデに嚙まれたり蚊に刺されるとな」
「蟻も出るしな、蟻に砂糖とか食われても嫌だしな」
 このこともあってというのだ。
「気をつけていくな」
「そうか、じゃあそうしろよ」
「それで快適に暮らしていくな」
 今いる部屋でとだ、こう言ってだった。
 足立は今度は世間話をした、中根はその話に乗って食べながら話した。それから彼は結婚して二人の家に入るまでその部屋で暮らした。それからもその部屋のことは明るく話した。


アパートの物音   完


                   2022・1・24 
次ページ > 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧