| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

幻の月は空に輝く

作者:国見炯
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

暗闇の中の出来事・1



 チャクラをこれでもかという程足に纏わせ、私はただ走る。

 突然脳裏に響いた警報音。

 それに突き動かされるように、私はさほど大きくは無い手足を無駄なく動かし、うちは一族が住む場所へ転がるように躍り出た。
 ハァハァと、肩を大きく上下させながら辺りの様子を伺う。
 派手に転がったかと思ったけど、どうやら運良くここに人はいないようだ。

 …運良く?

 この場合は、運悪く、が正解かもしれない。


「テン。イタチさんは何処にいる?」

 もどかしい気持ちを無理やり抑え付けながら、私は迷わずに誰よりも気配に敏いテンを頼る。

《向こうだな》

 それに間をおかずに答えてくれるテン。
 
 幾ら原作を知っていたとしても、日時の詳細までわかるわけじゃない。はっきり言って、宵闇族というこの血に流れる特殊な力とテンがいなければ、きっとこの日はわからなかった。

《血生臭いな》

 不快そうに、テンの声が響く。

《ラン》

「わかってる」

 ここに通う間に私は、うちは一族の人たちとは割りと顔見知りにもなった。だから、テンが心配そうに私の名前を呼ぶ理由もわかる。
 きっと、間に合わなかった。
 ここまで漂う濃い…濃すぎる血の匂いの意味が分からないほど、私は何も知らないわけじゃない。

「テン。印を組む。幻術に優れたうちは一族と幻術勝負だ」

《うむ》

 私の頭上を飛んでいたテンが肩にとまる。チャクラを融合させやすくする為だ。複雑に指を絡ませながら、段々とテンと私のチャクラが混ざり合っていく。
 強烈過ぎる程の力に全てをもっていかれそうになるが、私は唇を噛み締める事でギリギリのラインで意識を保つ。
 後ろから軽く頭を小突かれた程度の衝撃で、昏倒してしまいそうな意識。
 少しは強くなったのかも、なんて呑気に考えていたけど、まだまだ全然足りないという事がこういう緊急事態の時にわかってしまう。

《意識が乱れているぞ》

 そんな私の余計な思考に気付いたテンが、チャクラが乱れたと同時に言葉を紡ぐ。私とテンは一心同体だけど、個別の命。侵食し過ぎてしまえば、された側は何かが損なわれる。
 それがわかっているからこそ、チャクラを混じり合わせる時は私という意識をしっかりと保つようにしているんだけど、今回はそんな意識を根こそぎ持っていかれそうな状況だったという事。
 うちはの人たちの傷が深い。
 これは、ほぼ即死といってもいいかもしれない。
 けれど、命が途切れていないなら。
 ほんの少しでも掴めるのなら。
 傷を癒せる空間へと次々と人を放り込んでいく。私は身体をかしているだけで、大半はテンがやってくれているんだけど。
 
「身代わりは」

 けれど亡骸がなかったり動いていたりするのは不自然。
 四代目の時と同じく、それらしいモノを土と流れた血で作り上げていくんだけど、数が多すぎてそれだけで泣けてしまいそうな気がする。
 
「(本当に……サスケ以外皆殺しにしたんだなぁ…)」

 漫画で読んだ時は、ただページを捲っただけの場面。 
 正直言って、後々の展開を見れば、サスケに里抜けをさせる為のただの一場面。ぐらいにしか思っていなかった自分を、ちょっとぶん殴りたくなってくる。
 あの時は、大半がナルトや他の人柱力に感情移入しちゃってたからなぁ――…って、また脱線した。
 テンに大半を押し付けて任せてしまってるのに、私が現実逃避してちゃ駄目だよね。
 軽く、というより頭が揺れない程度に左右に振ると、私は飛ばしかけた意識をしっかりと前へと持っていく。
 流石に、ここまで来れば私にだってイタチの場所はわかる。
 そして、まだ気付かれていない事も。

「まったく……里の陰謀としか思えないな」

 これだけチャクラが乱れているのに、誰一人として駆けつけようとしない現状。うちは一族が独自の組織を作っていたとしても、この乱れに気付けない火影だろか、と疑問が浮かぶ。
 多分、これは憶測だけど、ダンゾウが関わってるんだろうなぁ、なんて思うのは勘ぐり過ぎかな。
 でなければ、どうしてこんなにも外部を気にせず、イタチが行動に移せるかがわからない。幾らイタチが強いからといっても、木ノ葉の暗部を敵に回しては分が悪い。
 まだ、だろうけど。

《…暗躍するのが好きな者もおるのだろう》

「あぁ。そう……だな」

 やけに実感のこもったテンの声が頭上から落ちてきて、言葉に詰まりながらも相槌を返した。
 うん。考え出すと気が重くなる。

「でも……この件は、ここで食い止める」

 まぁ、テン頼りのテン任せなんだけどね。

《…ランが望むのなら、我に異論はない》

 言い切ったテンを見上げようとしたら、真後ろに立つテンの気配に飲み込まれ、指先一つ動かす事が出来ない。

《こういう言い方は、ランの望む所ではない》

「……」

《否、ならば伝える。これは、我にとっては可能な事だ》

「……わかった」

 思いっきり甘やかされてるけど、ここはテンの好意にどっぷりと甘えてしまおう。

「イタチさんに会う」

 あの意志の固いイタチさんの説得。両親を尊敬する兄に殺された、何も知らないサスケとの会話。
 未だに、どう収集をつけていいのかもわからない。

《うむ》

「風に、隠れる」

 ちょっとね。
 どんな場面にぶちあたるかまだわからないのに、空気も読まずにシリアスな場面に登場はイヤだしなぁ。流石に……二人から何やってんだコイツ?なんて冷たい眼差しを向けられたら、暫くへこむ自信しかないしね。



 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧