幻の月は空に輝く
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課外授業に行こう・4
狸寝入りの術を解き、我愛羅を起こしたまでは良かった。
守鶴が破られた時点でそこまで戦意はないだろうし。多分。
それ以前に、頭を地面に擦り付けて侘びをいれている守鶴を、奇異な眼差しで見つめながら我愛羅は無言を貫き通してる。
「……」
怯えるというより、状況が掴めずに唖然とする我愛羅を目の前に、ナルトは土下座している守鶴の頭を撫で撫でとしていた。どうやら感触が気に入ったらしい。守鶴にしてはいい迷惑なんだろうと思うんだけど、ナルトが楽しそうだからいっかと放置しておく。
無言の我愛羅は口を噤んだままナルトと守鶴を見て、ナルトはそんな視線を平然と流す。私も傍観タイプだからまったく話しが纏まる片鱗さえ見えず、一歩間違えると混沌に迷い込むんじゃないだろうかと思える程の微妙な空気。
誰かが何かを言えば話しは発展するのに、誰も言葉を発しない。
多分、ナルトはこんなに無口じゃないよね。
それなのに何故何も言わないんだろう。
これだけ微妙な空気なのに、きっとわざとなんだろうと思いながら、私は視線をさ迷わせる。守鶴が、なんとかしやがれ的な視線を向けてきたような気がするけど、気のせいだと流してもいいかな。
状況を打破するのがちょっと面倒で、傍観に徹しようと考えていたら頬にツン、とした感触が当たる。
テンの嘴……。どうやら、この微妙な沈黙にテンが飽きたらしく、無言だけど妙に存在感のあるお願いが頬に突き刺さってきてね…。
「ナルト」
テンがそろそろ飽きたみたいだよ。
そう思って声をかければ、ナルトもテンの様子に気付いたのか表情を苦笑いへと変える。
「そう怒るなって。久しぶりに同じモノと会ったから、ちょっとテンションが上ったんだって。じゃ、改めて自己紹介からいくか」
ナルトのテンションが高いのは、見ただけでわかる。
表情が全体的に緩んでいる。機嫌が良さそうに口角が上り、瞳は爛々と輝いてる。自分と同じモノ。そう言い切るナルトとの間に僅かな壁を感じないわけでもなかったけど、それは仕方ない。
色々と隠している事があるしね。寧ろ沢山隠しすぎてるしね。秘密事が発覚する時は、ナルトに殴られる覚悟をしていた方がいいのかもしれないなぁ…。
嬉々としながら自己紹介をするナルトを見ながら、そんな事を考えてた。
「俺はうずまきナルト。六歳。九尾の人柱力。ちなみにこっちが素。これが素だけど、演技中の俺に会っても噴出すなよ。やってる本人が一番寒いんだからな」
ツラツラと言葉を重ねていくナルト。それに対して我愛羅は、意味がわからないとばかりの表情を浮かべナルトを見返す。ナルト自身を知らないのに、ナルトの表やら裏やらがわかるわけもない。
「お前と同じだって。人柱力だから、里じゃぁ色々と面倒なんだよ。馬鹿で無力なフリでもしとかなきゃ、危険分子として始末されるしな」
さらりと、不吉な言葉を口にする。
けれど、この世界でそれは否定出来ない。実際、目撃した事もあるし、針も刺した。その時自分のとった行動に迷いがなかった事は未だに不思議だけど、ナルトがこんなに強いと分かればあの里は危ないと思う。
我愛羅の視線はナルトから私へと移った瞬間、苦々しい表情を浮かべた。
そんなに変な顔をしていたかな。あからさまに顔を顰められると結構気になったりするんだけど。
「何処の里も同じだな。それで、お前は偽って何をしたい?」
子供らしさの欠片もない…。
子供である事を止めた我愛羅の言葉に、ナルトは肩を竦める。
「まだ、力の溜め途中…か。強いけど、里全部を敵に回して生き残れるような強さは得てないしな。
お前はどうしたいんだ? 刺客は多いだろうけど、全部殺しまくって危険分子されて干渉されまくる。まぁ、今更無能なフリは出来ないだろうけど」
「……」
我愛羅が口を噤む。
ナルトを映す瞳が、この時初めて揺れた気がした。
「殺す。俺以外の人間を殺す事で、俺は生きている。それが俺の存在意義だ」
揺れたまま、我愛羅は常に自分自身で思っているであろう言葉を口にする。それに、ナルトは考えるように顎に手を持っていき、ほんの少しだけ首を傾ける。考えているのか、場に再び沈黙が降り立つ。
こういう時、心底思う。
原作を知っていても。
これから行く先を知っていても。
何て言えばいいのかがわからない。
我愛羅の言いたい事はわからないわけじゃないけど、それに対して何て言っていいのか。言う言葉が見つからず、結局私は口を閉ざしたまま状況を見守る。
けど、その沈黙をあっさりと破ったのはナルトだった。
「ま、わからなくもない。あんな里の奴等なんぞ死んでしまえと思うしな」
「「……」」
我愛羅と私の沈黙が重なる。ナルトの言葉に、既に自分と同じものだと理解している我愛羅は言葉を返す事無く、静かに続きを待っているように見えた。
「ついでに守鶴も性格が悪いしな――…でも、それは今までの話だ。なぁ、守鶴サン?」
分かりやすく守鶴の身体が震えた。激震が体中を突き抜けたと言わんばかりにぶるりと身体を震わせ、恐る恐るナルトを見上げる。その瞳は恐怖で揺れているけど、我愛羅の睡眠確保と思えばやっぱり放置かな。
「睡眠は基本だろ? テメェの睡眠妨害は結構くるんだよ。俺の言いたい事――…分かってくれるよなぁ?」
笑顔のナルトが、ジリジリと守鶴ににじり寄る。笑顔なのに怖い。笑顔なのに迫力がある。そんなナルトの視線を一身に浴びている守鶴は、収まりかけていた涙を瞳に溜めながら、降参とばかりに両手を挙げた直後に額を地面へと擦りつけた。
つまりは土下座。
ガゴン、と痛そうな音を響かせたまま額を地面に着けたまま、守鶴は泣きそうな声ではっきりと宣言する。
《わかった! わかったから脅すな!! 今日から俺は我愛羅の協力しゃ…じゃなくて下僕だっ。それでいいんだろッッ!!!》
守鶴にとってはありえない一言。
それに満足気に頷いたナルトは、守鶴から視線を我愛羅へと向けた。
「というわけだ。俺と一緒に、里を騙してみねぇ? 結構ストレスは溜まるけどな」
守鶴に向けたのとは違う笑みを浮かべ、我愛羅に手を差し出す。それに、我愛羅も恐る恐ると自分の手を重ね、どちらからともなく力を込め握手を交わす。
少し守鶴が可哀相な立場に追いやられたような気もするけど、ナルトと我愛羅が仲良くなるのはいいよなぁ。
と、少し自分を蚊帳の外に追いやっていたんだけどね。突然ナルトの視線が私の方を向く。何だろうと見返せば、ナルトが私の紹介を始めた。
「こいつは夜月 ランセイ。お節介で人に飯を食わせるのが趣味な下忍候補だ。飯についてはお前も覚悟しとけよ。コイツは絶対食わせにくるからな。で、実力はそこそこ。遊んでも死なないレベル。で、俺と――…お前にとっての協力者になるんだろうなぁってヤツだ。ま、その前に飯を食わせられるだろうけどな」
「…飯、か?」
「あぁ。お前ぐらい痩せてると始めは粥だろうけどな」
「……態々?」
「あぁ。態々だ。コイツは作る事と食わせる事が趣味の変なヤツだからな」
……ん?
今、ナルトが感動的な事を言わなかったかな。少しだけど。
けれど何故かご飯の話し。ひょっとして、三食配達して安眠妨害した事を根にもってたりするのかもしれない。
まぁ、肥えさせるつもりでいるのは紛れもない事実だから、何も言えないんだけどね。だって、ナルトも我愛羅痩せすぎだしなぁ…。
ご飯の件で話しが脱線した所で、ナルトがわざとらしく咳払いを一つ落とす。
「ま……飯の件はひとまず置いといて。とりあえずこの三人で同盟を組むって事に文句はないよな?」
疑問系はとっているものの、有無を言わさないナルトの態度に我愛羅と私が視線を合わせ、二人同時に頷く。
「ナルトから紹介があったが、俺は夜月ランセイ。親しい人間はラン、と呼ぶ。よろしく頼む」
軽く自己紹介をしてから右手を差し出す。
ご飯の衝撃が強かったのかどうなのか、我愛羅の瞳に浮かぶのは今までとはまた違った戸惑いを浮かべていたけど、我愛羅もナルトの時と同じく右手を差し出してくれた。
勢いに押されて流されている感が強いのは否めないけど、ナルトも私も我愛羅の敵にはならないからこのまま流されてもらおう。
「………?」
しっかりと握手を交わしたと思ったんだけど、何故か我愛羅が首を傾げた。不思議そうに私を見た後、握手を交わす右手に視線を落とす。
「我愛羅?」
六歳にしては鍛えられているけど、それはナルトや我愛羅だって同じ。けど、我愛羅はやっぱり私を不思議そうに見た後に手を離した。
……何だろう?
ものすっごく不思議動物を見るような、観察するような眼差しを向けられたような気がするんだけど。
「いや……俺は我愛羅。一尾の人柱力だ――とりあえず、俺に損がない限り協力はしてやるが、裏切れば殺す」
これでもかと殺気を込め、射殺しそうな眼差しを私とナルトに向けてくるけど、それを真っ向から受け止めながら笑みを浮かべた。
ナルトがここまでして裏切る、っていうのは在りえない。そして、私も裏切るつもりなんてない。
「あぁ。勿論。逆も覚悟しとけよ」
「話しが纏まった所で、連絡を取り合う手段はどうするか」
私とナルトは木の葉の里だからいいけど、我愛羅はちょっと遠いよね。そう思って聞いてみたんだけど、何故かナルトがにんまりと笑う。
うん。どうやら良いアイディアがあるみたいで、抜かりはないとばかりに手招きをしてくる。ナルトからの提案を聞く為に、三人で顔を近づけて内緒話しの体勢。
けど、その時も我愛羅がやっぱり不思議そうな眼差しを私に向けてくる。嫌な眼差しじゃなかったら聞き返す事はしなかったんだけどね。まぁ、最終的に我愛羅の私に対する態度はナルトと同じものになったんだけど。
結局何だったんだろうなぁ…。
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