幻の月は空に輝く
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課外授業に行こう・2
前書き
あっさりとお話しが進んでいきます。
※あっさりと流してしまいますが、人が死ぬ場面があります。
木の葉の里を出発してから早数週間。
ナルトが凄く生き生きとしている。
「……」
ほんわかとするね。
こんなに元気なナルトを見てると。それと同時にどれだけ木の葉の重圧は凄まじいんだと思っちゃうけど、とりあえず後十年程経てば風通しも良くなると思うんだよね。
その頃にはマダラとの決戦最中っぽいけど。
「さーてと。適当に見て周ってそんでもってどっかの誰かで遊ぶかー。暇だしな。カシュウのおっちゃんはいい物食えって言うだろうし、ランは腹減ら……何だよ?」
「……いや。お腹は…少しだな。軽く食べれる物でも買うか」
明るいナルトを微笑ましげに見てたら、冷めた眼差しを向けられたからいつものように考えるように視線を下げる。父さんから押し付けられたポーチにはそれなりの金額が入ってたし。
何処か公園で食べれば良いんじゃないかな?と提案すれば、ナルトはそうだな、なんて頷きながら辺りを見回す。
「そういやここの近くに公園があったんだよな。そこで食おうぜ」
「……」
「風避けぐらいはあるしなー。ランは初めての砂隠れだし、結構気になるだろ」
ランはって…。
そして何でそんなに知って……いや、きっと愚問だね。ナルトだし。
時々木ノ葉から消えるとか影分身がナルトの代わりに里に居るとか。そんな事は決してつっこまないよ。テンも絡んでるみたいだしね。
いつもは私の肩にとまっているテンだけど、今回は遅れて合流するらしい。木ノ葉でやりたい事があるとか。テンの行動範囲も広いから、いまいち何をやってるかよくわからなかったりする。
大体は一緒に居てくれるけど、割合個人行動も多かったりとかね。私がこの里に随分と馴染んだから、テンも安心して離れられるんだろうと思いたい。
そんな事を考えながらナルトの後ろを歩いてたんだけど、突然その歩みが止まった。視線の先には美味しそうなホットサンド。チーズやピザソースの匂いが鼻腔を擽る。
「これにするか?」
「そうだな」
ナルトの言葉に迷う事無く頷くと、とりあえずメニューを見ながらチーズとハムのトッピングのものと、生野菜の二種類を選ぶ。後は烏龍茶。私の生野菜を嫌そうに見るナルトは相変わらずの野菜嫌い。
今度、一緒に農園でもやろうかな。自分で育てる野菜は格別っていうし、育てた野菜ならナルトもこれほど嫌がらないかもしれないしね。
買った後は二人揃ってお腹がすいたのか、辺りに人がいない事を確認して瞬身の術で公園まで移動した。
時間が丁度昼時だからなのか、子供の姿はない。
「ここでいいだろ?」
「そうだな」
そこにあったのはベンチ。風よけというか砂避け代わりの簡単な壁や天井があるベンチに腰掛けて、さっそくホットサンドに手を伸ばした。
出来立てだからほっかほかだし、やっぱ美味しい。
暫くの間は食べる音だけが響いていたんだけど、ナルトが何かに気付いたのか少し離れた場所をジッと見つめだした。
何だろう?
それにつられるように、私もナルトが見ているであろう場所を凝視する。
「「……」」
いつの間にかベンチに置かれたホットサンド。
「……あー…アレ、だ」
「……そう、みたいだな」
ナルトの納得したような声に、私も呆れたように頷く。
こんな昼間からよくやるね。
っていうか、こういう扱いが全体的に当たり前だと思われているのかな。
「……ラン?」
私の苛立ちを感じ取ったのか、ナルトの戸惑ったような声が耳に届いたけど、私の意識は既に少し離れた場所の出来事だけに向けられ始めてる。
「……ったく。砂に来れば会うかもな、とは思ってたけどさ。流石にいきなり会うってのはやっぱ引かれあってんのか? そういや、俺とランの出会いもこんな場面からだったよなぁ」
流石にこれだけ付き合いが長くなれば、私の性格も考えている事も分かるのかもしれない。ナルトが呟きながら左腕を伸ばし、私の身体を押し留めようとする。
「アイツの方が強い。どうせ影のつくおっさんの差し金で本人の意志じゃないとかって言うかもしんねーけど、助けるか?」
「いや」
…アレは、もう間に合わない。
人が死ぬという場面をどうしてこんなに冷静に見つめていられるのか。自分でも分からないけど、首を振った直後に子供を囲んでいた忍たちは絶命していた。
砂に押し潰され、あっさりと圧死した砂隠れの忍たち。じわりと砂に広がる赤い色。今は遠くで眺めているだけだからいいけど、近付いたら匂いに吐いてしまいそうだ。
「ランってさぁ……人柱力に害する人間に、容赦ないよな」
ナルトの言葉を何処か遠い所で聞きながら、私はボンヤリとした眼差しを向けた。どうやら、何か色々と麻痺させているみたいで、自分の感覚さえもあやふやになってる。
忍の世界では珍しい事じゃない。
なのに、無意識に指先が震えた。
「……他人事には思えねーし。今回は俺が動くからランは見てろよ」
私の前に突き出していた腕で、私の身体を後ろに押してベンチに座らせる。さっきまで美味しそうに見えていたホットサンドだったけど、今では食べる気にさえなれない。
最後に心配そうな視線を私に向けてから遠ざかるナルト。一体何時の間に、こんな風に心配してくれるようになったんだろう。ちょっと前までは結構素っ気無かったような気がしたんだけどなぁ。
こんな状況なのにそれが嬉しくて、強張っていた表情がほんの少しだけど柔らかくなった気がする。何て現金な性格だろう。
「……あの子供は、見るからに我愛羅だね」
ナルトが負けるとも思えないけど、どうせなら我愛羅にも怪我をしてほしくない。そうなると自分に何が出来るかな。私は見てろって言われたけど、意識をしっかりと保った状態ならナルトもそんな事は言わないだろう。多分だけど。
それともう一つ。
「アレを止めたい。多少の怪我は兎も角、大怪我はさせたくない」
私の言葉に返事をするように、バサリ、と頭上から羽音が聞こえた。
間違いようの無い気配。
《ラン》
テンカの声。
その存在だけで、指先の震えが止まる。
《ならば結界を張った方がいいな。尾獣同士が戦ったとなれば、それを理由に二人とも殺されかねん》
…確かにと一回首を縦に振ると、私は地面を蹴り上げ高く飛びあがった。それと同時に指先を動かし、絃を張り巡らせながら印を組み出す。
さて…と。頑丈な…誰にも気づかれないような結界を張らないとね。
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