モンスターハンター 〜故郷なきクルセイダー〜
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回想編 時代の始まりを生きた者達
――それから9年。
ハンターの門を叩き、頼れる同期達と共に数多の死線を潜り抜けてきた彼は今、この時代に新たな伝説を築かんとしていた。
半壊した防具を纏ったまま、深く傷付いた身を引き摺りながらも、得物を手に覇竜に挑まんとする仲間達に続き。彼もその1人として、ヒーローブレイドCを握り締めている。
(……あの日、オレは決めたんだ。例え、遠くから見ていることしかできない、あの星のようになるのだとしても! オレは、オレ自身が護りたいと願った人達のために戦うッ!)
本物には遠く及ばない、ただの紛い物。そう言われている剣に何者でもない己を重ね、その刃を振るい続けてきたアダイトは。長引く死闘に傷付いた「贋作」を手に、最後の攻撃に臨まんとしている。
クリスティアーネ、ディノ、そしてヤツマの3人も。彼と同様に、己が持てる力の全てを尽くさんとしていた。
全ての装備が壊れても良い。修復不能になっても構わない。奴さえ倒せるなら、命でもくれてやる。その必殺の信念が、狩人達の傷付いた身体を突き動かしていた。
「ディノッ! クリスッ! まだ動けるなッ!?」
「当然だ……! あまりこの俺をみくびるなよ、アダイトッ!」
「私も……まだ、戦えます! ゼークト家の未来のためにも、ここで膝を着いてはいられませんわ……!」
先陣を切り、最後の力を振り絞って地を蹴るアダイトを追うように。大剣を背負うディノとクリスティアーネも、全速力で駆け出して行く。
「ヤツマ! ……演奏、頼む!」
「……ッ! 分かった! 皆、気を付けてッ!」
そんな彼らの背に、追い風を授けるべく。狩猟笛を手に、ヤツマも「強化」の音色を奏でていた。そんな彼らを纏めて吹き飛ばさんと、アカムトルムも最大威力の息吹を放たんと、その巨大な顎を全開にしている。
ヤツマの演奏に強化されたアダイト達の刃が、覇竜を討つのが先か。その覇竜の息吹が、彼らにとどめを刺すのが先か。
その命運を分ける最後の激突が、幕を開けようとしていた。
「……ぉおおぉおッ!」
始まりの騎士の血を引く男を筆頭とする、狩人達の雄叫びが。覇竜の咆哮が。同時に天を衝き、この決戦場に響き渡る。
(父上、デンホルム、皆……!)
――天の星々が剣の如き軌跡を描きし時、ルークルセイダーの騎士に勝機が訪れん。
その失われし伝説の名を背負い、己と仲間達の命運をその手の刃に託した彼は。今も想い続けている故郷の人々の無事を願い、傷だらけの得物を振り翳していた。
(……クサンテッ!)
そして、最後に。自分を慕い続けていた少女の姿を思い浮かべた彼は、共に命を預け合う仲間達と共に。
「伝説世代」という総称が生まれるきっかけとなった、「最初の逸話」をこの地に残したのだった――。
◇
――遥か昔。世界各地を渡り歩く、1人の冒険家がいた。
天に十字星が輝いていた夜。
とある辺境の地を訪れていた彼は、そこで盗賊の群れに囲まれてしまったのだが。偶然にも戦を終えて帰る途中だった騎士団と遭遇し、盗賊を撃退して貰ったのである。
彼らは激しい戦いに傷付き、疲れ果てていたのだが。それでも冒険家の青年を見捨てようとはせず、傷付いた身体で盗賊達とも戦ったのだ。
そんな彼らに感銘を受けた冒険家は騎士団の従者に志願し、その騎士団が仕えている貴族が独立を果たすまで、様々な雑務に従事した。星空に十字星が現れた時、騎士団はどれほど不利な戦にも必ず勝利していた。
その幸運を何度も目の当たりにしてきた冒険家は、十字星はこの騎士団に勝機を運ぶ星なのだと確信したのである。やがて騎士団は数多の武勲を立て、辺境の地に「公国」を築き上げたのだった。
一国の誕生に携わった、始まりの騎士。
その勇姿を己の目に焼き付けた冒険家は、自分に手伝えることはもうないのだと悟り、独立して間もない公国を後にした。
それから、気が遠くなるような長い年月が過ぎた頃には。
老いさらばえたかつての冒険家は、ハンターズギルドのマスターとなっていた。
彼はある日、「公国」となって久しい思い出の地に足を運んでいたのだが。その道中で、死に瀕している1人の少年を発見したのである。
凶暴にして強大なモンスターが跋扈するこの時代において、幼い子供が犠牲になることなどさして珍しい話ではない。
しかしその少年は並外れた生命力により、辛うじて己の命を繋ぎ止めていた。
だが、少年を見つけた老人が驚いた点は、そこではなかった。少年は譫言ながら、他の者達の身を案じるような言葉を呟いていたのである。
自分が今まさに死に瀕しているというのに。意識すら混濁しているというのに。その少年は己の命より、他者の安全を慮っていたのだ。
老人はその時の少年の姿に、若き日に見た「始まりの騎士」を重ねたのである。
盗賊に囲まれ、殺されかけたあの夜。
傷付いた身を引き摺りながらも自分を助けに来た騎士団長――アレクセイ・ルークルセイダーも、己の命より冒険家の安否を優先していた。
あんな伝説級のお人好しが、この時代にも居るというのか。
その光景に瞠目した老人は、少年が快復して意識を取り戻し、名を明かす前から確信していたのである。
この少年は紛れもなく、あの騎士の子孫なのだということを。
十字星の加護を受け、数多の死線を潜り抜けていた、あのルークルセイダーの騎士なのだということを。
そうと分かれば、救わずにはいられなかったのだ。
例え彼が何者でもなくなったのだとしても、その身に流れている騎士の血だけは、紛れもない「本物」なのだから。
◇
――それから、9年。
ロノム村と呼ばれる小さな集落にある集会所の屋根に、1人の老人が座り込んでいた。
独り星空を仰ぎ、キセルから煙を蒸している彼は、柔らかな笑みを浮かべている。その星空に輝く十字星の煌めきは、失われし伝説を知る彼を優しげに照らしていた。
「ほっほっほ。今宵はよぉく、星が見えるわい」
かつての少年が上位ハンターの1人として、伝説の覇竜に挑んでいることは老人も知っている。だが、彼の表情には一片の不安もない。
「……見えるかい、アレクセイさんよ。あんたの子孫も今頃、でっかい武勲を上げている頃じゃろうて」
在りし日の騎士団長と瓜二つの青年に成長した今の彼ならば、必ず覇竜にも勝てると確信しているのだ。
天の十字星が輝く限り、ルークルセイダーの騎士が負けることはないのだから。
後書き
皆様、今回も読了ありがとうございました! 今回はアダイトのバックボーンを改めて掘り下げていくお話となりました。本編ではあまり見せる機会がないままだった、アダイトのナイーブな側面を描いた一幕でもありましたねー(´-ω-`)
アダイトは同期達の中でも中心的なポジションに居ましたが、それも「自分には帰る場所がない、自分は何者でもない」という寂しさを埋めるためだったのかも知れませんな。根がボッチな奴だからこそ、周りの同期達も彼を放っては置けなかったのでしょう(´ω`)
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