伴装者番外編
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紅介「推しとデートなう」(天羽奏バースデー2021)
前書き
本編の間に差し込むのも面倒なので、誕生日や季節ネタは番外編にまとめる事にしました!
というわけで、奏さんの誕生日です。どうぞ!
お……俺の名前は穂村紅介……。私立の音楽院に通う、普通の高校2年生。
両親は中華料理屋を営み、兄弟はいない。部活はクラスメートとボランティア部、もといUFZとして、地域のゴミ拾いとか学校行事の手伝いなんかをしている。
そんな俺だが今、人生最大級に有り得ない状態になっている。
いや、現実なんだけど現実味が湧かないっていうか、嬉しいんだけどそれ以上に緊張とか敬愛の念だとかが先走って情緒が不安定だというか、とにかく未だかつて無いレベルで俺の情緒がヤバい。
何故かって?いや、だってよ……そりゃ、お前……すぐ隣に私服の推しドルがいる状況に長時間身を置くとかさ、死ぬだろ?
「ん?どうした、紅介。あたしの顔に何かついてるか?」
「い、いや……なんでもないッス……」
は~~~~~~~~……無理、しんどい。
と、心の中でクソデカ溜め息吐きながら、誤魔化すように信号機を見つめる。
俺の隣に居られるこの、鳥の羽のような赤髪でボンキュッボンな勇ましさと美しさを兼ね備える世界最高級の美女こそは、天羽奏さん。日本一のアーティストユニット、ツヴァイウィングの片翼であり、俺の推し。
いや、推しって一言で語り尽くせるような存在じゃないんだけどこう……とにかくかっこよくて、なのに女性としてもすごく綺麗な人で、歌も上手いしスタイルは抜群だし、性格も竹を割ったような姉御系でとにかく全てがヤバい人なんだよ!!
そんな人生狂わせるほどの推しが、今、俺の隣に居るんだよ!!
しかも……デート相手として……。
いやいやいやいや、夢じゃねぇんだよマジなんだよ!!
こんな事ある?あるんだよな~これが。今、現在、ナウで!!
すぅ~~~~~~はぁ~~~~~~……落ち着け、俺。
取り敢えず、状況を整理しよう。
まず、俺は7月28日に迫る奏さんの誕生日パーティーを祝うべく、何日も前から翔達と準備して来た。
で、誕生日当日の今日、朝っぱらに翔から連絡が来てこう言われたんだ。
『パーティーは夜だから、それまで時間潰しといて。主役が退屈しないよう、エスコートよろしく』
この一言に、俺の思考はフリーズした。
あいつ……俺に奏さんとデートして来いって言いやがった!!
いや名誉だけども!!それはとても名誉な事だし、一生かかっても得られるかどうか分からないくらいの幸運だし、何より一人のオタクとして一度は夢見るけどさぁ!!
そんな俺の心を見透かすように、翔は続けた。
『嫌なのか?なら、俺が行っても……』
「行くに決まってんだろ!!行きますよ行かせてください!!」
見事に煽りに乗ってしまった感じはする。
いや、別に後悔とかはしてないぞ。推しとのデート権を手に入れて、喜ばないファンはまず居ないだろ。
でもなぁ!!それはそれとしてなぁ!!
気を遣うことが多過ぎる!!
翔から『似合わないスーツに蝶ネクタイ、なんて昭和のお約束みたいな服装にはなるなよ?』って釘刺されたから、取り敢えず俺は手持ちの中で一番無難な服を選び、髪を整え、財布の中身を確認し、柄にもなく精一杯オシャレした上で家を出た。
あと念の為、腕にシルバー巻いといた。
つか、相手が奏さんって事を抜きにしても、デートなんて初めてなんだよなぁ……。
ハッ!って事は俺、推しに初デートを奪われた……ってことになるのか!?
やっっっっべぇ、その事実だけで昇天するわ……。ここが家だったら五体投地してる。
「紅介?おーい、紅介?」
「へ?あっ、はい!なんスか奏さん!?」
「信号青だぞ」
「あ……すみません。ちょっと、考え事してて……」
我に返った俺は、俺は先に歩き出していた奏さんの隣へと並ぶ。
「緊張してるのか?」
「ま、まぁ……デートとかした事なかったですし……」
「……ふ~ん。って事は、紅介の初デートはあたしが貰ったってわけか。いや~、なんか悪いねぇ」
「うぇっ!?いやっ、悪いだなんてそんな!!光栄ッスよ!!むしろ俺の方が申し訳ないくらいで……」
「アハハ、冗談だよ。あたしも初めてなんだ。お互い気楽に行こうや」
「……へ?」
思わず間抜けな声を出してしまい、奏さんは不思議そうな顔でこちらを覗き込む。
「奏さん……初デートなんスか?」
「まあ、翼とは何度か行ってるけどね。男と行くのは多分、今日が初めてかな」
「…………じか……」
「ん?」
「マジかぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
天を仰ぎ、絶叫する。
いや、推しに俺の初デート捧げられる分にはまだいいんだよ。光栄な事だし、名誉だと思う。
でも逆はこう……なんかこう……フクザツッ!!
推しの初デート相手になれる、だなんてそんなベタな恋愛漫画でもないと体験出来ないようなシチュ!憧れないわけじゃない。むしろ憧れないわけが無いッ!一生モノの名誉だ!自慢は出来ないけど、ファンとして誇っていいハズだ!!
だがしかし、こうも思う……。俺如き一ファン、一限界オタクに過ぎない立場の男が初デートの相手だなんて、それはあまりにも不釣り合いなのではないだろうか?
俺なんかよりも、もっと良い男がいるんじゃないか?
俺は女の子が好きそうなオシャレな店なんか知らないし、デートスポットなんて余計に検討がつかない。
実際にデートする事になって初めて痛感させられた、自分自身の至らなさ。かっこいい男になるために何が出来るか考えて、結局体力しか磨いてなかったからなー……。
デートなぁ……どうすりゃいいんだろ……。
「なぁ紅介、やっぱり緊張してるだろ?」
「あ、ハイ。正直言うと……めっっっちゃ緊張してます……」
「ん~……ならさ、今から敬語無しな」
「……へ?」
突然の提案に、思わず歩道の真ん中で立ち止まってしまう。
え?奏さん、今、なんと?
「ん~?だから、今から敬語禁止だって。折角のデートなのに、なんだかよそよそしいしさ。取っぱらっちまえよ」
「いや、でも……奏さんの方が歳上じゃないッスか」
「良いんだって。今日一日だけ、あたしを呼び捨てにして、タメ口で接してもいい。誕生日なんだし、それくらい良いだろう?」
ああ……このニカッとした笑い方、沁みるわぁ……。
そんな頼まれ方しちゃったら、OKするしかないじゃん……。
腹くくれよ、穂村紅介!お前が推しの誕生日を盛り上げるんだ!!
「分かった。じゃあ……どこ、行く?……か、奏……」
うっわ、ぎこちねぇ……。かっこ悪ぃなぁチクショウ……。
なんて思ってる傍で、奏さんは可笑しそうに笑っている。
いや、楽しんでるって感じだ。俺の反応を見て遊んでる顔だわこれ。
推しのオモチャとして弄ばれる現状……おお神よ、感謝します。妄想がひとつ叶いました。
「なら、当然カラオケだね。今日は夕方まで歌い明かすぞ~」
「カラオケか……。なら、よく翔たちと行ってる所だな」
「へ~、なら、案内してもらおうかな」
「この辺からすぐで……すぐだぞ。そこの角を曲がったとこ」
よかった~、知ってる場所で何とかなりそうだ。
推しとのカラオケデートか……くぅ~、ドルオタ冥利に尽きるぜ……。推しの生歌聴き放題だぜ!
って、推しの生歌?
NA☆MA☆U☆TA!?
え?マジで?奏さんの歌声、独占できるの?
は??????俺、明日死ぬの?????
いや死ねるかあああああッ!!
「どうした紅介、またボーっとしてるぞ?」
「い、いやぁ、別にぃ、何でもなぁい!」
「そうか?ならいいけど」
めっちゃ声上ずった。今日の俺キョドり過ぎだろ……。
このままじゃ、奏さんの誕生日を祝うどころじゃねぇ!耐えろ俺!!
やってみせろよ紅介ぇ!緊張とかそんなもん、何とでもなるはずだ!
男見せたれぇぇぇぇぇ!!
この後、紅介と奏さんのカラオケデートがどうなったかは、ご想像にお任せする。
なおパーティーの後、彼が椅子に腰掛けたまま真っ白に燃え尽きていた事だけは、ここに記録しておく。
後書き
紅介は奏さんより少し背が低いのがポイント←
改めまして、奏さん!誕生日おめでとうございます!!
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