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人徳?いいえモフ徳です。

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六十九匹目

人ごみの中に入っていくと、こちらを見た学生が道を開けてくれた。

クーちゃんの後についてそこを突っ切る。

するとちょうど近くにヤクト先輩がいたので尋ねる。

「ヤクト先輩、これ何の騒ぎです?」

「ああ、これはあそこに座っている子が持ってきたカードで遊んでるんだよ」

人だかりの中心には丸テーブル。

二人のプレイヤーとディーラーだ。

やってるのは…ポーカーか。

プレイヤーはどちらも女性。ディーラーは男だ。

高学年の人かな。結構背が高い。

片方は蒼い顔、片方は余裕の顔で勝負の行方がよくわかる。

「どんな状況です?」

「今のところ彼女は無敗だね」

「なんだ、ただの三流イカサマ師ですか」

「そうかい? さっきから見てるけどちっとも尻尾見せないけどねぇ」

確かに通しをしている気配はない。

カードを配るときのイカサマかもしれないが...。

「無敗ってのがイカサマしてるって自白してるような物でしょ。この衆人環視の中で尻尾見せない腕は評価しますけど、腕だけですね。その腕を見せつけたいか、道具としか思ってない。勝負師としてはいいけれどエンターテイナーとしては三流以下」

イカサマ師なら適当な所で負けて見せるのも技術だ。

あえて隙を見せる、武術のフェイントに近い物で重要な技術だ。

「おや手厳しんだねキミは。さすが姫様のナイトだけの事はある」

「まー。どうしようもないおてんば姫ですけどね」

観戦していると、決着がついた。

負けた側は悔しそうに填めていた腕輪をディーラーに渡した。

女性同士が賭けるなら妥当か。

見るもの見たし、クーちゃんを連れて引っ込もうかと思っていた時だ。

「そこの貴方」

ピッと指をさされた。

呼び止めたのはポーカーの勝者。

眼鏡を掛けた知的な印象を受ける女性。

えーと。

ネタとしてとりあえず隣にいたヤクト先輩を見上げる。

「いや、あれ多分キミを呼んでるから」

「ですかぁ。で、あれ誰なんです?」

「知らないのか? 本当に? 命知らずにも程があると思うよ?」

まぁいいや。じゃぁ本人に聞こう。

「お呼びですかレディ?」

人ごみから一歩前に出る。

「ええ、そう。貴方よ。随分と好き勝手言ってくれるじゃない」

「いえいえ。ただの憶測、妄想ですから。貴方が気にすることではありません。運も実力の内と言いますでしょう? 運を手繰り寄せるのも、演出するのも技術ですよ」

と言うとお相手は顔をしかめる。

イカサマしてんだろと暗に言ったから当たり前だ。

正直目をつけられたら勝負は避けられまい。

衆人環視の中で叩き潰す事のメリットは大きい。

だがそれは此方も同じ。

それはそうと、面倒なのはきらいだ。

直球で聞こう。

「それで、レディ、私に何の御用で?」

「そうねぇ。貴方私と勝負する気あるかしら?」

「ええ、構いませんよ」

席に向かう僕の手をクーちゃんが取った。

「シラヌイ、貴方相手がわかってるの?」

「いや、わかんない。あれだれ?」

「ピスト家の次女よ。ヴェレーナ・ピスト」

ピスト公爵家?大物じゃん。

「あら姫様、どうかされました?」

「なんでもないわヴェレーナ。うちのシラヌイと遊んであげて」

これ年下に絡む嫌な先輩そのものだけどそれでいいのか公爵令嬢。

まぁ、とはいえまだ小中学生の年齢だ。

一番自尊心が肥大化する時期。

そして僕も、その自尊心を持っている。

席に座る。

ディーラーも多分グルかな。

イカサマを見破れば勝ちだ。

負けても適当な練成物の装飾品を渡せばいい。

特に懐は痛まない。

「それで何をかけますかレディ?」

「そうね…このネックレスでも賭けようかしら?」

と胸元のネックレスを指さした。

大粒のダイヤモンドがあしらわれたネックレスだ。

「そうですか。では私はとりあえずこれでも賭けましょうかね」

アイテムボックスから取り出しましたるは…。

「ルビー、サファイアの混合石をカットしたものです」

縦10センチ、対角線5センチの六角柱練成宝石。

中間あたりで赤と青で別れている。

科学世紀のプラスチック製アクセサリでこんなのあったなぁなんて思って前に作ったはいいが大きすぎて装飾品にできなかったやつだ。

それをコンとテーブルに置くと歓声が起こる。

「でははじめます」

ディーラーの男子生徒ーたぶんヴェレーナの臣下かなにかだろうーが若干気圧されたようにカードを配る。

近くで見ていてもその手つきはごくごく普通。

セカンドディールやボトムディールなどのイカサマをしてる様子はない。

ってーことは…。

配られて伏せられているカードをじっとみつめる。

よーく見るとなにやら個別のマークが。

なるほど。特殊な塗料でカード裏にマークを書いてるわけか。

となればカギはあの眼鏡だな。

たぶん偏光フィルタに近い仕組みでカード裏に描かれたマークを読んでいるだけだろう。

単純でわかりやすく、それでいてバレ難い。

実に見事だが、相手が悪かったようだ。

きっと僕がこのマークを読み取れるのは、どういう仕組みかはわからないが僕の中に今もある吸血鬼の因子のお陰だろう。

最近夜目が利くようにもなったし…。

でもこれ目がいい亜人種族、それこそラミアとかの可視光領域が広い亜人ならみやぶれるのでは?

それじゃぁ、番外戦術含めてとりあえず全力でやろうかな。

「ああ、一つよろしいですかレディ」

「何かしら」

「実は私眼鏡をかけないと集中できない性質でして。つけても?」

「え、ええ、構わないわ」

イカサマを看破されたとわかったのかヴェレーナとディーラーの顔が少し蒼くなる。

勝ったな。これは。















勝負に勝って試合に負けるとはこういう事を言うのだろうか。

「シラヌイ。姫様。弁明はありますか?」

「ネックレスについてはあっちが慢心してただけですお母様」

「そうよシェルム。シラヌイは悪くないわ。全部勝負を吹っかけてきたヴェレーナが悪いのよ」

「はぁぁ..........」

あのあとヴェレーナをボコボコにしてネックレスと、あと彼女が巻き上げた装飾品を全部奪って持ち主に返した。

なぜそこまで勝負を続けることが出来たかと言えば主導権を此方が完全に握ることが出来たからに他ならない。

そこまでは良かったのだが、途中現れたお母様によって僕たちはホールの裏に連れてこられていた。

「まぁ、今回はあちらの非の方が大きいですからこれ以上は言いませんが..........あまり派手にやりすぎると敵を作りますよ」

「大丈夫よシェルム。私成人したら継承権放棄するもの」

「そうですか。それはトレーネやアーネストと話し合うことですから私は何も言いません。ですが姫様。貴方は狙われる立場なんです十分気を付けてください」

では戻っていいですよ、と言われてパーティー会場へ戻る。

「あ、シラヌイは家に帰ったらあの宝石の事で話がありますからね」

あー。今日王城に泊めてもらえないかな..........。 
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