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幻の旋律

作者:伊能忠孝
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第四話 伝説の測量師

以下の文章は、フリーのジャーナリスト狩能大成が、ある一人の男を追跡した貴重な文献の一文である。

一九七〇年、大牟田は日本を代表する石炭の発掘地であった。無限の発掘量を誇るここ大牟田は石炭の町として栄えており大変な潤いがあった。だが、エネルギー革命が起こり新たなエネルギーとして、原子力推進運動が日本全国で起こり、石炭の必要性が薄れてきた。危機に面した三池炭鉱は窮地に立たされていた。やがて、三池炭鉱の上層部主催で今後の在り方について会議があった。原子力発電には敵わないと誰もが言い、閉山を考えていた。しかし、ただ一人、それに反発した人物がいた。その男は言った。
「大牟田の石炭の発掘量は無限大に等しい・・
確かに、発電慮は原子力には劣るが。だから今後、日本の電気は原子力発電で主流となるだろうしかし、原子力発電は大変な危険を伴う、それは、この日本は地震列島だからである。古代から日本は周期的に大地震が起こっている。地質学者であった私の父は、何十年後かに大地震が起こる事を予言しこの世を去った。そうなれば、放射能が漏れるという大惨事が起こるであろう・・だから、また再び、石炭の時代がくるはずだ・・・・だから閉山はしてはならない・・」
しかし、会議は、閉山として可決され。あの三池炭鉱は倒産した。
その男は、極めて鋭い先見の目あった。その男の名とは、伊能良蔵である。彼は、三池炭鉱の発掘現場における超一流の発掘技術者、測量師であった。時代の流れに敏感な良蔵は、三池炭鉱退職後、不動産業を始め、莫大な富を築いた。借金をして、広大な土地を買いまくり、その土地値が爆発的に上がるのを、ただじっと待ったのだ。すなわちバブルが弾ける直前にそれらの土地をすべて売り莫大な財産を築いた。そして、その大暴落した土地を買い占める計画を立てた。その広大な土地とは、有明沿岸すべてである。
ある日、良蔵はとんでもない大胆な行動に出たのだ。有明沿岸の荒れた地面を彼は、なんと、約三年かけ測量をしながら、八代から諫早まで約三00キロを歩いたのだ。三脚を抱え海岸を歩いていたその後姿は、「伊能忠敬である」と沿岸の住人は噂し、彼が通行するのを、一目見ようと待ち伏せし大勢の人々に歓迎されたのである。ある時は海沿いでテントで暮らし、ある時は住民の家に泊る。やがて沿岸地区でカリスマ的存在になった良蔵は、有明沿岸の各町に呼びかけ、寄付や融資を募り、自分の莫大な財産をすべて使い、バブル後の特に荒れ果てた最低価格の有明沿岸約三00キロにもわたる広大な土地を買い占めてしまった。その目的とは、有明沿岸に巨大道路を通すことである。だが、問題は荒れ果てた土地の開発し道路を整備、何本もの有明海に流れる込む河川に、橋を架けることである。当然それには想像もできないような莫大な資金がいる。
そこで良蔵は、自ら「伊能忠敬」を名乗り、沿岸住人に熱弁した。

「このさえない沿岸を開発し、道路を通せばこの有明沿岸には潤いが生まれる!
どうか、この伊能忠敬に協力なされ!」

すなわち彼は測量をすると同時に沿岸地区で政治活動をしていたとも言えよう。
当時最大規模の有明工業株式会社の社長は、彼が書いたその有明沿岸測量図を見て、感激し、良蔵に全面協力した。この会社は金竜組に守られていた。それに続き、数多くの小規模の土木会社、建設会社の協力を得て、一九八〇年、有明沿岸道路大規模工事が正式に開始された。やがて、荒れ果てた土地も整備されかけ、正式な道路とまではいかないが、トラックが通れる程の舗装は出来たのだった。建設現場の道路沿いには中小企業が進出し沿岸沿いの商業が発展することを願って地域の住人にも大歓迎されていた。しかし、良蔵にはもう一つの目的があったのだ。

「原子力の時代はやがて終わる・・再び石炭の時代が来るのだ!
そしてそのとき、この有明沿岸道路は巨大な石炭流通ルートとなり九州、いや全国に大量の石炭を運搬するための生命線になるのだ!
そうなれば、このさびれたこの大牟田市は九州を代表する巨大都市に変貌する!」

元三池炭鉱の社長のバックには銀竜組が影をひそめていた。炭鉱の倒産により、破たん寸前であったその組はその再建のためある新たな事業を展開した。ある日、組長代理である若頭佐々木が良蔵を訪問した。

「毎週金曜日に、この道路の通行を許可してもらいたい!コンテナ型大型トラック約三0台、三池港から、中島絶壁まで通過する。どうか許可を願いたい!」

この時、良蔵は、佐々木と契約し通行料金として多額の金を受け取った。工事には差し支えないとの条件で契約したのだ。このとき、良蔵は沿岸工事に専念していた為、この連中が何を運んでるというのは気にもしていなかった。やがて、この銀竜組も最大規模の組に発展した。すなわち、この金竜組、銀竜組の二大組織は有明沿岸道路の建設過程により、急成長をとげたと言っても過言でない。 
良蔵の一人息子である秀長は、事業の引き継ぎをさせるため土木工学科に進学させ、在学中に双子をもうけた。二男は父親になつき、長男は良蔵になついた。学位は取ったものの進路において激しく二人は衝突した。秀長は警官を希望したのが理由である。やがて良蔵が出した条件で決着が着いた。それは、良蔵は長男を、秀長は二男を引き取り別居することだ。このような大人の事情により二人の息子は顔を合わせる事はなかった。
やがて、銀竜組の急激な勢力拡大に対し、敏感に何かを直感した良蔵は、複数の大型トラックの列が中島川の上流に向かうのに注目した。そして、夜中に登山した。そこには巨大ダム建設途中だった。しかしそこでとんでもない事実を知るのである。そこには銀竜国発展の決定的な秘密があったのだ。有明沿岸は、人気の少ない辺鄙な環境である。さらに工事中でもあり、世間からは作業トラックとしか見なされないため、だからこそ銀竜組にとってこの大運搬計画は安全なルートだったのだ。
 ある日、良蔵は、運搬の責任者である佐々木を第七工事現場に呼び出した。
「通行は、今回で終わりだ!来週からは許可できない。作業の妨げのなるんだよ・・・」
「おい!ただ、週に一回、トラックを通行させてもらうだけで、こっちは多額の通行料を払っているんだぜ!おいしい話だろハハハハ、俺達は契約したのだ!・・」
確かに、その通行料は、有明沿岸道路の重要な建設資金だった。そのときだった。長男がやって来た。

「おじいちゃん!・・」
「おお、今は忙しいのだ!向こうで遊んでなさい・・」
「坊や・・可愛いね・・」
「あ!トラックだ!大きいのが何台も来る!ねえ・・お兄さん・・何を運んでるの?」
「・・・・・・」

二人は唖然とした。そのとき佐々木は良蔵の顔色を伺い何かを確信したのだ。

「あのトラックの中には、大量の砂が積んでるのだよハハハハ」
「おい!先の件分かったな・・・・この通行で最後だ!」

佐々木はトラックに乗り込み去った。
当時、現場監督であった平賀作業員、現金竜組組長は最後の橋げたの作業に取りかかっていた。その現場とは、あの第七工事現場なのだ。当時最新の技術で、約半分までかかっていた。しかし、ある日、橋げた落下事故が起こってしまった。その落下時、ちょうど真下には、中島漁港から夜漁に出発した数隻の漁船が通過していたのだ。もちろん船は沈没した。この事故は「中島鉄橋落下事故」とニュースでも広く報道された。漁船に乗っていた複数人の死傷者が出た。平賀監督と良蔵は責任を問われ、それまでいた中島地区からの信用が崩壊した。その後、平賀は自信喪失になり作業現場から何年もの間、離れ工事は中断。そのとき「呪われた橋げた」の名がついた。やがて多額の賠償金を要求され、有明工業株式会社の財政が悪化した。だからこそ良蔵にとっても銀竜組からの通行料は必要であったのだ。県警の現場検証の結果は事故と断定した。しかし当時、県警の若手の二人組の刑事は極秘にその事故を疑い捜索していた。また同時に、敏竜組の麻薬密輸疑惑もだ。やがて、その二人の刑事は銀竜組から狙われることとなる。
この事故の遺族の息子である滝沢馬琴は、伊能良蔵、平賀監督の二人には猛烈な恨みを持っていた。当時、小学6年生の滝沢は二人の前に現れ言った。
「この人殺し・・俺はお前らを許さない・・・いつかお前らを殺してやるぜ!」
この恨みを理解していた佐々木は滝沢に接近し。闇の世界に引き込んだのだった。やがて滝沢は、佐々木の最も信頼のおける凶暴なヤクザと成長したのである。
ある日、秀長は、父である良蔵を心配し、工事現場に現れた。
親子口を開いたのは、別居以来であった。

「親父、大丈夫か・・あまり一人で抱え込まないでくれよ・・」
「なあ秀長・・お前は警官になって正解だったよ・・」
「はあ・・何を言ってる?・・」
「お前は、県警で優秀らしいな・・かなり派手にやってるそうじゃないか・・
悪人を追いかけ続ける・・それがお前の使命かも知れないな・・」
「俺な、土木の学位を取ったけど・・本当は、あんたが怖くて警官になったんだ!」
「俺が怖い?・・」
「だって、有明沿岸を歩き回り測量しただろ・・全く、凡人でないぜ・・・あんたについていける奴など何処にもいない!ハハハハハ」
「全くだなハハハハ」
「そう言えば・・長男は元気にしてるかい?
でも・・測量の旅の最中、誰が面倒を見たんだ?・・」
「もちろん俺が見たよハハハ」
「何!どういうことだよ。まさか!・・」
「ハハハお前の息子はな、俺の測量に立ち合い、旅の最中で恐るべき和算を身につけおった。もう、その分野では俺の手にも負えない程だ・・
江戸の数学者、関孝和の生まれ変わりかもなハハハハ」
「なんて、おやじだ!全く・・二人にはついていけないぜ・・・」

「なあ秀長・・お前の言う通り俺達は、住む世界が違うんだ・・
そこで・・一生の頼みがある・・」
「何だよ!急に・・・」
「明日市役所に行って、お前ら三人は名前を変えろ!」
「は?俺ら三人の名前・・」
「何も聞くな・・いいか!今日から俺らは他人だ!」
「あのトラックの中には・・・
この一家を巻き込むわけにはいかない・・
特に警官であるお前には知られたくない・・
しかし、お前はいずれ事実を知り・・俺の前に現れるだろう・・」

秀長とある同僚刑事は、三池港である事件を捜索するため張り込みをしていた。
それに気がついた銀竜組の組長は佐々木に二人を射殺するよう命じたが、秀長は助かりその同僚刑事だけが殺された。その刑事とは、美香の父親、塩塚修である。

秀長はその後一人で、これらの事件を同時に追い続け、この二つの事件の関係に気がついたのだ。秀長は、良蔵を崖に呼び出した。二人は、中島絶壁に向かい合いで立っていた。

「なぜだ!親父!・・なぜ協力したのだ!」
「・・・・・・・」
「バキューン・・・」

秀長の後をつけていた佐々木は後ろからその光景を眺めていた。
「これで完全に、真実は闇の中だハハハハハ」
二人は崖から転落し死亡した。この事件の影から逃れるため二人の男子は、別々に引き取られ別々の人生を歩むこととなる。しかし長男は第七工事現場の崖から転落し謎の死を遂げている。
良蔵の死後、数年後にこの大事業の跡継ぎを決意した平賀はやがて、有明沿岸道路の建設代表に就任し有明工業の社長、金竜組の組長とまでなった。平賀は、伊能良蔵に引き継ぎ、今でも佐々木から通行料として多額の現金を受け取っている。それは現在でも建設費としての重要な費用となっているのだ。        
(狩能大成 「伝説の測量師」より一部抜粋)
この一文は、後にフィクションドラマ脚本を書く上での貴重な資料となったのだ。

「現在、日本は様々な問題を抱えている・・そんな日本を救う生命線が教育なのだ!
教育界では若い世代の学力低下が最重要視されている。・・すなわち日本を救うのは学力だ、もちろん俺が言っている学力とは偏差値により数値化されるものでなく、発想力なのだ・・教育とは、学校規模の事では収まらない!学校規模どころか・・
一人一人の教員が国家規模で考えなければならない問題だ!きっと・・・・・ 
本来、教育とはそんな広い視野でやるべきだろう・・・
まあ、俺には関係ない事だがな・・・」

第七工事現場において賢治の任務は終わった。
有明海の地平線に沈みかてる夕日を見ながら、教育について語っていた。
ここから見る絶大な自然は、人の思想までも大きくするのであろう。

銀竜組の幹部らは逮捕され、復讐のため金竜組との激しい闘争が絶えなかった。
組長は身の危険を強く感じ、慌ただしく事務所を整理し始めたのだった。

「これは、有明沿岸測量図!・・
俺はこの図を始めて見たとき純粋に土木を目指した・・・・
俺はいつからこんなに汚れてしまったのか・・」
そのとき一枚の写真が測量図から落ちた。

「あっ!この写真は・・良蔵爺さん!・・全くなつかしいぜ」
その写真には、良蔵、組長、そしてその中央に男の子の三人が映っている。
「そういえば、この少年・・・
良蔵爺さんの孫でいつもこの二人は一緒にいたな・・・」
しばらく眺めていた。そして何かを確信したようである。
「まさか!!このガキ・・」

その後、第七工事現場に有明工業の全社員に緊急集合がかけられた。
「時間がない!作業を急げ・・鉄橋の土台はもう出来ている。今日から三交代体制で舗装を開始しろ!大至急だ!」
「そして、会計!中島漁民の遺族の方々に、金庫の金すべてを等分し振り込め・・
大至急だ!」
組長はその夜、賢治に電話をかけた。
「もしもし、今から、いつもの店に来い!」

ここはクラブ「ルジャンドル」である。
賢治は、店に到着した。
二人の行きつけのバーだ。
「カランカラン・・」
「おう、待たせた・・・・」
賢治の隣に座った。
「なあ、賢治・・お前の復讐はこれで終わったんだよな・・・・」
「はい?・・・」
「おい!そうだと言え!・・」
組長は興奮していた。
「何の話ですか!」
「だろうな・・お前は何も知らない・・」
「俺は、お前さんとあの喫茶店で出会った。あの頃が懐かしいぜ・・」
組長は、ほほ笑んだ。
「お前が、真剣に何かに没頭してる姿を見てな・・
あの人を思い出したのだ・・
俺にとって、いやそれどころか、この有明沿岸の住民達にとって伝説の人物だ・・
今夜は、お前に話さないといけない事がある・・」
組長はゆっくりと話始めた。

当時二五歳の時、犯罪犯し監獄に入った。
やがて愛想尽きた妻に離婚を迫られた。彼は毎日、世間への恨み、苦悩、絶望、孤独で苦しんだ。牢獄は昼でさえも暗闇であった。しかしある日、ある男が面会に来たのである。

「平賀!久しぶりだな!」
「伊能技師!なぜここに!」

二人の再会であった。
良蔵はゆっくりと話し始めた。

「俺には一人息子がいるが、俺の事業の後を継ぐ気がないらしい・・安定を求めて公務員になりよった!愚かな奴だハハハハ・・
お前さんと一緒に炭鉱の現場で仕事をして確信してるのだ。お前さんは、根性がある!それに、人の上に立つ力量があるのだ!」

良蔵は力強く言った。

「だが、残念ながら、お前さんには学歴がない・・どうせ、この兼務所に何年もいるのであれば、ここで学位でも取ってはどうだ!そして、お前は出所と同時に土木技術者として俺に従事しろ!お前が必要なのだ!そうすれば、いつの日か一度だけ娘に合わせてもらえるように手配する・・お前の娘は可愛いよな・・」

「なぜ俺の娘を知っているのですか!」
「これを見ろ!有明沿岸の測量図だ・・」
「有明海の・・」
「そうだ・・俺が歩いて書いたのだ!」
「は!」
「俺は、孫と二人で測量の旅の途中、お前さんの母子のお世話になった。しばらくその街に滞在したが・・そのときお前の存在を思い出したのだ!だからここに来た・・」
「え!俺の娘は元気なんですか・・」
「二人の子供はすっかり仲良くなってな・・・」
「私は、犯罪者だから娘には会えません・・でも娘が元気にしてる事だけ知り、それだけで十分です。」
「何死人みたいな事を言ってるんだ!このまま強盗犯として人生を終えていいのか!
これを見ろ!」
良蔵は再び測量図を見せた。そして数か所に丸をつけた。
「これらの地点に、橋を渡さなければならない!これは、お前の仕事なんだ!」
「何!」
「そうだ・・これがお前の生きた証になるのだ!そうすればいつ死んでも良かろうハハハハ・・では、作業現場で待ってるぜ・・じゃーな!」
そう言い残し良蔵は面会所から出ていった。

「なあ賢治!ベルヌーイの定理を知ってるよな。これは、土木工学で最も有名な定理だ、力学的エネルギー保存法則とも言われてる。すなわち位置エネルギーを、運動エネルギーに変換することが出来るという理論だ!」
「はあ?突然、何が言いたいのですか・・」
「やはり、お前は、ベルヌーイ定理の数理的側面しか理解していないようだなハハハ
まだお前には、この大定理に潜んでいる情緒というものが見えないか・・」
人は皆、計り知れない莫大なエネルギーを内蔵している。でもその使い方を間違え、犯罪に走る者もいる。また、極度な心配症になり体力を消耗し病気になる者もいるだろう・・でもな、そんな使い方は実に下らない・・これらは、エネルギーの無駄使いだな。自分自身に秘められた莫大なエネルギーの存在を知り、それを何か別のエネルギーに変換できれば・・」
「変換!・・」
「すなわち、負のエネルギーを正のエネルギーに変えろということですか!」
「その通りだ!俺の場合、そのエネルギーを土木工学の学位取得にぶつけたのだ!四六時中勉強して、やがて刑務官が俺の奉仕活動を免除した!最高の環境の中、俺は独学で学位を取得した。刑務官の連中も驚いてたよ。そして刑務所を出て、有明沿岸道路建設に従事した。そして、俺の情熱と現場で磨きをかけた一流の技術で橋を架け続けた。しかし、そんな俺だったが有明沿岸道路最難関工事と言われた「中島絶壁の巨大鉄橋計画」という、最難関の工事が俺の目の前に立ちはだかったのだ。日本中から招いた一流の技術者の協力も得たが成功しなかったのだ!しかしある日、突然ある男がその第七工事現場に現れたのだ!現場経験のないはずのその男の計り知れない能力を思い知らされた!
俺達技術者は、工事の妨げとなる突風や荒波といった自然現象に戦を挑んできた。しかし逆に、その男は、そんな自然現象を操っていたのだ!いや俺には、楽しそうに自然と戯れていたようにも見えた・・・
俺は考え続けた・・
賢治・・お前は一体、何者かとな・・・」

「お前は、計り知れない才能そして美的感受性を持っている。だからこそ、とても繊細でもろいのだ・・お前みたいな奴には、俺の娘がお似合いかもしれない・・・」
「は?娘・・」
「俺は、あの日まで娘に会ったことはなかった。刑務所に入る前は妊娠していたから・・
出所して、当時、別れた妻とある条件で一度だけ会わせてもらった事があった・・・
当時、娘は高校三年生だった・・」
「条件?」
「ああ・・この子の成人までの養育費を一括で払えとな・・
まあ、今は何処にいるのかも分からないがな・・・
俺は明日、用をすませて警察に出頭するつもりだ・・
そうなれば、ますます会うことは出来ないだろう・・・
いや、もう一生会おうとも思わない・・
俺はすべてを失った・・今残った物があるとすれば、妻の形見の油絵だけだ・・・」
「組長・・・すみませんでした・・」
「お前は悪くないよ・・それどころか・・
第七工事現場、巨大鉄橋の土台を完成させた。もうあの鉄橋は完成したのと同じだ!
俺達の橋だ!・・
いや・・あれは俺達三人の橋だったな・・・」
「三人?もう一人は誰ですか・・・」
組長はほほ笑んだ。
「つい先日、お前の正体を確信したよ。しかし俺は驚かなかったよ・・
簡単に納得してしまった・・・
そのお前と今こうして飲んでいる・・
全く、光栄だよ・・・・・」
組長はグラスを上げほほ笑んだ。
「乾杯しようぜ・・」
「俺の正体とは!・・・」
賢治は興奮した。
そのとき、電話は鳴った。
「約束は明日だろ!・・・すぐそこなのか!分かった!待っていろ!・・・」
組長は興奮し電話を切った。
「大丈夫ですか?」
「残念だ・・・もう時間だ・・」
組長は寂しく言った。しかし次の瞬間顔が変わった。
「おい!俺がお前に作ってやった名刺を今すぐ出せ!もうこの瞬間から俺はお前の他人だ!いいな!ここを絶対に離れるな!いいな!」
賢治は、組長の言ってる意味が分からなかったが気迫に押され。
「はい・・・・」
やがて組長は立ち上がり、扉に向かって歩き出した。扉の前で振り返り言った。
「なあ、賢治・・今日はお前のおごりだぞ!
最後に言っておこう・・
その答えは・・
有明海の風の中だ・・・」
そう言い残し、ほほ笑んで、扉を開け出て行った。

「バキューン、・・・ドドドドドドド・・」
ものすごい銃撃戦が扉の向こうで始まった。
その扉は弾丸で穴だらけとなった。

銀竜組の幹部全員が、麻薬の件で逮捕され組は解散したはずだったが、有一の幹部である滝沢が勢力を握っていた。残組員が金竜組と対立し、争い事が絶えなかった。組長のいない金竜組は内部争いも絶えずにいたため、滝沢率いる銀竜組の攻撃に合い、全滅寸前だった。すなわち下剋上の雰囲気がたっており、射殺事件が連日のように発生した。しかし、そんな滝沢馬琴も、やがて逮捕され凶悪犯として鳥栖市にある麓凶悪犯刑務所に送られた。それによって、騒ぎは一時的には収まったようである。その事実からも、いかにこの滝沢馬琴の暗黒社会での影響力の強さが伺えるであろう。
 
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