人徳?いいえモフ徳です。
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六十七匹目
全ての甘未を作り終えた。
完成した甘未は埃が入らないよう障壁魔法を被せ温度操作魔法で温度を保つ。
これから僕は一度王城へ行きクーちゃんを迎えに行かなければならない。
なのでティアのスライムコアを数個アイテムボックスから取り出す。
「ティア。これから僕は城に行く。だからその間魔法の維持を頼む」
「かしこまりました」
「エリザはその旨をお母様に」
「お一人で大丈夫ですか? そろそろ西日がきつい時間です」
「問題ない。飛んでいく」
バーストにこの場を任せて厨房を後にする。
エプロンを脱ぎながら屋外へ出る。
「ジェネレートウィング」
魔法障壁を背中から展開し、飛行機の翼のように広げる。
さながら不可視のグライダーである。
グライダーとは違う点は左右の翼の間に筒状に展開した障壁だ。
「テイクオフ」
風魔法で筒の中に空気を取り込み圧縮開放と過熱膨張を用いて飛び上がる。
股間がヒュッとなる感覚と共に数十メートルの高さまで上昇した。
重心移動で体を前に倒し推力を後方へ。
王城めがけて一直線に進む。
多民族国家フライハイトの首都リベレーソとはいえ飛行可能な種族は限られる。
シャクティとそのお父さんであるファルコさんのような翼人、ホルルさんのハルピュイア、あとはサニャトリウムの常連である攻勢師団群第五師団空戦遊撃隊隊長とその副官達のドラゴニュート、確か色街のサキュバスも飛べたはず。
見渡せば数人は飛んでいるがそこまで空は混んでおらず直ぐに王城の城門前までたどり着けた。
スタッと降り立ち、守衛に声をかける。
「レオン」
「お、シラヌイ様じゃん。姫様のお迎え?」
「そんなところ。クーちゃんたちは?」
「参謀ともう一人のナイトはもう来てる。シラヌイ様が最後だな」
「だろうね」
「そんな恰好でいいのかよ? パーティー何だろ?」
「ああ、これ? さっきまでそのパーティーで出す甘未を作ってたのさ」
「へー。そりゃぁ他の料理が売れなくなるな」
「僕もそう思うよ。お母様もそれを思ってか例年通りの料理は半分以下だってさ」
レオンと別れて王城の中に入る。
登城した貴族や武官文官が忙しそうに行き来してたりサボってたりしている。
執政拠点としての城の姿だ。
僕が用があるのはさらに奥、王族のプライベートスペース。
いつものごとくクーちゃんからは私室まで迎えに来るよう命じられている。
向かった先のドアを叩くと中から入るように命じられる。
中に入るとドレスを纏ったクーちゃん達が居た。
「意外と早かったわねシラヌイ」
淡い褐色の肌を包む紅いアイラインドレス。
その腕にはダイアモンド製のアクセサリ。
「ぬいちゃんは、姫様のため、急いでくれた」
メリーちゃんは自らの白いウールを目立たせるような黒いエンパイアドレス。
髪留めには水晶で花を象ったものを。
「そうだな。狐君はわざわざ迎えに来てくれたのだ」
シャクティは…。
「シャクティ本当にその格好で行くの?」
「うむ。問題あるまい」
シャクティの格好は女性用の士官服をモチーフにした物だ。
しかも腰には金剛刀を下げている。
身長が高いので似合っているがパーティーのマナーガン無視である。
「お父様とお母様も好きにするといいと言ってくれたぞ」
なお当たり前だがお母様は他の家に対して干渉したりはしない。
「シラヌイ、貴方も着替えたら?」
「わかったよ」
「奥の部屋で着替えてらっしゃい」
「不味くない?」
奥の部屋とはクーちゃんの寝室である。
「いいわよ別に」
ありがたく使わせてもらうことにする。
奥の部屋へのドアを開ける。
「に”ゃぁ!?」
何故か開けた先に下着が落ちてた。
振り向くとクーちゃんが肩を震わせていたのでおそらくわざとだろう。
無視してその下着をまたいで少し奥へ行くとさらに二人分。
サイズからしておそらくメリーちゃんとシャクティの。
それも無視してアイテムボックスを開けて礼服を取り出す。
今まで着ていた物をアイテムボックスに放り込み素早く着替える。
「待たせてごめん」
と寝室から出る。
「で、なんであんなところに下着おいてたの?」
場所、あとは下着だけ置いてあったから多分わざとだろう。
「ぬいちゃん、興奮した?」
とメリーちゃんの視線が僕の股間に向く。
「そういう所をみないの。あとはしたないから三人ともこういうことはやめなさい」
総注意するとはーいとから返事が帰ってきた。
この様子だとまた似たような感じでからかわれるのだろうな。
「じゃぁ、行きましょうか」
クーちゃんの号令で僕たちは部屋を後にする。
僕とシャクティが先頭、その後ろにクーちゃん、その後ろにメリーちゃんだ。
クーちゃんを中心にしたトライアングル。
多分一番単純な護衛陣形だ。
こんなのやっても対して意味はないんだけどね。
王城の中だし。
真面目に護衛してます感だけでも出てると嬉しい。
でもまぁ、街では実際に役に立つこともあったから何とも言えない。
その時はクーちゃんを狙う暗殺者が相手で僕が魔法障壁で毒矢を防いだ。
でもそのあとクーちゃんが自分で殴りに行ったから結局意味はないのかもしれない。
あの程度なら魔法使いが無意識に発動している障壁で防げただろう。
既に無意識の障壁がそのレベルに達している事実は秘匿できたので無意味ではなかったかもしれない。
僕らの護衛陣形をほほえましそうに大人たちが見ている。
馬車のある所まで行くと御者さんが待っていた。
馬車も特別性というか僕が創った。
分子結合多重魔法陣素材で出来ていて軽量かつ頑強。
加えて錬金術で作った簡易のばね式サスペンションで揺れを軽減できる。
僕が指をならせば即座に魔法障壁を張れる優れモノ。
形は王室の馬車そのままに重量軽減と耐久力向上を成功させている。
馬車を作る業者に恨まれると嫌なので王家にはこれ以外作ってないけど。
馬車の中の席はクーちゃんの横にシャクティ、正面に僕、その隣にメリーちゃんだ。
馬車が動き出す。
「ほんとに揺れないな、この馬車は」
「まだまださ。科学世紀の車には遠く及ばないよ。とはいえ、これ以上は無理かな。道の舗装をやり直すしかないよ」
嘘だ。
まだやれることはある。
タイヤの材質を変えればいい。
でもそれはやりたくない。ゴムはまだもう少し出し渋っていよう。
「すごいのね。貴方のいた世界は」
「すごくないよ。全然。いつかこの世界が追い越すよ。僕たちの世界にはどうあがいても魔法なんてなかったからね」
科学世紀といまのフローティアが戦争をすればフローティアが負ける。
”今はまだ”
だがもしも魔法で核を扱えたらどうなるだろうか?
そう考えるとこの世界で科学を発展させることは果たしていい事なのだろうかと思ってしまう。
でもそういう考えって傲慢なんじゃないだろうか。
そんなことを考えているとメリーちゃんが僕の頬をつついていた。
「うゅ?」
「むにむに」
「なにすんのさ」
「そこに、むにむにがあったから」
「うゅうゅうゅ」
「ぬいちゃん、科学世紀の話すると、悲しそう」
「っ、ごめんなさいシラヌイ」
「謝る事じゃないよ。くーちゃん。僕の問題だからさ」
「うんうん。これからパーティーだ。楽しくいこうじゃないか」
シャクティが無理やり話を締めた。
普段アホそうだがそういった機微をちゃんと感じ取れる人なのだ。
いや、まぁけしてアホではない。
アホではないのだが僕らがいると考えるのを任せているようだ。
カタンカタンと馬車にゆられ、やがて学園へと近づいていく。
窓の外を見ると他にも馬車が見える。
他に歩いていく人もいる。
「めんどうね。私たちも歩きか空で行きたかったわ」
「王族の義務ってやつだね」
「貴方もよシラヌイ」
「僕はいいのさ」
「そうねぇ貴方の立場ずるいわよねぇ」
シュリッセル家は王城内や貴族間などの本国中枢では国王より権力があると言われているが、市井や各公国の間ではそうでもない。
なので僕はそこそこ自由にやれている。
シュリッセルの権威は全ておばあさまが握っていて、そのお婆様が滅多に人前に姿を見せないからだ。
馬車が止まった。
学園の正面の門についたのだ。
「さ、行きましょうか御姫様」
「エスコートよろしく。私の可愛いナイトさん」
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