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人徳?いいえモフ徳です。

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六十六匹目

学校主催の夜会の日。

その昼前。

今日の夜会には僕の店から甘味と人手を出しているので他より早めに会場入りする必要がある。

お母様と一緒に馬車で行くのだが…。

「武器を持っていくのはダメって…名目上とはいえ僕くーちゃんの護衛……」

「気持ちはわかりますけどダメですよシラヌイ」

礼服に合わせて錬金術で作った剣を腰に下げているとお母様に咎められた。

「こういった場に武器を持ち込むのは会場の警備を軽く見ていると思われかねません。
それは失礼に当たりますよ」

「はーい……」

ブレスレットで我慢しよう。

最悪の場合氷の剣を魔法で出せばいい。

「ですが」

とお母様が続ける。

「アイテムボックスや暗器など見えないようにすれば咎められる事はありません」

アイテムボックスに剣を入れる。

流石に暗器を隠し持ちはしない。

いや、まぁ、アクセサリーが全部暗器と言えば暗器なんだけど…。

色々と確認して馬車に乗り込む。

二人乗りの席に腰掛ける。

御者はエリザだ。

「シラヌイ」

お母様が尻尾を乗せた膝をポンポンと叩く。

獣化してお母様の膝に乗ると、頭から尻尾にかけてすーっと撫でてくれる。

「くゅぅん」

お母様の甘やかす手の動きを味わいながら、外の景色を眺める。

貴族街一等地から学園へ。

会は学園の式典場で行われる。

流石にまだこの時間では向かう人は居ないようで、学園に近付くにつれて人通りが減っていく。

少なくはないが、学期中よりは少ない。

馬車が止まるとお母様は僕を抱いたまま外に出た。

駐車場のような場所だ。数十台の馬車が止まっている。

その中にはサニャトリウムで所有する馬車もある。食材や一部調理器具を持ち込むためのものだ。

獣化を解き、地に足をつける。

燦燦と照りつける太陽が真上近くから僕らを照りつける。

「シラヌイ。大丈夫ですか」

お母様が僕の顔を覗き込む。

金色に輝くブロンドが陽光を受けて輝く。

大人びた中に幼さを残すその顔は不安げな表情を浮かべていた。

「このくらいであれば大丈夫です。直ぐに屋内に入りますし。それこそ。砂漠を歩き続けるような事でもなければ」

「そうですか? それなら良いのですが…」

そこでさっと僕とお母様を影が覆った。

エリザだ。

竹と何かしらの魔物の皮で作ったであろう傘をさしていたいた。

「これで大丈夫でしょう」

「ありがとう。エリザ」

「タマモ様から預かってまいりました」

お母様と並んで、反対側に少し下がってエリザが日傘をさしたまま少し歩く。

見る限りやはり人は少ない。

が、同じ敷地内のずっと奥の方、魔導学院の近くには人がそこそこいる。

学院は科学世紀でいう所の大学や研究所に当たる。

どこの世界でも研究室に配属された学生に休暇は無いようだ。

学園の敷地内でも人が多くいる所はある。

今日の夜会の会場である式典場だ。

式典場の裏口へ向かうと警備員に一礼された。

裏口から入り、廊下を歩く。

エリザはさしてくれていた日傘を畳んでアイテムボックスに入れていた。

その所作ですら美しい。

さすがメイド長である。

調理場へ向かうとサニャトリウムのキッチンスタッフが詰めていた。

見慣れない顔が居るのは学園のコック達だろうか。

壁際で機嫌が悪そうなのはなんでだろうか。

考えるのは後にして入り口近くにいたバーストに話しかける。

「調子はどう? ちゃんとパーティーに間に合う?」

「問題ないわご主人様。ただ学園のコックが全く役に立たないのよ。それにろくな設備もないから今から遣いをサニャトリウムに向かわせようかって所よ」

「器具は持ち込みだろう?」

「あると思ってた器具が無いのよ、質も悪いし」

バーストはそう言うと僕ではなくお母様に話しかける。

「ねぇ、貴方タマモの娘でこの学園の責任者なのよね?」

「ええ、そうよ」

「この学園のコックの質悪いんじゃないの? 器具も調整効かないみたいだし」

「ん~。そこは許してほしいわ。学園の調理場は質より量なのよ」

「なるほど…。それで軍人を使ってるのね」

「あら、わかるの?」

「ええ。侵攻部隊からの出向でしょ? 平時は暇で給料も安く済むからって手を抜きすぎじゃない?」

「今度の役員会議で言ってみるわ」

バーストとお母様の会話を面白くなさそうに聞いている軍人コックたちの事は今は考えないことにしよう。

考えるのも面倒だしそういうのは言い出しっぺのバーストがどうにかすべきである。

「バースト、足りない器具で魔法で代用できるものはある?」

「ええ、そうね。貴方がいれば早く終わると思うわ」

魔法を使えば氷菓やその他の甘未の粗熱を取る時間を短縮できる。

「ん。わかった。じゃぁちょっと着替えてくるよ」

僕が一度着替えようとキッチンを後にしようとするとお母様が手を方に置いた。

「シラヌイ」

「はい、何でしょうお母様」

「私は執務棟の部屋にいます。エリザを残しますから何かあれば遣いを寄こしてください」

「はいお母様」

キッチンの前で僕とお母様は分かれる。

この式典場には衣装室があり、そこは入り口から見てキッチンより奥にある。

エリザは僕の後ろをついてきている。

「シラヌイ様、着替えは持ってきているのですか?」

「ふふん。僕のアイテムボックスの容積をなめるなよ? 屋敷の倉庫よりも広いんだからな」

「それはすごいですね」

エリザの声色が幼子をあやすような物であったので少しむっと来た。

まぁだからと言って文句を言うような子供ではないのだ。

衣装室に付いたので、アイテムボックスからエプロンを取り出す。

「シラヌイ様」

「いいよこの程度」

僕程度の年なら使用人に着替えを手伝わせる事もあるが、僕はそうしない。

家でも日替わりで僕付きのメイドはいるが彼女らにも触らせない。

「ですが礼服ですし」

礼服とはいえ男物である。

ハンガーにかけておけばそうそう崩れる物でもないし、そもそもそういった扱いには長けている。

アイテムボックスからハンガーと衣装掛けを出して脱いだ礼服をかける。

それをアイテムボックスに入れればOK。

アイテムボックス内は時間が止まっているので簡単には崩れない。

あとは私服を着てエプロンをすればOK。

「行くよ」

「むぅ…」

エリザは不機嫌そうだ。

なぜ触らせないかと言えば手つきがやらしいからだ。

風呂でも同じく。

しかも風呂では互いに裸である。

この体ではナニがとは言わないがまだ機能が成長しておらずそこまで強い欲求ではないとはいえ僕のこの鋼の理性をほめて欲しいくらいだ。

そしてこのショタコン…というかシュリッセル家の使用人たちは一切の例外なく有能だ。

「ほら、急ぐよ。エリザにも手伝ってもらうからね」

とひとたび僕が何かしらの指示を出せば

「はい。シラヌイ様」

と頼れる返事をするのだ。 
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