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モンスターハンター 〜故郷なきクルセイダー〜

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番外編 とある受付嬢の懸想

 
前書き
 大変お久しぶりでございます。
 モンハンライズ発売記念! ……というほどのものではありませんが、久方ぶりの更新となります。今回はドンドルマの一般受付嬢視点で、ちょっとだけ最新作の要素に触れたお話をお送りしますぞ(о´∀`о)
 

 
 ――カムラの里。豊かにして艶やかな大自然に彩られた、山紫水明の地。
 ハンター達が派遣される「村」の一つでもあるその里には、「百竜夜行」と呼ばれる災厄があるのだという。

 原因不明の狂乱と共に、多くのモンスターが襲撃してくるという悪夢のような災禍であり。数十年前には、里そのものが壊滅の危機に陥るほどの被害を受けたこともあったのだとか。

 しかも最近の調査では、この災禍の兆候らしき現象がいくつも目撃されている……という記録もある。
 現地の里も対策として、強固な砦を設けているとのことだが、今回の「夜行」がそれだけで凌ぎ切れるようなものとは限らない。

 ギルドとしても、本件の対処に当たるハンターの派遣が急務となる。無論それに伴い、多くの職員達も忙しくなっていくのだ。

「はぁ……今日こそは定時上がりで、新作のスイーツが堪能できると思ったのに……」

 勤続3年目の、新人ともベテランとも言い切れないドンドルマの受付嬢――ミレーヌ・ハーヴェイもその1人であった。

 亜麻色の長髪を三つ編みにして、右肩に流している彼女の容姿は、その色白な柔肌と美貌もあって周囲のハンター達の間でも頻繁に話題になっているのだが。当の本人はそんな連中の視線など意に介している暇もなく、山積みの書類に追われている。

「へへ……忙しそうじゃねぇかミレーヌ。ちょっと俺らが手ぇ貸してやるよ。相変わらずい〜い匂いだぜ」
「結構です、あなた達はご自身の職務に集中してください」
「そう言うなって、大変な時はお互い様だろうが。ここは素直に……あだだだだっ!?」
「彼女のどこに触ろうとしてるんだ、この不埒者共が。そこは書類じゃないぞ」
「いっ、ででででぇっ! は、はなっ、離しやがれぇっ!」

 処理が終わった書類をどすんと置くたびに、上下にぷるんと弾む豊満な乳房と臀部は、ギルドの制服でも隠し切れるものではなく。
 彼女の甘美な色香に吸い寄せられるように、「業務外の用件」で彼女に絡もうとした一部のハンター達が、常に目を光らせているギルドナイツにしょっ引かれていく……という光景も、今ではお馴染みとなっていた。

「またあの連中ですか……。あいつらはこれから詰所に連行しますので、ご安心ください」
「はいっ! いつもありがとうございます、皆さんっ! ……あの人達は前々から問題行動が目立っておりましたので、『念入り』にお願いしますね」
「りょ、了解です」

 そんなギルドナイツ達に恭しく笑顔で接しつつ、連行されていくハンター達には汚物を見るような視線を注いでいるミレーヌ。その胸中には今――ある一つの想いがあった。

(アダイトさん……)

 右も左も分からず、無頼漢達の集まりであるハンター達にも怯えてばかりだった1年目の頃。明るく朗らかに自分を支えてくれていた、1人のハンター。
 彼のようなハンターの助けになれるなら……と、厳しい先輩達の「指導」にも耐えて今に至る彼女の手には、ロノム村に関する書類があった。

 そこには今、ミレーヌが懸想しているアダイト・クロスターの他にも、2人の上位ハンターが常駐しているらしい。その2人がここ――ドンドルマの大衆酒場に訪れた時のことを、ミレーヌは今でも覚えている。

(感じ悪かったなぁ……特に、あの高慢ちきな女の方)

 高貴な身分の出なのだろうか、やけに気位の高い連中だった。双剣使いの女――クサンテ・ユベルブの方はひときわ、その傾向が強かったように思う。
 確かに登録から短期間で上位に上がっているのだから、多少天狗になるのも無理はないのだが……それにしても、鼻につく。そんな彼女が今は、アダイトと共にロノム村にいるというのだから、余計に。

(猫の手も借りたいんだからって、上も異動も認めてくれないし……残業は終わらないし……はぁ)

 せめて自分がロノム村の受付嬢になれれば、接点も増やせると思ったのだが。アダイトの派遣が決まってから間も無く、百竜夜行の兆候が確認されたために、その話も頓挫してしまった。

(……そうだ。あの2人……特にあの女を、派遣ハンターに入れてしまえば)

 やがて。絶え間ない激務と嫉妬、そして焦りが悪魔となって彼女に囁いたのか。ミレーヌは思考が曖昧なまま、何かに誘われるように筆にインクを付け始めていく。
 カムラの里に派遣する、ハンター達の名簿。その中に、クサンテの名前を書くために。

(あの性悪女だって、今は資金集めに躍起になってるって話じゃない。百竜夜行に対処したハンターになら、ギルドからの報酬も弾む。本人にとっても悪い話じゃないんだから、まさに一石二鳥よね)

 クサンテをアダイトから引き離し、里ごと滅びる可能性すらある危険な地へと派遣する。その行為をひたすら脳内で正当化しながら、彼女は口角を吊り上げていた。

(これでアダイトさんは私の……私、だけの……)

 しかし。インクを付けた筆を書面に乗せる直前。ミレーヌの手は、そこで止まってしまう。

「……はぁあぁ……」
「せ、先輩……? 大丈夫……ですか?」
「ちょっと……ミレーヌ、しっかりしなさいよ。大丈夫なの?」

 我に返ったように筆を置いた彼女は、天井を仰ぎ深々とため息をついていた。その憔悴し切った様子に、周囲の同僚や仲の良い女ハンター達も、心配げな表情を浮かべている。
 普段ならそんな友人達に向けて、心配ないよと笑顔で取り繕うところなのだが。人生最大の自己嫌悪に陥っている今のミレーヌには、その余裕すらない。

(……私、何してんだろ。こんなことして、アダイトさんが喜ぶわけないのに)

 アダイトは底抜けに能天気で、明るくて、優しくて、そのくせ強い。そんな彼の背中に何度も救われてきたからこそ、思うところがあるのだ。
 アダイトなら、あんな性悪女ともきっと上手くやっている。文字通り何もできないギルド嬢だった自分を見捨てなかった彼が、ハンターとして危険を共有しているクサンテを見捨てるはずがない。

 彼ならきっと……否。絶対に、彼女を助けるために同行してしまう。今が1番危険なカムラの里に、彼を呼び込んでしまう。
 数年前の記録によると……彼はすでに一度、百竜夜行の脅威を経験しているのだから。

(……あーあ。いっつも損してばっかりだなぁ、私)

 クサンテをカムラの里に送れなかったことへの後悔か。あるいは、その選択をしなかったことへの安堵か。
 自分自身でも理解しきれない感情を吐露するように、ミレーヌはもう一度深く息を吐き出して。ようやく、自分を心配げに見つめていた友人達に向き直ることができた。

「……あははっ、ごめんなさい。最近ちょっと、残業続きで疲れてるのかもね。今日こそは早めに帰りたいなぁ」
「全く……心配させるんじゃないわよ。あんた、ちょっとは有給も使いなさいよね」
「先輩っ! じゃあ今度の休み、一緒にお出かけしましょうよ! 新作スイーツ、食べに行きましょうっ!」
「そうね……ふふっ、次の休みのお楽しみにしておきましょうか」
「いいじゃない、アタシ達も混ぜなさいよ」

 そして、いつものように営業スマイルを浮かべて。いつもの日常へと戻っていく。そう遠くないうちに百竜夜行も終わり、アダイトに会いに行ける日が来るのだと信じて。

「さぁ……私もお仕事、頑張りましょっか!」

 ミレーヌ・ハーヴェイは今日も、筆を取る。ハンター達の日々を支える、受付嬢の1人として。
 
 

 
後書き
 読了ありがとうございました! モンハンライズの舞台にも触れつつ、超久々の更新となりました。モンハン自体もかなりのブランクになってしまっており、これを機に復帰できたらなー! とこっそり思っております(о´∀`о)
 早くライズにも触ってみたいなぁー! という思いから書き上げた今回のお話ですが、皆様にも楽しんで頂けたなら幸いです。ではではっ!٩( 'ω' )و
 
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