魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Saga22-I最終侵攻~Battle of the 4th Branch office~
†††Sideイリス†††
「はあ!? ドクターにスキュラ、プレシアにリニス、ディアーチェ達、それに覇王クラウスとオリヴィエ様!?」
いつでも襲撃予定地点に転移移動できるようスカラボで待機していたわたしは、あの場に存在するはずのない人たちが居ることに大混乱中。ディアーチェ達は、行き来は難しいけど出来なくはないってことは判ってるから、居てもまぁあり得るんじゃない?って至れる。
ドクター、それにアルファ達“スキュラ”は、ドクターは元々ミミルによってプライソンと共に生み出された人造人間。遺伝子やデータが残っていれば、改めて生み出せるかも?だし、“スキュラ”はスペアボディがどっか、局が発見できなかったプライソンの研究所に残っていたとすれば説明がつく。ミミルだって今なお行方知らずだ。製造は出来る。問題は・・・。
(プレシアと、その使い魔のリニス。それにオリヴィエ様とクラウス・・・)
プレシアが自身のクローンを実は生前に生み出していて、それが何かしらの理由で活動を開始したっていうならまだ判る。でもリニスはおかしいでしょ。フェイトやアリシアやアルフからリニスの最期は聞いてる。役目を終えたからもう不要と断じられたリニスのクローンを、プレシアは生み出すだろうか。
そしてオリヴィエ様と覇王イングヴァルト。オリヴィエ様のクローンはヴィヴィオだ。すでにヴィヴィオが居る以上、改めてクローンを生み出す意味はないはずだし、プライソン一派に盗まれた聖遺物に遺されてた遺伝子情報だけだと完全なオリヴィエ様のクローンは生み出せないって話。クラウスは、直系の末裔であるアインハルトが居る。そもそもクラウスの遺伝子が付着してる聖遺物は存在しないから、完全なクローンは不可能。
(クローンじゃないなら何!? 過去からタイムスリップしてきたとか!? それとも変身魔法!? ううん、使用魔法も魔力光も本人のそれだ! 姿形は似せることは出来ても魔力光を真似るなんて出来ない! なら・・・なら・・・)
ここでふと、ある人の顔が脳裏に浮かんだ。彼なら過去の人物や死者を、現代に存在させることが出来る。けれど、彼――ルシルはもうこの世にはいない。オーディンの記憶や複製したものも扱えるルシルなら、当時オーディンが知り合っていたオリヴィエ様やクラウスを“エインヘリヤル”として召喚することは可能だろうけど・・・。ルシルが“T.C”の関係者ってことになる。
(ありえない。T.C.の活動は、ルシルが存命中からだ。ルシルがわたし達に隠れて活動していた? いやいや。基本的に特騎隊の誰かと行動を共にしていたし、エインヘリヤルを召喚する暇もなければわたし達もさすがに気付く)
それに、ルシルは“T.C.”によって殺害されてる。遺体はちゃんと確認できてるし、アイリも一緒に殺害された。もしルシルが黒なら、絶対にアイリも一緒に連れていく。2人の遺体が見つかってる以上はルシルは白だ。ああもう。あれこれ考えていても仕方ない。捕まえた後で当人に聞こう。そう開き直ってしまえば、さっきまでの大混乱は落ち着いた。
「とりあえず、今のところは襲撃予告した研究所以外への襲撃はないみたいね」
「うん。オフィスや本部からも連絡入ってない」
「このまま出てこない可能性もあるわけか。楽は楽だけど、出来れば現れてほしいな~」
リーダーやガーデンベルグが予告していない場所を襲撃しないとも限らないから、わたしとルミナとセレスは直通転送が出来る特別なトランスポートのあるスカラボの応接室で、予告襲撃地点の様子を複数展開したモニターで監視してる。
「皆さん、お茶のお代わりはいかがですか?」
そこに、シスターズの長女ウーノがワゴンを押して奥のトランスポート室から入ってきた。確かに緊張しっぱなしだったから、ぜひお代わり!って言いそうになるけど、「ウーノ! ドゥーエを呼んで!」って伝えた。わたしの大きな声に少し驚きを見せたウーノだったけど、「判りました」と言った後、少し黙った。シスターズには専用回線の通信機能があるし、それで呼び出してるのかも。
「はいはーい。何か用かしら?」
妹たちが命がけの戦闘をしてるって言うのに、ドゥーエは化粧途中なのかメイク道具一式を持ってやって来た。妹たちは大丈夫だって信頼してるんだろうけどさ。まぁいいや。わたしはウーノとドゥーエに、ドクターが“スキュラ”と一緒に居る映像が映るモニターを向けた。
「「ど、ドクター!?」」
ウーノとドゥーエがモニターにへばり付くように顔を近付けて、嬉し涙を溢れさせた。でもすぐにドゥーエは「に、偽者では!?」って疑った。映像だけで音声は入らないから、絶対に違うとは言い切れない。けどわたしが何かを言う前にウーノが「本物よ。ドクターの仕草、間違いないわ」と両手で口を覆いながら告げた。
「身振り手振り、クセがドクターそのものよ。何者かの変身ではああはいかないわ」
「確かに。だ、だけどドクターがどうしてあそこに居るの? すずか達と相対しているということは、ドクターやスキュラはT.C.側ということでしょ?」
「それについては、すずか達に任せるつもり。ドクターとアイルとスキュラは交戦するつもりはないようだし、トーレ達が相手にしてるだろうT.C.を黙らせてくれたら聴取も楽に――」
わたしがそこまで言いかけてたところで、エマージェンシーコールが携帯端末から鳴り響いた。このコールが鳴る際の設定は、予告襲撃地点以外に“T.C.”が出現した時のみ。応接室内の空気が一気に張りつめて、「はい。フライハイト」って通信に出る。
『フライハイト部隊長。第5支局にT.Cと思しき者たちが現れたと本部より緊急連絡が入りました。応援並びに出撃要請は未だ出てきませんが、アコース監査官よりスクランブルに注意とのことです』
「了解。防護服着用で待機する」
零課オペレーターの1人、ナノ・ユーフラジーとの通信を切り、ソファから立ち上がったわたしとルミナとセレスは「セットアップ」と、デバイスは起動せずに防護服へと変身する。その間にウーノは、ドクターのことを見ていたいだろうに隣室のトランスポートの転送先を5つある支局のどれでもすぐに飛べるように設定してくれてる。そこでまたエマージェンシーコールが鳴って、オフィスと通信を繋げるとナノ通信士がモニターに映る・・・。
『フライハイト部隊長、スクランブル要請です。至急第4支局へ向かってください。第5支局の保管庫前にて交戦があり、その際に支局員がT.C.メンバーの会話を聞いたそうです。このまま次に向かう、と。本部は、T.C.は支局すべてを襲撃すると考えています』
「だから第4で食い止めようってことか。了解、すぐに向かう。ルミナ、セレス、行くよ」
「「了解!」」
「第4支局のトランスポートホールへの座標は設定済みですのですぐに行けます」
「ありがとう、ウーノ」
ウーノとディードと一緒にトランスポート室に移動して、わたし達はトランスポートに入る。ウーノは「それではお気を付けて」と空間キーボードをキーを打った。それで転送は始まって、わたし達は中継点ポイントを入れることなく第4支局に到着することが出来た。
「お疲れ様です! 第4支局警備隊のミディ三佐です。お待ちしておりました」
「特務零課課長、フライハイト特務二佐です。早速、保管室へ案内してください」
「了解です。ではこちらへ」
わたし達を出迎えてくれた女性隊長ミディ三佐。彼女の案内で保管室へと通じる廊下を進む。支局の保管室も本局と同じ造りになっていて、保管室前通路、監視室、トランスポート前通路、トランスポート、そっから保管室に転送っていう。大型のロストロギアや一度にたくさん運び入れる用に広く作ってある廊下には、他の警備隊員が武装状態で待機していて、ミディ三佐やわたし達に敬礼をしてくれてる。
「監視室から先の通路への転移魔法やスキルは出来ないようにされていますので、保管室前通路での迎撃になります」
「通路の幅は両手を広げた大人でおよそ4人分くらいか・・・」
ルミナとセレスが両手を広げた状態で横に並んで、廊下の幅を計ってる。まぁまぁ広いから戦闘になっても大丈夫だろうけど、「転送トラップなどは使わないんですか?」って尋ねる。支局にも空戦が余裕で出来るトレーニングルームくらいあるし。
「それも考えましたが、第2波の襲撃があっては対応できませんから。魔術なる魔法体系を扱える局員がここには居ませんから、フライハイト三佐たちがここを離れている間に別のT.C.が現れてはどうしようも出来ません」
「あ、そっか。襲撃予告地に配置されてる武装隊員たち以外には神秘カートリッジは配給されてないんだっけ」
魔力に神秘を乗せられる局員は数が少ないから、どうしても襲撃予告地以外への配給は出来なかった。まぁ敵が魔術師なんてことが起きるのはきっと“T.C.”で最後だろうから、そこまで気にするようなことも無いようなだけど・・・。
「それでなのですが、結界展開をお願い出来ますでしょうか?」
「結界は私に任せてもらうよ、イリス。魔力量で言えば私の方が多いし」
「ん。じゃあ任せるよ、セレス。っと、零課オフィスから通信だ。少し失礼します。・・・ナノ、どうかした?」
『第5支局よりT.C.構成員の画像データが送られてきました』
ミディ三佐に一言断りを入れてから通信を繋げて、ナノがモニターにその画像を表示してもらう。目深に被ったフードで素顔が見えないけど、「うっそ・・・」ってわたしは絶句した。ローブでほぼ全身が覆い隠されてるけど、袖から除く武装で誰か判っちゃった。
「アミタ、キリエ・・・!?」
砕け得ぬ闇事件で知り合って友人になった、アミティエ・フローリアンとキリエ・フローリアンの姉妹が居た。いやまぁディアーチェ達が居るんだから2人も居るんだろうなって思ってはいたけど、ディアーチェ達と違ってガチで局と敵対するなんて思わなかった。
「知り合い?」
「ちょっとね。友達なんだけど、局と敵対するわけないし、何よりT.C.のメンバーだってことに違和感があり過ぎて驚いてる」
それを言ったらディアーチェ達もそうなんだけどね。とにかく、ありえないって状況を生み出してくる“T.C.”には驚きや苛立ちを覚えてばかりだ。そんなアミタとキリエの他にも女の子がひとり居るんだけど、たぶん知らない子だ。というか、他の襲撃予告地点にも初顔見せのメンバーが何人かいた。魔術師っぽいし、ああもう、本当に面倒くさい。
「あ、もしかして私の出迎えですか? ごめんなさい、出来れば誰も居なかった方が助かったのですが。T.C.の一員として、魔力保有物を頂戴しに参上しました」
それはあまりに突然。背後からそんな声がしたから振り向いてみれば、そこにはフード付きローブを身に纏った女性がひとり佇んでいた。廊下にずらっと並んでいた警備隊も、そしてわたし達もその出現にまったく気付かなかった。
「バインド!」
ミディ三佐がそう叫ぶと、警備隊員たちが一斉にバインド魔法を発動。フープやらリングやらチェーンやら、いろんな種類のバインドで“T.C.”メンバーを拘束した。だけど「傷付けたくはないので、お願いします」と言いながら軽く身じろぎするだけで、すべてのバインドを弾き飛ばした。
「セレス!」
「うんっ!」
「「拘輪環!」」
セレスと同時にデバイスを起動して、即座に古代ベルカ式の通常バインドを神秘を載せた状態で発動。“T.C.”の両足、胴、両腕と計6つのリングバインドで拘束する。そこにルミナが彼女の背後に回り込み、「ごめんね!」と謝りながら両腕でガシッと腰にしがみ付いた。
「どっせい!!」
そしてバックドロップ。ルミナの強烈な投げ技によって“T.C.”は後頭部を強かに打った。コンクリートの床にバックドロップなんてマジかって思ったよ。でも後頭部を打ち付けながらも“T.C.”は「改めてお願いをします」と、わたしとセレスのバインドを弾き飛ばす。体が自由になった“T.C.”はバックドロップを受けた状態からネックスプリングで垂直に飛び上がって、ルミナの腕から逃れた。そして天井を蹴ってわたし達から距離を開けて着地。
「ミディ三佐。結界を展開し、わたし達3人で交戦します。新手が現れたら通信をお願いします」
「了解しました。ご武運を」
「セレス」
「よっし!」
――ゲフェングニス・デア・マギー――
セレスの結界によって警備隊員たちの姿が消える。結界内にはわたしとセレスとルミナと“T.C.”の4人のみ。“キルシュブリューテ”を屋内専用の「クルツシュベーアト・フォルム」に変形させて、「再々度のお願いです」と言う“T.C.”に「却下です」って首を横に振る。
「・・・そうですか。そちらも仕事なので、断られるのは判っていました。では仕方ありませんね。力ずくで頂戴します」
そう宣言した“T.C.”の両手に、フェイトのような金色の雷撃が発生。そして両手の親指の爪のところにビー玉サイズの雷球として圧縮すると「雷閃指弾」と、雷球を親指で弾いて超高速で撃ってきた。わたしとセレスがその一撃を回避したのを合図に「エンゲージ!」だ。
「氷奏閃・翔閃!」
「氷牙飛月刃!」
「「十字撃ち!」」
「冷気の刃・・・ですが温い」
わたしとセレスの放った十字の冷気の刃は、そう言い捨てた“T.C.”が突き出した右手の平で受け止められて、そのまま握り潰された。そんな“T.C.”の背後に回り込んだルミナは、加減なしって言うのが見て判るほどの速度で上段回し蹴りを打ったんだけど・・・。
――疾閃雷翔駆――
「「「!?」」」
ルミナの右脚が“T.C.”の体をすぅっと通過した。そんなのアリ!?なんて思っていたら、“T.C.”だったソレは「残像!?」で、わたしとセレスの背後から「速過ぎましたか?」なんて馬鹿にしたような声が。振り返るより先に“T.C.”はわたしとセレスの間を通り過ぎ、ルミナに肉薄した。
――震破・拳槍――
「貴女は確か、拳闘における最強の騎士さんでしたよね」
――デーモン・アプゲショッセン――
「そうだ・・・よ!」
“T.C.”が雷撃を纏う拳打を繰り出すと同時、ルミナのカウンターの拳が彼女の鳩尾に突き刺さったように見えた。だけど“T.C.”はそこからお返しとばかりにルミナの鳩尾に膝蹴りを入れて、浮かせたところで襟首を掴んでこっちに放り投げてきた。
「「わわっ!」」
ルミナをセレスと一緒に抱き止めて、激しく咽るルミナをゆっくりと下す。咳が収まったところで言ってくれた「ありがとう」に、「どういたしまして」って答えて、仁王立ちしてる“T.C.”に視線を戻す。
「すでに察していると思いますが、私は魔術師です。神秘の無い魔法などでダメージを与えられるとは思いませんように」
「「「だろうね・・・」」」
わたしとセレスは「カートリッジロード!」をして、ルミナはルシルの遺品とも言える、指輪に紐を通した首飾り型神器、“ヒミンバル”の効果を発動させた。
「後悔させてあげるよ」
「ルミナ。骨折程度ならいいけど、間違っても後遺症が残るようなダメージは与えないように」
「大丈夫。ちゃんと手加減はするから」
「感情に任せて突っ込み過ぎてカウンター食らわないようにね」
「了解。んじゃ、私が先に仕掛ける。・・・サポートお願い」
「任せておいて」「任せて」
相手が徒手空拳でさらに強いとなれば、ルミナはすこ~し意固地になるというか猪突猛進になるというか。なんだかんだ言っても拳闘最強っていうプライドはあるらしく、徒手空拳でダメージを与えられたときはヤバい。でも大変な仕事と私情はきちんと分けてくれるから、今のように強敵を複数人で倒すっていう状況でも受け入れてくれるから助かる。
「作戦会議は終わりましたか? では、そちらからどうぞ」
「お言葉に甘えて・・・! フェアシュテルケン!」
――ゲシュヴィント・フォーアシュトゥース――
「光牙月閃刃・・・!」
――閃駆――
「氷奏閃!」
――神速獣歩――
四肢に青緑色の魔力を付加したルミナが高速移動魔法で突っ込むのに続いて、わたしは“キルシュブリューテ”の刀身に魔力を付加して、セレスは“シュリュッセル”に冷気を纏わせてから突っ込んだ。三方向から“T.C.”を挟撃する。ルミナの拳打やわたしとセレスの斬撃を、“T.C.”は躱したり裏拳で弾いたりと完璧すぎる動きで捌いてくる。
(噓でしょ!?)
攻撃時のタイミングは狙ってずらしてるのに、まるで予知してるかのように防いでくる。だから『ルミナ、セレス。戦術変更!』って提案すると、2人からは『了解!』との返事が。悔しいけど近接だけじゃ勝てない。
「距離を開けるつもりですか? 手伝いましょう」
――円噴地雷陣――
「「「きゃうん!?」」」
“T.C.”が床を踏みしめると同時、彼女を中心として放電する衝撃波放射状に放たれた。離脱しきれなかったわたし達はもろに直撃して感電、加えて吹っ飛ばされた。ただの衝撃波なら体勢を立て直して着地するのは簡単だけど、感電したことで受け身を取ることも出来ずに床に叩き付けられた。
「あ、すいません。電圧は抑えたのですが、まだ強かったですか?」
「この・・・」
わたしは痺れる体を押してなんとか立ち上がりながら『まずはアイツの手札を暴くよ』って、同じように辛そうに立ち上がる2人に伝える。合図なんて無くてもタイミングくらいは図れるほど同じ時間を過ごし、戦ってきた。自由に動いても連携は取れる。
「行くよ!」
――風牙烈風刃――
初撃はわたしの風圧の壁。“T.C.”はフードが飛ばされないように左手で押さえる。そこに“T.C.”の左側に突っ込むルミナ。ルミナの動きを警戒したところで、セレスは大きな氷の拳を任意の場所から突き出させる魔術、「ディオサ・プーニョ!」を発動。自分の左側を通り過ぎるルミナを見送った“T.C.”の右側の壁から氷の掌底が突き出てきた。
「なんの!」
“T.C.”は掌底の中心に右拳打を一撃お見舞いして、氷の手を粉砕。大小様々な氷の破片が“T.C.”を襲う中で、わたしは彼女をその場に留めるために“キルシュブリューテ”を床に突き刺して、「光牙針縫刃!」を発動した。“T.C.”の足元から複数本と突き出た魔力刃は体を掠るように天井に突き刺さって、身動きを完全に封じる檻と化した。
「シュトゥースヴェレ!」
僅かになるだろうけど“T.C.”の動きが完全に停止したことで、ルミナは防御を貫通する衝撃波を打ち込む拳打を繰り出した。その一撃は“T.C.”の左わき腹を正確に打ち抜き、追撃に下あごへの掌底を打った。“T.C.”の首がガクッと力なく垂れたけど、拘束は解かずに警戒しながら近付いてく。そしてそれは正しいことだったってことがすぐに判った。
「なるほど。正確無比な意識を刈り取る一撃。並みの術師であれば今ので終わっていたでしょうが、殺さないように手加減しすぎたことが災いしましたね」
「なら加減なしでいくよ!」
“T.C.”は軽く身じろぎすることでわたしの檻を砕き、ルミナの魔力付加された右上段蹴りを顔側面に受けながらも左足に足払いを掛けて、ルミナの体勢を崩させる。そして床に仰向けに倒れ込みそうになったルミナを踏みつけようとしたから、わたしは最速の魔力槍射撃、「光牙閃衝刃!」を連射。ソレに続いてセレスが突っ込む。
「まだ加減をするんですね」
ルミナへの踏みつけを中断した“T.C.”は放電する魔力を付加した両手でわたしの放った魔力槍をパシッと掴み取り、セレスに向かって投げ返した。解除するには遅すぎて、セレスは“シュリュッセル”で弾き飛ばした。
「破っ!」
――震破・肘槍――
力強い踏み込みからの雷撃纏う右肘による打撃がセレスに迫って、防御のために盾とした“シュリュッセル”が砕かれた。雷撃はさらにセレスを貫通してあの子を吹っ飛ばし、それを見届けた“T.C.”はそのままわたしに向かって突っ込んできた。神秘魔力が付加された“シュリュッセル”すら容易く砕く打撃力。直撃はまずい。“T.C.”から逃げるように奪取して、床に倒れたセレスの元へ。
「セレス!? セレス、しっかり!」
「あぅ~~、全身がビリビリするぅ~」
痙攣するセレスを抱き起こすと、セレスは「クセになりそう~」なんて言った。戦闘不能にされちゃったかと思ったけど、セレスは割と元気そうだった。ただ、感電してる所為でうまく体を動かせないみたい。こんな状態のセレスを床に置いていていいのか迷う。と、そんなわたしに“T.C.”は容赦なく向かって来ていた。
――震破・指槍――
雷撃を纏う両貫手による連撃を、セレスに当たらないように出来るだけ余裕を以て気を付けながら回避。そこにルミナが“T.C.”の背後から迫って来て、「マジで墜とすよお前!」と怒りを一切隠さずに、分解スキルを半分だけ解放しての打撃、「ファルコンメン・ツェアシュティーレン」を発動。
――震破・掌槍――
ルミナの一撃を左掌底で迎撃した“T.C.”は、雷撃が僅かに散らされたのを見て「あぁ、これが分解の・・・」と納得しながらルミナの拳を掴み取り、あの子の腕を上に向かって引っ張ってそのまま宙に放り投げた。
「体が・・・痺れていても・・・」
――制圧せし氷狼――
セレスが氷の狼を10頭ほど作り出して、9頭をルミナのフォローに、残り1頭の背中に「乗せて」ってことだから、わたしはセレスを氷狼の背にうつ伏せで寝かせた。冷たくないの?って疑問は、セレスの耐寒力を知ってることですぐに消えた。
(キルシュブリューテを取りに行かないと・・・!)
氷狼9頭に全身を噛まれながらも“T.C.”は怯まない。天井を蹴って勢いをつけたルミナの踵落としを、右腕に噛みついてる氷狼を盾にしてダメージを抑えた“T.C.”は、左脚に噛みついてる氷狼を振り払って、偶然か否か“キルシュブリューテ”にぶつけてわたしの方に飛ばしてきた。
(どっちでもいい! 手元に来たんなら攻撃あるのみ!)
――閃駆――
「光牙裂境刃!」
氷狼を全身からの放電で消し飛ばし、ルミナの猛攻を左手だけで捌く“T.C.”へと突っ込む。障壁破壊効果を持った魔力を付加しての全力峰打ちで“T.C.”の右肩を打ったんだけど、「やっぱ硬っ!」くて、まるで鉄を叩いたかのような手応えで、柄を握る両手が痺れた。その僅かな隙に女性は“キルシュブリューテ”の刀身を右腕の肘窩で挟み込んで、パキンッとへし折った。
「きゃああああああ!」
アッサリと折られた“キルシュブリューテ”から流れ込んできた雷撃にわたしは悲鳴を上げて、意識が朦朧として倒れ込みそうになるけど、それより早く魔力刀を生成する術式、「絶、刃・・・!」を発動して、それを支えに転倒を阻止・・・はしたけど、壁にもたれかかってしまう。
(早く・・・復帰しないと・・・)
セレスのサポート攻撃があるとはいえルミナは“T.C.”と1対1で殴り合ってる。早く加勢して、少しでもルミナを楽にさせないと。そう考えて必死に体を動かして、徐々に痺れが薄れてきたとき、「シャルさん!」って呼ばれた・・・かと思えば、ドンッと押されたわたしは「のわっ!?」とうつ伏せに倒れた。
――スティールハンド――
「「っ・・・あ!?」」
「いてて。一体何が・・・って! ルミナ、セレス!」
2人の胸からは半透明な腕が突き出していて、手の平には強く輝いてるリンカーコアがあった。その光景はまさしく“闇の書”事件でシャマルが行っていた、転移魔法・旅の鏡によるリンカーコア奪取を思い起こさせるものだった。
「すいません、シャルさん。あなたしか護ることが出来ませんでした」
「さ、立って。レイルは待ってくれないわよー?」
わたしを抱き起してくれたのは、ローブを羽織った「アミタ、キリエ・・・!」の2人だった。
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