流星のロックマン STARDUST BEGINS
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精神の奥底
75 Revolt ~後編~
前書き
また大分間隔が空いてしまいました...
コンピューターウイルスに意思など存在しない。
何かを考え、思い、行動することなど決してありえない。
しかし眼の前の現実は、それを理解していても受け入れがたいものだった。
『このぉ!!!』
ブルースはメットールを一度に3匹、ネオバリアブルの斬撃で切り裂いた。
今までに見たことの無い程のウイルスの群れ。
意思が無いというのに、その行動には間違いなく”悪意”が存在する。
ブルースとその背後の証拠データを執拗に破壊しようと襲ってくる。
しかも大量のウイルスが連携を取っているかのように感じる。
1匹はブルースに正面から襲いかかり、数匹が側方から急所を狙ってくる。
意思が無くても、ウイルスは自らを構成するスクリプトコードに従って破壊の為の行動を取り続ける。
それが自然とウイルス自身が悪意を持って行動しているかのように見えるのだ。
このウイルスたちの行動に見える本当の悪意は、ウイルスを生み出した人間とそれを利用する人間の悪意に過ぎないというのに。
『ハッ!!』
しかし炎山とブルースはそんな悪意を前にしても音を上げなかった。
これまで幾千もの戦いを勝ち抜いてきた2人には、ここで負けるわけにはいかないというプライドがあった。
技術の進化と共に凶悪化していくネット犯罪との攻防、まだ子供ながらこの世界に飛び込んでもう何年経つだろうか。
そんな戦いの中で2人も成長を重ねてきた。
誰からか教わったりするだけではない。
実戦を積んできたからこそ身についたスキルや直感、そして2人だからこそ身についた戦術とチームワーク。
そう簡単に折れるわけにはいかない。
そして何より、そんな自分たちを成長させてくれた好敵手である光熱斗とロックマンを見捨てる訳にはいかない。
仕事だから、任務だから、そんなことは頭には既に無かった。
「クッ、負けるな…ブルース」
しかしこれまでに無い敵の多さにブルースのHPは刻一刻と減っていった。
恐らくもう長時間は戦えない。
だがギリギリまでベストを尽くそうとする。
出来る限りウイルスを減らし、メモリを回復させる。
その上でリサ=ヘンゼルにダウンロードコマンドを実行させ、証拠ファイルを押さえる。
恐らくデリート寸前にまで追い込まれるだろう。
そして倒しきれなかったウイルスはサテラポリスのネットワーク上に蔓延し、組織機能はストップする。
だがそれでも熱斗は恐らく助けることができるだろう。
炎山とブルースは互いに覚悟を決めていた。
しかしブルースの限界は2人の想像よりも早かった。
『クッ…ウゥ…』
「ブルース!!」
ブルースは膝をついた。
気持ちだけが先走っても、身体がついていかない。
炎山は反射的にリカバリーチップの転送コマンドを実行する。
「ダメだ…間に合わない…」
『炎山サマ…』
「くっそぉぉ!!!」
炎山の声が室内に響き渡る。
膝をつき、下を向くブルースをウイルスの大群が覆い尽くそうとしていた。
残り僅かなHPのブルースには致命傷以外の何物でもない。
コマンドキーを連打したところで、転送が早まるわけではない。
それを理解しているはずなのに、炎山はPETの画面を割りそうなほどの力で叩き続けていた。
その場にいた誰もが、ブルース、そして炎山の敗北を覚悟した。
だが次の瞬間、耳を貫くような音がスピーカーを鳴らした。
『……誰だ!?』
「ブルース!?何が起こった!?今の音は何だ!?」
『狙撃です!誰かがウイルスに攻撃を…』
「狙撃……誰が……」
「間に合ったか……熱斗、ロックマン」
ブルースを押しつぶそうとしていたウイルスの大群を次々と紫色の光線が蹴散らしていく。
いきなりの救いの手に祐一朗を除く皆が一瞬だけ固まった。
そして、祐一朗の頭に浮かんだその『射手』が上空から姿を現す。
『うぉぉ!!フミコミクロス!!!』
射撃で空いた、ブルースとウイルスの間のスペースに青い閃光が突っ込んだ。
目にも留まらぬ斬撃が再びウイルスの大群を蹴散らす。
ブルースはゆっくりと顔を上げる。
そこには予想していた通りの青いヒーローが立っていた。
『…ロックマン』
『ブルース!大丈夫!?』
ロックマンはブルースに手を差し伸べた。
「ロックマン…キサマ、どうして?」
『炎山も。ありがとう。おかげで熱斗くんも戻ってきた』
「何?」
『オッス!炎山!ここまでよく粘ってくれたぜ!』
「光…」
熱斗は留置場でマヤのPCを介することでロックマンをオペレートしているのだ。
ロックマンも研究室から留置場を結ぶ中継機の1つからコピーロイドを抜け出してアクセスしていた。
『後は僕たちに任せて!』
『ロックマン!行くぞ!!バトルチップ!ネオバリアブル!!』
『うん!!』
ロックマンは熱斗のオペレートに従って、ウイルスに立ち向かっていく。
右腕に装備したネオバリアブルでウイルスを次々と切り裂いていく。
だが一向に数は減らない。
剣を振るう度に僅かに先が見えてはすぐに見えなくなる。
『ッ!あれだ!』
一瞬だけ、リサがダウンロードしようしていた証拠ファイルが見えた。
ウイルスの大群がまるで守るようにファイルの周囲を覆っている。
『キリがない!!』
『一撃で決める!!プログラムアドバンスだ!!』
「待て、光!ここでプログラムアドバンスを使えば、証拠ファイルもろとも…!」
『炎山!500バリア、頼めるか?』
「バリア!?何をするつもりだ!?」
『いいから!!準備してくれ!!』
「クッ、分かった」
熱斗とロックマンは互いの考えをすぐに理解し、それぞれがすべき行動に移ろうとしていた。
それに対し、炎山とブルースは2人は理解が及ばず、一瞬だけ反応が遅れる。
だが熱斗とロックマンの作戦を無意識に信頼し、指示通りに動く。
すぐにPET内の予備フォルダから、プログラムアドバンスに必要なチップを送信する。
『バトルチップ!バリア!100バリア!200バリア!!』
『『プログラムアドバンス!!500バリア!!!』』
それと同タイミングで熱斗も切り札を取り出した。
『バトルチップ!カウントボム!トリプルスロットイン!!!』
『『プログラムアドバンス!!ギガカウントボム!!!』』
ロックマンの手に巨大なカウントボムが現れ、それをウイルスの大群のど真ん中に投げ込んだ。
『今だ!ロックマン!!バトルチップ!ドリームオーラ!』
『うん!』
『ロックマン!なんでこっちに!?』
投げた次の瞬間、ロックマンはドリームオーラを纏ってブルースに向かってダッシュした。
弱っているとはいえスピード戦を得意とするブルースの反射速度を上回り、ロックマンはブルースを抱えて飛び上がった。
そして常軌を逸したアクロバットで空中を舞い、証拠データの真上から向かい合って肩組した形で着地する。
「キサマ!まさか!?」
『ギガカウントボムの威力が600!バリア500とドリームオーラなら700までの攻撃に耐えられるはずだろ!!』
『無茶苦茶だ!』
『ブルース!......来るよ!!構えて!!』
その場にいた誰もが目を閉じた。
カウントがゼロになったギガカウントボムは目と耳を突き刺す閃光と爆音と共に爆発した。
証拠データ以外の何もかもが爆風の餌食になっていく。
ウイルスも会議資料もメールも復元不能なデータの残骸となって、吹雪のような舞い上がっては蒸発していく。
『ッ!!!』
『耐えろ!!ロックマン!!』
それから30秒ほど経っただろうか。
その惨劇の痕を目の当たりにした。
OSが稼働する最低限のファイル群と証拠ファイル以外は見事に吹き飛び、焼け野原を通り越して、データの砂漠としか形容しようがない光景が広がっている。
「ヘンゼル、ダウンロードできるか?」
「はい、コマンドが正常に実行されました。1分以内に全ての証拠ファイルがダウンロードされます」
『ふぅ、何とかなったな…』
『いきなり私からPC奪い取って、無茶なオペレートしやがって』
「マヤ!聞こえる?」
『姉ちゃん…聞こえるよ。ホント、とんでもない助っ人たちを連れてきてくれたもんだよ』
一段落ついて、ようやく留置場と音声の交信を再開する。
「キサマ、もし俺たちの動きが遅れて、証拠ごと吹き飛ばしたらどうするつもりだったんだ?」
『え?』
「キサマだって、俺が普段からリカバリーとバリアはほぼ使わないことくらい知っていたはずだ」
『いや、炎山なら絶対間に合わせると思っていたよ?』
「何?」
『それに、使わないだけで相棒がピンチになった時の為に絶対持ち歩いてるって確信してたし』
「…… なぜそう言い切れる?」
『それは…』
『それは、今の炎山にとってブルースは道具じゃなくて、相棒だから、でしょ?』
『そういうこと』
熱斗と炎山、そしてロックマンとブルースは互いの経験と絆が一連のコンビネーションを実現したことを再確認していた。
ライバルとして、時にぶつかり、時に信頼し合い、互いを知り尽くしているからこそ成せた技だと。
そして今、ダウンロードされている自分たちの戦果の証拠データを見つめながら呟いた。
『さぁ、決着をつけよう』
後書き
ようやくエグゼサイドの方が一段落しました。
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