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恋人は秘書

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第三章

 総帥は沙織が義彦の傍にいるのをよしとした、自分の傍で秘書として働いて欲しい程の逸材であっても。
 このことについて彼はこうも言った。
「私は下衆でないつもりだ」
「ご自身を」
「左様ですか」
「人の恋仲を割く様な、な」
 そうしたというのだ。
「そうしたことはな」
「されないですか」
「だからですか」
「義彦様と武田嬢のことは」
「一切だ」
 まさにというのだ。
「しない」
「左様ですか」
「ではですね」
「お二人は」
「言った通りだ」
 これからも二人でいてもらうというのだ、こう話してだった。
 二人の仲をよしとした、そして実際にだった。
 ある日義彦は仕事が一段落すると沙織にこう言った。
「帰り何処に寄ろうか」
「何処にといいますと」
「ラーメン食べに行かないかい?」
 沙織に笑顔で提案した。
「これから」
「ラーメンですか」
「それも福岡だから」
 二人が今いる場所の話もした。
「しかもうちの会社すぐ近くが博多だし」
「博多まで行ってですか」
「そしてね」
 そのうえでというのだ。
「豚骨ラーメン食べようよ」
「それはです」
 沙織は義彦の傍に立っている、そこからぴっしりとした姿勢で彼に問うた。
「お仕事のことでしょうか」
「支社長としてかな」
「はい、現地調査でしょうか」
「うちは水産だけれど」
「八条グループにはラーメンのチェーン店もありますね」
「八条ラーメンだね」
「そちらのことで」
「あそこの社長義三郎おじちゃんだからね」
 義彦の年上の親戚だ、叔父と甥の様な関係である。
「おじちゃんのサポートだね」
「グループの企業は互いに助け合う」
「八条家の人間もね」
「八条グループ全体の社訓ですね」
「家訓でもよ」
「そちらのことでしょうか」
「そうもなるかも知れないけれど」
 それでもとだ、義彦は沙織に笑って話した。
「それでも退社してだから」
「それで、ですか」
「プライベートになるから」
「では私用で、ですね」
「行こうね、それとね」
 それにというのだ。
「お金は僕が出すから」
「支社長がですか」
「うん、プライベートだからね」
 それで行くからだというのだ。
「だからね」
「左様ですか」
「現地調査とか研究で行くならね」
「はい、その場合は企業のことなので」
「会社の経費でとなるけれど」
 それで食べに行くがというのだ。 
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