少年は勇者達の未来の為に。
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鷲尾須美は勇者である 再臨の章
第六話
前書き
これが今のところ最新話です。
連続投稿はこれで終わりです。
ゆゆゆいのUR若葉が引けませんでした。(血涙)
うたのんは三人ぐらい来てくれたんですがね。
「正直に言って驚いたわ。あなた達がここまで連携を取れるなんて・・・」
「でしょでしょ~?」
「まっ、あたし達にかかればこれぐらいなっ!」
「二人共調子に乗らないの・・・」
「訓練、頑張ったもんね」
バーテックスを撃退した翌日、蓮達の担任であり大赦から派遣された人間である安芸は放課後、生徒指導室に4人を呼び出し、先の戦いの戦闘データを見ながら驚愕の表情を浮かべてそう言った。そんな彼女に対し、銀と園子の2人はドヤァと誇らしげに胸を張り、須美は2人を窘め、蓮は嬉しそうに笑顔を浮かべていた。
4人を見ながら、安芸は思考する。当初は性別による不和や人間性の問題が起きるのではと予想していたのだが、それを良い意味で覆してくれたのは嬉しい誤算であった。
今までの訓練では、チームワークを養うことが出来ないのではと考えていた安芸だったが、どうやら杞憂だったようだ。
四人の仲は良く、連携も形になってきている。怪我も蓮が軽い切り傷を負っただけで済んだ。4人が無事であったことを内心喜びつつ、安芸は顔に出さずに真剣な表情で口を開く。
「とは言え、これで満足してはいけないわ。今の段階でこれなら、あなた達はもっと上に行けるはず。そこで」
1枚の紙を差し出す安芸。4人が前のめりになって紙の内容を見ると、そこにあるのは強化合宿と大々的に書かれた4文字。
「バーテックスとの戦いが本格的になってきた為、今後大赦はあなた達勇者を全面的にバックアップします。強化合宿はその一環ね。この合宿中にやれることは全部やるわ。学校のこと、家庭のことを気にする必要もないから」
「合宿・・・ってことはお泊りか!」
「わ~お泊り会だ~!」
「二人とも騒がないの、訓練なのよ?」
「そう言う須美も顔、緩んでんじゃん!」
「えっ」
安芸は目の前で合宿だーお泊まり会だーと喜んでいる四人を見る。銀が須美をいじり、須美は顔を真っ赤にし、園子は何を持って行こうかと考え、蓮はそんな三人を見ながらニコニコと笑顔でいる。蓮も楽しみなのだろう。そんな光景はどう見ても仲が良い小学生そのもの。そんな4人の双肩に友の命がのし掛かり、背中には四国全ての人間の命が背負わされている・・・背負いたくて背負ったモノではない、しかし四人には背負うしか選択肢はなかった。その重圧を考えると、今ここで笑っていられるのが奇跡と呼んでもいいぐらいだ。
(本当に・・・どうして私達大人はバーテックスに対してこんなに無力なの・・・)
4人から見えない位置で、自分の無力を呪う安芸の手が握り締められた。
安芸先生から強化合宿をすると言われた日の2日後。合宿に必要なものが入ったリュックと布でくるんだモナドを背負い、僕は銀ちゃんの家の前にいた。
集合時間までには後一時間ほどの余裕がある。スマホで時間の確認をしつつ、勇者アプリのもう1つの機能であるSNSアプリ。NARUKOを起動する。
『皆おはよう。ちゃんと起きてる?』
『おはようございます蓮君。もう準備して向かうところよ』
『おはよー。眠いよー』
『二度寝はダメよそのっち。集合時間に遅れてしまうわ』
『すやぁ・・・』
『遅かった!?寝ちゃだめよそのっち!』
『いや、返信してるから起きてるだろ。おはよう! あたしももう出るところ!』
『うん、皆起きてるね。銀ちゃん、玄関見てみな』
『玄関?』
「あれ!?」
「おはよう、銀ちゃん」
家から出てきた制服姿の銀ちゃんが僕を見て目を丸くする。本当なら事前に言っておくべきなのだろうけれど、昨日の夜中ふと思いついたのだから仕方が無い。
以前、須美ちゃん達のストーキングの甲斐あり、銀ちゃんが遅刻してしまう理由が彼女のトラブル体質と放っておけずに一々解決して回っていることが原因であると判明した。それならば僕が一緒に解決してしまえば、遅刻せずに済むのでは。と考え付いた。
「あぁおはよう・・・何で蓮が家に?」
「銀ちゃん1人だと遅刻するかも・・・って思ったから、良かったら一緒に行かない?」
「な、なるほどな・・・あ、待ってて。直ぐに行く!」
「慌てなくていいよ~」
慌てて家の中に戻る銀ちゃん。しばらく待っているとパンパンになっているバッグを肩に下げた銀ちゃんが出てきた。
「お待たせ!」
「全然待って無いから大丈夫だよ。それじゃ、行こうか」
「おう! 楽しみだなぁ合宿!」
「ふふっ、僕もだよ」
この後僕は、銀ちゃんのトラブル体質を甘く見ていたことを思い知ることになる。
「・・・・・銀ちゃんいつもこれぐらいのトラブルに会ってるの?」
「あ~・・・いつもってわけじゃないんだけどな。今日は特に多いな」
学校に行くまでの道のりだけで5つぐらいのトラブルに遭遇した。目の前で駐輪場の自転車がドミノ倒しになり、坂ではおばあさんがみかんを転がし、散歩中の犬は逃げ・・・今日は僕がいたけどいつもはこれらすべてを一人で解決しているのだから遅刻してしまうのも当然と言えば当然なのかもしれない。
「結構早く出てきたけど、着くのギリギリになりそうだね」
「よっしゃ走るか!」
銀ちゃんがそう言い、二人で走り出す。その甲斐あってか出発5分前に着くことが出来た。そして今、僕達はとある名家へと向かうバスの中に居た。
本当なら神樹館から徒歩で行ける場所の訓練場向かうはずだったのだが、その訓練場が地震のせいで、一部倒壊してしまったそう。
その為、今回の合宿は決行が危ぶまれたのだが、安芸先生の説得により『じゃあウチが』と手を上げてくれたそうな。
「せんせー!今から行く家、どこでしたっけー?」
「三ノ輪さん・・・先ほども言ったでしょう?『秋原家』ですよ。私たちはこれからそこの訓練場を使わせてもらうんです」
銀ちゃんの元気な声に先生が少し呆れた声で返す。まぁ出発前にも言ってたからね・・・
・・・それにしても
「秋原家、か」
「蓮君、秋原家がどうかしたの?」
「ああ、いや、家でモナドについて調べててさ、歴史書にその名前があったから」
確か秋原家も白鳥家と同じで、大昔に違うところから四国に来たんだったか。大赦の中では中堅辺りにある家だ。
そういえば他にもあったな・・・白鳥家と仲が良い藤森家、あと海の近くに居を構えてる古波蔵家だったっけ。
「・・・スヤァ」
「いつも気持ち良さそうに寝てるわね、そのっち」
「そうだね。僕の膝の何が良いのかな?」
「ダメだよサンチョ〜・・・れー君齧っちゃ〜・・・」
「おい蓮。夢で喰われてるぞ」
「凄い夢だね・・・」
そんなのこちゃんの寝言に苦笑を浮かべつつ、僕は窓から見える外の景色を眺めながら、昨日やった合宿前の勉強会を思い出した。それは僕達の勇者としてのお役目、神樹様のこと、バーテックスのこと等の復習だった。尤も、復習なのだから真新しい情報等なかったし、聖剣の事についてもサッパリだったが。
四国をぐるりと囲う高い壁。それは四国を守る神樹様が聖剣様と共に人類を護る為に作り出した結界。その外には死のウイルスが蔓延し、バーテックスはそのウイルスから発生する。バーテックスは結界を越えてやってきて神樹様を目指し、神樹様を殺そうとする。神樹様が殺されると結界は消え、世界は滅ぶ。
勇者の力は、人類がバーテックスに対抗する為に神樹様から分けていただいた力・・・なのだがどうも納得がいかない。
(勇者の力はバーテックスに対抗するための力。なら聖剣は何だ?ウィルスが原因なのに何故剣なんて武器が存在する?)
まだある。ウィルスが原因ならば壁の外に行って根絶しなければならないのでは無いか、そも何故モナドが最後の希望と呼ばれているのか・・・謎は深まっていくばかりだった。
(・・・まぁ今はそこまで深く考えなくても良いかもね。確定しようにも情報が少なすぎるし)
のこちゃんの頭を撫でながら、思考を止める。世界の真実がどんなものであろうと、僕のやるべき事は変わらない。皆を守って、ついでに世界も守る。その為に聖剣を振るうだけだ。
「わっしー・・・それはミノさんだよ〜・・・れー君はこっちだよ〜・・・」
「私は銀に一体何をしてるのかしら・・・」
「僕は一体何なのだろうか・・・食べ物かな?」
「それだったらあたし、須美に食われてるな・・・」
そんなこんながありつつ、しばらくして、僕達を乗せたバスは秋原家へとたどり着いた。
「ようこそいらっしゃいました、勇者様。秋原家現当主、秋原紫と申します」
「今回は申し出を受けてくださり、誠に有難う御座います。よろしくお願いします」
「「「「よ、よろしくお願いします!」」」」
「はい、よろしくお願いします。あまり緊張なさらなくても良いのですよ?それでは、お部屋へとご案内しますね。」
秋原家は白鳥家と同じ様な和風で大きな家だった。
秋原家に着いた僕達がバスを降り門をくぐると、当主様が出迎えてくれた。緊張しつつ部屋へと案内され、部屋に荷物を置き訓練場に移動した。
その後僕たちは運動場へと集められ体力をつけるための基礎訓練と筋トレをガッツリとやらされた。
まぁ体力が無いと戦闘訓練をしても身に付かないと、唯香さんも言っていたけど・・・
それにしても運動量が異常なほどだった。勇者服を着ていても体力の消耗が激しかった。
走り込みの練習の際、須美ちゃんがへたり込んでしまうほどだ。僕も日ごろの農作業と訓練が無ければ、危なかっただろう。
そうして基礎訓練を進めていき、空が真っ赤になった頃。今日最後の訓練が始まった。
「準備はいい? 最後の訓練の目的は連携高めることです。この機械からボールが発射されるから、三ノ輪さんと白鳥君はそのボールを避けつつ、目標地点のバスに辿り着くこと。乃木さんと鷲尾さんは2人をバスまでアシスト。一発でも当たれば最初からやり直し。ジャンプしてバスまでひとっ飛び、なんてことをするのは禁止します。お互いの役割をしっかりとこなしなさい」
「「「「ハイ!」」」」
「そして白鳥君、あなたは今回聖剣様の力の使用を一部禁止するわ」
「一部?」
「ええ、具体的にはあのバリア以外の力を禁止にします。あなたは今回、前衛に徹して」
「わかりました」
「いいですか? このボールがもしバーテックスの攻撃だったなら・・・それを常に意識しなさい。1人で突っ走れば、防御が間に合わなければ、迎撃を失敗すれば・・・そういう危機感を常に持ちなさい」
目の前にズラリと並ぶ発射台を背景に、真剣な表情で脅しの様に言う先生に対し、気が引き締まる。
正直言って体力はもう限界だ。けど、やるしかない。
スタートの合図で四人が走り出す。ボールが飛んでくるがアクエリアスの水球と比べれば遅く、最初のうちは少し体を動かせば回避できた。しかし、近づくにつれ弾幕が濃くなり、蓮が盾アーツを展開する。しかし、アーツの時間限界が超えてしまい、シールドが割れる。二人は武器で弾き始めるが、そうすると走る速度は落ち、防御しきれない箇所も出てくる。
「クッソ、限界か!」
「ミノさん!」
「蓮君!」
蓮がアーツの限界を告げると、銀の前に園子が穂先を傘状に展開した槍を前にして出ることでカバーし、蓮が防ぎきれないボールを須美が後ろから矢で射抜く。
このボールは全てバーテックスの攻撃――――
先ほどの安芸の脅しで蓮たちにもスイッチが入った。体力、精神力も限界の四人だが、自分のミスで仲間が、大切な友達が『死ぬ』。それだけはダメだという一心で動き続けていた。
「わっしー、れー君の右側!」
「了解!」
「ありがとう須美ちゃん!うぉりゃあ!」
「ナイス蓮! これでゴール・・・っ!?」
「っ!銀ちゃんっ!」
蓮の右から迫るボールを須美が射抜き、余裕が出来た蓮が銀の死角から迫るボールを斬り飛ばす。そしてもう少しでゴールであるバスへと届く・・・というところで、銀へとボールの集中砲火。その数10。万全の銀なら、その双斧を瞬時に振り回して迎撃出来る数。
だが、疲れきっている今の銀では5つがやっとだった。そして、迎撃を選んだことで斧を盾にするのは間に合わず、ほかの三人も即座には動けない。蓮は銀の名前を叫びモナドをかざした。
本来ならばなんら意味のない行為だった。盾アーツは展開時間を超えており、展開できたとしてもモナドを中心に張るもの。飛んでいる銀には届かない。しかし―――――
蓮がモナドをかざした瞬間、鍔の穴に『盾』の紋章が浮かび、銀を中心に黄金のバリアが張られた。
「・・・!?銀ちゃんそのまま行って!」
「!わかっ、たぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
銀を中心に張られた盾アーツが残りのボールを弾き、窮地を乗りきった銀は蓮に言われるままにゴールであるバスに突っ込み――――
何故か、思いっきり双斧でバスを切りつけた。
「「・・・あ」」
須美と園子は呆けた顔で言葉を漏らす。この訓練はたどり着くのが目的であって、『叩き壊す』のが目的ではないためだ。2人が恐る恐る安芸の顔を除くと―――――鬼がそこにいた。
「やっ、たー・・・」
「銀ちゃーん、大丈夫ー?」
銀が大破したバスの横に寝ていると、蓮が迎えに来た。
「蓮、うん、大丈夫」
「良かった。それにしても・・・・」
蓮が大破したバスをもう一度見る。
「派手に壊したねぇ・・・」
「・・・あれっ壊すんじゃなかったっけ?」
「たどり着くだけで良かったんだよ。それで終わりだった」
「・・・・・蓮、安芸先生どんな顔してる?アタシ、怖くて目開けらんない・・・」
「どらどら・・・あ~、鬼だね、あれは」
「鬼かぁ、そっかぁ・・・・・」
「・・・僕も一緒に怒られてあげるから、今は帰ろ?ねっ?」
「うぅ、ありがとう蓮・・・」
そうして銀は蓮と一緒に鬼の元へ帰っていくのだった・・・・・
「・・・ふぃ~~」
老人のような声を出しながら、訓練所にある露天風呂に浸かる。とてもいい湯加減で疲れた体に効く。
「にしても・・・さっきののこちゃんには驚かされたなぁ・・・」
時は4人が風呂に入る前へと遡る―――――
蓮たちは疲れた体を癒すために温泉へ向かった。
合宿最初の訓練が終了し、鬼に叱られた蓮たちは疲労困憊だった。
タオルと着替えを持って温泉へ向かう。
『男』、『女』と暖簾がかけられた場所の前に着くと、蓮は園子たちを見る。
『じゃあ、また後でね~』
そう言って暖簾を潜ろうとした蓮を、園子は頬を膨らませ不満を表した後、爆弾を投下した。
『え~、れー君も一緒に入ろうよ~』
『ォアァァ!?』
『ちょっ、園子!?何言ってるかわかってるのか!?』
『ふぇ?』
投下された爆弾に須美が奇声を発し、銀が問い詰める。しかし当の園子は何故銀達が顔を赤くして慌てているのか分からないのか、コテンと不思議そうに頭を傾げた。
『あー・・・のこちゃん?お誘いは嬉しいけれど・・・他の人が来るかも知れないから、ね?』
(一緒に入るのはセーフなのか蓮!?)
その後、園子は銀と須美の二人に引きずられていった
「静かだなぁ・・・・・」
さっきまでの出来事を思い出しながら、空を見る。男風呂は貸切状態。皆はまだ来てないのだろうか、隣からは何も聞こえない。
「・・・歌おうかな、久々に」
そんな考えが頭をよぎる。犬吠埼家では良く姉さんや樹と歌っていたけれど、最近はそんな時間がなかった。
「まだ誰もいないし・・・歌っちゃうか」
そうして僕は脳内でCDを掛ける。曲は・・・そうだな。前に姉さんと一緒に見たロボットアニメの曲にしようか。
「いやー疲れたなぁ・・・いっつー・・・」
「本当にね・・・」
「ミノさん大丈夫~?」
「全然。超痛い。見ろよコレ」
「うわぁ、おっきいたんこぶ~・・・」
3人娘は訓練所にある室内風呂でシャワーを浴びていた。先の訓練を初回でクリアするという安芸にとって驚きと喜びの結果をもたらした4人だったが、壊す必要のないバスを銀が壊してしまった為に、鬼と化した安芸が怒りまくり、直接的な原因である銀に至っては拳骨を喰らい大きなタンコブを作られていた。
「何もあそこまで怒らなくてもなぁ・・・おっ!須美!園子!露天風呂だって!行こうぜ!」
「わ~い、行こう行こう~」
「あっ、ちょっと二人とも!」
気持ちを切り替え、露天風呂へと走る銀と園子。その後を須美が追いかける。
「うひゃ~これが露天風呂か~」
「大きいね~」
「ほんとね・・・あれ?何か聞こえる・・・?」
~♬ ~♪
露天風呂に出た三人がその広さに感動していると、隣から聞こえる歌声に須美が気付く。
「およ?、蓮の声じゃん。」
「れー君が歌ってる~!上手~!」
「私たちが来たのも気づいてないみたいね・・・」
邪魔するのも無粋。という事で、蓮の歌を皆で傾聴する時間となった。蓮は須美たちが露天に来たことに、全く気づいておらず、須美達が歓声を送るとかなり驚き、顔を真っ赤にさせながら露天風呂に沈んだ。
「やっぱりさ、僕違う部屋行こうか?」
風呂に入り、夕食を終えて後は寝るだけとなった時間に、蓮は部屋の窓際に設置されている椅子に座りながら提案し、部屋の中を見る。そこには布団が4人分敷いてある・・・つまり、そういう事。『ここで一緒に寝ろ』という事だ。いくら仲が良いと言っても家族と一緒に寝るのとはわけが違う。蓮がこう言うのも無理はなかった。
「え~? れー君も一緒がいいよ~」
「蓮なら大丈夫っしょ、変なことしなさそうだし」
「そうね。他の人ならともかく・・・蓮君の普段の行いなら、変なことはしないと信じられるもの」
「ん~まぁ皆がそれでいいなら、良いけども」
信用されていることに嬉しくなりながら、椅子から立ち、1つの布団の上に胡座をかいて座る。布団は頭同士を向かい合わせにしたものを2セット。蓮が座ると素早くその隣を確保する園子が居た。蓮の向かいには須美が、斜め向かいには銀が座り込む。
ふと、銀が蓮が着てるTシャツに言及した。
「なぁ蓮・・・そのTシャツさ・・・」
「あぁ、これね・・・」
銀が蓮に来ているTシャツについて聞く。ぱっと見、白い普通のTシャツなのだが・・・
問題はTシャツの胸から下にかけて大きな字で、
農
業
王
とプリントされている事であった。
「一応聞くけど・・・蓮のセンス?」
「違う。これしか家になかったんだ」
「なんで?」
「まぁ、色々あってさ・・・」
銀の問いに蓮が遠い目をしながら答える。今、園子が着ているニワトリの見た目の着ぐるみパジャマを見た時も驚いたが、蓮はTシャツ一枚でその衝撃をはるかに超えていった。
実はこれには唯香が関係しており、合宿に行く前日、唯香が上機嫌で庭の野菜にホースで水やりをしているときだった。
歌いながら水やりをしていた唯香はその時のテンションに身を任せ、ホースを《《振り回して》》しまった。
結果、ホースの水は蓮の荷物に直撃。他の服も無かったため、仕方なく蓮はこのTシャツを持って来たというわけだ。因みに唯香は土下座した。
その時のことを思い出し頭が痛くなる蓮。違う話題にしようと銀が再び口を開いた。
「あー・・・そういや蓮の家って農家なんだっけ?」
「あぁ、そうだよ」
「何育ててるの~?」
「そうだねぇ・・・学校の近くにある商店街の八百屋、あるじゃない」
「うん」
「あそこに売ってるものは全部育ててるかなぁ・・・」
「「全部!?」」
「すご~い!」
蓮の思いがけない答えに、驚く三人。それもそのはず、その八百屋の品揃えも決して悪くなく、それどころかスーパーにも負けず劣らずだったからだ。
なぜそんな凄い家にあるTシャツがそんななのか、と思わずにはいられない銀と須美であった。
「さて、いい時間だしそろそろ寝ようか。明日は5時起きだから、早く寝ないと辛いよ?」
「そうよ銀。ほら、早く目を閉じて寝なさい。電気消すわよ」
「いやいや蓮さんに須美さんや、合宿初日に直ぐに寝られると思っているのかね? ここは1つ、定番の恋バナでもしようじゃないか」
「それって男子混ざっていいものなの?」
「お~恋バナ! ミノさんは誰か好きな人いるの?」
話をいいところで終わらせ、布団に入る蓮。須美もそれに続き、電気を消して同じように布団に入る・・・が、銀は布団に入るものの眠る気配はなく、園子も同じく布団に入り、銀の話に乗る。そんな2人に蓮は少し笑い、須美は呆れたように溜め息を吐く。
園子に聞かれた銀は少しの間うーんと唸りつつ考える。好きな人、というか好きな男子。行動や考えが少し男子寄りの銀にはあまり意識したことが無い話題だった。そもそも、進学してからよく付き合う男なぞ家族を除けば蓮くらい。では蓮のことを好きか?と問われればもちろんYESだ。友人として、が前提だが。
「居ないな!」
銀はキメ顔でそう言った。知ってたと須美はまた呆れ、蓮もまぁそうだろうなと頷いた。
「須美はどうよ?」
「私も居ない・・・わね。うん、居ないわ」
一瞬自分を守る蓮の姿が浮かんだものの、須美は首を振ってそう答える。そもそも、自分はまだ恋というものがよくわかっていない、今は大事なお役目の最中なのだ、そんな浮わついたことは二の次三の次にするべきだろう。
真面目な須美はそう考えつつも、どうにも蓮の顔が頭から離れない。困っているときはすぐに助けてくれる彼の笑顔。けれどお役目となると笑顔が消え、真剣な表情になり、私たちと一緒に戦ってくれる彼の姿。
顔が段々と熱くなってきていることを自覚しつつ、銀から背を向ける。
「むぅ・・・園子は?」
「私はね~、ちゃんと居るよ~」
「えっ? マジ?」
「そのっち本当? 誰? どこの人?」
「れー君と~、わっしーと~、ミノさんだよ~♪」
「「・・・そうだと思った(わ)」」
ニコニコしながら答える園子の答えにツッコミを入れる銀と須美。予想できた答えだった。
「次!蓮!」
「僕かぁ・・・強いて言うなら僕ものこちゃんと一緒かなぁ・・・」
「蓮もかい!」
「おぉ~、てことは私とれー君。両想いなんよ~」
「ちょっとそのっち!?それなら私だって・・・」
ツッコむ銀と園子を問い詰めようとする須美、すると
「いい加減寝なさい!明日起きられないわよ!」
鬼が部屋に突入してきた。
恋バナが終わって数十分程経っただろうか。謎の寝苦しさから目が覚める。窓の隙間から入る月光で部屋の内装を確認できるぐらいになっている。
(何か熱いな・・・)
左を向くと、のこちゃんが腕に抱きついて居た。
(通りで・・・)
「・・・すぅ」
右からも銀ちゃんの寝息が聞こえる。どうやらのこちゃんと一緒で布団に潜り込んできたらしい。
(・・・・・異性の布団に潜り込んでくるのはいかがなものかと思うよ僕は)
そんな事を思いながら、僕は起きてしまった頭で昼の訓練を思い出す。
あの時銀ちゃんに張られたもの・・・あれは間違いなく盾アーツだった。あれから推察できることはただ一つ。
(思えば・・・皆にも出来るのか・・・?)
離れた味方にアーツを付与する・・・それが出来ればかなり心強い。
問題は耐久性と持続性だが、それはこの合宿で確認しよう。
(その為にも・・・早く寝ないと、ね。)
こうして僕は両手に花状態のまま、再度眠りについた。
翌日、蓮に抱き着きながら眠る二人の姿を見た須美が彼女達に朝からお説教をする姿が見られるのだった。
後書き
合宿回でした。
とりあえずここまで。これから頑張っていくので応援よろしくお願いします!
誤字、脱字等ございましたら指摘お願いします。
感想、質問お待ちしております。
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