少年は勇者達の未来の為に。
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
鷲尾須美は勇者である 再臨の章
第五話
前書き
後二話です。
「・・・ふぁ〜、ねむ・・・」
祝勝会から一週間ほど経った日の朝。
蓮はいつも通り畑に行く準備をしていた。だが・・・
「・・・あっ、そうだ今日から合同訓練か・・・」
三日前あたりに唯香からそう伝えられた事を思い出した。
唯香曰く『畑の事はノープロブレムよ!蓮君はトレーニングに集中してね!』との事。
(合同訓練・・・一体どんな感じなんだろうな・・・)
そんな事を思いながら、蓮は農作業の服から寝巻きに着替え、二度寝した。
そして、その日の放課後、蓮達4人の合同訓練が始まった。場所は大赦が用意した木造の道場のような所で、放課後と休日の時間を利用してそれぞれの武器を使った訓練を行う。須美は弓の命中精度を上げる為にひたすら止まって動いて矢を放ち、園子も槍を振るい、銀は蓮と組手をしたり双斧を模した大きな2本の棒を振り回し、蓮は木刀を聖剣代わりに振っていた。そんな基礎的な訓練が終われば、4人で体操着に着替えてアスレチックを利用した体幹トレーニングが始まる。
蓮は常日頃から唯香の鞭を躱したりする訓練を受けているため、少しすると身体が慣れ始めたが、他の三人はそう上手くいかなかったらしく、蓮が三人のフォローに回った。例えば・・・
「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!誰か止めてくれぇぇぇぇ!」
「あー!ミノさんが転げ落ちてく〜!」
「ぎーん!」
「銀ちゃん今行くよ〜!」
綱を用いて坂を登る訓練では、銀がバランスを崩し、転げ落ちてしまったので、それを止めに行ったり。
「なんよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?!?」
「そのこぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「そのっちが釣り上げられたぁ!?」
「トラップ掛かっちゃったか。待ってて、今助けるよ〜」
林でトラップ地帯を走り抜ける訓練では、園子が逆さ吊りトラップに掛かってしまい、縄を切りに行ったり。
「やった!登り切った!」
「お〜、わっしーすご〜い!」
「後は帰ってくるだけだぞ、須美ー!」
「・・・・えっ」
「あっ、下見たらダメだよ須美ちゃん!」
「・・・ヒエッ」
「・・・あれ、動かなくなっちゃったぞ?」
「あ〜・・・今迎えに行くよ、須美ちゃん」
垂直に立つ梯子のような形をした肋木というアスレチックに登って、降りるという訓練中。須美が一番上に登ったまでは良かったのだが、帰る際ついつい下を見てしまい、恐怖で降りて来られなくなってしまった為、それを救出しに行ったり。
初日は例を上げていったらキリがない程だったが、日を重ねていくごとに改善されていった。
そしてそんな日常が繰り返していた時、こんな事があった。それは相変わらず銀が遅刻してきた日の訓練が終わって帰る時間となった時、銀が一足早く帰宅して蓮達3人は道場の縁側に腰掛けて休憩している時のこと。
「銀ってよく遅刻するし、訓練が終わると直ぐに帰るわよね」
「ん~そうだね~。何か理由があるのかも~・・・れー君何か知ってる~?」
「いや、僕もわからないんだよねぇ・・・学校に行く道は一緒なんだけど・・・」
白鳥家は銀の家のさらに先にある。その為、蓮と銀は通学路が一緒なのだが、登校する時間帯が違うのか、一緒に通学なんてことはまだ無かった。
「理由があるにしてもこうも遅刻が多いのは気になるわ・・・そそくさと帰るのもそうだし。何かあるのなら、私達でどうにか出来ないかしら・・・という訳で明日の朝から銀を監視してみようかと思うのだけれど、どう?」
「もしもし、ポリスメン?」
「待って待って待って」
おもむろに懐からケータイを取り出し通報する構えを見せる。すると須美が飛び込んで阻止して来た。
「離して下さい、僕の友達に犯罪者はいません」
「違うのよ蓮君。違うのよ」
「・・・一応聞くけど、何が違うの?」
「伝え方が悪かったわ・・・そう、見守るのよ。銀が何か危ない目に遭ってないか見守るの」
「やっぱりストーカーじゃないか!」
「違うのよ!ほら、そのっちも言って?違うって」
「( ˘ω˘ )スヤァ・・・」
「寝てる!?いつの間に!?」
そんな一悶着があった後、時間になったので蓮達は解散になった。
流石にストーカーなんてしない・・・しないよね? と疑わしく思う蓮であった。
「まさか本当にするとは・・・」
「いや〜、まさか朝からずっと見られてるとは思わなくてさ・・・」
「いつの間にか行くことになってたんだ~」
「蓮君はどうして来なかったの?」
「いやぁ・・・本気でやるなんて思ってなかったし・・・よしんば知ってたとしてもストーカー紛いの事はやりたく無いし・・・それで?戦果あったの?」
「ストーカーじゃ無いわ!観察よ!」
「ストーカーは皆そう言うんだよ。須美ちゃん・・・」
須美のストーカー宣言から2日。4人で道場へと向かう途中で蓮は3人から話を聞いていた。
結局銀が遅刻する理由はどうだったのかと聞くと・・・銀の家には生まれたばかりの弟が居たらしく、その弟の世話や家の手伝いもやっていたそうな。登校やおつかいとなれば道中でトラブルに巻き込まれていたという。所謂トラブル体質という奴なのだろう。で、そのトラブルを見て見ぬふりは出来ずに解決する為に奮闘し、結果として遅刻することが多い、との事。早めに帰るのも弟が心配だからだろう。因みに、昨日は遅刻はせずに3人仲良く登校してきていた。
(まだ別に姉弟いたんだ・・・しかも赤ん坊、か)
彼の中に皆を守る理由が、また一つ増えた。家族と引き剥がされる辛さは、自分も良く知っている。ましてそれが死に別れなんてなると・・・
(強く、ならないと)
勿論、自分だけじゃ無い。皆との連携練度をもっと高めなければーーーー守れるものも守れなくなってしまう。
「まぁ結論は、銀ちゃんが良い子でした。って事だね。いい子いい子」
「何だよ蓮、いきなり頭なんか・・・あっこれいいかも・・・」
「私もミノさんの頭撫でる〜!」
「園子も!?」
「あっ、じゃあ私も・・・」
「須美まで・・・わかった!お気に召すまでこの銀様の頭を撫でるが良い!」
「「「ではお言葉に甘えて」」」
「ふわぁ〜・・・」
そんな風に決意を固めつつ蓮は銀の頭を撫でていると、他の二人もそれに乗じるのであった。
時間が止まったのはそうして銀の頭を撫でていた時だった。2回目だったこともあり、4人は敵が来たのだと察し、直ぐ様スマホを取り出してアプリをタップ。勇者として変身し、大急ぎで大橋へと向かう。そう時間も掛からずにたどり着いた大橋に居たのは、やはりバーテックス。後にライブラ・バーテックスと呼称されることになるそれは、4人から見て左に巨大な分銅、右に小型の3つの分銅をぶら下げた、その名の通り天秤のような姿をしていた。
「あの姿は……天秤?」
「空に浮いてる~」
「よし! まずはあたしが」
「ストップだよ銀ちゃん。まずは実験からさ」
「あっ、そうか。モナドの事だよな」
「うん、まだ距離があるうちに試しとかないとね」
そう銀に伝え、蓮は強く念じる。
(遠くの敵に攻撃出来るような・・・そんな感じに・・・)
すると、モナドが光を放った。
「・・・ん?」
蓮が目を開けると、モナドは姿を変え、赤く、緑の線が入った、いわゆるボウガンの形に変化していた。グリップの部分に、小さい穴が開いており、そこに『射』の紋章が浮かんでいた。
「おぉ~、変わったね~」
「そうだねぇ・・・じゃあとりあえず」
園子の言葉を聞きながら、蓮は片手でボウガンを構え、バーテックスに狙いを定める。
「須美ちゃん、僕に合わせられる?一緒に仕掛けよう」
「わかったわ蓮君、これで終わって欲しいんだけどっ!」
蓮がボウガンのトリガーを引くのと同時に、須美が矢を放つ。
蓮のボウガンに矢は装填されて無かったが、トリガーを引いた瞬間、白い、エネルギーのような矢が射出された。
二人の矢は巨大なバーテックス目掛けて突き進み・・・途中で巨大な分銅に吸い寄せられ、深く突き刺さった。
それを見た蓮はボウガンのトリガーを5回引いた。すると、5発の矢が飛んでいき・・・またも分銅に吸い寄せられた。
(・・・連射は可能、か)
「須美ちゃん、どう思う?」
「遠距離からの攻撃はあの巨大な分銅に吸収されるみたいね・・・矢は刺さってるから、何度も射れば壊せるかもしれないわ」
「なら相当な数撃たなきゃだね・・・コレ、あんまり威力無いみたい・・・」
そう言われ、三人はもう一度分銅を見る。須美の矢は深々と突き刺さっていたのだが、蓮の矢は表面に軽く衝撃の跡をつけただけで、刺さってはおらず威力の違いを物語っていた。
「れー君のは連射ができるけど~その分威力が低いのかな~?」
「そうみたい・・・牽制ぐらいにしか使えない、か」
「でもさ、コレって滅茶苦茶凄いんじゃないか?剣なのに遠くからも攻撃できるんだろ?」
「まぁ・・・そうなんだけどね」
期待していたものと違いしょげてしまう蓮。それを見たのか、フォローしてくれる銀。
確かに彼女の言う通りかなり凄い物ではあった。でも、威力がなぁ……と思わざるを得ない蓮であった。
「まぁこれについては後で考えるとして・・・取り敢えずは撃ちまくる?」
「そうだね~、このままなら、れー君とわっしーに撃ってもらった方が安全かな~?」
「・・・あれっ、コレってあたしの出番無し?」
「まぁ、安全なことに越したことはないから・・・今は任せてよ。ねっ?」
「・・・じゃあしょうがないか」
威力はともかく結果としては上々。むしろ反撃してこない現状からすれば、前回のバーテックスよりも楽に終わるとも思ってしまう。だが、その程度で終わるはずもなく。バーテックスが、突如その体を独楽のように高速で回転させ、4人目掛けて突撃してきた。
須美と蓮がそれぞれ矢を放って迎撃しようとするが、高速回転するバーテックスに弾かれる。2人は同時に舌を打ち、蓮と園子、須美と銀にわかれて左右に跳び、突撃を回避する。
「流石にそう甘くはないか・・・」
「あれじゃ近付けないね~」
「くっそー、近付けたらぶった切ってやるのに!」
「っ! また来るわ!」
バーテックスが再度、その巨体を回しながらぶつけに来る。蓮たち4人は必死に避け続ける。
大した速度ではないため、避けること自体はできるものの、銀と園子は近づけず、須美と蓮の攻撃は致命打にはならず、歯噛みする状況だった。
ここで倒さなくては、彼ら勇者が無事でも樹海や神樹様が傷つけられたら意味が無いからである。
「さてさて・・・どーしたものか。のこちゃん、案、あるかな」
「えっ? うーん・・・うーん・・・」
「くっ・・・回転さえ止まれば・・・」
「あーもう! あんな竜巻みたいな奴どうすればいいんだよー!!」
「っ! ミノさん、それだぁ!」
「はい?」
「ぴっかーんと閃いた!」
「じゃあ、頼むよ、三人共」
「おう!」
「1!」
「2の」
「「「「さぁーんっ!」」」」
腰を落として腕を下ろした姿勢で手を組み合わせた三人に向かって蓮が走り、お互いに声を出しあってタイミングを計り、蓮の右足が三人の手に乗った瞬間に思いっきり腕を上げて蓮を上空へと向かって投げ、タイミング良く蓮も飛び上がる。お互いにお互いを信じ、事前に連携訓練をしていたからこそできた芸当である。
(・・・見えた!)
飛びあがった蓮は上空から回転するバーテックスの中心部に目を付けた。すると蓮は体の向きを変え、一直線にバーテックスの頭上へ落ちてゆく。
(のこちゃんの言う通りだ・・・!)
『それだよ!ミノさん!竜巻なら真ん中は風が無いんじゃないかな!?』
『じゃあ奴の頭上から攻撃するのか?でもどうやって・・・』
『みんなで一緒に持ち上げるんよ!ぐわーって!』
園子が手を組み、例を見せる。
『でもそのっち、良い作戦だけど誰が行くの・・・?』
『やっぱりここはアタシが』
『いや、僕が行くよ』
銀を遮り、蓮が声を上げる。
『なぁっ!?どうしてだよ蓮!』
『落ち着いて銀ちゃん、ちゃんと理由はあるよ』
蓮が言った理由はこんなものだった。
奴の中心がどうなってるかわからない事。もし無風状態だったとしても、バーテックスが奥の手を用意していないとは限らない。その為、モナドで盾アーツを張り、防御が可能な自分が適任だろう。という事だった。
自身の頭上から落下してくる蓮に気づいたのか、ライブラは蓮に向けて風の刃を放つ。
「そうだよねぇ!やっぱあるよね、奥の手ぇ!」
そう叫ぶと、蓮は盾アーツを自身の周囲に展開させ、風の刃を防ぐ。
防ぎ切った蓮は盾を解除し、もう一度強く念じた。
(コイツを・・・敵を、ぶった切れるような、力を・・・!)
すると鍔の部分の穴に『斬』と表示され、モナドの先端部分が開き、青い刃が形成された。
「これなら・・・どうだぁ!!」
蓮はそれを、力いっぱいバーテックスに向けて振りぬいた。
バーテックスには以前と比較にならないほどの傷をつけることが出来た。しかし
「・・・まだ、足りないか!」
蓮の斬撃により、全体像が見えるくらいには回転は弱まっている。しかし、それでも遠心力で分銅が浮き上がるくらいには速度が出ていた。本来の作戦ではこの一撃で停止させ、総攻撃のはずだったので、それを見た蓮の口から悔しげな声が漏れる。
「大丈夫よ蓮君! 私達を・・・信じて!」
そんな須美の声が聞こえた瞬間、蓮は見た。須美の前に現れた菊の紋章、それを彼女の放った矢が通った瞬間矢が巨大化し、分銅に当たって貫いた瞬間を。
「ミノさん行くよ~」
「おう!やるぞ園子!」
「「はあぁぁぁぁぁぁ!」」
須美の矢で完全に回転が止まり、そこに畳み掛けるように槍と斧を振り、バーテックスの両肩らしき部分を貫き、切り裂き、もぎ取った園子と銀の姿を。
「蓮君!」
「蓮!」
「れー君!」
「・・・!りょぉぉぉぉかいっ!」
蓮は笑顔を浮かべ、再度バーテックスへと接近する。
もう一度刃を形成させ、バーテックスが出した風の勢いを利用し、回転しながら切り刻む。
桜の花吹雪が巻き起こったのは、余すこと無くバーテックスを切り刻んだ蓮が着地し、モナドを納刀するのと同時だった。
「・・・ふぃ〜」
モナドを納刀した僕は、その場に座り込んでしまった。疲労もあるが、一番は緊張が解けた為だった。
「今回は、結構思い通りになった。気がするな・・・」
モナドの新しい力のお試し、四人での連携、かなり上手くいった。まだ二回目とは思えないくらいだ。
「お~い!れ~ん!」
遠くから銀ちゃんの声が聞こえる。皆で迎えに来てくれたらしい。
「お~い、ここ、ここ~」
僕も3人に向かって手を振る。すると、須美ちゃんが猛スピードで僕に突っ込んできた。
「げふぅ!?」
「蓮君怪我は!?大丈夫!?」
(前にもこんなことあったなぁ~)
「大丈夫だよ、須美ちゃん。怪我もほとんど無いから」
今回傷ついたのは僕だけであり、その傷も勇者の力によりもうふさがっていた。
「良かった・・・!本当に・・・!」
須美は泣いていた。彼女が泣いた理由は、敵に対する恐怖ではない。蓮が『いなくなる』かもしれない。それに対する恐怖と、それがなくなったことに対する安堵の涙だった。
「おぉ、よしよし・・・もう終わったからね」
泣きじゃくる須美ちゃんを撫でる。
・・・にしても何か、忘れてるような?
「おやおや~?須美~、いの一番に駆けだしたと思ったら~?」
「わっしー一人だけずる~い!私もれー君になでなでして貰う~!」
「ヒャッ!?!?!?」
「そういやまだ樹海の中だったねぇ」
後ろから声をかけられて驚く須美ちゃん。銀ちゃんがからかい、のこちゃんが突っ込んでくる。
「れー君私もなでなでして欲しいんよ~」
「あ!須美も園子も待て!アタシもして貰う!」
「あば、あばばばば」
「須美ちゃんが壊れた・・・恥ずかしさで」
まぁ、そんなこんながあって僕は樹海化が終わるまで皆の頭を撫で続けるのであった・・・
後書き
今回は合同訓練or新アーツお披露目回でした。
今回出てきた『射』は名前をショットアーツといいます。
ハイ、オリジナルアーツです。こんな感じで強くなり過ぎない程度に戦闘に取り入れていこうと考えています。
因みに『斬』はスラッシュアーツです。
後、ショットアーツの形について書き忘れていました。
形としては、我らがワザリングハイツ伊予島のボウガンです。モロあの形してます。
誤字、脱字等ございましたら指摘お願いします。
感想、質問お待ちしております。
ページ上へ戻る