江戸時代の珍味
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第二章
「どちらもな」
「違うのですか」
「どちらもですか」
「そうじゃ。。違っておるな」
こう言うのだった。
「どうもな。しかしチイズはじゃ」
「如何だったでしょうか」
「味は」
「よかった。だがこれまでのところチイズの味を知っておるのは」
それだけではなかった。清の麺も肉もだった。
「今のところわしだけじゃな」
「ですな。殿だけです」
「召し上がられたのは」
「わしだけ美味いものを楽しむのはよくないのう」
腕を組み親権に考える顔になっての言葉だった。
「それはな」
「といいますと」
「我等にもですか」
「そうじゃ。それだけではないぞ」
光圀は上記変な顔で笑いながら言っていく。
「民達にもじゃ」
「振舞われますか」
「清の麺なりチイズを」
「そして肉も」
「うむ。しかしじゃ」
光圀はここで考える顔になって。腕を組んでの言葉だ。
「城に呼んで振舞っても食せる人数が限られておるのう」
「ですな。どうも」
「それは」
「しかもそれだと特別な者しか入られぬ」
城、この水戸城に入られる者は限られている。武士の中でもだ。光圀がよしと言ってもしきたりがありそうおいそれとは誰もが入られるというものではない。
だからだ。光圀は言うのだった。
「それでは意味がないわ」
「ではどうされますか」
「ここは」
「城下町で開くか」
城に入られぬのなら町だった。
「そこで店、無論金は取らぬが」
「そこで、ですか」
「麺なり肉を出してですか」
「民にも食してもらう」
「そうしてもらいますか」
「こうすれば誰でも食することができよう」
こう考えてのことだった。
「これでどうじゃ」
「確かに。それでは誰でも食することができますな」
「麺でも肉でも」
「そしてあのチイズもまた」
「どの民も食することができますな」
「わし一人が食して満足しても何にもならぬ」
とにかくこのことを念頭に置いている光圀だった。
「何の意味もないわ」
「それで皆にも美味を楽しんでもらうからこそ」
「それで、ですか」
「そうじゃ。そうして皆に振舞おう」
光圀は笑顔に戻って話す。
「それではな」
「はい、ではその様に」
「町に店を開きましょう」
「そして民達にも食してもらいましょう」
「民達にも」
こうして水戸の城下町のある場所に店が開かれた。そこであらゆるものが出された。水戸藩の民達はその店に入りまずはこう言った。
「何と、殿様がお店を開いたのか」
「それで我等にただで食せよと」
「この変わったものをか」
「食ってよいのか」
「うむ、よいぞ」
店の中にいる光圀直々に言われて仕切りを任されている藩士がそうだと応える。
「銭は取らぬ。だからじゃ」
「それを食してよいのですか」
「その四角くて白いものを」
「それを」
「そうじゃ。これはチイズというものじゃ」
藩士はそのチイズを右手に取って店の前にいる民達に見せながら話す。
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