ソードアート・オンラインーツインズー
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ツインズ×戦士達
SAO番外-回避VS剛力
「んじゃ、キリカがどれくらい強いか、お手並み拝見といきますか」
「やるからには勝ちをとるからね、従兄」
「ハッ、上等だ」
私からのデュエルの申し出を引き受け、デュエルをすることになった。従兄も似たようなこと考えていたみたいで理由も聞かずに返事をくれた。
ログハウスを出て人気がなくて平原な場所へと移動して、従兄と十分な距離を取ってからデュエルメッセージを送った。
ちなみにドウセツ達は邪魔にならないような位置で見物するそうだ。
「デュエルのオプションはどうする?」
「初撃決着モードでいいんじゃない?」
「了解っと」
従兄はオプションを選択して受諾し、六十秒のカウントダウンが開始された。
それじゃあ、白木で作られた細長い棍棒『白竜』とドウセツがくれた白刀『雪道』を組み合わせ、薙刀『白雪』を構える。
「お、キリカも薙刀か。てっきりキリトと似たような感じだと思っていたぜ」
そう言って従兄は、腰に釣っていた曲刀を取り出してブンブンと回転させるように振り回す。
「えっ?」
すると、徐々に長くなっていき、風を切るような音がしてくると回転を止め地面に叩きつけた後に構え始めた。
「どんなカラクリよ……」
思わず口から漏れて、呆然としてしまうくらいに、従兄の武器はおかしかった。
最終的に、従兄の身長を超えた長さ、黄金の龍が彫刻されていて如何にも重そうな薙刀。よくに言う、青龍偃月刀の形状をしていた。
つ私と同じ薙刀か……。お互いが兄に似ているんじゃなくて、私と従兄が似ているのだな……。と言っても、共通点は薙刀しかなさそうだけど。
そうこう思っているうちに、カウントダウンは十秒を切り、薙刀を構えた瞬間に『DUEL』の紫色に光る文字が弾けた。
先手は従兄の方からであった。
体勢を低くして、こちらへと迫って来る。移動するよりかは前へ低く飛んでいるように見えた。
まずは避けずに初撃の具合でも知ったほうがいいわね。
「破ァァッ!!」
私は避けずに従兄が振りかぶる薙刀を受け止めた。
「!?」
受け止めたら、そのまま流し返して硬直が短い薙刀スキルを使用しようとイメージしていた、が。
そのイメージを従兄はパワーで打ち消して来たのだ。
その一撃は思わず怯んでしまいそうなくらいの馬鹿力。おそらくスキルを使わなくても一撃で仕留める力を持っているだろう。いや、確実に持っている。
「くっ」
力いっぱいに薙刀で支えながら、従兄に近づいて攻撃した瞬間に絶対回避を使って、一撃で仕留める。
「羅ァッ!」
「おわっ!?」
近寄って来た丁度に、エフェクトを纏いながら左手足で薙ぎ払うように蹴り技を使用してきた。
それに対しては絶対回避を使わずに、跳び跳ねるように三歩へと後ろに下がった。
足技スキルか……確か、硬直が短くて絶対回避には相性悪い。使って避けても追撃を食らいそうだ。逆にこちらに隙が出来て負ける。
この数分間でわかってしまったよ。従兄、リョウコウと言うプレイヤーは間違いなく、強敵だ。それと同時に、厄介すぎる相手だと、嫌でも認識させられる。
……長期戦は、あんまり得意じゃないなぁ。でも、イリ―ナさんは長期戦が得意とか言っていたけど、そこまで持ち越せるかが心配だ。
出来れば、早々に短期決戦で決めたいところだね。
「じゃあ、行きますか……」
小さく息を吸って、吐いて深呼吸してから一気に従兄に近寄って薙刀を振りかぶった。
「ほう」
従兄を見れば笑みを浮かべていた。余裕な表情をとりながらも、しゃがんで薙刀の振りを避けつつ攻撃の態勢を整えていた。
なんの、これしき、この攻撃ならかわせる。
振り上げてきた薙刀の対処は体を反らして回避しつつ、追撃させないように遠心力をつけて体を回して薙刀でカウンターを狙う。
結果的に従兄を追撃として足技スキルを使用してきたが、振り回した薙刀が防いでくれて追撃を逃れた。
「やるじゃねぇか」
「そりゃどうも」
褒められたところで勝たないと意味はない。いや、この勝負に勝ち負けは意味ないと思うけどプレイヤーとしては勝ちたい気持はある。
一度距離をとって、左足を力いっぱい溜めてから地面を蹴り出して従兄に突進するように近寄ってスキルを発動。
薙刀スキル『神風』
薙刀を片手で回転させたあと、両手にして更に竜巻を描くように回転させる。そして純白の閃光を引きながら振り上げる重撃。
これはどんな敵でもぶっ飛ばせるけど、隙があるし、使用後も硬直になる。
当たらずに強ダメージを受ければ私の負けだ。
そんなことわかっている。
だからこそ私は使用する。
私の勝負所は従兄が避けて、硬直状態になった時に絶対回避を使用して、逆に隙を作ってとどめを刺すことだ。
硬直が短い足技スキルを使用しても、絶対に回避不可能が出来るとしたあり得ない事態に一瞬だけでも驚愕するはずだ。
この勝負はもらった!
……そう思って、自信満々に言いたいけど……。
勝利の期待とは裏腹に、不安がよぎってしまうのは何故だ?
どんな選手だって、いきなり予想外なことになったら一瞬だけでも戸惑ってしまうと思う。それがどんなに冷静な人でも、完璧な人でも。
その不安は刹那へとやって来た。
従兄は避ける動作をせずに、正面から突撃して来るのではないか。
「割れろぉっ!」
声を上げ、少々大振り目に薙刀を振り上げて、赤いエフェクトを纏いながら振り下ろした。
何を企んでいるのかわからないし、考えた通りにはいかないが、『神風』なら打ち負けない。
「上等だ!」
振り下ろした薙刀と振り上げた薙刀が、磁石のように同時にぶつかった。
「うおっ」
「おわっ!?」
爆発音に似た衝撃音が響き鳴り、お互いが撃ち合い弾かれて、その衝撃で二人共自然に地面を滑らせながら後退した。
違う点で言えば、従兄は小さく後退。私は大きく後退させられてよろけそうになった。
私が思うに、『神風』は瓦割りと同じ原理とは言い難いと思うけど、ブレない強くない攻撃を加えれば爆発的な力を生み出す、一点に集中して爆発的なパワーを生み出すのが『神風』だと思う。
どんな相手でも、遠心力を力にしていれば、ぶっ飛ばせられたはずなのに、従兄の振り下ろした薙刀はバランスを粉々に破壊するパワーと風を圧力のように抑える重さを持っていた。
絶対回避は……攻撃としてではなくて、防御の方にまわすか……。
追撃を加えないように、前方にいる従兄へと走り出す。
瞬時に繰り出すことが出来て、なおかつ隙が少ない重撃『刹牙』がギリギリ当たるところを予想して使用した。
しかし従兄は『刹牙』よりも先に一歩後ろに下がってギリギリに避ける。
「りゃああ!!」
避けられたらまた前方へと移動する。だけど今度は普通に近寄るだけじゃなくて体を回転しながら攻撃する、薙刀スキル『風車』
回転部分も移動するため、上手く行けば避けながら移動しつつ攻撃が出来る。更に回転しても移動する速さは落ちない。
さて、どう対処するのかな、従兄は?できればやられてくれない?
従兄は背を低くして、薙刀の下を通ると言う、ただ通り過ぎていった。
私が止まった瞬間に、すぐさま後ろに振り返ると、従兄が薙刀を右から薙ぎ払うように振ってきた。
私は後ろへ飛ぶように後退すると、空振った薙刀の刃が緑色のエフェクトを纏い、遠心力を使って回転攻撃をする『風車』と同様に、しかも、あり得ない早さでこちらへと寄って来るのではないか。
「くっ」
一回転と二回転目はなんとか避けられたが、三回転目は薙刀で防いで、弱ダメージを受ける。
「っ……!!」
四回転目は賭けに出た。絶対回避を使わずに体を反ってギリギリに回避することに成功。四回転目で従兄は止まった隙に一旦距離を取った。
「おめぇ、なんで追撃しなかったんだ?チャンスだったんだろ?」
「チャンス?どうせ足技スキルを使って対処するでしょうよ」
あえて追撃しなかったのは、私が足技スキルに警戒していたからだ。ほぼ硬直がないから、追撃して届かないだろう。
絶対回避に硬直が短いのは相性悪い。それだったら少しでも息を整えて落ち着いたほうがいい。
「もっと楽しもうぜ、キリカ」
従兄はニヤッと笑みを浮かべて構え直した。
「だったら……私が勝たせるシナオリを導いてくれないかな?」
「おめぇの力で導きさせるんだったらな」
「少しは手加減してくれないかな?」
「そいつはできねぇ相談だな」
「そうです、か」
勝てる見込みはないとは言わない。負ける気なんて言わない。強敵中の強敵。
強敵と戦う恐怖の反面と同時に、本気で勝ちたいと心から想えてしまうわね。
やっぱり…………やるしかないか。
薙刀を構え直して、一直線に前へ走り出した。
●
過去にキリカのことをよく見ていたことがある。それはちゃんと交流する前の話で、『白百合』が広まる前の、『白の死神』の二つ名を知れ渡ってから『白の剣士』と言われるキリカは攻略組の中でも群を抜いて強かった。
『白の死神』と言われてた時期には一度だけボスを単独で倒し、聖竜連合軍のメンバー半分を立て続けに倒したこともあって。『白の剣士』の名が広まる時はカタナと棍棒を操り、なおかつ彼女の武器は回避力が優れているキリカはソロでは最強であるキリトと同じくらいの強さを誇っていた。
それを踏まえて私は二人のデュエルを見て、口にした。
「どうして変態一族はこんなに強くなる法則が生まれるのかしら?」
「何故、兄貴とキリカを見てこっちに向くんだ?」
「貴女も変態一族の一人だから」
「違う、俺は変態じゃない、普通だ、普通」
「どうかしらね~」
「アスナ!?」
割り込むようにアスナはぽつりと言えば、キリトはすぐに反応して驚く。
すぐにアスナは冗談だと微笑みながら言うと、キリトは胸を撫で下ろした。
「凄いな……二人共」
そう呟いたのは、左隣に座って眺めているサチ。
キリカが過去の話に出てきた――――置いて逝ってしまった少女。
話通りなら、サチと言う少女はおとなしくい子だと聞いた。パラレルワールドのサチってわかっていても、元の世界にいるサチと変わらない様子ね、キリカの話通りなら。
彼女が生きているのは、キリカが語った事件がなかったか。あるいは……今はよそう。
キリカが薙刀で受け流しながら接近すれば、リョウコウが足技スキルで隙をカバーする。そしてキリカが避けたら、リョウコウがまたも足技スキルで追撃、キリカはそれを避ける。ほぼそれの繰り返しで、お互いに弱ヒットは与えているからHPバーは地道に減り続ける。
「凄い……リョウと互角に戦っている」
そうね。彼らの戦いを眺めて見たら、お互いに退かれずにぶつかり合い、互角の良好な勝負。
そう見えるけど…………もう少し良く観察したらどうなの、アスナ?
「互角じゃないわよ」
「えっ……ど、どうしてそう思うんですか、ドウセツさん?」
「そうだよ。わたし、あのリョウと互角に戦っているキリカって凄いと思っているけど、違うの?」
別にアスナとサチが言っていることが間違いじゃない。素人と玄人の差とかでもない。状況を見れば誰もが互角に見える。
ただ、キリカを見ればわかってしまう。
「確実とは言えないが……キリカの方が押されている」
「あぁ、兄貴の方が優勢だ。キリカは探り探りで防戦している」
……世界は違うとは言え、妹であるキリカのことよく見えているわね。あるいは従兄であるリョウコウの様子を見て、読み取ったのかしらね。
「どうして、わかるんですか?」
再度よく見ても違いがわからなかったので、サチの問に私は答えた。
「そうね……キリカがとどめを刺す気がないこと」
「えっ?」
「別にやる気があるわけじゃない、キリカはリョウコウの弱点を探ろうとしている。キリカは回避が化け物並に上手だから、集中が切れるか、心を退けなければ負けることはない。あとは、弱点を見つければ一気に勝ちを取ると思うわ」
「回避が化け物並って……それキリト君以上じゃない」
「それはやってみないとわからないが、回避が上手なのは見ていて思うな。無駄なく良いタイミングで回避できているのが凄いな。だけど」
「だけど?」
キリトはわかっているみたいね。キリカは最悪、回避不可能なら絶対回避で避けるから、一応保険があるからと言って無駄に勝負をしてこないが、
「兄貴がどうもキリカの動きを予知している感じがするんだ。そのせいでキリカが妙に警戒心が強くなって慎重になり過ぎている。このままだと、兄貴のパワーで崩れるな……」
そう慎重し過ぎているところが押されている原因。
おそらく、先ほど『神風』であえて隙を見せてからカウンターで一撃を与えようとしたけど、大技に対しての大技に打ち合ったことが原因かもしれない。
ただ、キリカにも勝機はある。
「何気に恐れているけど、それを振りきればキリカが勝つと思うわ」
「ど、どうして言い切れるんですか?」
「リョウコウと言う人を知らないだけよ」
サチに言っても、リョウコウがとてつもなく強いことはわかった。何気にアスナが言っていた言葉、キリカが互角に戦えることがすごいと言うことは、意味を変えるとリョウコウと互角になるのも難しいくらい強いことになる。
でも、まぁ、それも……。
「キリカの回避が上手く回れば、勝機は見えるわ。そう言う人よ、キリカは」
……初対面の人と見知っているのに他人に何話しているんだか、キリカの甘さがうつったのかしらね、帰って治さないと。
「ドウセツさん。キリカのこと良く見ていますね」
「遠回しにストーカー体質って言いたいのかしら?」
「い、いえ、そんなつもりじゃ……」
「ちょっとドウセツ。サチをいじめないの!」
「いじめてないわよ。アスナはキリトの鈍感行動に悩まされてバニーガールでもなればいいのに」
「いったいどうしたらそんな言葉出るの!?キリト君関係ないよね!?」
さて、アスナの声音は無視して、キリカがなんとか打ち破る行動することを信じて、見守りましょうね。
●
さてどうしたものか……。
ゲームだったら、投げやりたい気持ちでいっぱいだよ。あ、ゲームの世界だったか。そんなジョークはどうでもいんだよ!
従兄は……強い以上にチートでバグじゃないかと思えてくる。
奇襲を仕掛けようとすれば予知したように防さがれるし、従兄の振る薙刀は重すぎるし、反射神経とか反応速度がなんか兄並に速くてすぐに気づくし、二撃目から完全に避けられたりするし、また妙にギリギリとタイミングよく避けるのが上手い。
結論。
――――弱点がない。
唯一の弱点も、従兄の振る薙刀は重くて攻撃が高いせいか遅いし隙も出来る。ただ、その隙を足技スキルで警戒させられてしまう。
「羅ァ!」
また足技スキルか!
私は後ろへ二歩程、下がるが完全にそれが致命を生んでしまった。
しまった、ミスった!
従兄は足技スキルを使わずに、ただ、右足を踏み込んだだけだった。
タイミング的にはバッチリで、従兄は大きく下から上へとアッパーするように振り上げた。
「くっ……!」
絶対に回避不可能かつ防御不可能、私の完全敗北だと察知し、ここで『絶対回避』で体を捻りながら前へと通り抜けた。
「!?」
距離を取りたいので回避が成功した瞬間に素早く前方へ走り出した。
「あっぶな!」
「すげぇな今の回避、あのまま攻撃されていたら完全に負けていたな」
「どうすごいでしょ?」
「だけど、今の回避は一回しか使えないんじゃねぇか?」
なんで初見なのに絶対回避だと勘づいたの!?何?思考を読み取るスキルとかお持ちなの?
「破っ!」
「ちょ、ちょっと!少しは休まして、よっ!」
「悪いが、タイムはねぇからな!」
振り返って飛ぶように私に近寄り足技スキルで攻撃してくる。
考える時間も与えず、休む時間も与えずに再び体を動かし続けた。
どうすんのよ……絶対回避はもう使えない。
あらゆる方向やどんな奇襲など、勘みたいな予知能力と、豪快かつ剛力な重さに加えて、硬直が少ない足技。
…………負ける気なんてない。勝ちを取りにいっている。
…………だけど、そんなのただの意志だけであり、どんなに思っても勝てないし負ける時だってある。
…………イリーナさんの時も一緒だ。負ける気はないって思っても、彼女の強さに負けてしまった。
…………今回もそうでしょう。従兄に負けるのがオチだ。やっぱり従兄は強かったんだって終わるんだろうね。
…………私の回避には限度ある。従兄の剛力は限度なんてないでしょう?
――なんだぁ?この程度か?おまえさんの実力は?
なんで、ふと目が合った瞬間に従兄が目で語りかけてきた。
あれ、私疲れているの?
――どこか諦め空気が漂うんだが?
――よくわかるよね、未知スキルとか身についているの?
また目で語りかけて来たので、私も目で語りかけたら伝わってきた。
目で会話とか、ドウセツに言ったらからかわれそうだ。
――んにゃ、勘だ。
――勘って……ずいぶんと確率が良い勘よね。
本気で言っているから怖いよ……。
――まったく、だったらもう少しレベルを下げてくれたらいいのに。イージーとは言わないけど、せめてノーマルに、最悪ハード。
――言っただろ?おめぇの力で導きさせろってな。
普通ゲームってこちらが難易度下げられたよね?それができないとすれば、やっぱり自分で何とかするしかないか……。
心配だけど、やるしかないか。
「…………わかったよ」
従兄の体術スキルを薙刀で受け流しながら払い、左上に薙刀で斬り払うも薙刀で受け止められる。
「確かに諦めかけていたよ。でも、従兄の勘のせいで台無しだよ」
「そりゃ残念」
「そうだよ、残念だよ!」
ちょっとどうかしていたな、私。負ける気がないのに負ける気持ちになりかけていたわ。
「そのおかげで、気持ち引き締まったよ。だから――――勝負!」
これを言い放った時、何故か不思議と心が落ち着いた。
左足を軸に、薙刀で右に薙ぎ払うように振り回す。これはフェイントであり、半分ほどぐらいで瞬時に止めて、一気に反対側への左から振り払った。
従兄の反応は速く、すぐにフェイントに耐用できて、薙刀で防ぐ。その瞬時に近寄り左足を銀色の輝きを纏いながら振り上げて、足技スキルを放ってきた。
決まってくれれば良かったんだけどな……。
けど、大丈夫。まだ勝機はある。
――――回避……出来る!
体を返しながら左足で従兄の右側へと移動して、曲がり角をスピード落とすことなく直角に曲がるように、右側を地面につけることなく左足首を曲げる。この時に右足を力いっぱいに踏み込み薙刀を振り払った。
「おっと」
決まって欲しかったがそうもいかず、慌ただしかったが、振り払う前に右足を大きく回し踏み込み後ろへと回避した。
「破ッ!」
「はっ!」
これは回避しようもないので、薙刀を振る従兄の一撃を薙刀で防いだら流しつつ後ろへ下がった。
「従兄」
「なんだ?」
長期戦が得意と言っていたけど、正直、自身はない。今まで回避には限度あるって思っていたから長期戦を避けていた。だけど、もう長期戦に持ち込むしかない。
「攻撃当たるかな?」
「ハッ、上等だ!」
やるしかないんだ。得意な長期戦で従兄に勝つ。
●
「おっ」
キリカが普通ではあり得ない、片足だけで体を回して攻撃した時には決まったと思っていたみたいだったが、リョウコウは必死で慌ただしいがキリカ並の絶対回避で敗北を免れ、再び交戦が繰り広げていた。
「キリカの動きが速くなった。多分、兄貴驚いていると思う」
リョウコウが驚いているのは知らないが、キリカは前よりも更に速くなっている。おそらくこの時間で更に速くなる。
それはつまり、この時間で急激に進化しつつ強くなっていると言うことであり、彼女は時間が経つにつれて集中力も上がっていること。
血盟騎士団、副団長であり指導者、団長のヒースクリフに並ぶ腕前のイリ―ナさんがおっしゃっていた。キリカは長期戦が得意と言うこと。ただ、キリカが長期戦を得意と言うことが知ったのはイリ―ナさんに教えられるまで把握していなかった。
一時期、血盟騎士団に所属して、キリカの弱点を克服するために訓練をした。訳あって、長くはいられなかったけど、やる前とやった後の違いは大きい。そのおかげで意識して長期戦を望むようになったのだから。
反応速度かつ扱いづらい二刀流を使いこなすキリト。
剛(ごう)な力を持ち、弱点を見せつけないリョウコウ。
やっぱり貴女の一族は変態ばっかね。
キリカ、貴女は加速することで回避が進化して急激に強くなる。
――――ソードアート・オンラインの、最強の一人なのよ。
「凄い……」
「うん、凄い……」
アスナとサチが二人の戦闘を見て無意識に口を漏らす。こちらも集中がなくなるか目を反らしてしまったら見届けない気がする。キリカが長期戦を挑むなら、相手は必ずどこかで奇襲をしてくるはずよ。それに気をつけて。
私は最後まで見守るから、キリカ。
――――勝って。
●
心臓の音がめちゃめちゃ聞こえる。
より、なんか生きているって実感する。
頭で考えて動くんじゃなくて、体で考えて動いている。
普通ならボロボロだ、今でも倒れてしまいそうなくらいで、フルマラソンみたいな感覚だ。そんなに走ったことないけど……。
おまけに従兄がけっこうトリッキーな技も加えているから、回避にもより一層力を加えなければならない。
システム外スキル『ステップ』でどれだけ複雑な足踏みをしなければならないのか、普通だったら最悪よくても挫いちゃうよ。
それが出来て戦うことが出来るのは、VRMMORPGの強みであっておかげでもあるんだよね……発売してゲームスタートした瞬間に最悪なデスゲームになったけど。
キツすぎてもう嫌になる。
でも、その反面――――楽しくてしょうがないかな。
長期戦やってみれば以外とできるもんだね。あれかな?回避できないって思うより回避できるって断言する気持ちの問題なのかな?
「らぁっ!!」
従兄の足技スキルの振り上げた左足を薙刀で更に振り上げた。
交戦と回避をし続けたチャンスだ。それを逃すわけにはいかない!
ここで決める!
左足を踏み込み、右足が浮いた時、従兄はここまでやってとんでもないことやってきた。
「きゃあっ!?」
急に大地が凄まじく震え、片足だけでは支えきれずに転倒しそうになってしまう
それが、従兄の足技スキルの一つだと言うことを……相手のスキルを使用してくる時に気がついた。
「ワレロォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!」
隙を見せた瞬間を従兄は逃すわけにはならない。逆に右足を大きく踏み込み、赤いエフェクトを纏いながら大きく上げて轟音のように発しながら振り下ろした。
これも回避……したかったけど、足場が不安定で、反応が遅い。感じてしまった、避けられないことだと言うことを、つきつけられた。
終わりか。
…………。
…………いや、まだだ。
まだ終わりじゃない!
一か八かの挑戦だ、従兄の薙刀は私と比べて重くて遅い。
体で考えて、最善な方法で回避をしようとして体を動かした。
「っ!」
ここであえて自分から地面につくように倒れ転ぶ、それと同時に薙刀を頭上に軽く投げる。
これは一か八かの勝負、どうせここで負けるようなら、悪あがきとして決めさせてもらうよ、従兄!
頭脳をフル回転、体は折れる勢いで体を動かす。体を捻りながら地面に手をつけて力いっぱいに突き跳ねた瞬間に今度は片足を地面につけて力いっぱいに蹴り飛ばし。上空へと回避した。
――そんなのありかよ
――いや、こっちのセリフだし。地震ってなんなのよ
――立派なスキルだ。どんだけ回避に特化しているんだよ。
――今のは、一か八かの悪あがきだよ。上手くいくとは思ってもみなかった。
体ごと捻りながら小さく飛び跳ねた私は、とどめの一撃を回避し、従兄の薙刀は地面に叩きつけて大きな隙が出来た。
私達は能力者でも電波はないし、口で語ることも目で語ることもしなかった。だけど静かな時の流れで私達は会話しているように声が聞こえた。
――俺のミスだな。ふらついたとことを強引に攻めていけばキリカが崩れて、押し切れると思ったことが敗因だな。――――今回はおまえさんの勝ちだ、キリカ。
必死で捻りながら、くるくると落ちていく薙刀を受け止めて、相手を定めることなく振り回した薙刀は従兄の体に当てることが出来た。
そう、戦闘を終わらせる一か八かの攻撃は届いたようだ。
●
「う、うそだろ……」
「リョウが……負けた……」
勝負は決まった。結果はキリカの勝ち。その出来事に私以外の観客は驚きを隠せないでいる。
「わ、わたし……リョウが負けるところ、初めて見た……」
「そうなの?」
「だって、めちゃくちゃ強いんだよ!」
アスナから見れば、今までありえないことが今日起きたと言うことか。リョウコウの強さは戦闘を見て感じとられたわ。キリカの回避も冷静に対処をしてきたし、何よりも攻撃が凄まじいことを遠くからでも感じとれたわ。
まったく、キリカはそんな相手によく勝てたわね。
「負けちゃったか……」
サチは驚きはしているも、落ち着いた様子で口にした。
「キリカって、すごいね……。まるで正義のヒーローみたい」
「その例えおかしいわ。二点」
「え?二点?」
バカでアホで変態がヒーローなんて務められないわよ。どうしてあの戦闘を見て、キリカがヒーローだと思ったのか謎だわ。それとも何?諦めない気持ちが伝わってきたからなの?それはどうかと思うわね。
と言ってもね。
「あながち間違ってはいないわ」
「え?」
「キリカは優しいわ。どうしようもないくらいにお人好しで好かれる人よ。大抵はキリカに魅力されるわ」
明るい性格って言うのもあるけど、バカとアホと変態を除けば、彼女は正義のヒーローになれるかもしれないわね。
「だから私、キリカに正義のヒーローって言っちゃたのかな?」
「どうかしらね」
さて、勝負が終わったからいつまでもこんなところで話をする意味はないので、キリカをからかうとでもしましょうかね。
●
私は従兄に勝てた。だけど、普通なら体が何本も折れるくらいに体を動かし、小さく飛び跳ねた私は地面に無様に倒れ、ちゃんと瞳に映り出したのはいつもと変わらない青い空一面だった。
おそらくデュエル終了を告げるシステムメッセージが浮かんだんだろう。勝った実感より疲れた印象の方が強く、立ち上がろうとする気にはならなかった。むしろこのまま空を眺めたい気分だった。
「おめでとさん」
「そりゃどうも」
映る視線に見下ろす従兄が入ってきた。まったく、私はボロボロでクタクタなのに、清ました顔してピンピンしている。これじゃ、本当に私が勝ったのかわからなくなるな。
「負けたまんまじゃいられねぇな。また次があったらやろうな」
「あったらね…………少なくとも、今は寝かせてよ」
「おいおい、勝ったんだからもう少し喜べよ」
……それもそうね。ボス戦とは違う経験と充実感、喜びを得て勝てたんだから。
「従兄」
満面な笑みを浮かべて口にした。
「私の勝ちだね」
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