ソードアート・オンラインーツインズー
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ツインズ×戦士達
SAO番外-奇妙な出会いと再開
「んっ……あれ……?」
目を覚ませば、ドウセツと暮らすログハウスじゃない。回りを見渡せば、天候は晴れ、太陽の位置からして午前十時くらい、場所は湖一面が見える芝生の上で寝ていたらしい。
……いや、違う。あまりにも刹那の如く速すぎた出来事だけど、ハッキリ覚えている。
イフ・トリップと言うアイテムを起動したのはすぐではなく遅れてから起動し始めた。急に宙に上がっては急に光り出して、意識を失われてしまった結果。
「野宿しちゃった……」
あのアイテムは何? 気を失わせるアイテムなのか? 何が『満天な星空で使うと誰も見たことのない景色が見られる』だよ……。上手いこと言って単に夢が見られるアイテムじゃないか。
たく……あの白づくめの彼め、ファンだったら役に立つアイテムにして欲しかったよ。と言うか、私のファン……。
…………もしもの可能性として、ファンじゃなかったら?だっておかしい、聞いたことないアイテムだからって、説明不足なアイテムをファンに渡すだろうか?
周囲を確認すれば、隣で静かに眠っているドウセツがいて、ホッとする。その後にアイテム一覧を表示させて中身を全て確認する。
「ドウセツ! ちょっと起きて!」
「ん……」
確認し終わったら、隣で寝ているドウセツの体を揺らして起こさせると、ゆっくりとまぶたが開き始め、体を起した。
「ドウセツ! 起きて悪いけどアイテムとか確認して」
「……わかった」
ドウセツも私と同じようにアイテムを確認させる。
「終わったわ。何も変わらないわよ」
「そっか……」
ひとまずは安心した。
可能性として、白づくめの彼がイフ・トリップの使い方をしっていたなら、気を失っている間に指を動かしてアイテムを盗んだり、『睡眠PK』と言う、寝ている相手の指を動かしてデュエル申請を受諾させそのまま襲うことも可能だ。
その可能性があったけど……何も変わらなくてよかった。後とかつけられたら、索敵で見つけることできるけど、あれ万能じゃないからな……。
「貴女は何もされなかったの?」
「確認したけど何も失ってはない」
「そう」
ドウセツも状況に理解した様子だ。
ただ、一つを除いてね。
「ただ……イフ・トリップと言うアイテムはない」
「失っているじゃない、言葉理解している?」
「い、いや、しているけど、あ、あれはカウントしてないじゃないか」
「それはともかく」
「特に気にしてないなら皮肉言わないでくれる?」
「素敵なサプライズどうも、おかげさまでよく眠れたわ」
「すみませんでした!許してください!」
無視されたことはもうどうでもいい。ドウセツはお礼を言っているようだけどわかる。あれは……冷笑《れいしょう》しているんだ。私の直感が騒いでいる。
ここで謝らないと明日はない。つか、今日さえも危うい。
と言うわけで素直に謝った。
「罰としてリズのところに向かって、黒椿を研いできて」
「了解」
ここも素直にドウセツのお願いも引き受けて、そしてイフ・トリップの件は終わったことして、私達は自宅へと帰宅した。リズってリズベットだよね? 場所詳しく知らないから後で訊こう。
「…………」
「どうしたの?」
急に家の前で立ち止まるドウセツ。何故かわからないが、私宅を見つめていた。
「ねぇ、違和感ない?」
「違和感?」
私も私宅のログハウスを見つめるが……うん、ログハウスだ。
違和感なんてない。
「別に違和感ってないけど……」
「なら気のせいかもね、忘れて」
ドウセツは違和感がした時、何に違和感がしたんだろう……。なんか白づくめに会ってからよくわからないことが続いているなぁ……。
気にしても仕方ないのでドウセツと共に中へ入ろうとドアノブに手をかけようとした瞬間だった。
ドアが自動的に開いたのだ。
「うわぁっ!?」
「きゃっ」
二人で住んでいるはずなのに女の子が出てきたのでびっくりしてしまった。そしたら目の前の彼女も驚いていた。
驚いたものの、すぐに頭を冷静にさせて彼女に言ってやった。
「ちょっとな……ん……で…………」
彼女を視界に入った瞬間、誰なのかを理解した瞬間。私が言うべきであろう「私達が住んでいる家にいたんだ」と言う言葉がどうでもよくなるくらい、弾き飛ばされた。
予想外を飛び抜け、理解従い現状が私の思考と体が止まる。
「あ、あの……」
そんなはずはない。
“彼女は、いるはずないんだ”。
あの日、私の心にトラウマと言う大きな傷跡と共に、見放して、逃げて、守れずに、殺してしまった“彼女”がいるはずないんだ。
そう、“彼女”と言う一人の人間はもうこの世にはいない。
そうあるべきはずなのに……
「あ、あの……」
「ねぇ、貴女は何者なの?」
傍にいるドウセツが冷静に、私は良く知っていた、おとなしめで小柄の黒髪少女に問い詰めた。
「えっと…………私は……」
見間違えるはずがない。
似た人物だとは思えない。
絶対に忘れてはいけない。
「――――“サチ”って言いますが、すみません、どこかでお会いしたことありますか?」
「っ!?」
あの日、約束を破って死なせてしまった人が姿形変わることなく目の前にいた。かつての仲間であり友達の――――サチに。
「あ、あの……」
困惑する私を見て、サチが戸惑っている。
何か言わないと……でも、なんて言えばいいの?
生きていたの?ごめんなさい?会いたかった?どうしているの?
頭に言葉がたくさんごちゃごちゃと混ざれば、急に頭の中が真っ白になって言葉が詰まる。
でも、何か言わないと、サチが心配してしまう。
いや、そもそもあれはサチなのか?サチは間違いなく死んだ。私が逃げてしまったばっかりに。実際に『生命の碑』で確認しに行って絶望した。
だからいるはずはないんだ。絶対に。
なのに、
なんで?
なんで?目の前にサチがいるの?
本物?それとも――――偽物?
そもそも、これは――――現実?
それとも……。
目の前が徐々に真っ暗に染まっていく、止まっていた体が小回りに動き出してしまう。
そうだよね、これは――――。
「落ち着きなさい」
「あっ――――」
「私が見えるよね?」
「ドウ……セツ……」
真っ黒な負に飲み込まれそうになった私に照らされた光は、神秘的で月のようだった。
「大丈夫?」
「う、うん……」
視界は淡々な表情ながらも心配そうに視線を送るドウセツに覆われていて、冷たくて心地よい包まれる手の感触が伝わり、不思議と落ち着き冷静になれた。
そうだ。
サチは……死んだ……。
あの日、確かな真実としてサチはもう、この世にいない。
けど、目の前にいるのは間違いなくサチ本人だ。
どうしてサチは……あ、そうだ!
「ちょっと、キリカ!」
私は思いついたことをすぐさま行動に移して、隣の新婚さん……もとい、兄のもとへ駆けつけた。
兄なら、多分なんか知っているはず。知ってなくても報告をするべきだ。
急いでいたせいか、小刻みで強目にドアをノックする。
「はい」
ドアが開くと、普段着姿のアスナが出迎えてくれた。
「ごめん、アスナ。お邪魔するよ」
「えっ、ちょっと!」
だけど、今はのんびりしている場合じゃない。不法侵入で申し訳ないが、私はすぐさまアスナを通り抜けてリビングへ向かう。
「兄!!」
「うおっ!?」
リビングで新聞を読んでいた兄に声をかけたら驚いて椅子から後ろへと倒れそうになるも、走り気味の早歩きで兄を支えつつ、問い詰めるように口にした。
「聞いて!!サチがいるんだよ!サチが!」
「はぁ?」
「はぁ?じゃないよ!サチがいるんだよ!この目で確かに!」
兄も私とは似て異なるトラウマと言う大きな傷跡を残している。サチがいるならば驚愕したり戸惑ったり困惑したりするのに……兄の反応は薄く、ことの事態に理解せず、冷静過ぎていた。
「あのさ…………」
何故、“サチが生きている”のにも関わらず、兄は私に対してありえない言葉を口にした。
「君……――誰?」
「…………」
…………え?
聞き間違えたのかな?兄が実の妹を誰って真顔で言うはずないよね。
私を落ち着かせるためのちょっとした冗談だろうね。そうじゃなくちゃおかしいって。
「君……誰?」
「はあぁっ!?」
どうやら冗談ではない様子だ。マジで私のこと他人として見ているんだ。
「意味わかんねぇこと言っているんじゃないわよ!」
「ゆ、揺らすなって!つか、サチがいるって言ったけど、サチは隣のログハウスに住んでいるぞ」
「隣は私とドウセツの家だ!そんなこと知っているでしょうよ!聞くなよ!」
「は?」
「えっ、は……は?」
お互いどうして食い違うのかは不思議であったが、双子故に頭を使うよりも先に、
「「なに言っているの?」」
ハモるように口にした。
サチが隣の家に住んでいた。それは絶対にない。
だって、隣は私とドウセツが住んでいるし、元々はドウセツの別荘でもあるんだから。
「ちょっと!」
「あ、アスナ聞いてよ!兄が変な風ぶへっ」
きっとアスナはヤキモチで兄から私を引き離して、それで勢いよく投げ捨てたと思っていたが……。
「どなたか知りませんが、貴女なんなのですか!不法侵入してまでキリト君になんのようですか!」
嫉妬なし、冗談なし、本気で怒っていらっしゃる様子だった。顔を見上げたら仁王立ちしていて、兄を隠していた。
つか、「どなたか知りませんが」えっ?「どなたか知りませんが」って、まるで初めて会ったみたいな……。いやいやいや、まさか、まさかねぇ……そんなわけ。
「アスナ、私のこと知っているんだから不法侵入は」
「知りませんし、不法侵入は許していません」
「……アスナは血盟騎士団に入っていて、そこの副団長」
「ええ」
「細剣使いで料理が得意」
「え、ええ」
「そしてキリトと結婚」
「あ、あっているわ……」
「じゃあ、私のことは」
「存じ上げません」
マジで初対面&他人扱いになっているようだ。何?この夫婦は妹の存在を消すくらいラブラブなの?
「お邪魔するわよ」
透き通った声がリビングに響き、耳へと届いた。唯一の救いがやって来て安心して思わずドウセツに寄ってしまった。
「貴女も誰なんですか!勝手に入らないでください!」
「お邪魔するって言ったでしょ?それに誰とかはおかしくない、アスナ?」
「た、確かにわたしはアスナですけど……そこの銀髪の方とは仲間ですか?」
「銀髪の方ねぇ……冗談だとしたら……その真顔は詐欺師でもなれるわね」
「ど、どう言う意味ですか!」
アスナとドウセツが会話する辺り、やっぱり私達のこと他人として捉えている。
「ねぇドウセツ……なんかおかしいよ。アスナも兄も綺麗さっぱり記憶でも抜かれているのかな……」
「だとしたら、貴女が言っていたサチと言う子はどうして生きているの?」
「それは私が聞きたいくらいだよ……」
これが私とドウセツのサプライズだとすれば名俳優さながらの演技力だ。だけど、兄もアスナもそんなに演技とか出来なさそう。それにサチを似せるようなことは絶対にできない。
なんか――――私達が別の世界へ取り残された気分だ……。
白づくめに会ってから変なことが……白づくめ……イフ・トリップ……。
「おーい、ドア開きっぱなしだから勝手に入るぞー!」
「だ、駄目だよ、返さないで入っちゃ迷惑だよ」
一人はサチの声だ。忘れるはずもない、二度と聞けなかったサチの声。
もう一人は知らない声音。トーンから男性のプレイヤーだと推測した。
聞きなれない声音の正体はすぐに訪れて、サチと共にリビングへとやって来た。
「よぉって……なんだぁ?銀髪のねぇちゃんと黒髪のねぇちゃんはキリトの知り合いか?」
その男性プレイヤーは少し癖っ毛で首にかかる程度。ややつり目で180……いや、190ぐらいの長身であるが、何故か威圧感はなくどこか浸しみやすい灰色にも緑色にも見える浴衣を着こなす兄貴分な人だと言う印象だった。
「いや、俺は知らないよ――兄貴」
「兄貴?」
えっ?あにき?兄妹の兄《きょう》と書いて、貴族の貴《き》と書いての兄貴?
兄に兄貴!?
兄貴って兄貴分な兄貴であるよね?実の兄弟じゃなくても、今まで兄が兄貴と呼ぶプレイヤーなんていなかった。いや、いるはずがない。生まれた頃からずっと一緒だったけど、兄貴と呼ぶ人は誰一人いない。SAOを始めた時なんて尚更だ、基本的に仲良くなることを避ける兄が親しく兄貴と言う人なんていない。
だから思わず、私は兄に近寄って声を上げて発した。
「兄貴って誰だよ!今まで、そう呼ぶ人なんていなかったじゃんか!」
「いや、そう言われてもなぁ……兄貴とは昔っから兄貴って言ってたからなぁ……」
「嘘だ!!」
「うおっ!?」
「そう呼ぶ人なんか聞いたことないじゃないか!一緒にいた時期もそんな兄貴と言うフレーズなんて聞いたことない!つか、見たこともない!」
「え、キリト君……銀髪の方と一緒にいたの!?」
「いやいや、知らないから」
「知らないわけがないでしょうよ!六歳の時、ジャンクパーツから自作マシン組み立てたじゃないか!」
「ど、どうしてそれを知っている!?」
「キリト君そうなの?」
なんせ、その話は私ほか、桐ヶ谷家しか知らない内容だからね。アスナにも聞かない限り自分から口に出さない。
激論並に声を上げたせいか、若干疲れを感じた時に、兄貴と呼ばれているプレイヤーが発して来た。
「おいおい、誰だかしらねぇけどよ、お前がなんでんなこと知ってんだ?俺はおまえさんがキリトと一緒にいるの見たことないぜ?」
「私だって兄貴って呼ぶプレイヤーなんて初耳だ。貴方のことだって全く知らない」
兄が兄貴って言うからにはいろいろと頼りになるプレイヤーだと思うけど…………。一度も見たことも聞いたことない。
状況を整理すれば、私を知っているのはドウセツだけの様子。兄が兄貴って呼ぶプレイヤーは私達以外知っている。
なんで、こんなに食い違うんだ。
「なるほど、そう言うことか……」
そんな中、ドウセツは冷静でいて何かを納得したようにぽつりと呟く。そして、それをすぐに口に出して教えてくれた。
「ねぇ、サチ」
「あ、はい、なんでしょう」
急に自分の名前を上げられて少しおどおどするが、聞く姿勢を正す。
「貴女はキリカって言う人物はご存知?」
「えっと……」
「遠慮なんていらないから」
「……初耳です」
「本当に?」
「はい、初めてです……」
力ない声音であるがはっきりと真実の言葉を発した。嘘でも演技でもない、サチそのものの真実の言葉。
私のこと知らないか……ちょっと……へこむなぁ……。
「安心しなさい、キリカ。貴女の言っていることは間違いじゃない」
「へ?」
心を見たかのように、慰めてドウセツは口にし、言葉を続けた。
「それと同時に、キリトやアスナの言っていることは間違いじゃないわ」
「え、えっと…………」
私の言っていること……。つまり私はおかしくないと言うことであって、キリトやアスナが私のこと他人だと見ていることも、兄が兄貴って言われているプレイヤーも真実。
それなら、何が間違っているの?
「あー…………そう言うことか」
「リョウ、何となくわかったの?」
アスナが兄貴って言うプレイヤーのことをリョウと呼んでいた。リョウって言うプレイヤーなら聞いたことありそうだけど、そんな噂も聞かなければ、その様な外見なんか見たことない。
リョウと言うプレイヤーはドウセツの言うことを悟ったみたいだ。
「信じがたいことだろうけど、話が食い違うんだ。それしかないだろうな」
「どう言うことだ、兄貴?」
「わからなねぇのか?」
話が食い違う。
世界に取り残された気分。
イフ・トリップの説明文。
『満天な星空で使うと誰も見たことのない景色が見られる』
…………あ、ああぁ!?
いや、ありえないでしょ。
ゲームの中から同じタイトル、同じ世界観、同じもう一つの世界へと移るとか考えても無理な話だ。
「ねぇ、ドウセツ。言いたいことわかったけど、なんで……」
「それはわからないわ。ただ一つ言えることは」
兄やアスナがおかしくないんじゃない。
私とドウセツがおかしいんじゃない。
私とドウセツが何故、“この世界”にいるのかがおかしいんだ。
「――――パラレルワールド。私とキリカは、原因不明ながらも私達の知らない別の世界にあるアインクラッドへ飛ばされたのよ」
●
パラレルワールド。
SF系やアニメやゲームなど使われる用語。
ある世界にいくつか並行しる無数の世界が存在する。例えば、迷路に迷った時に右か左かどっちを迷う人がいる。その人が右に行くと言う現実とは別に、左へ行く現実が存在するだけで成り立つ。
ギャルゲーもそうだ。メインヒロインを攻略するルートとは別に、別のヒロインを攻略するルートもパラレルワールド。
今の状況もサチが生きているか死んでいるだけでもパラレルワールドは成り立つ。
原因は、イフ・トリップのせいだと思うけど、私とドウセツは、サチが生きていてリョウと言う兄から兄貴って呼ばれている世界へと飛ばされてしまったようだ。
とりあえず自分達は敵ではないことを示したところで、落ち着いて話したいので椅子に着席。
ちなみに事情がわかったのか、アスナが私達に対して敵対心はなくなり友好的に接してくれた。
「えっと……キリカ?」
「えっ、あ、うん」
アスナから呼び捨てされるとは……いや、いいんだけどさ、いつもはキリカちゃんって呼ばれているから、少々戸惑うなぁ……。
こう言う細かいところもパラレルワールドなんだよね……。
「キリカは……キリト君とは、どんな関係なの?最初遠慮なく聞いてきたからさ……」
最初に聞くのがそれか。とりあえず兄には気はないってことを証明する感じで、自己紹介を含めて照明しようかな。
「キリトと私は一卵性の双子。実の兄妹関係だから、キリトのことは兄って呼んでいる」
「「双子の妹!!?」」
その発言は、自分ではたいしたことないと思っていた。が、リョウは口笛を吹いたり、サチは口に手を当てたり、兄とアスナがハモるように発して驚いていた。
「お、俺の妹がこんなに可愛いわけがない……」
「なに、古いラノベのタイトルを言っているのよ……」
「いや、なんか……つい……」
パラレルワールドだから、私がいないことをわかっていても……実の兄にそんなに驚くと、やっぱり戸惑うなぁ……。頭ではわかっているのに戸惑うのは、やっぱり見た目が本物だからなのかな。少し慣れとかないといちいち戸惑っていたら身に負担がかかりそうだ。
「キリト君に全然似てない」
「さっきも言ったけど、一卵性だし……」
「でも一卵性の双子って……男女は無理じゃないかな?」
サチの言う通り、二卵性ならともかく、一卵性で男女の双子が産まれるなんて聞いたことないと思う……。サチの疑問はリョウが変わりに答えてくれた。
「んにゃ、男女の一卵性双生児ってのも、極偶にだがあるらしいぜ。そうだろ?」
「うん、非常に珍しいのよ。私達」
「双子の妹か……全然想像つかないな……」
どうやら私との暮らしを想像して兄は苦笑い気味にぽつりと口にした。そう考えると、私がいない兄だけの生活って、どんなんだろう。全然想像できないや。
「改めて言うけど、私は兄の双子の妹、キリカ。攻略組の一員だけど今は休暇中で前線から引いている」
「それじゃ、俺達と一緒か」
兄とアスナは、こっちでもクラディールの件から休暇をとっているのかな? リョウとサチは知らないけど……。ここはあんまり聞いてはいけないような気がする。
「善人で、お人好しで、バカのバカのバカでアホな極がつくくらいの変態てことも?」
「え?」
あの……ドウセツ……さん?いきなり唐突に何をおっしゃっているんですか?そんなこと言ったら、みなさんの反応困るじゃないですか。
「ドウセツさん?嘘はよくないですよー?」
「別に知ることになるからいいじゃない」
「そんなにわかりやすく表現されているの!?言われたとおりに!?」
そんなはずはない。一名だけ知らない人いるけど、こんなこと信じる人なんて……。
微かな希望はみんなの顔を見た瞬間にぶち壊された。
と言うのも、兄とアスナは顔を引き吊って苦笑い。サチはなんとかフォローしたいと思うけど、浮かび上がらないのが見え見え。リョウに関しては冷静だったが、面白いオモチャを見つけたかのようにニヤニヤとからかうように口にした。
「変態ってあれか?セクハラオヤジみたいなんだな」
「なんで確定する!?セクハラオヤジじゃないわよ」
「どうかしらね……」
横にいるドウセツがぽつりと言ってきた。セクハラオヤジですか?はいそうですって言えるか!肯定したら、もう駄目じゃんか!
「別世界の俺は、さそがし苦労しているんだろうな……」
「そんなしみじみに言わなくても……。実の兄なんだからフォローしてよ」
「ごめんキリカ……フォローが見つからない。あと、ここの俺は兄じゃないからな」
わかっていても、そこは頑張って助けて欲しかった。兄だってアスナに変態行動しているんじゃないの?
「極がつくくらいの変態って……あ、オレンジプレイヤーじゃないってことは……犯罪はおかしてないけど、キリカは何が変態なの?」
「いろいろとあって言い切れないわ」
ちょっとアスナさん?いくらなんでも酷くないかな?変態を犯罪者って捉えていたよね?オレンジプレイヤーになるまでセクハラしたら末期だからね!
「み、皆言い過ぎだよ」
「とか言いつつ、若干引いているわよね、サチ」
「あぅ……」
サチはドウセツに図星をつかれて、情けない声を漏らしてしまった。
サチだけは信じてくれるって思っていたのに……くそう。
「はいはい、私の自己紹介終わり! 次、ドウセツ」
「嫌」
「なんで自己紹介だけなのに拒もうとする! ちゃんとしなさいよ、そこは!」
実は無理矢理話を変えて別の話題に変えようとしているのは、おそらく全員が感じとっているけど関係ない。その押し付けの元凶であるドウセツの自己紹介と言う形で話題を変えてやった。
ちなみに、今は転校生の質問タイムは現在受け付けておりませんので。
「私はドウセツ。キリカと同じ攻略組」
「そして私の嫁です」
「キリカの言うことなんか気にしなくていいから、九割五分が戯言だから」
「ろくな人間じゃないよ!」
「よろしく」
スルーされた。いきなり変なこと言って混乱させたことに対しての仕返しのつもりが、逆にダメージを食らってしまった。
少しは動揺したっていいじゃないか……。
「嫁って、おまえらそう言う関係か?」
「攻略のパートナーって言うことよ」
リョウの問いにドウセツがあながち間違っていないことを返答した。もういいよ、それで。
「パートナーってことは……キリカもドウセツもソロじゃないんだ」
「兄と似たような感じだと思うかな?最近まで兄とソロだったんだけど、ちょっとした成り行きでパートナーになって、嫁になった」
「うっとうしいから仕方なくね」
「そんな、ツンツンしちゃって、このこの~」
「気持ち悪く指で突っつかないで」
「一応愛が入っているんだから拒否しないでよー」
「愛?バカの間違いじゃない?」
「失礼ね!バカをドウセツに送るわけじゃない!」
「送り物なら、人の弱みが欲しいわね」
「外道!?ドウセツはそんなことじゃない!ドウセツは私の愛が欲しいに決まっている!」
「いらないわ」
「ツンデレ!」
「デレた覚えはない」
「好きだよ」
「嫌いよ」
「酷い!それでも私の嫁なのか!?」
「言ってなさい」
「お~い、お二人さんよぉ」
「あ……」
リョウが言葉を挟んで、今いる場所の状況を引き戻されたように帰ってきた。
兄とアスナはポカーンと口を開いて唖然として、サチは何故か俯くように頬が赤くなっており、言葉を挟んできたリョウと言うプレイヤーは面白そうにこちらを眺めていた。まるで観賞するように。
そして、その例えは間違ってはいなかった。
「夫婦漫才もいいところだが、このままだと俺達置いてけぼりになるから、後は二人っきりでやってくれよな」
この人は、私とドウセツのやり取りを夫婦漫才と捉えて観賞していた。悪気はしないけど……なんだろう、あんまり喜べない。つか、冷静になってみれば、今はまだ自己紹介の途中で、私とドウセツはパラレルワールドに飛ばされてしまっているんだ。
ドウセツの様子を見ればクールに紅茶を飲んでいて、いつもと変わらないが、なんとなく、不機嫌が伝わってくるのはドウセツのこと好きだからなのかな?とりあえず、次のステップに踏み出さないと不機嫌なおりそうにもないや、きっと。
リョウと言うプレイヤーに視線を変えると、視線はドウセツに向けていて、一瞬だけニヤッと笑っていた。それを何事もなかったかのように私に気づいて声をかけてきた。
「どうした?」
「いや、次はそっち自己紹介してよ。貴方だけ知らないんだから」
「俺以外は知っているのか?」
「まぁね」
兄とアスナ、サチは知っているけど、唯一リョウと言うプレイヤーは知らなかった。おそらく、私達が元にいた世界に兄から兄貴と呼ばれ、リョウと言うプレイヤーが存在するなら、それを知っていなければいけないような気がする。
だから、確実にリョウと言い、兄貴と呼ばれるプレイヤーについてはまったく知らない。
「俺はリョウコウ。キリトの従兄で……お前の従兄でもあるな」
「え?従兄なの!?」
まさか、家族にもゆかりのある人物だとは思ってもいなかった。従兄だから、兄貴って呼ばれているのかな?
それと、リョウって省略していたんだ。
「そのへんは詳しく言えねぇけど、まぁ、あれだ、俺のことは気軽にリョウって呼んでくれ」
「わかった……従兄」
「よろしく、リョウコウ」
「おいおい気軽にリョウって……まぁ、いっか」
何故か不思議とリョウコウが私と兄の従兄だって言うことを知った時に、不思議と瞬時に従兄と言うキーワードが浮かび上がり、従兄と呼んでしまった。
「リョウコウと言うプレイヤーは見たことも聞いたこともない。おそらく、いや、確実に私とキリカがいるべきパラレルワールドにはリョウコウはいないわ」
「そうだね、従兄なら知っているはずなのに知らない」
「こっちもそうだな。キリトの双子の妹がいるなら、当然知っているはずが、知らねぇしな」
私とドウセツと従兄は、お互いの存在を明らかにした上で、私達はパラレルワールドへ飛ばされたと決定づけた。
「でも、わたし信じられない。だってパラレルワールドなんて……」
「信じがたいと言っても認めなきゃいけないわ。私がアスナのこと知っているのに、アスナは私のこと知らないでしょ?これだからアスナは……新婚生活で頭がボケボケになったのかしらね」
「な、ボケボケなんかなってないよー!」
アスナは顔を真っ赤になって首をブンブンと否定してする。
「で、おまえさん達はどうやってパラレルワールドに来られたのだ?」
「それは……」
信じる、信じないはどうか別として、パラレルワールドに飛ばされた経緯を話した。白百合と黒百合の件はいろいろと面倒くさいことになるだろうと思って話はしなかった。従兄には怪しまれたけど攻略組のファンと言うことで納得?してくれたかな?
「イフ・トリップか……」
全て話したところで兄が飛ばされた原因のアイテム名をぽつりと口にした。
「キリト君、聞いたことある?」
「いや、聞いたこともないな。そのようなアイテムは」
「リョウは?」
「キリトと同じく、知らんな」
兄も従兄も知らないか。アスナも聞いた感じだとアスナも知らない様子。
「貴女は何か知っている?」
「し、知らないです」
「そう」
サチもドウセツに聞かれると知らないと答えた。みんな知らないことより気になったのはさ、なんでドウセツに対して緊張気味なの?ドウセツ怖くないよ~。例外もあるけど怖くないよ~。
「一応聞くけど、全身白づくめで顔を隠しているプレイヤーと見なかった?」
一応これも訊くが、みんな同じように返答され、結果は全員確認だれてないことが証明された。つか、パラレルワールドなんだから同じ人物だとうが、イフ・トリップを所持している白づくめとか無関係で、従兄と私のようにいない場合だってある。
飛ばされてしまったことはもうどうしようもないとしてだな……。
「これからどうしよう……」
そう、これからの問題だった。
元の世界への帰り方が見当つかない上に、可能性であるイフ・トリップと言うアイテムは失っている。最悪、このまま元の世界へ帰れない恐れだってある。
「帰り方がわからない以上、しばらくはこの世界でお世話になるしかないわね……」
「そうだよね……。家ないから、しばらくは宿生活か……。私とドウセツの愛の巣がないなんて……なんて残酷」
「愛の巣ってなんだよ……」
「兄にはわからなくていいの……」
そうやって不思議がるように首をかしげて理解しなくてもいいから。兄は燕の巣ぐらいで知っていればいいから。
家に関しては、私達が帰宅する際に、なんも疑問もなくサチが外に出たって言うことは、あそこのログハウスはサチの家、あるいは別の人が暮らしているのが妥当かな……。
念のために聞いてみるか……。
「隣のログハウスって……空き部屋?」
「いんや、俺とサチが暮らしている。キリカがいる世界ではそこで暮らしていたのか?」
「うん、ドウセツと一緒に暮らしている」
つか、何気に男女で暮らしている発言来ましたよ。なに?二人ってそんな関係なのか?
気になったので聞いてみた。
「従兄とサチって一緒に暮らしているならさ……結婚しているの?」
「っ!?」
言うタイミングがまずかったみたいで、サチが紅茶を飲んでいる時に言ったから吹き出しそうになり、なんとか飲み込むが今度はむせていた。
「さ、サチ!?大丈夫!?」
むせるサチにアスナは優しく背中を撫でて、兄は心配そうに見つめて声をかける。その間に従兄が答えてくれた。
「いいや、ただの同居人だ。お前の考えているような関係じゃねぇよ」
「そ、そうだよ……ゲホッ、リョウとは特にあるわけじゃないの」
涙目で若干むせるものの、絞り出すようにサチの口から言った。
それだからって……男女と一緒に暮らすとか恋愛フラグとか立ちそうだけど…………。
「本当にないの?」
「ないって言っているだろ」
「そうだよ…………ないよ」
いや、サチさ~ん?どうしてため息をついているの~?
えっ、一方通行なの?恋愛フラグだったら全力で応援するし、なんなら手伝ってあげるよ!
この思いを察知したかのようにドウセツの口が開き淡々と言った。
「別に結婚してなくても同居ぐらいするでしょう……そのめでたい頭はどうにかならないのかしら?」
「めでたいって、どう言うことだよ!」
「バカってことよ」
「ストレート過ぎる!」
サチの様子は気になるが、そう言うことなんだろうな。ただ、従兄とサチとの恋愛はないとは言い切れない仲になっているよね?
そっかぁ、ここでは……サチは元気で生きているのか……。
…………。
サチが生きている、か……。夢みたいな話だな。
「キリカ?」
おっと、よりによってサチが声をかけてくるとは、少しでも変な顔見せちゃったのかな?
「ちょっとした考え事だよ。ねぇ、従兄お願いがあるんだけど?」
「なんだ?」
この世界でしばらくお世話になるってことは、ここで生きると言う意味でもある。
ここはゲームの世界、ソードアート・オンラインと言う一万人のプレイヤーを閉じこめられたMMORPGの世界に、私とドウセツは攻略組として、ゲームから脱出する方法であるゲームクリアを目指して戦っている。パラレルワールドでも、ここがSAOなら多少の違いが合っても、目指す場所は同じだ。
だから私は、この世界のこと、リョウコウと言うプレイヤーを知るために、
「私とデュエルしてくれない?」
従兄にデュエルを申し立てた。
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