狒々の霊
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第五章
「それはいいな」
「あんたそっちも好きだし」
「用意してくれたんだな」
「ええ、じゃあご飯食べてね」
「風呂に入ってな」
「それからはどうするの?」
「今日はもう寝る」
夫の返事は素気なかった。
「そうする」
「そう、じゃあね」
「まずは飯を食うな」
こう言ってハヤシライスと林檎を食べるのだった、それから風呂に入って寝た。この日は夜は何もなかった。
翌日晶は喫茶店でパートの仕事をしつつ榮子に昨日を話した、すると榮子は彼女に対してこう言った。
「狒々ね」
「女好きの妖怪ね」
「ご主人にその妖怪の霊が憑いていたとか」
「何か憑いているかもって思ったけれど」
「よりによってね」
「ええ、けれどね」
晶はカウンターでコップを拭きつつ榮子に話した。
「狒々って本当にね」
「女好きだったのね」
「狒々爺って言葉があるけれど」
「あの言葉通りにね」
「女好きなのね」
「そうみたいね」
「ええ、ただね」
ここでだ、晶は。
榮子に考える顔になってこう言った。
「この一ヶ月毎日六回だったから」
「一ヶ月そうだったの」
「だからね」
「若しかして」
「若しかするかもね」
笑ってこうも言った。
「これは」
「そうなのね」
「三十代後半でだけれど」
「若しそうなったら」
「その時はね」
「産むのね」
「そうするわ」
こういうのだった、そしてだった。
三ヶ月後晶は実際に妊娠がわかった、そしてそれからさらに七ヶ月後で可愛い元気な女の子を産んだ。その時に夫は何であの時元気だったのかと自分で言ったが妻はそんな夫を見てくすりと笑うだけだった。
狒々の霊 完
2020・7・30
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