アクタイオンの鹿
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第四章
「アルテミス様、今気付きましたが」
「私達もです」
「慌てて泉から飛び出て」
「服も」
「あっ・・・・・・」
ここでアルテミスはまた気付いた、見れば。
侍女達の言う通り自分も彼女達も全裸だ、アクタイオンを探す為に慌てて泉を出た為服を着忘れていたのだ。
それでだ、こう言った。
「こ、これは」
「あ、あの」
その女神に狩人がおずおずと尋ねる。
「この度は、私も」
「貴方はすぐに服を着てきなさいっ」
女神は若者に顔だけでなく白い身体全体を真っ赤にさせて告げた。
「いいですね、今回のことは不問に処しますから」
「では」
「私達は私達で服の場所に戻ります」
侍女達の前に立って彼女達の裸を見せまいとしながら言う。
「いいですね、では」
「はい、それでは」
「その様に。しかしいい猟犬達ですね」
今も主の傍を離れない彼等にも言うのだった。
「鹿になっても貴方の傍にいて今もしかと護って」
「いつもこうしてくれるんです」
「見事です、彼等はこれからも大事にすることです」
「そうさせてもらいます」
アクタイオンは女神のその言葉には微笑んで答えた、そうしてだった。
服の場所に犬達と共に向かった、その後彼はこれまでより慎重に狩りをする様になり二度と姿を変えられることはなかった。
だがアルテミスはというと。
このことでオリンポスでまたしてもゼウスに小言を言われることになった。
「その様なことで人を獣に変えることもだ」
「軽挙ですね」
「そして服を着ずに追うこともだ」
このこともというのだ。
「全くもってだ」
「反省しています」
「猛省することだ、何度も言うが」
すっかりしなだれている娘神にさらに言った。
「そなたはすぐにだ」
「頭に血が上ってですね」
「その時は考えがなくなる」
「そのことをですね」
「注意することだ」
こう言うのだった。
「この度は笑い話で済んだが」
「それでもですね」
「もっと大事に至る場合も有り得る」
だからだというのだ。
「いいな」
「はい、これからは」
「前以上に注意することだ」
その欠点をというのだ。
「いいな」
「そうします」
女神はすっかり項垂れていた、そして自分の軽挙を恥じるばかりであった。そしてあくまで主を慕い護っていた猟犬達の功績とその軽挙を忘れない為に彼等は星座にした。これが猟犬座の話である。一説にはアクタイオンは鹿に変えられた時にその猟犬達に襲われ殺されたとあるがこの話ではこうなっている。こちらの方が面白いのではないだろうか。
アクタイオンの鹿 完
2020・4・15
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