アクタイオンの鹿
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第三章
「自分の猟犬達にです」
「それは大変です、自分の愛する犬達に襲われるなぞ」
「こんな惨いことはありません」
「アルテミス様、どうしましょう」
「この度は」
「いけません、そんなことは」
状況を理解したアルテミスは今度は仰天した顔で言った。
「早くあの狩人を人の姿に戻さないと」
「自分の飼っている猟犬達に追われ襲われ」
「最悪の場合はです」
「そうなりますから」
「早く何とかしないと」
「ことは一刻いえ一瞬を争います」
即座にだった、アルテミスは。
泉から飛び出た、そうして侍女達に言った。
「あの狩人を追います、そして」
「すぐに元の姿に戻してですね」
「犬達に襲われない様にする」
「そうしますね」
「そうします」
こう答えてだった、すぐに。
女神は森の中を駆けだした、侍女達も後を追った。
狩りの女神達は即座に獣の場所を察した、その辺りはまさに神の力だった。そしてその力を以てだった。
自分が鹿に姿を変えたアクタイオンの場所に向かった、その間アルテミスも侍女達も彼の無事を願うばかりだった。
そしてその場所に着くと。
アクタイオンが姿を変えられた鹿がいた、見れば彼は無事で。
周りには猟犬達がその鹿を愛おし気に囲み首や鼻を近寄せていた。アルテミスはその様子を見て胸を撫で下ろした。
「よかった・・・・・・」
「はい、本当にです」
「無事で何よりです」
「助かってよかったですね」
「犬達に襲われずに」
「よかったです」
「犬達は主の姿が変わっても主とわかるのですね」
侍女達はその様子を見て主神に話した。
「鹿になっても」
「そうなのですね」
「例え姿が変わっても」
「そうなのですね」
「人であろうが鹿であろうが主は主」
アルテミスはしっかりとした顔で述べた。
「それがわかるのですね」
「匂いも鹿のものになっていますが」
「それでもですね」
「主だとわかるのですね」
「そうですね、ではです」
アルテミスはあらためて述べた。
「狩人を基の姿に戻しましょう」
「そうですね、三日と言いましたが」
「それがいいですね、今は」
「思えば彼もわざとではないですし」
「そのことを考慮して」
「それでは」
アルテミスはすぐにアクタイオンを基の姿に戻した、だが。
姿を戻してだ、女神は即座に若者を咎める目で見て告げた。
「服を着なさい」
「あっ、これは」
「そうです、女神もっといえば今しがた会ったばかりの女性の前で何ですか」
鹿に姿を変えられた時に服が脱げてしまったアクタイオンに言うのだった、見れば彼は一糸まとわぬ姿だ。女神はその姿を見て言うのだ。
「はしたない、服を着てきなさい」
「申し訳ありません」
「私もついかっとなって姿を変えてしまいましたが」
このことには申し訳なく思いつつ述べる。
「いいですね、服は着るものです」
「わかりました」
「あの、ですが」
ここでも侍女達が女神に言ってきた。
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