戦姫絶唱シンフォギア~響き交わる伴装者~
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第5楽章~鋼の腕の伴奏者~
第40節「はじまりの歌」
前書き
気付けばシンフォギアに出会って一年が経ってました。
去年のこの頃は確か、無印を見終わったかGを見始めた頃だったかな~。
もうあれから一年だと思うと、長かったようで短い一年だったなぁとしみじみ思います。
さて、そんな今日の更新は原作G第13話Aパート前半。イブ姉妹が一番尊いあのシーン。
推奨BGMは『Apple』でお送りいたします。
「ガングニールに、適合だと……ッ!」
「うわああああ……ッ! こんなところで……ッ!」
驚くマリア。
予想外の事態、そして復活を遂げた脅威に、ウェルは慌てて逃げようと走り出し、階段から転げ落ちる。
「逃がすかよッ!」
飛びかかる翔。
その目の前で、ウェルは左手を床に付けた。
「こんなところで……、終わる、ものかあ……ッ!」
床につけた左手からの命令を受け、床に大きな穴が開く。
「ドォォクタァァァァッ!」
「あ…………」
追いかけようとするツェルト。
しかし、その目の前でマリアがふらつく。
気付けば彼は、迷わずマリアの身体を支えていた。
「マリィ、大丈夫かッ!?」
「ええ……」
「ウェル博士ッ!」
エレベーターの方からは、弦十郎と緒川が向かってくる。
「ええい、邪魔するなッ!」
ウェルは背後から組み付き、右腕を抑える翔に、肥大化した左腕で肘打ちをぶつける。
「ぐッ!?」
「ニヒッ!」
一瞬怯んだ隙を突き、翔を振り払ったウェルは床に開いた穴に姿を消す。
ウェルが飛び降りた瞬間、穴は閉じ、元通りの床へと戻っていった。
「ぬぅッ!」
「響さん、そのシンフォギアはッ!?」
緒川からの疑問に、響は疑いなく答える。
「マリアさんのガングニールが、私の歌に応えてくれたんですッ!」
その直後だった。
フロンティアが轟音と共に大きく揺れる。
「なに……ッ!?」
「ぬ……ッ!?」
「これは……ッ!?」
本部から藤尭、友里、了子が解析結果を伝えてくる。
『重力場の異変を検出ッ!』
『フロンティア、上昇しつつ移動を開始ッ!』
『急いで何とかしないと、私達も巻き込まれるわよッ!』
「急げったって、どうすれば──」
翔が漏らした言葉に、ツェルトに支えられたマリアが応える。
「今のウェルは……左腕をフロンティアと繋げることで、意のままに制御できる……。フロンティアの動力は、ネフィリムの心臓……それを停止させれば、ウェルの暴挙も止められる……」
「そんな事が……ッ!」
ドゴォッ!!
突然の轟音に振り向けば、弦十郎の拳がウェルの消えた床を割っていた。
「──叔父さんッ!」
「ウェル博士の追跡は、俺たちに任せろッ! だからお前達は──」
「ネフィリムの心臓を、止めるッ!」
「行けるのか?」
「生弓矢なら、ほら」
そう言って翔は、その手に握っていた生弓矢のコンバーターを見せる。
先程、ウェルに組み付いた時にちゃっかり外していたのだ。
「まったく、手際の良い……。行くぞッ!」
「はいッ!」
弦十郎と緒川は、割れた床へと飛び降りていく。
「マリィ……俺も行ってくる」
「ツェルト……」
ツェルトはそう言って、マリアの肩から手を放す。
「ウェルとの決着は、俺が着けないとな」
「ツェルト……ッ!」
階段の方へと向かって行くツェルト。
マリアは彼の背中へと手を伸ばし……そして次の瞬間には、その背中から抱き着いていた。
「お願い……私をひとりにしないで……」
「マリィ……」
マリアの目には涙が浮かんでいる。
先程まで、死んだとばかり思っていた彼が生きていた。だが、その彼は再び危険へと飛び込もうとしている。
マリアには、もう彼を失いたくないという強い思いが渦巻いていた。
──分かっている。俺が死んだとばかり思っていたんだ。マリィは不安なんだろう。
俺だって一緒に居てあげたいし、ずっと傍にいてやりたい。本気でそう思ってる。
だが……その時間はまだ、今じゃない。
俺はマリィを泣かせたあいつを……調や切歌を悲しませ、マムを地球から追い出したあのゴキブリ野郎をぶん殴らなくちゃいけない。
だから……行かなきゃ……。
「ごめんなマリィ。でも……決して君は一人じゃない」
「……え?」
顔を上げたマリィの方を振り返り、その両手を握る。
「俺も、マムも、調や切歌も、離れてたって心が繋がってる。だって俺達、家族だろ?」
「家族……」
そう。俺達は家族だ。
だから、この絆は決して切れやしない。
勿論、セレナだって見守ってくれているはずだ。
「大丈夫だ。絶対、生きて帰ってくる。信じてくれ」
「……絶対よ……絶対に、帰ってきて……信じてるから」
「ああ、約束だ。……マリィ──」
マリィの涙を指で拭って、そして今度は俺の方から抱き締めると……その言葉はするりと俺の口をついて出た。
「──3000回愛してる」
「……ッ!!」
そして俺はマリィから離れると、階段を一気に駆け下り、風鳴司令達が消えた亀裂を飛び降りた。
……きっと、あの日から無意識のうちに、俺はその言葉を封印していたんだろう。
心でどんなにマリィを愛していても、セレナをあんな風にしてしまった自分にはマリィにその言葉をかける資格はないと思い込んで、自然と口にしなくなっていたんだ。
でも……言葉にしなきゃ伝わらない。あの場で言葉にしておかなきゃ、マリィはきっと救えない。
俺の本能はそれを理解していたんだろう。
まぁ、額にキスしたのはやりすぎかもしれないが。
でも、伝えられてよかった。
これで心置きなく戦えるッ!
待ってろドクター・ウェルッ! これまでの落とし前、キッチリつけさせてもらうぞッ!
その頃フロンティア中枢、ジェネレータールームでは……。
「ソロモンの杖が無くとも、僕にはまだフロンティアがある。邪魔をする奴らは重力波にて足元から引っぺがしてやるッ!」
怒りに顔を歪ませたウェルは、コンソールに左手を置く。
目の前のモニターには、中央遺跡へと向かってくる装者達の姿があった。
「人ン家の庭を走り回る野良猫め……フロンティアを喰らって同化したネフィリムの力を──思い知るがいいッ!」
炉心に接続された心臓が怪しく光り……直後、中央遺跡周辺の地面が蠢めきだす。
地面が盛り上がり、寄り集まった土は巨大な土人形の形を取っていく。
そして成形が終わった時、その巨大な土人形は……ネフィリムの成体を形作っていた。
「ガアアアアアアアッ!!」
突如出現し、大口を開けて咆哮する黒い巨大怪獣の姿に響は驚く。
「外の、あれ、何──ッ!?」
「多分、フロンティアを喰らって同化した……ネフィリム」
『本部の解析にて、高質量のエネルギー反応地点を特定したッ! おそらくはそこがフロンティアの炉心──心臓部に違いないッ!』
『僕達が先行して、ウェル博士の身柄を確保しますッ!』
『響くんは、翼たちと合流して外の奴に対処してくれッ!』
「はい、師匠ッ!」
へたり込んだまま、マリアは響を見上げながら絞り出すように言った。
「お願い、戦う資格のない私に代わって、お願い……ッ!」
響はしゃがんでマリアに視線を合わせ、真っ直ぐに見つめる。
「調ちゃんにも頼まれてるんだ……マリアさんを助けてって。だから心配しないでッ!」
「……ッ」
「待っててッ! ちょーっと行ってくるからッ!」
「行くぞ響、みんなが待ってる」
翔はツェルトから借りたMark-Ⅴの装着を終え、生弓矢のコンバーターをブレスに装着していた。
響は翔と共に、ブリッジの窓から飛び降りる。
ギアを失ったマリアはただ、その背中をじっと見つめていた。
ff
浮遊する岩を足場に、翔と響は仲間達の元へと跳んで行く。
「翼さんッ! クリスちゃんッ!」
「翔……立花……」
二人が駆け寄ると、翼は申し訳なさそうな顔で二人を見る。
「すまない……迷惑をかけた」
「ううん。戻って来てくれるって信じてた。おかえり、姉さん」
「翔……」
「わたしも、もう遅れはとりませんッ! だからッ!」
「立花……」
二人は翼の手を取り、笑顔で迎える。
自分を信じてくれている弟と後輩。その温かさに、翼は泣きそうになるのを堪えて応える。
「──ああ……一緒に戦うぞッ!」
「はいッ!」
「へぇ、奇妙な縁もあるもんだな……」
「「ッ!?」」
聞き覚えのある、懐かしい声。
翼の後ろに立つ彼女の姿に、二人は声を揃えて驚いた。
「「奏さんッ!?」」
「どうして奏さんがッ!?」
「ほ、本物ッ!? 幽霊なんかじゃないですよねッ!?」
「正真正銘、本物だよ。けど話は後だ。今は……」
「おい、来やがったぞッ!」
純と2人、スコープを覗いてネフィリムの様子を伺っていたクリスが、標的の接近を告げる。
「あの時の──自立型完全聖遺物なのか!?」
「マリアさんが、多分そうだってッ!」
「──にしては張り切りすぎだッ!」
成体となったネフィリムは、巨人の名に相応しい天を突くほどの巨躯を日本の足で支え、足音を響かせてこちらへ向かってくる。
「行くぞッ! この場に槍と弓、そして剣を携えているのは、私達だけだッ!」
「はいッ!」
「ああッ!」
「チッ、今更何が来たってッ!」
「俺達が負けるはずがねぇッ!」
翼の号令で、各々の得物を構える装者達。
それを見て奏は、感慨深そうに呟いた。
「ああ……こりゃ翼もすっかり先輩だな。あたしも負けてられないねッ!」
奏もアームドギアを構え、ここに二課の装者6人が勢揃いした。
「いくぞッ!」
6人は大地を蹴り、ネフィリムに向かって突撃する。
ネフィリムは方向と共に、両肩の棘をミサイルとして放つ。
避ける6人。直後、先程まで立っていた地点にミサイルの雨が降り注ぎ、爆発した。
着地する純とクリス。そこへ、大口を開けたネフィリムは火炎弾を吐き出す。
着弾した炎は、一瞬で周囲を高熱で包み込み、焦土と化した。
「うッ!」
「この火力……アキレウスでも耐え切れないぞ……ッ!?」
「喰らい尽くせ、僕の邪魔をする全てをッ! 暴食の二つ名で呼ばれた力を示すんだ、ネフィリィィィィィムッ!」
「ガアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
主の咆哮と共鳴するように、巨人は天へと向けて高らかに咆哮した。
ff
その頃フロンティアのブリッジでは、一人残されたマリアが俯き、その目に涙を浮かべていた。
「力のない私では、何もできやしない……セレナの歌を、セレナの犠牲を無駄なものにしてしまう……」
本当は自分も戦いたい。見ているだけなんて嫌だ。
でも、既に彼女はガングニールを響に渡した身だ。
戦う力のない自分では、戦場に立つことは出来ない。
ツェルトは自分のやるべき事を果たすため、この場を去った。
では自分にできることは、本当にないのだろうか。
無力感に再び涙を流しかけたその時……頭上から光が降り注いだ。
「マリア姉さん」
「……セレナッ!?」
見上げるとそこには……懐かしき、在りし日の妹の姿があった。
「マリア姉さんがやりたい事は何?」
「私のやりたい事……」
セレナからの問いかけに、マリアは今まで隠し続けてきた心の内を、偽りない言葉でさらけ出す。
「……歌で、世界を救いたい……月の落下がもたらす災厄から、みんなを助けたい……」
その答えを聞いたセレナは、ふわふわとマリアの前まで降りてくると、彼女の手を取った。
「生まれたままの感情を、隠さないで……」
「……セレナ」
そしてセレナは、いつも二人で口ずさみ続けてきたあの歌を、唄い始めた。
「りんごは 浮かんだ お空に」
「りんごは 落っこちた 地べたに」
「星が」
「「生まれて」」
「歌が」
「「生まれて」」
「ルル・アメルは 笑った」
「「とこしえと──」」
未だ続いていた中継により、二人の歌は世界の人々へと届く。
偽りなき感情と共に紡がれた歌に、人々は自然と天を見上げ、祈るようにその手を合わせた。
街の人々が。組織の人々が。生まれも育ちも、人種も国境も超えて、人々は一つに繋がり、70億の歌は世界を包んでいく。
そして、月へ飛ばされた制御室では……。
大気圏脱出の準備もなしに発射されたせいで、制御室の中はひどい有様だった。
だが、万能椅子《Poweful_2》のパワードスーツ機能を起動させ、ナスターシャ教授は崩落した瓦礫の中から這い出した。
「世界中より集められたフォニックゲインが……フロンティアを経由して、ここに集束している──これだけのフォニックゲインを照射すれば、月の遺跡を再起動させ、公転軌道の修正も可能……」
ナスターシャ教授は血を流しながらも、既にこの先長くない老体に鞭打って、最後の気力を振り絞る。
『マリア……マリア……ッ!』
「──マムッ!?」
ナスターシャ教授からの通信に振り向き、コンソールへと歩み寄るマリア。
気が付くと、目の前にいたセレナの姿は、既に消えていた。
『あなたの歌に、世界が共鳴しています……これだけフォニックゲインが高まれば、月の遺跡を稼働させるには十分ですッ! 月は私が責任を持って止めますッ!』
「──マムッ!」
これがナスターシャ教授からの、最後の通信だ。
彼女の言葉からそれを実感し、マリアは思わず叫ぶ。
無論、ナスターシャ教授もマリアが悲しむのは分かっている。
ツェルトや調、切歌には別れの挨拶さえできないのが残念だ。
だが、それでも……ナスターシャ教授が最期の言葉を伝えるのは、やはりマリアだった。
一番辛い思いをさせ、それと同じ分だけ信頼してきた、自分の意志を継いでくれるであろう彼女に、ナスターシャ教授はニックネームの通り“母親”としての言葉を投げかけた。
『もう何もあなたを縛るものはありません……行きなさいマリア。行って私に、あなたの歌を聴かせなさい……ッ!』
「マム……」
その言葉に大きく頷くと、マリアは涙を拭い、思いっきり笑って応えた。
「……OK、マム。世界最高のステージの幕を上げましょうッ!!」
後書き
次回──
ウェル「出来損ないどもが集まったところでこちらの優位は揺るがないッ!」
弦十郎「行けッ! ここは俺達が食い止めるッ!」
ツェルト「お前は何を以て英雄を名乗るんだ?」
マリア「──Seilien coffin airget-lamh tron──」
第41節「英雄」
ウェル「僕は英雄だぁぁぁぁッ!」
ツェルト「なら、俺は──」
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