| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

戦姫絶唱シンフォギア~響き交わる伴装者~

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第32節「揺れる心」

 
前書き
昨日、更新頻度を戻すと言った手前で遅れちゃったよ()

今回は次回からの展開に向けての布石です。
次回を越えればようやく章タイトルを変えられる!

BGMはご自由に。
それではお楽しみください。 

 
哨戒艦の甲板が一直線に抉れ、煙を上げる。

未来は煙の奥に降り立った翼達を確認すると、再び〈流星〉を放とうとする。

「やめるデスッ!」

射線上から少し逸れた位置からの声に、未来は視線を切歌の方へと移す。

「調は仲間、アタシ達の大切な──」
『仲間と言い切れますか?』
「……ッ!」

ウェルの言葉が、切歌の胸に突き刺さる。

『僕達を裏切り、敵に利する彼女を──月読調を、仲間と言い切れるのですか?』
「ちがう……アタシが調にちゃんと打ち明けられなかったんデス……ッ! アタシが調を裏切ってしまったんデスッ!」
「切ちゃんッ!」

肩を震わせる切歌に、調は呼び掛ける。

「ドクターのやり方では、弱い人達を救えないッ!」
「……」

だが、ウェルは更に続ける。

『そうかもしれません。何せ我々は、かかる災厄に対してあまりにも無力ですからね。シンフォギアと聖遺物に関する資料データは、こちらだけの専有物ではありません。アドバンテージがあるとすれば……せいぜいこの、ソロモンの杖ッ!』

直後エアキャリアの出入り口から、緑色の光の線が戦場一帯を横切るように放たれる。

それは戦場に地獄を呼び戻し、再び災厄の雑音で包み込む。

「うああ……ッ!」
「ぐあ、あああッ!」
「うう、ぐううあああッ!」
「あああーッ!」

オタマジャクシ型、ナメクジ型のノイズが護衛艦の側面を這いずり回り、甲板をヒューマノイドノイズが跋扈する。

空にはフライトノイズの群れが右へ左へと飛び回り、米兵達が再び悲鳴を上げながら、文字通り塵に還されていく。

「──ノイズを放ったかッ!」
「くそったれがああああああッ!」

クリスは未来と反対の方向へと走り出す。

「うおおおおおおッ!」

上空へと跳躍したクリスは、ガトリングとミサイルポッドを展開すると、ぐるぐると回転しながら一斉掃射し始めた。

(ソロモンの杖がある限り、バビロニアの宝物庫は開いたままという事か──ッ!)

「デェェェーーースッ!」
「く……ッ!」
「ッ! 爽々波ッ!」

呆けていた翼へ横薙ぎに振りかぶられた鎌を、純は二人の間に割って入り盾で受け止める。

「こうするしか……何も残せないんデスッ!」
『そうそう、それそれ。そのまま抑えていてください。後は彼女の仕上げを御覧じろッ!』

切歌の鎌に動きを封じられた純へと、未来が標準を定める。

「おのれ卑劣なッ!」
「翼先輩ッ! その子を連れて離れろッ!」

すると未来は、展開していた鏡を折り畳み、こちらに背を向け飛び去って行く。

「な……フェイントッ!」
「一体何処へ……」
『いけないッ!』

発令所の了子が、慌てた声で叫ぶ。

『未来ちゃんはおそらく、フロンティアの封印を解除するつもりよッ!』
「ッ!?」

未来は海上を飛び、どんどん進んでいく。
純は切歌に動きを止められ、翼は調を放っておけない。

「このままじゃ振り切れねぇッ! 翼先輩、早くッ!」
「……すまない爽々波、ここは──」

その時、空母のすぐ傍から水柱が上がった。

水柱を裂いて中から現れたのは……スーツを着た忍者だった。

「調ッ!」
「緒川さんッ!」
「人命救助は僕達に任せてッ! それよりも翼さんは、未来さんの補足をッ!」
「緒川さん──お願いしますッ!」
「切ちゃん……」

降り立った緒川が調を抱え、海面を疾走して空母を離れる。

「ッ!? 水上を……ッ!?」

直後、切歌の鎌の柄を蹴り上げる。
動けるようになった純は切歌の腹に蹴りを入れて後方へと吹っ飛ばすと、翼の方を振り返る。

「この子は俺が。行ってくれッ!」
「任せたッ!」


翼はカタパルトに乗り、刀を突き立ててロックを破壊すると、そのまま隣の艦へと向かって飛んだ。

「く……ッ!」
「さて、これでタイマンだ。この前の借りを返させてもらうぜッ!」

純は右腕に盾を装着し直し、切歌を真っ直ぐに見据えた。

ff

振りかざす鎌を尽く盾で防ぎ、素早い踏み込みから繰り出す拳には、アキレウス由来の堅さが加わり当たれば結構しんどいデス……。
デスが……アタシは負けられないのデスッ!

(アタシが消えてなくなる前に……やらなくちゃいけない事があるデスッ!)

「ぜああああッ!」
「うりゃあああッ!」

盾をナックルとした剛拳を繰り出す、その瞬間。
鎌の柄を利用して、アタシは高飛びの要領で金髪のアイツの頭上を取る。

「マスト……ダァァァァァイッ!」
「ッ!? こいつは……ッ!」

間髪入れずに両肩のアンカーを射出。鎖で金髪の身体を縛り付けて拘束する。
厄介な盾を封じた今なら、確実に……ッ!

「やるデス……ッ!」

動けなくなった対象を、後方を向いた肩アーマーの裏にあるバーニアで加速しながら、ギロチン型に変形させたイガリマの刃を蹴り込んで両断する。
まさに必殺の一撃、鎖を引き千切らない限り逃げることは出来ないッ!

断殺・邪刃ウォttKKK(だんさつ・じゃばうぉっく)

決まったッ!

と、そう確信した瞬間だった。

「うおおおおおおおッ!!」

金髪は両脚の裏にローラーを展開させて、高速スピンでアンカーごと鎖を引っこ抜き、ギロチンを伏せて躱しやがったデスッ!?

「お前は、何を求めて──」

巻き付いていた鎖を回転の勢いで振り払い、金髪は構える。

アタシが何を求めるか、デスと?

そんなもの……あの手紙を書いた瞬間から決まっているのデスッ!

「アタシがいなくなっても、調には忘れてほしくないんデスッ!」

アタシが生きた証を……大好きな調やマリアやツェルトやセレナとの思い出を、未来に繋ぐためにッ!

アタシはもう、立ち止まらないッ!
そう決めたんデスッ!!

「君が何を言っているのかは分からない……。だが、君が自棄になっているのだけは分かるッ!」

な……ッ!?

今、コイツ何て言ったデスか……?

「アタシがやけっぱちを起こしてるって言うんデスかッ!?」
「ああッ! まるで余命を宣告された癌患者が、自棄を起こして酒に逃げるような……。君からはそんな焦燥を感じる……」
「で、デタラメデスッ! アタシを揺さぶろうったって、そうはいかないデスッ!」
「だったら、どうして肩が震えているんだ?」
「──ッ!?」

頬を冷や汗が伝うのを感じる。

金髪はまるで、アタシの心の中を見透かしているかのような目で言い切った。

なんデスか、こいつの目は……こいつの言葉は……ッ!?
……やめろ……そんな事言われたら──

「怯えているんじゃないのか? 迷っているんじゃないのか?」

アタシは……アタシのしていることを──

「君は本当に……それでいいのか?」

やめろ……やめろ、やめろ、やめろやめろやめろやめろやめろぉぉぉぉぉーーーッ!

「ふざっけんなッ! そんな目でアタシを見るな……アタシの覚悟を否定するなぁぁぁぁぁッ!!」

アームドギアを持ち直し、力任せに振りかざす。
金髪は振り下ろされる刃を表情一つ変えずに、まるでダンスでも踊るかのように躱しながら、アタシの顔を真っ直ぐに見つめて言った。

「断るッ! 君が本心を叫ぶまでは……君が君自身の心に従うまではッ! 俺は語りかけるッ! 何度でもなッ!」
「わあああぁぁぁーーーッ!」

激情の獄鎌と、優美なる颯鎧。
相反する二つの武具がぶつかり合う激しい音が、戦場に響き渡った。

ff

「少女の歌には、血が流れている……。ククク、ヒトのフォニックゲインにて出力を増した神獣鏡の輝き──これをフロンティアへと照射すれば……ッ!」
「今度こそ、フロンティアに施された封印は解除される──」

己の野望がもうじき達成される。
その高揚に胸を躍らせ、ウェルはほくそ笑んだ。

「ごほっ、う……ごほッごほ──ッ!」
「マムッ!」

咳き込むナスターシャ。
その手と口からは、真っ赤な血が滴っていた。

「ドクター、マムをッ!」
「いい加減、お役御免なんだけど……。仕方ない」

ウェルは面倒臭そうな顔をしながらも、ナスターシャの車椅子と共に下降していった。

残されたのはマリア一人。
エアキャリアを動かし、シャトルマーカーの射出を実行できるのは、これで彼女ただ一人だ。

「私がやらねば……私が……ッ!」

ff

「神獣鏡のエネルギーは、聖遺物由来の力を分解してしまう……ッ!」
「それじゃあ、シンフォギアじゃ防げないってことッ!?」

藤尭くんも友里ちゃんも、シェンショウジンへの対処法が見つからなくて、焦っちゃってるわね……。

流石は最弱にして最凶のシンフォギア……確かに翼ちゃん達では太刀打ちできないわね。

でも……幸運と言っていいのか、それとも不幸中の幸いなのか……。
一つだけ、今の未来ちゃんに対抗する手段がある。

提案するには憚られるけど、死の五言ってられる場合じゃないわッ!

「この聖遺物殺しをどうやったら止められるのか……ッ!」
「……弦十ろ──」

弦十郎くんに言いだそうとした、その時だった。

「師匠ッ!」

わたしより先に口を開いたのは、響ちゃんの方だった。

ff

「邪魔をするなぁぁぁッ!」

小日向を追いかけるも、ノイズ共が邪魔をして中々追いつけない。

既に小日向は、フロンティアを浮上させる準備に入っているのだろう。
急がなければ……ッ!

「ッ! はぁ……はぁ……」

周囲のノイズを全て打倒し、護衛艦の一隻に着地する。

息を整え、ふと足元に目が行った。

既に炭素の塵ばかりが積もる甲板。そこにあった炭は、まだ人の形を保っていた。

伸ばした手の中に握られていたのは、熱で変形したロケットだ。

そこには、さっきまでこの手の主だったであろう兵士と、彼に抱えられた小さな女の子の写真が入っていた。
おそらく、父娘だったのだろう。

この兵士は、故国に暮らす娘が平穏に暮らせる世界を守ろうと、戦場に立つことを決意したに違いない……。
それなのに、こんな……こんなところで……遺骨すら遺さずに……ッ!

「分かっている……。すべては私が未熟だったばかりに……ッ!」

あの時、スカイタワーにもっと早く急行できていれば、小日向が敵の手に落ちることもなかった。

あの夜、カ・ディンギル址地でウェルを抑えられていれば、このような事態にならずに済んだ。

全ては私が至らなかったばかりに……ッ!

……この責任は必ず果たす。

たとえそれが、恥辱と誹られることになろうとも……私は……ッ!! 
 

 
後書き
調ちゃんをお姫様抱っこで水上ダッシュする緒川さんカッコ良すぎかよw

今回のハイライトかー……。
やっぱり、純くんに心を見透かされて余裕なくす切ちゃんかな?
純くん、OUJIってだけあって……というかあのクリスのツンデレを無効化するだけあって、相手の心情を察するの得意なんですよ。
そんな純くんを自暴自棄になってたあの時の切歌にぶつけるんですから、そりゃあ尚更余裕なくなりますよ。語尾からデスが消えるくらいには。

そして翼さん、どんどん曇って揺れ動く。
何やら決心を固めたようですが、果たして……?(ヒント、シーン差し替え)

次回は遂に、翔ひびvs未来さん!
YOMEこと393を相手に、翔ひびはどう戦うのか。
無印編からずっとこの瞬間を案じていた皆さん、ようやくこの時がやって来ました。
翔くんを、響を、そして未来さんを、どうか見守ってください! 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧