戦姫絶唱シンフォギア~響き交わる伴装者~
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第31節「愛の力」
前書き
お久しぶりです!
fgoとリリなのコラボが重なってしばらく更新できなかったこと、心よりお詫びいたします。
ストーリー終わったし、更新速度はそろそろ元に戻るかなと思いますので、ご安心を。
さて、今回は書きながら英雄故事の回に二言だけ台詞追加しました。
特に内容に変化があるわけではありませんが、気になる方はご確認ください。
さあ、とうとうウェルからあの名言が飛び出します。例のツッコミの準備はいいな?
推奨BGMは『Bay-Bay lullaby』、『歪鏡・シェンショウジン』です。
それではお楽しみください。
「──未来ッ!」
響の叫ぶ声が、発令所内に響く。
「まさか──未来くんだとッ!?」
「アウフヴァッヘン波形、照合。神獣鏡ですッ!」
「LiNKERを使ったのかッ!?」
「間違いないわね……。考えうる中でも最悪の展開よ……」
あちらがLiNKERを使用していることは判明済み。
原因を予想するのは簡単だったが、とても喜ばしくはない。
「ッ! ツェルトはッ!?」
翔が思い出した様に叫ぶと、藤尭は間もなくツェルトを発見する。
「アウフヴァッヘン波形、微弱ですが海上にもう一種……エンキドゥですッ!」
「バレたのかッ!? あいつ……」
「すぐに回収しろッ! ノーチラスを浮上させるんだッ!」
仮設本部が海面へと浮上していく。
それから間もなく、海上で気絶していたツェルトは医務室へと運び込まれた。
ff
「神獣鏡をギアとして、人の身に纏わせたのですね……」
「マム! まだ寝てなきゃ!」
病に冒された老体に鞭打ちながら、ナスターシャは車椅子、《Powerful_2》を副操縦席にコネクトする。
以前まで使っていた《Technical_1》はスカイタワーからの脱走の際、鹵獲による技術解析を防ぐ目的で自爆させてしまった。
そのため、出力と引き換えに一部の機能が制限され、ぽかぽか機能もオミットされてしまっている《Powerful_2》では冬場の冷たいのが地味に堪えるのだが、今は寒さ程度に気を取られている場合ではない。
「あれは、封印解除に不可欠なれど、人の心を惑わす力──あなたの差し金ですね、ドクター」
「フン……使い時に使ったまでのことですよ。マリアが連れてきたあの子は、融合症例第1号の級友らしいじゃないですか」
ナスターシャに睨まれながら、ウェルは悪びれもせずにそう言った。
ツェルトが格納庫で見つけてしまったのは、後頭部と背中の一部に端末を接続され、LiNKER漬けにされた未来が入れられたカプセルだったのだ。
「リディアンに通う生徒は、シンフォギアへの適合が認められた装者候補たち……。つまり、あなたのLiNKERによって、あの子は何もわからぬまま、無理やりに……」
「んんんん~ッ、ちょぉ~っと違うかなぁー?」
人差し指で額をつつきながら、ウェルはやれやれ、とでもいうかのように肩を竦める。
「LiNKER使って、ほいほいシンフォギアに適合できれば、誰も苦労はしませんよ。装者量産し放題です」
「なら、どうやってあの子を?」
ナスターシャの方を見ながら、目を見開いたウェルは質問への答えをこう語った。
「愛、ですよッ!」
「何故そこで愛ッ!?」
余りにも予想外、かつ突拍子もない回答に困惑するナスターシャ。
対するウェルは絶好調。興奮のあまり、両腕を開いて体を反らしていた。
「LiNKERが、これ以上級友を戦わせたくないと願う想いを、神獣鏡に繋げてくれたのですよッ! やばいくらいに麗しいじゃありませんかッ!」
目的の為なら個人の愛情さえ利用する。
手段を選ばぬウェルの魔の手は未来の想いを歪め、彼女を無垢にして苛烈なる最凶の駒へと変えてしまっていたのだ……。
ff
シェンショウジンの脚部パーツがつま先から順に開き、未来の身体が宙に浮かぶ。
そしてその手には、笏のようなメイス状のアームドギアが握られた。
「おおおおおおおおおおおッ!!」
後頭部に接続された、レンズのような端末がジャコっと稼働し、未来は雄叫びを上げる。
「──小日向が!?」
「何でそんなカッコしてんだよ……ッ!?」
「あの装者はLiNKERで無理やりに仕立てあげられた消耗品……。私たち以上に急ごしらえな分、壊れやすい……」
「ふざけやがってッ!」
俯きながら語る調に、クリスは上空のエアキャリアを睨みつけた。
『……行方不明となっていた、小日向未来の無事を確認。ですが──』
『無事だとッ!? あれを見て無事だと言うのか? だったらあたしらはあのバカに何て説明すればいいんだよッ!』
通信機越しに聞こえてくる、クリスの悲痛な声。
「響ちゃん……」
「F.I.S.……なんてことを……」
友里、藤尭も響の方を見て歯噛みする。
声も出ない響。その視線はモニターの中の未来に注がれていた。
ガシャッ ヴゥゥゥン……
閉じたバイザーが不気味に光り、未来は動き始める。
「雪音ッ、来るぞッ!」
「こういうのは、あたしの仕事だ!」
調を放すと両腕を交差させ、愛用のボウガンを用意し、クリスは走り出す。
「でやあああっ!」
「援護は任せろッ!」
生存者確認を終えた純も走り出し、盾を構える。
高速で接近しながら、手にした武器でビームを放つ未来。
跳躍して避けたクリスは、アームドギアの引き金を引く。
「挨拶無用のガトリング ゴミ箱行きへのデスパーリィー One, Two, Three 目障りだ──」
〈QUEEN'S INFERNO〉
クロスボウから発射される光矢の雨を素早く避け、未来は海上へと出る。
『未来ちゃんのシェンショウジンは、光起電力効果、及びビーフェルド・ブラウン効果によるイオノクラフトを実現しているようね』
「つまりはどういう事だ?」
『シンフォギアで唯一、エクスドライブモードなしで飛行できるって事よッ!』
「なるほどそいつは厄介だッ! まずは空から下ろさなくちゃあ……なッ!」
盾がサーフボード状に変形し、純は海上を滑るように移動しながら未来へと突撃する。
クリスもまた、未来を追って空母から護衛艦へと乗り移った。
見守る翼。その隙を突こうと──
「隙あり──じゃないデスね……」
鎌を振りかざそうとした切歌だったが、翼は一瞬で回り込み、再び切歌の喉元へと刀を迫らせる。
逃げる隙など無い。切歌はそう確信し冷や汗をかいた。
(すまない……雪音、爽々波)
本来動くべきは年長であり、鎮圧に秀でた自分だ。
動けない自分に、そしてこの辛い役目を後輩二人に押し付けてしまう形になってしまったことに、翼は顔を曇らせた。
海上ではクリスの矢を掻い潜って滑空する未来を、純が波に乗って追いかけている。
「イ・イ・子・は・ネンネしていなッ!」
〈BILLION MAIDEN〉
護衛艦の甲板に着陸し、クリスはガトリング砲をブッ放つ。
未来はアームドギアの先端から放つビームで応戦するが、被弾数は徐々に増えていった。
「脳へのダイレクトフィードバックによって、己の意志とは関係なくプログラムされたバトルパターンを実行!さすがは神獣鏡のシンフォギア。それを纏わせる僕のLiNKERも最高だ!」
戦いをモニタリングしながら、ウェルは眼鏡の奥で目をギラつかせながら自賛する。
「それでも……偽りの意志ではあの装者たちには届かない」
「ふん」
「くっ……」
モニターから目を背けるマリア。
しかし、ナスターシャに否定されてなお、ウェルの表情にはどこか含みのある笑みが張り付いていた……。
ff
「イチイバル、圧倒しています!」
「これなら……!」
響はモニターをじっと見つめる。
そこには、攻撃を受ける未来の姿が映し出されている。
(ごめん……ごめんね……)
目を背けそうになる響の頭に、翔の手が置かれる。
「翔くん……」
「見たくなければ目を閉じろ」
翔は目を逸らさずに、モニターを見つめ続ける。
「……ううん。わたしが、一番目を背けちゃいけないから……」
「そうか……」
辛くても、それは自分が手を離した結果なのだから。
だから自分が逃げるわけにはいかない。
かつて翔が逃げなかったように、響は逸らそうとしていた目線をモニターへと戻した。
(くっ……やりづれえッ! 助けるためとは言え、あの子はあたしの恩人だッ!)
海上を移動して接近してくる未来。クリスは護衛艦に着地し、また跳ぶ。
海兵隊は手を出す暇もなく、ただ圧倒され、その戦いぶりに注目していた。
波に乗って未来を追跡していた純は、シールドのブースターで加速して未来を追い越すと、その周囲を回り始める。
(女の子を、ましてや小日向さんを傷つけたくはない……。だが、彼女が取り返しのつかない事をしでかす前に、僕達が止めるんだッ!)
高速で未来の周囲を旋回する純。
ボードが立てた波は、やがて水の壁となり、竜巻となって未来を包み込んだ。
「大人しくしてもらうぜッ! 未来ッ!」
〈Splash×サイクロン〉
上空へと巻き上げられ、哨戒艦の甲板まで飛ばされる未来。
クリスも哨戒艦に戻ってくると、ミサイルポッドを展開した。
「硝煙が香る薬莢レイン サーカスを踊れ──ッ!」
〈MEGA DETH PARTY〉
甲板から起き上がり、飛んでくるミサイルを避けよう再び空へ向かう未来。
しかし、クリスは未来の頭上へとジャンプし、ガトリング銃で攻撃。
打ち落とされた所にミサイルが次々と命中し、未来は動きを止めた。
「解き放てぇぇぇぇッ!」
(よし、今なら──ッ!)
着地したクリスは、倒れている未来の傍へ駆け寄る。
純も甲板へと上がり、二人で未来のギアを外そうと手を伸ばした、その時だった。
『女の子は、優しく扱ってくださいね。乱暴にギアを引き剥がせば、接続された端末が脳を傷つけかねませんよ』
「「……ッ!?」」
割り込んできたウェルの言葉に、二人が躊躇ったその一瞬で未来が起き上がる。
未来がアームドギアを構えると、先端の丸鏡にクリスと純の姿が映る。
そしてメイスは扇のように広がると、円を得げくように配置された丸鏡からビームを乱射する。
「避けろッ! 二人ともッ!」
「くッ!」
〈閃光〉
かろうじて避けた二人は、未来から距離を取る。
「なんだ、そのちょせぇの!」
「…………」
未来はアームドギアを収納すると、両手両足を少し開いたポーズを取る。
膝のパーツが折り畳まれて変形し、未来の身体を中心に輪のような鏡を形成。
その姿は神々しさを感じさせるものの、彼女を動かしているそれは凶々しく歪められた感情であり、輝きを操る力でありながらも何処か屈折した不気味さを感じさせる。
逃げようとするクリス。しかし……すぐ後ろには調が居る。
この一撃を避けるわけにはいかない。
「く……ッ」
そして、歪みの旋律が紡がれ始めた。
「閃光…始マル世界 漆黒…終ワル世界 殲滅…帰ル場所ヲ 陽ダマル場所ヲ──」
「デェェェェェスッ!!」
充填される紫色の光が、どんどん強くなっていく。
「だったらぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
クリスの腰のパーツが開き、周囲にリフレクターが展開された。
「返シテ…返シテ… 残響ガ温モル歌──」
〈流星〉
「リフレクターでぇッ!」
リフレクターが集束された直撃を、リフレクターで受け流す。
弾かれたビームは後方へと散り、徐々に艦艇を破壊していく。
「指をすり抜けるキミの左手 私だってキミを守りたいんだ──」
「くっ……ううう……!」
クリスは必死に耐えている。
(イチイバルのリフレクターは、月をも穿つ一撃すら偏光出来るッ! そいつがどんな聖遺物から作られたシンフォギアか知らないが、今更どんなのぶっこまれたところで──)
だが、切歌は焦燥の表情で叫んだ。
「今のうちに逃げるデス調ッ! 消し去られる前にッ!!」
「っ!? どういうことだ!?」
翼が怪訝そうな表情で尋ねるのと、異変が起きたのはほぼ同時だった。
「私は絶対譲らない もう遠くには行かせない こんなに好きだよ ねえ…大好きだよ──」
「──な、何で押されてんだよッ!?」
なんと、リフレクターが少しづつ分解され始めていたのだ。
それと共に、イチイバルの腕アーマーもボコボコと溶解し始め、気泡が浮き出ていく。
「無垢にして苛烈──魔を退ける、輝く力の奔流……これが、神獣鏡のシンフォギア……」
調の言葉の直後、了子の慌てる声がクリスに届く。
『神獣鏡の力、それは聖遺物由来のあらゆる力を分解する凶祓いッ! その光は聖遺物殺しの輝きなのッ! リフレクターが保っている今の内に、急いで退避してッ!』
「何だとッ!? くッ、ぐううう──ッ!」
押され始めるクリス。
「あの忘却のメモリア ぐしゃぐしゃに笑って泣いた日 強く握った手はあったかく…あったかく──」
その時、神獣鏡の輝きとリフレクターの間に、巨大な刀身が壁となって立ち塞がる。
「掴まれクリスちゃんッ!」
「呆けるなッ!」
翼が調を、純がクリスを抱えて走る。
アキレウスの速力と、アメノハバキリの機動力。
それぞれ全速力で加速し、背後より迫る破邪の光から逃げる。
「私は絶対許さない こんな自分を許せない だから戦うの──」
更に、普段は〈天ノ逆鱗〉で使用している巨大剣を、障壁として何枚も連続で出現させる。
すぐに〈流星〉が貫通してしまうため、稼げる時間は二秒と保たない。
何枚も並べれば、稼げる時間もギリギリではあるが一瞬ではない。
(だが、それでもこのまま一直線に逃げ続けたところで、退路はないッ! そうなったら直撃、一巻の終わりだッ!)
(横に躱せば、減速は免れない……その瞬間に巻き込まれるッ!)
((ならば……ッ!))
『追いつかれるッ!』
『みんなッ!』
『緒川ぁッ!』
通信から聞こえる、本部で見守る響達の声。
翼と純が見つけた逃げ道、それは──ッ!
「どん詰まりッ!?」
背後ではなく目の前に突き立った刀身に、クリスが叫ぶ。
「喋っていると……」
「舌噛むぜッ!」
そう言って純はアキレウスのジャッキを最大伸縮し、翼はそのまま刀身を足場として駆け上がった。
二人が刀身を足場に空中を舞った瞬間、神獣鏡の光は全ての壁を真っ直ぐに貫き、穴を穿たれた刀身は海の底へと落下していった……。
「これが神獣鏡の力……」
「シンフォギアに、そして俺達に対する最凶の……」
後書き
さて、いかがでしたでしょうか。
この回、未来さんの顔と言い歌と言いウェルにLiNKER漬けにされてた回想シーンといい、背筋がゾワゾワするシーン多いんだよな……。
ナスターシャ教授の車椅子について、詳しくはシンフォギアG公式サイト用語集をご覧ください。
そんなところにF.I.S.の技術の粋を集めなくてもいいのでは……ってところまでいろんな機能付いてますのでw
ってか《Technical_1》と《Powerful_2》って名前、要するに初代仮面ライダーじゃねぇか!
あとツェルトは無事でした。
どうやって助かったのかは、後々回想で。
ああ、あのシーンがもうすぐそこだ……。世界を揺るがす夫婦喧嘩、『夜に交わる』ではルート分岐の起点になってる部分……。
それでは次回もお楽しみに!
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