魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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最終章:無限の可能性
第243話「反撃の兆し」
前書き
―――何とか、間に合いましたね
―――尤も、ピンチには変わりありませんが
「や、めろ……!やめ、ろぉ……!!」
神夜の懇願染みた声を余所に、トドメとなる理力がそれぞれの神々に集束する。
それを止める術は神夜にはなく、力なく声を漏らすしかなかった。
「終わらせなさい」
イリスの声を合図に、その理力が振りかざされた。
―――その時、二つの光が煌めいた。
「……?」
その僅かな変化を、イリスは見逃さなかった。
洗脳された優輝も同じようで、身構えていた。
だが、それ以上に注目すべき事態が目の前に発生する。
「……何をしているのです?」
振りかざされたはずの理力。
それが、倒れた司達に到達する前に押し留められた。
「………何を……ですか。見て分かりませんか?イリス」
見れば、そこには洗脳されていたはずの祈梨とソレラの姿があった。
二人分の理力による障壁で、何とか攻撃を押し留めていた。
「まさか……洗脳を……!?」
「私の力を……そして、彼女達姉妹神の特徴を見誤りましたね!!」
残滓として体に残っていたイリスの“闇”が打ち消される。
同時に、祈梨の理力が増していく。
「“断て!いかなる干渉さえも!此よりは、我が領域とならん”!!」
言霊が放たれ、幾何学模様が祈梨と倒れた全員を覆う。
その中が一種の“領域”となり、神々の攻撃を防ぎ切る。
「これ以上、やらせはしません!」
そして、その脇からソレラによる理力の攻撃が神々へ襲い掛かる。
「なに、が……?」
それらの様子を見て、神夜は何事かと呟く。
困惑は当然だ。洗脳されていたはずの神二人が、突然味方になったのだから。
「……簡単なカラクリですよ」
その呟きに、ソレラが答える。
「貴方達の洗脳を彼が解いたように、イリスの洗脳は万能ではありません。洗脳されている状態でも、自力で洗脳を解く手段があった。……それだけの事です。祈梨さんの場合は、ですけど」
洗脳されたとしても、自我が完全に消える訳じゃない。
厳密には、洗脳直前に自我を保護する事も出来る。
祈梨はそれを行い、今ようやく正気を取り戻したのだ。
「自力、で……」
「私の場合は、神界における姉妹神の特徴を活かしました。……姉妹、または兄弟として存在する神はお互いを補い合います。片方に異常があっても、もう片方が正常に戻す効果があります。それで、私は正気を取り戻しました」
「………」
状況が状況なため、ソレラの説明は矢継ぎ早になっている。
神夜も完全には理解出来ていなかったが、とにかく正気に戻ったのは分かった。
「けど、二人が正気に戻った所で……」
「はい。私と祈梨さんだけでは、この状況は切り抜けられません。……ですが、どうやら私達だけじゃなかったみたいです」
ソレラのその言葉と同時に、敵の神二人が切り裂かれる。
そこには、天使の輪と羽を持つ、見覚えのある二人の姿が。
「あれは……なのはと、奏……?」
「……“彼”が消えていないのなら、と天廻様は言っていましたが……そこにいたんですね。ずっと、人と共にいたのですね」
そう。なのはと奏が……厳密には、その二人に宿る“天使”がそこにいた。
あれほど、単純な戦闘力でも苦戦していた神々と、二人は互角に戦っている。
それを見て、ソレラは手に自身の武器である杖を顕現させる。
「祈梨さんが耐えきると同時に、私達も出ます」
「“達”って……俺もか?」
「いえ。……覚えていませんか?私の姉、エルナを」
「覚、えてるが……」
ソレラの姉を、神夜は転生する際に見た事がある。
だが、その事を言われても今の状況にはピンと来ない。
むしろ、当時魅了してしまった罪悪感に言葉を詰まらせていた。
「姉妹及び兄弟神におけるもう一つの特徴です。庇護される側は、いつでも庇護する側を呼び出す事が出来るのです」
ソレラが説明すると同時に、祈梨の障壁と競り合っていた理力の攻撃が消える。
そして……
「出番ですよ、お姉ちゃん!!」
ソレラの叫びと共に、一人の女性がソレラの目の前に顕現した。
「あいよ!よく正気に戻ったな、ソレラ!」
「はい!お待たせです!……行きますよ!」
そういうや否や、二人は神夜を置いてけぼりにして神々へと突っ込んでいく。
ソレラの理力が、姉のエルナに流れ込み、強化する。
そして、エルナが理力を拳に纏い、目の前に迫った“天使”を吹き飛ばした。
「お、おい!」
「祈梨さん!皆さんを頼みます!」
「はい!無理しないように!」
「了解!以前みたいな下手をしないさ!」
戸惑う神夜を余所に、状況はさらに変化する。
祈梨が理力で全員を集め、全員を障壁で囲む。
「“此よりは我が領域。何人たりとも干渉を拒む、聖域なり”!我が祈りに答えよ、プリエール・グレーヌよ!」
「っ……ジュエルシードが……!?」
祈梨の声に何故かジュエルシードが反応し、理力が増幅される。
その理力はそのまま神夜達を守る障壁となる。
「……では、後は回復に努めてください。私はイリスの足止めをします」
「……どういう、事なんだ……?」
祈梨もまた、戦場へと向かっていく。
状況を理解しきれない神夜は、戸惑いの言葉を呟くしかなかった。
〈……瓜二つとは思っていました……なるほど、このような事があるのですね〉
「……シュライン?」
その時、目を覚まさない司に握られたままのシュラインが発言する。
その言葉に、神夜は何か知っているのかと聞き返す。
〈預言の内容は覚えていますか?“天に祈る二人の巫女”……天巫女を示すこの言葉は、マスターとあの神を示していたのですよ〉
「あいつも、天巫女だっていうのか……!?」
〈はい。……それも、かつて全盛期のアンラ・マンユを消滅させた、マスターよりも強い歴代最強の天巫女です〉
預言に示された二人の巫女の片割れが、神界の神であるはずの祈梨だったという事実に、神夜は開いた口が塞がらなかった。
「……これは、何が起こっているのかな……?」
「っ、葵!」
そこへ、回復の早い葵が目を覚まし、尋ねてきた。
「見た所、敵だったはずの神が戦っているけど?」
「洗脳を解いた……って言っていたが……」
「……へぇ……」
全容は分からないが、今は味方していると葵は考える。
「とにかく、復帰が優先だね。回復魔法は使える?」
「……あまり得意じゃない。それに、力を奪われたせいで微々たるものだ」
現在の神夜は、転生特典を全てソレラによって消されている。
そのため、残っているのは転生後に鍛えた結果得た魔力と魔法だけだ。
「十分。目を覚まさせさえすれば、意志の持ちようで何とかなるよ」
今やるべき事を葵は優先して行う。
葵の言う通り、目を覚ませば意志次第で傷はどうにかなる。
実際、葵もいつの間にか傷を完治させていた。
「多勢に無勢には変わりないから、少しでもこちらの戦力を回復させないといけない。ほら、分かったなら早く!」
「あ、ああ!」
いつもの気楽な口調ではない、真剣な口調な葵。
そんな葵に従うように、神夜も拙い回復魔法を皆に使い続けた。
「(シャマルちゃんを最優先に回復。次点で司ちゃんかな。とにかく、今味方してくれている間に何とかしないと……!)」
味方しているとはいえ、葵は祈梨達を信用していない。
何せ、最初の時点で仲間のフリをしていたからだ。
だからこそ、皆の回復を急いでいた。
……一方、祈梨達の方では……
「シッ!」
「はぁっ!」
なのはと奏の体を借りた“天使”が、襲い来る別の“天使”をカウンターで倒す。
その様子を、イリスが忌々しそうに見つめていた。
「一体……一体どうやって、正体を隠していたというのです……!?彼の記憶を見たというのに、一切の痕跡が………まさか……!?」
何かに気付いたようにイリスは優輝に振り返る。
「……あの状態でも、決して記憶を覗かれないようにしていたというのですか……!」
そう。優輝は完全に洗脳される寸前、イリスに記憶を読み取られるのを予期し、読み取られないようになのはと奏に宿る存在について何も知らないように隠蔽したのだ。
あの時、優輝が薄く笑みを浮かべていたのは、これが理由だったのだ。
「……数が多いですね」
「ええ。でも、悠長に相手をしている暇はないですよ」
“天使”二人は、背中合わせとなって敵を迎え撃つ。
接近してくる者はカウンターで吹き飛ばし、遠くからの攻撃は躱す。
躱せそうにない広範囲攻撃は、圧縮した理力をぶつけ、上手く凌いでいた。
「手数を増やします。12秒持ち堪えてください」
「分かりました」
奏の方の“天使”がそう言って、一時的に戦闘をなのはの方の“天使”に任せる。
「アレンジ・ガードスキル“ハーモニクス”」
分身を生み出すスキル、ハーモニクス。
奏に宿る“天使”はそれをアレンジし、特殊な方法で分身を生み出した。
分身自体は、本来のハーモニクスと同じだ。
違うのは……
「……これ、は……?」
生み出された分身は、紛れもない奏本人だと言う事だ。
以前まで奏と“天使”が分離する事はなかったが、ここに来て“天使”が完全な自我を取り戻した事で、こうして分離させて意識を分身に移す事が出来たのだ。
「状況理解は私が写した知識と記憶で理解しなさい。貴女は、他の人の治療へ。……それと、これを返しておきます」
そう言って、“天使”はエンジェルハートを奏に投げ渡し、飛んできた理力の砲撃を理力を纏った手で逸らす。
同時に、肉薄してきた敵の“天使”に理力の剣を突き刺した。
「きっかり12秒。上出来です。ルフィナ」
「準備は終わりましたか?ミエラ」
「はい。後は任せます」
そう言って、奏に宿っていた“天使”……ミエラは奏を転移させる。
転移先は、祈梨が張った障壁の内側だ。
祈梨の張った障壁は、飽くまで敵対者の干渉を防ぐものなので、ミエラの転移は阻まれる事なく成功させた。
「ッ!」
「せぇりゃっ!!」
そんな二人に、新たに敵が襲い掛かる。
しかし、そこへエルナによる横槍が入る。
「洗脳された連中は私とソレラに任せな!……悪いけど、イリスとあいつには戦いになる気がしない。そっちは任せる!」
「了解です。そちらもお気を付けて」
エルナとソレラをその場に置き、ミエラとルフィナはイリスへと攻撃を仕掛けた。
「っ……邪魔はさせませんよ……!私が欲しいのは彼だけです!“天使”の貴女達には用はありません!」
「“闇の性質”らしい独占欲ですね。それとも、単なる嫉妬ですか?」
「黙りなさい!」
理力の剣が“闇”に防がれる。
ここで司達と違うのは、“闇”が押されていた事だ。
追撃を行えば守りを破れる程、刃が“闇”に食い込んでいた。
「っ、っと……!」
「ミエラ!」
“闇”が触手の棘となり、ミエラを襲う。
しかし、後方からルフィナが理力の矢で撃ち落とした。
「(私達のみでイリスを打倒するのは至難の業。加え、今は……)」
「彼女達を倒しなさい!」
「(相手は一人ではない……!)」
そこへ、優輝も参戦する。
こうなると、イリスを相手にしていられないと、二人は確信する。
そもそも、二人掛かりで片方を相手出来るという戦力差と二人は見ている。
そのため、イリスと優輝を同時に相手する事は出来ないのだ。
「ッ……!」
ミエラが優輝の剣を防ぐ。
導王流の極致の恐ろしさは、奏を通して知っているため、不用意に反撃はしない。
「『イリスは任せます!』」
「『では、そちらは任せますよ!』」
二対二では勝てない。
それでも、一対一に持ち込めばしばらくは持ち堪えられる。
司達の回復までの時間を稼ぐためにも、勝てない戦いに二人は挑む。
「ふっ……!」
理力による二振りの剣で、ミエラは優輝と斬り合う。
優輝からの攻撃を防ぎ、反撃を繰り出す。
だが、それはあっさりと受け流され、逆に反撃される。
その攻撃を、ミエラは視線すら向けずに理力の障壁を部分的に展開して防ぐ。
「(まともに戦えば無事では済みませんが、戦い続けるだけなら可能です……!)」
導王流の極致と渡り合う事において、重要な事がいくつかある。
一つは、導王流にある程度対応出来る戦闘技術。
もう一つは、カウンターに反応出来る反射神経及び身体能力。
特に、後者は高ければ高い程、対処がしやすくなる。
ミエラは高い戦闘技術に加え、身体能力で優輝と同等近くになっていた。
これにより、奏以上に今の優輝と渡り合えていた。
「(まだ全力に程遠いですが……これなら……!)」
ミエラとルフィナ本人しか知らない事だが、二人はまだ全力ではない。
否、全力を出せない状態なのだ。
本来であれば、身体能力は今の優輝を上回る。
しかし、存在そのものは分かたれたとはいえ、今は奏となのはの体を使っている。
リミッターの外れていない二人の体では、過剰出力による負担から神界の“天使”としての本気は出しきれないのだ。
「レイジングハート、身体保護に全てのリソースをつぎ込んでください。……少々無茶をします。貴女の主、なのはさんへの負担を減らすためにも、今は私の言う事を聞いてください」
〈……Yes,Ms〉
「ありがとうございます」
一方で、ルフィナはイリスへと矢を放ちながら、攻撃を避け続けていた。
その際に、レイジングハートに体の保護をお願いする。
レイジングハートの補助があれば、多少はルフィナの力も引き出せるからだ。
「彼すら決死の覚悟でなければ敵わなかった私に、たかが“天使”一人で敵うとでも思いですか!?」
「可能性はゼロではありませんよ……!」
迫りくる“闇”の触手を、ルフィナは“天使”の羽を羽ばたかせ、回避する。
躱しきれないものは矢で相殺または理力の障壁で逸らす。
そして、攻撃の波を掻い潜るように矢をイリスに向けて射る。
「ッッ……!」
“バチッ”と“闇”によって矢が相殺される。
直後、ルフィナは触手を掻い潜って肉薄する。
「我が身は明けの明星、曙の子。地に投げ堕ちた星、勝利を得る者!」
―――“明けの明星”
間合いに入ると同時に、攻撃を誘い込む。
そして、その攻撃を寸での所で回避し、理力を圧縮した光の弾を放った。
寸前でイリスは“闇”の障壁を張ったが、ルフィナを攻撃はそれを打ち破った。
「くっ……!」
「はぁっ!」
そのままルフィナは理力の剣を振るう。
しかし、近接戦に持ち込んでもイリスの攻撃の物量は変わらない。
波のように“闇”が差し向けられ、剣とぶつかり合った。
「(目晦まし!?)」
だが、その剣は囮だった。
“闇”とぶつかり合った瞬間にイリスの視界は閃光に染められる。
すぐに気配を頼りにルフィナの位置を割り当てる。
「そこですね!」
「ッ、そう上手くは行きませんか……」
ルフィナはイリスの背後に回り込み、弓矢を撃ち込んでいた。
しかし、イリスの察知の方が早く、結局防がれてしまった。
「(かなりの速度と威力を出しているというのに……やはり、存在を分かたれたばかりなために、出力が出しきれないようですね)」
それ以上踏み込んだ攻防は、今のルフィナには出来なかった。
ミエラもルフィナも、このままではジリ貧だろう。
「っ!?」
その時、横合いからイリス目掛けて極光が飛んできた。
咄嗟にイリスは“闇”で防いだが、その分ルフィナの攻撃を防ぎきれずに被弾する。
「お二方共、イリスの相手は私に任せてください!」
「っ……ええ、分かりました!」
極光を放ったのは祈梨だ。
シュラインに似た形状の理力の槍を手に、いくつもの魔法陣を携えている。
滲み出る理力は、他の神や“天使”が気圧される程に強い力を感じる。
「一時的なものですが……司さんも良い働きをしてくれました」
「……世界そのものの“領域”を、受け継ぎましたか」
「ええ。同じ天巫女ならば、受け継ぐ事ぐらい容易です」
現在の祈梨は、本来の力に加え、司が根源と接続した事による力も持っている。
同じ天巫女だからこそ、効果を受け継ぐ事が出来た半ば反則技だ。
「(……尤も、今なお“領域”はエニグマの箱によって弱り続けている。時間を稼ぐ事は出来ない……ならば、最初から全力でかかる!)」
そして、閃光が煌めく。
イリスの“闇”とぶつかり合い、相殺される。
その規模は凄まじく、余波だけでクレーターが出来上がる。
街にも余波の被害が出ているが、最早そんな事も気にしていられないだろう。
「はぁああっ!!」
「呑み込め!」
極光と闇がぶつかり合い、弾ける。
互いの攻撃は届かず、必ずどこかで相殺される。
拮抗はしており、むしろ祈梨が若干押している程だ。
しかし、弱体化し続けている現状、このままでは祈梨が負ける。
短期決戦を目指そうにも、そう簡単に勝てる程、イリスは甘くない。
「(理想は、他の方が戦いに勝利して加勢してくれる事。……いえ、皆さんが“可能性”を拓いてくれる事、ですね。信じなければ、可能性は掴めない)」
極光と闇が飛び交い、余波で荒れ狂う。
流れ弾とまでは行かないが、余波だけでも他の戦闘に影響は出るだろう。
……だが。
「はっ!!」
「ふっ……!」
それも並の戦いであるならばの話だ。
祈梨とイリスの攻防の余波を掻い潜りながら、ミエラとルフィナは優輝に挑む。
「(攻め切れませんか……!)」
「(これ程の戦闘技術……人の可能性とは、ここまでのものですか……!)」
戦法自体は、椿や葵、奏達が行っていたものと大差ない。
ミエラが前衛を務め、ルフィナが援護をするシンプルな構成だ。
違うのは、その速さ。
ミエラは二刀流で手数を補いつつ、堅実な攻防で導王流のカウンターに対処する。
その正確さは、奏が行っていた移動魔法による回避よりも安定していた。
加え、後方からルフィナが矢を放ち続ける。
偶に、なのはの魔力弾のように誘導弾を放ち、優輝を牽制していた。
「ッ!」
まさに阿吽の呼吸のようなコンビネーションを以って、導王流の極致によるカウンターに、完全に対処していた。
「はぁっ!」
「っ、そこです……!」
火花が散り、カウンターが繰り出される。
最早カウンターは確実に来ると考えているため、ミエラは冷静にそれを見切る。
体を捻り、その場でステップを踏むように回転。
そのまま斬りかかるが、受け流されて蹴りのカウンターが迫る。
もう一刀でその蹴りを斬ろうとするが、逆に受け流され、相殺される。
それを一瞬の間に行い、お互いの体勢を整えるためにほんの僅かな間が訪れる。
「(躱されますか……)」
そこを狙い、ルフィナの矢は予測して放たれていた。
しかし、結局転移で躱されてしまう。
「(僅かとはいえ、隙を作り出す所までは可能。しかし、それ以上踏み込めない……と言った所ですね。現状は)」
「(転移によって、僅かな隙を潰される。でも、だからと言ってその転移を潰すための行動は―――)」
ルフィナが転移を封じるための結界を張ろうとする。
すると、優輝はミエラを無視してルフィナに突撃してきた。
―――“明けの明星”
「(―――確実に、潰してきますね)」
結果、ルフィナは結界を張るのを中断する羽目になった。
優輝の攻撃は一撃目を躱し、カウンターを放たさせた所へ自身のカウンターを合わせる事で、至近距離で相殺。
理力と理力のぶつかり合いで、お互いに間合いが離れる。
「(攻撃性能はそこまで高くありませんが、防御性能に加え、確実に攻撃をいなす事でこちらの足止めがほとんど効かないという事ですね)」
優輝との攻防自体は、そこまで厳しくない。
だが、展開を打開するための一歩が踏み出せない。
転移を封じようとしても確実に妨害され、妨害の妨害を行おうにも、導王流によって確実に受け流されてしまう。
現に、ルフィナに突撃した隙で転移を封じようとミエラも結界を張ろうとしたのだが、優輝は吹き飛んだ体勢から転移し、ミエラの行動を阻止しにかかった。
結局、仕切り直しだ。
「(“倒す”事を目標にすべきではないですね)」
「(戦闘不能に追い込んで洗脳解除。というのはシンプルですが、その方法は取れない……となると、やはり鍵は彼女達ですね)」
相討ち覚悟であれば、二人で優輝を倒す事は可能だ。
しかし、それでは状況は好転しない。
だからこそ、二人は最善の“可能性”を求めた。
「そのためにも……」
「ええ、時間を稼ぎませんと」
時間稼ぎ。
二人の行動は、終始これに尽きた。
「はぁあああああああああああああああっ!!」
「っ……はぁっ!」
一方で、他の神々と“天使”を請け負ったエルナとソレラも苦戦していた。
何せ、二人は特別強い神ではなく、多勢に無勢でもある。
しかし、それでも二人に一切諦めの文字はなかった。
「どうしたぁ!私達程度の神も、倒しきれないのかい!?」
「守り守られし“領域”は……そう簡単に破れません……!例え勝つ事は出来なくとも!負ける事はありえませんよ!」
挑発するように大声で叫び、自らを奮い立たせる。
多数の神を相手に、二人で持ち堪えられるのには理由があった。
一つは、二人が姉妹神だと言う事。
実質的に、二人はそれぞれの“領域”を共有しているのだ。
姉妹だからこその、お互いの“領域”の強化で、二人は本領を発揮していた。
もう一つの理由は、二人の“性質”による。
エルナは“守る性質”で、ソレラは“守られる性質”だ。
ソレラの直接戦闘力の低さはエルナに“守られる”事で補い、エルナ自身もソレラを“守る”ために自身を強化している。
噛み合った“性質”故に相乗効果で強化されているのだ。
それこそ、他の神々の“性質”を受け付けない程に。
「ふっ!!」
遠距離からの攻撃は“性質”を用いた障壁で防ぐ。
肉薄してきた場合は、的確にその攻撃を弾いてカウンターを決めていた。
ソレラは、そんなエルナを理力で強化し、多数相手でも渡り合えるようにしていた。
「(……決定打がないのが難点ですね。元より、私もお姉ちゃんも攻撃に秀でた“性質”ではない。……やはり、皆さんの復帰を待つべきですか)」
エルナの支援の傍ら、ソレラは理力による誘導弾や砲撃で牽制する。
確かに敵の攻撃は防ぎ切っているのだが、こちらからの攻撃も届かないのだ。
ソレラはそれを理解しており、結局司達の復帰を待つしかなかった。
祈梨達の方も自身の相手に精一杯なため、助力は期待できなかったからだ。
「(……イリスは……まだ余裕を保っている……?まさか……)」
攻め手に欠けるとはいえ、ソレラは周りの観察をする余裕はあった。
そのため、イリスがまだ余裕を保っている事に気付く。
「(……余裕の表情……っ、まさか!?)」
そして、相対していた祈梨もそれに気づいた。
直後、イリスが口を開く。
「あの人間達が復帰するのを待っているようですが……こちらの戦力が、今この世界に来ている者だけだとでも?」
「ッ……!増援……!」
「ええ、その通りです!」
イリスが余裕だったのは、まだ追加の戦力があったからだ。
次元世界各地に散らばっている神々だけでなく、神界にもイリスの手先はいる。
その神々が、この世界にやってくるというのだ。
「この世界の“領域”もかなり侵蝕しました。故に、もう大きな穴を開ける必要はなくなりました。ちょっと刺激を与えれば……ほぉら」
地響きのような“揺れ”が、世界全てを覆う。
イリス達がやって来た衝撃とは違う、正しく地震のような“揺れ”だ。
そして、それが収まると、上空に靄のようなものが現れた。
視覚上では靄だが、それこそ神界と繋がる“出入り口”だ。
そこから、新たにイリスの手先が―――
「………あら?」
「……何も、来ない?」
―――来ない。
「ど、どうしたというのです?確かに私は、追加の戦力を置いておいたはず……」
イリスも予想外だったのか、珍しく困惑していた。
そこで、ようやく“出入り口”に人影が見えた。
「(来る……!……いえ、あれは……?)」
見えた人影は二つだった。
片方の影に、肩を貸すようにして出てくる。
「あれって……もしかして……!」
その二つの人影を、障壁内にいる葵達も見ていた。
そして、その片方の人影に葵は見覚えがあった。
それは、優輝が神降しの代償で女性になっていた時の姿だ。
加え、もう片方も容姿が変わってはいたが面影があった。
それは、最早死んだと思われていた人物。
神界に取り残され、孤立していたはずの男。
「なぜ……一体、他の神はどうしたというのです!?」
「―――よぉ。追加の戦力ってのは、後ろで転がってる奴らか?」
王牙帝、そして優奈がそこに立っていた。
後書き
エルナ…ソレラの姉。“守る性質”を持つ。今回登場する寸前まで、正気の神達と同行し、間接的にソレラの洗脳を解いていた。オレンジよりの金髪の髪色で、姉御肌な性格。
プリエール・グレーヌ…ジュエルシードのかつての名前。意味はフランス語で“祈りの種子”。こちらが真名なので、この名前で呼んだ方が力を発揮する。
ルフィナ…なのはに宿っていた“天使”。弓矢や砲撃を用いた遠距離の他、カウンターに秀でている。剣も扱えるが、前者二つ程ではない。
ミエラ…奏に宿っていた“天使”。ルフィナの姉でもある。剣を用いた近接戦に優れており、堅実な戦法で隙を作り、強力な一撃で敵を葬る白兵戦型の戦法を取る。
“守る性質”…ソレラと対になるエルナの“性質”。単純に“守る”事に優れているのもあるが、対となるソレラと共にいる事で、相乗効果で強化される。
ミエラとルフィナの名前は、とある同人ゲームの熾天使からもじっています。
118話でもその要素が大きく出ているので、知っている人は知っていると思いますが。
52話でプリエールの世界の人も“ジュエルシード”と呼んでいましたが、プリエールには“天巫女の遺産”としてしか伝わっておらず、そこへ来た次元犯罪者(クリム・オスクリタ)がジュエルシードと呼んでいたから、そう呼ぶ事にしていた……という事にしておきます(無理矢理)。
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