魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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最終章:無限の可能性
第240話「根源接続」
前書き
場面は変わって八束神社(更地済み)sideへ。
とこよと紫陽が限界を超えながらも戦う一方、八束神社では……
「ぐっ……!」
「アリサちゃん!」
“天使”の攻撃に押され、防御の上から大きくアリサが吹き飛ばされる。
すぐさますずかが氷の霊術で防御と牽制を兼任しつつ、フォローに入る。
「ぅあっ!?」
「こっの……!」
槍で理力の弾を弾くが、間髪入れずに肉薄され、掌底で吹き飛ばされた。
体勢を立て直したアリサがすずかと入れ替わるように斬りかかる。
すずかも踏ん張って体勢をすぐに立て直す。
「ふっ……!」
そして、そのままアリサの背後に迫っていた“天使”の攻撃を防ぐ。
「まったく……!相変わらず、強いわね……!」
「でも、こっちも負けてないよ……!」
「……ええ……!」
背中合わせになり、相手を警戒する。
既に二人共息を切らしているが、完全に負けている訳ではない。
「……発火!」
「……凍結!」
「なに……!?」
二人の言霊と共に、それぞれ対峙する“天使”の体が燃え、または凍った。
どちらも攻撃を防いでいる時に術式を仕込んでいたのだ。
「“炎纏”……開放!」
「“氷纏”……開放!」
「ぐっ……!」
さらに、既に纏っていた炎と氷を開放し、衝撃波とする。
目晦ましにもなるその衝撃波によって、“天使”を牽制し……
「ナイス二人共!」
吹き飛ばされてきて着地したアリシアへの追撃を防いだ。
「射貫け……!!」
そのアリシアが反撃に矢を放ち、アリシアを追いかけてきた“天使”を貫く。
直後、アリサとすずかが目の前の“天使”を無視して、アリシアが攻撃した“天使”へと追撃に移る。
「ちっ……!」
「(通らない……!)」
二人による挟撃だったが、理力の障壁で阻まれてしまう。
「はぁあっ!!」
「っづ……!?何……!?」
だが、さらにそこへ意識外からのフェイトの攻撃が刺さった。
とはいえ、そのフェイトも別の“天使”に追われていた。
そこで、フェイトと入れ替わるようにすずかがその“天使”に肉薄。
カウンターばりに槍の穂先で“天使”の脇腹を切り裂いた。
「邪魔はさせない!」
「ちぃっ……!」
アリサとすずかが相手していた“天使”二人は、アリシアが牽制する。
アリサも空いた手で霊術を放ち、牽制の手助けをしていた。
「“三雷必殺”!!」
「がぁっ!?」
フェイトの攻撃によって、攻撃を受けた“天使”はフェイトへと意識が向く。
そこへ、さらに意識外からリニスによって攻撃が叩き込まれ……
「墜ちなさい……!」
プレシアによる大魔法で、ダメ押しされた。
「はぁっ!」
「そこっ!」
意識外からの連続攻撃によってその“天使”は倒れた。
しかし、それを確かめる暇もなく、アリサ達は次の“天使”を相手する。
「沈め……!」
「上よ!」
「くっ……!」
偶然とはいえ、アリサ達は一か所に集まった。
それを狙って、神の一人が一網打尽にしようと理力の砲撃を放つ。
咄嗟に、それに気づいたプレシアとリニスが相殺しようと砲撃魔法を放つ。
「うぁあああああっ!?」
だが、逸らす事も出来ずに砲撃がアリサ達を襲った。
「この程度か」
「そんな訳ないでしょ!!」
「何っ!?」
その中で、アリシアだけは転移の霊術を用いて背後に回り込んでいた。
転移と同時に斬りかかった事で、意識外から一撃を与える事が出来た。
「だが、たった一人で……ッ!?」
「……一人な訳ないじゃん」
砲撃による砂塵の中から、雷の刃が飛んできた。
それによって“天使”は体勢を崩し、アリシアの持つ槍で串刺しになる。
「貴方達が簡単に倒れないように、私達も簡単には倒れない!」
「ッ……人間が……!」
串刺しにした“天使”をアリシアは蹴り飛ばす。
直後、その槍を避雷針にしたかのように、雷が集中する。
この時、砂塵の中ではアリサとすずかが残っている“天使”の相手をしており、フェイト達は雷の魔法を放っていたのだ。
アリシアは、それらを言葉も交わさずに察知し、“天使”に槍を突き刺したのだ。
椿達によって施された“繋がり”が、こういった連携にも活かされていた。
「ぐっ……ぁああああああああっ!!?」
時を同じくしてはやて達の方では、ヴィータが足を掴まれて振り回されていた。
「が、はっ……!?」
そのままの勢いで地面に叩きつけられ、ヴィータは血を吐く。
「て、めぇ……!!」
だが、その体勢からヴィータは足を掴む手にハンマーを振り下ろす。
少しでもダメージを与えるために。
そして、少しでも自分に意識を向けさせるために。
「その程度、効く訳ないでしょ!」
「っるせぇなぁ……!今に、見てろ……!」
だが“天使”はそれをものともせずに、追撃をヴィータに繰り出す。
それでも、ヴィータは不敵に笑う。
「油断してると、すぐにでもその首すっ飛ぶからな……!」
「負け惜しみを―――」
瞬間、言葉の途中でその“天使”の首が飛んだ。
「やはり、意識外の攻撃には弱いな」
「ったく、だから言ったろ。すっ飛ぶってな」
首を切ったのはシグナムだ。
意識外の攻撃によって“天使”もダメージを受けたのか、よろめいた。
その瞬間にヴィータは拘束を抜け出し、そのまま横殴りで吹き飛ばす。
「シャマル!」
「ええ!」
そこへ、さらにはやてがバインドで拘束。
そして、トドメにシャマルがクラールヴィントを用いて、魔力糸で縛り、そのまま圧迫する事でズタズタに引き裂く。
「『主!後数秒で突破されます!』」
「『わかった!一旦アインスとザフィーラは下がって!』」
相手の数も多いため、はやて達も相応の人数に襲われていた。
その人数をほとんど担当していたのがアインスとザフィーラだ。
ザフィーラが盾を担当し、アインスがそれを支える形で、何とか耐えていた。
その間に他の“天使”を一人ずつ仕留めていく作戦だった。
「まだ倒しきれないか……!」
ズタズタに引き裂いてなお、“天使”は沈黙しない。
反撃の理力の閃光が放たれ、シグナムとシャマルがその場から飛び退く。
「だったら、まとめて潰してやる!」
直後、巨大化したヴィータのグラーフアイゼンに、“天使”が叩き潰される。
「シグナム!」
「わかっている……!」
叩き潰した反動を利用し、ヴィータはその場で一回転する。
その動きで、飛んできた攻撃を回避。
同時にシグナムへ合図を送り、ザフィーラ達を超えてきた“天使”達と対峙する。
「ふっ……!」
シグナムが渾身の一閃を放つ。
しかし、その攻撃は理力の障壁にあっさりと阻まれる。
「(単純な攻撃は、やはり通じないか)」
「ぶち破ってやる!!」
「(そして、“意志”が“概念”を内包した一撃ならば、単純な威力よりも効果を発揮する……主の推測通りだな)」
直後のヴィータの一撃で障壁が破られ、シグナムははやての推測が当たっていた事を確信し、改めて一閃を放つ。
「何!?」
「……つまり、斬れば“斬れる”訳だな?」
「“性質”の片鱗を込めた……!?」
今までとは違ったアプローチの攻撃を、シグナムは繰り出した。
ただ限界以上の力で斬るのではなく、“斬る”と言う意志を込めて斬る。
“意志”が強く影響する今、そうする事で“斬る”という概念や“性質”が込められ、その影響で理力の障壁を切り裂いていた。
「『物理的な力ではなく、信念を込めて行動を為せ!そうする事で、単純な威力以上の効果を発揮するぞ!』」
「『なるほどな……はやての言う通りって訳か!』」
「『承知!』」
すぐさま念話でヴィータやザフィーラなどに伝える。
信念を込めた攻撃や防御は、長年戦い続けてきたヴォルケンリッターにとって、そこまで難しい事ではない。
「ぬ、ぐっ……!ぉおっ!!」
故に、多少の攻撃ならば、障壁を使わずともその身で受け止められた。
攻撃を受け止めたザフィーラは、反撃の拳を鳩尾に突き刺す。
そのままヴィータ達の方へ投げ、トドメを任せた。
「ナイスや!ザフィーラ!」
「盾はお任せを……!」
次々と攻撃をその身で受け止め、蹂躙されるのを防ぐ。
その隙に、後方のはやてが魔法で反撃を繰り出し、他の面子でトドメを刺す。
上手く連携を取って、何とか戦闘を続けていた。
「(小鴉共も何とか戦えているようだな……)」
ディアーチェ達も、上手く連携を取って“天使”と渡り合っていた。
神々の大半を紫陽達が受け持っているため、数ではこちらの方が上だ。
その上で、地力の差で押されている。
「ちぃっ……!」
「このっ……!っ、ボクに追いつくなんて……!」
レヴィが前に出て、スピードで攪乱。
後衛兼指示塔のディアーチェを守るようにシュテルが弾幕を展開する。
そこへ、アリサ達と同じように地上に降りてきたアミタとキリエが、中衛や遊撃を担当し、何とか渡り合う。
数では勝っているからこそ、致命的な所までやられはしていなかった。
「ッ……!?」
「……そう簡単に我を倒せると思うてか?“闇”に染まった輩が、出来るはずないだろう!!シュテル!レヴィ!」
「っと!引っかかったね!!」
「既に準備は終えています。王よ」
ディアーチェを狙う“天使”だったが、その攻撃はあっさりと受け止められた。
その隙はディアーチェが用意した罠であり、そこからの行動は早かった。
まずレヴィがスピードを生かした牽制を繰り出し、動きを制限する。
その間にシュテルが魔法陣を展開し、バインドで拘束した。
「墜ちよ!!」
そして、三人の一斉攻撃が“天使”を焼き尽くした。
「あっちは上手くやったみたいだけど……!」
「一人一体はキツイですね……ッ!」
その間の他の“天使”は、アミタとキリエが請け負った。
だが、当然のように耐え凌ぐ事すら厳しく、攻撃が直撃してしまう。
「っつ……!」
「キリエ!」
吹き飛んだキリエの方に、追撃が迫る。
同じく吹き飛んだアミタには、それを阻止する余裕はない。
「せぇえええええい!!」
だからこそ、代わりに止める者が飛んできた。
「爆ぜて!」
「ぐっ……!?」
“破壊の瞳”が握り潰され、“天使”が爆ぜる。
今までのアミタ達の攻撃よりも明らかに堪えたのか、“天使”がよろめく。
「っ……助かったわ」
「お互い様!ッ!はぁっ!!」
助けに入った緋雪は、もう一人の“天使”に襲い掛かられる。
ここでアミタ達と違うのは、緋雪と“天使”が互角に渡り合えている所だ。
強さで言えば緋雪もかなり強い。
そのため、物理的な強さならば“天使”と対等に渡り合える。
「(一対一なら勝てる!でも、二人以上だと……!)」
それでも、一人が限度だ。
“性質”の効果も合わさり、二人以上が相手だと緋雪も防戦一方になる。
「片方は受け持ちます!」
「任せるよ!」
そこで、アミタとキリエが改めて片方を相手する。
これで緋雪は一対一に持ち込め、互角以上に渡り合える。
「はぁっ!!」
「ぐぅっ!?」
一撃をまともに当て、“天使”を吹き飛ばす。
これにより、緋雪に少しばかりの自由な時間が出来る。
「……見えた」
―――“破綻せよ、理よ”
その時間で、緋雪は他の皆が相手している“天使”や神の“瞳”を捕捉した。
そしてその瞳を握り潰し、全員にダメージを与える。
「シッ!」
それを見届ける事もせず、緋雪はそのまま先程の“天使”を追撃する。
他の事に気を取られれば、すぐに押される。
そのため、目の前の敵に集中し続けた。
「(皆が頑張ってる。……後、もう少しで……!)」
八束神社が戦場になっている最中、司はその渦中にいた。
根源への接続まで、あと少し。
それまで、皆が時間を稼いでいてくれている。
一見優勢に見える戦闘も、かなりの精神を削っている。
押し負けるのは時間の問題だろう。
「このっ……!邪魔を……!」
「させる訳には、いかないよ……!」
「ここで食い止める……!」
司を集中狙いしようとするのは、優輝だけではない。
他の神々や“天使”も、司を狙っている。
それを阻止するため、クロノやユーノが的確に妨害する。
力を失った神夜も、“意志”だけで食らいついていた。
「ッ……!」
その時、司に何とも言えない感覚が襲い掛かる。
全てを内包する大地のような、そんな暖かさ。
それでいて、全てと繋がったような、そんな感覚が。
「(繋がった……!)」
“世界”そのものの根源に、ついに接続した。
司はそう確信した。―――だが
「ッ……ぇ……?」
自我が塗り潰されていく。
当然と言えば当然だ。
一個人が、世界そのものと繋がるというのは、あまりにも身に余る行為だ。
人間でしかない司にとって、自殺行為と大差ない。
「ぁ…………」
後もう一手。
繋いだ“世界”の“領域”を、皆に共有しなければならない。
個々人で対抗するのではなく、“世界”全体でイリスに対抗する。
それを為す、もう一手が打てない。
「ッッ……!!」
だが、自我が消える、その一歩手前で司は歯を食いしばり、踏み止まった。
「(優輝君を……助けるんだ……ッ!!)」
“意志”を以って、根源と同化するのを阻止する。
消えかけた自我がはっきりと戻り、根源との接続が完了する。
「イリスを倒す……そのために、“世界”の総てを以って、立ち向かう!!」
最後の一手、“世界”に住まう全ての生命の“領域”を共有させる。
根源に接続した事で、司側からアクセスしてそれを為した。
「いい加減……鬱陶しいんですよ……!!」
その時、イリスの相手をする奏となのは目掛け、大規模の“闇”が放たれた。
それまでの攻撃と違い、既に更地になった国守山一帯を軽々呑み込む大きさだ
なのはや奏どころか、その場で戦っている全員を巻き込む。
「ッ……!」
回避をしようと、奏が移動魔法を連発する……その直前で間に合わないと悟る。
なのはも防御魔法で耐えようとするが、それだけでは耐えられないと確信した。
「(それでも、耐え抜く……!!)」
死ぬことはない今なら、それでも耐える事は可能だ。
魂すら焼かれそうな衝撃に、二人は備える。
「『……させないよ』」
だが、その瞬間、イリスの“闇”の勢いが格段に衰える。
「“領域”が……!?」
「撃ち抜いて!」
そして、衰えた“闇”が極光に撃ち抜かれ、相殺された。
「……なるほど、“領域”の共有による対抗ですか……小賢しいですが、理に適った戦術ですね……!」
「……ここからは私が……ううん、この“世界”そのものが相手だよ。イリス!!」
一つの世界において、最も強い“領域”を持つ存在は何になるか。
人はまずありえない。数が多いだけで、“領域”に大した強度はない。
ならば、他の動物か?これもあり得ない。所詮は自然の中で生きる生命だ。
となれば、超常の力を持つ人外の存在か?
しかし、これも違う。妖怪や神などは、確かに強い。
だが、それより強い“存在”がある。
そもそもの話だ。“領域”とは、その存在が持つ周囲への影響力に比例する。
つまり、その世界で最も周囲への影響を与えている“存在”が最も強い。
世界で最も影響が強い……となれば、それは即ち“世界そのもの”しかないだろう。
「(“世界そのもの”で、イリスに対抗する……一人一人だとイリスの“闇”に対抗できなくても、一つの世界が相手なら……!)」
いくら何でも、“世界”を一瞬で蹂躙出来る力をイリスは持たない。
持っているのであれば、こんな態々潰しに来る必要がないからだ。
そこから、“世界”の“領域”であれば対抗できると司は踏んだ。
そして、その“世界”と繋がる事で、“領域”を共有したのだ。
「なのはちゃんと奏ちゃんは他の援護に行って!その間は、私が抑える!」
「うん!」
「分かったわ……!」
そろそろ限界だった二人に代わり、司がイリスと対峙する。
“領域”の強さで言えば、司は今地球上で最も強い。
それこそ、足止めに限界を遥かに超えた優輝すら凌ぎ、さらにはイリスの洗脳すら容易く弾いてしまうだろう。
「ッ……ギリギリ、というべきね……!」
「ホント、後数瞬遅れてたら突破されてたよ」
優輝の相手をしていた椿と葵がそう呟く。
決して司に近づけないようにしていたが、その立ち回りのために劣勢だった。
それでも、何とか凌いでいたのが、こうして結果に繋がった。
「もう阻止する意味はないわよ」
「だから、決着まで存分にやろうか!優ちゃん!!」
既に二人はボロボロ。
だが、山場を一つ越えた事で戦意はむしろ燃え上がっていた。
対し、洗脳された優輝はどこまでも静かに武器を構える。
「(優輝を救うには、後もう一手必要)」
「(次は雪ちゃん。それまで、抑え続ける……!)」
一瞬。認識すら難しいほどの一瞬だけ、緋雪を一瞥する。
なのはと奏がフォローに入り、代わりに緋雪が一度戦線離脱していた。
そう。対抗策は司だけじゃない。
「はっ!!」
「甘いですよ……!」
司の放つ極光と、イリスの“闇”がぶつかり合う。
世界そのものの“領域”が展開されたため、イリス達は相手に地の利が働く土俵で戦うはめとなり、結果的に自身の“領域”を上手く発揮出来ずにいた。
それでも現在の司と互角以上の強さを持っていた。
「(ここまでやって、ようやく拮抗……!洗脳した神の力も借り受けてるんだから、当然と言えば当然なんだけど……!)」
「……まったく、油断はするものじゃないですね……。彼を手に入れて、私も少しは浮かれていたのでしょう……こうして、無駄に足掻かれるとは……!」
司の力を高め、イリスの力を中和している状態でようやく戦いになっている。
その事に司は歯噛みする。
イリスも予想外の出来事ではあったが、既にある程度余裕を取り戻していた。
「……それでも、私の“祈り”で、貴女の“闇”を打ち破る……!」
「そんな事が可能とでも?私の“闇”を破るには、対となる“光”か、彼だけです……!貴女のような人間に破られる程、私の“闇”は浅くありません」
“祈り”によって放たれる弾幕が、“闇”の弾幕に相殺される。
巨大隕石と見紛う“闇”を、極光で相殺する。
一撃一撃が必殺となり、大気を大きく揺らす。
「はぁっ!」
「その程度ですか?」
転移と同時に、“祈り”を込めた槍の一撃を振るう。
しかし、圧縮された“闇”に、その一撃は受け止められる。
「ふっ……!」
「効きませんよ」
そのまま圧縮した天巫女の力を、掌底と同時に解き放つ。
それも“闇”に相殺されるが、槍を掴む手は離した。
「流星よ、昏き闇を照らせ!!」
―――“Reflet météore”
極光が空からイリス目掛けて降り注ぐ。
「ッ……!」
半分以上は“闇”に阻まれたが、その次の一撃で破られる。
ここで、ついにイリスが回避行動を取った。
「(ここっ!!)」
刹那、司が全魔力のリソースを身体強化に注ぐ。
“祈り”の力は共有した“領域”から汲み取り、ジュエルシードを通して発揮しているため、力が尽きる事はない。
「くっ……!」
「ッ(逸らされた……!)」
転移と加速からの渾身の一突きは逸らされる。
だが、同時に防ぎきれない一撃だった事も確認できた。
「(渾身の一撃なら、まともに叩き込めば、徹る!!)」
規模の大きい攻撃は飽くまで牽制にしか役に立たない。
優輝も得意としていた一点突破。それに限ると司は断じる。
「はぁっ!!」
「……確かに、やりますね。ですが」
“祈り”による弾で槍を引き戻す隙を潰し、さらに斬撃のように飛ばす。
それをイリスは不定形の“闇”で払うように弾き、追撃の刺突を受け止めた。
ただの防御ではなく、真っ向からの攻撃同士のぶつかり合い。
一瞬拮抗したが、イリスには余裕があり、司の槍が大きく弾かれた。
「ッ!!」
「この“世界”の力をその身に宿す。確かに強力でしょう」
大きな隙を晒した司は、咄嗟に転移で距離を取る。
その転移の距離を瞬く間にイリスは詰め、司はそれを予測してさらに転移した。
「は、ぁっ!!」
―――“Sacré lueur de sétoiles”
何とか間合いを離し、即座に全力の砲撃を放つ。
「それでも、私には及びません」
「ッ……!?」
……だが、その全力の一撃すら、イリスの“闇”で相殺された。
「(“領域”が弱まってる……もしかして、あの“エラトマの箱”が……!?)」
開戦して間もなく落とされた多数のエラトマの箱。
それの影響で、世界そのものの“領域”が弱まっていた。
司が共有した事で、一度は元の“領域”の強さを発揮していたものの、ここに来てまた弱り始めていたのだ。
「くっ!」
極光が相殺された直後、司目掛けて“闇”の弾幕が迫る。
それを“祈り”の障壁で防ぐが、長時間耐えれずに破られてしまう。
「(考えないと……長期戦はこっちが不利。でも、緋雪ちゃんの“対策”までまだ時間が掛かる。……それまでに、イリスを倒す?それとも……)」
思考が逡巡するも、すぐにそれを断つ。
迷っていれば、負ける。そう考えて司は考えをまとめた。
「(最悪でも、イリスに手傷を与える!)」
このままでは司が不利になるばかりだ。
それまでに、何としてでもイリスにダメージを与える。
自分だけで倒すのではなく、後の人に繋げるために。
「敢えて言いましょうか。……その程度で私に勝てるとでも?」
「……どうだろうね。どの道、私は最後まで諦めない!!」
優しさ故に責を背負い続けたかつての自分とは違う。
誰かに任せるために、希望を繋ぐために、司は戦いを続ける。
例え、勝ち目がないと心では思っていても、自分に出来る事があると信じて。
「“領域”が弱ろうと、強いのには変わりない。……倒して見せる」
強い決意と、強い“祈り”。
それらを纏い、司は再びイリスへと突貫した。
後書き
対となる“光”…イリスが言っていたワード。イリスが神界における“闇の性質”の頂点であれば、逆に“光の性質”の頂点となる神も存在している。今回の場合は、その神を示す。
Reflet météore…“輝く流星”。空から流星の如き極光を降らせられる。極光の数が多い程、魔力消費が大きくなり集束も甘くなる。以前から使えた魔法ではあるが、今回の場合、一撃一撃が山を消し飛ばす威力を持つ。
司の根源接続は、疑似的に世界そのものの“領域”を宿しています。イメージで言えば、一時的に型月で言うアルテミットワンになっています。強さだけなら前回のとこよや紫陽の全戦力より上です。
ただし、秒単位でその強さは下がり続けていますが。
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