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戦国異伝供書

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第八十二話 本山城へその四

「この戦でな」
「ではどうされますか」
 親貞は兄に真剣な目で問うた。
「一体」
「うむ、あの陣は正面から攻めては我等の数では防がれる」 
 前に槍衾をこれでもかと置き後ろには弓矢を持っている、しかも前に浅めとはいえ堀まで掘っていき柵まである。これでは越えるのは無理だった。
 横もやはり堀と柵をもうけそちらへの用心もかなりのものだ、それでは攻めるのは無理かと思われた。
 それでだ、元康はこうも言った。
「今本山家の軍勢を率いているのはご当主殿ではないな」
「ご嫡男の本山太郎左衛門殿です」 
 親泰が答えた。
「あの御仁です」
「見事であるな、そもそも本山家もな」
「我等と縁戚にありますし」
「わしの妹のご夫君でもあるな」
「そうでしたな」
「そのことは後の話であるが。しかしじゃ」
 本山家のその堅固な陣を見てだった、元親はまた言った。
「本山家の状況を見てあの陣を敷く」
「そのご判断がですか」
「よい、土佐に必要な御仁じゃ」
「そう言われますか」
「今は敵だがな、だが」
 元親はさらに言った。
「前や横から攻めるだけではない」
「と、いいますと」
「軍を二つに分ける」
 元親は静かに命じた。
「右はわし自らが率い左は弥五良が率いよ」
「それがしがですか」
「そして鬼の角を攻めるぞ」
「鬼の角ですか」
「そうじゃ、角じゃ」
 元親は親貞に微笑んで答えた。
「これでわかるな、弥八郎はわしの傍らでわしを助けよ」
「それがしは、ですか」
「頼むぞ、よいな」
「鬼の角をですか」
「これより攻める」
 こう言ってだった、元親は軍を二つに分け。
 それぞれ本山家の軍勢に向かった、親茂は紫の軍勢が二つに分かれそうして自分達に向かって来るのを見てまずはこう言った。
「蛇達の様じゃな」
「はい、二匹の」
「その様ですな」
「どうも」
 本山家の者達も若き主に応えた。
「その動きは」
「どうにもですな」
「二匹の蛇がこちらに来る」
「そうした感じですな」
「前から来るか」
「それとも横から来るか」
「わかりませぬな」
 誰もが長曾我部軍の動きをわかりかねていた。
「例えどう来てもです」
「我等の陣は崩せませぬが」
「果たしてどう攻めて来るつもりか」
「わかりませぬな」
「全くじゃ、しかし」
 親茂は彼等の動きを見てさらに言った。
「我等の斜めに来たな」
「そこから攻めてきますな」
「どうも」
「さて、どう攻めてもです」
「この陣は崩せませぬが」
「どうするつもりでしょうか」
「わからぬが攻めて来るなら受けて立つ」
 親茂は毅然として言った。
「皆の者、敵が来ればじゃ」
「はい、槍と弓矢ですな」
「敵が柵と堀の前に来たところで」
「槍を突き出し」
 そうして敵を寄せ付けずというのだ。 
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