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戦国異伝供書

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第五十四話 上洛その十

「勝ちそして」
「降され」
「そしてですね」
「天下を安らかにする為の片腕になってもらいますね」
「必ずや」
「あの御仁は右腕です」
 政虎自身も言った。
「天下を安らかにしてからも」
「その天下を守る為に」
「武田殿にはですね」
「さらに働いてもらう」
「殿の右腕として」
「あの御仁は確かに奸臣です」 
 政虎の目から見れば晴信はそうした者なのだ、特に関東管領となった今は。
「甲斐の守護でありながら幕府の定めに従わず」
「信濃を攻めてご自身のものとされた」
「まさに奸臣ですな」
「幕府に従わぬ」
「殿としては許せないですな」
「はい、ですが」
 それでもというのだ。
「そのお心はです」
「決してですな」
「あの御仁は殿としては」
「悪いものを感じておられませんね」
「そうしたものは」
「心得違いをされているだけです」
 晴信、彼はというのだ。
「ただそれだけで」
「それで、ですね」
「今はですな」
「そのお心違いを正す」
「そうされますか」
「そうします」
 これが政虎の考えだった。
「今度川中島で対せば」
「その時にですね」
「戦いそして」
「勝たれて降され」
「必ず」
「そうします、しかし思うことは」
 それはというと。
「武田殿に勝つことは」
「容易ではないですな」
「そのことは」
「どうしても」
「かなり、ですな」
「若し戦えば」
 実際に干戈を交えればというのだ。
「その時は」
「我等も武田殿も」
「じゃなり傷付きますな」
「そうなりますな」
「どうしても」
「はい、そうなりますので」
 だからだというのだ。
「その時はです」
「我等も覚悟を決めて」
「そうしてですな」
「我等も戦い」
「勝たねばなりませんね」
「そうなります」
 政虎はまた言った。
「必ず」
「ですな、しかしそれはです」
 兼続が言ってきた。
「今ではないので」
「そうです、ですから」
「何時か、ですな」
「少なくとも上洛が終わってからです」
 自分達が今行っているそれのというのだ。
「そして武田殿もです」
「北条殿、今川殿と盟約を結ばれるとか」
「それが確かになって」
 そしてというのだ。
「その時にこそです」
「我等は雌雄を決する」
「そうなるでしょう」
 まさにというのだ。
「その時は」
「そうですか、では」
「その時にこそです」
「武田殿とですね」
「雌雄を決しましょう、その前に」
「これよりですね」
「都に入りましょう」
 政虎はこう言って琵琶湖から離れた、家臣達もそれに続きそれぞれ馬に乗った。
 越後の者達は再び都への道に入った、そうして先に進むのだった。


第五十四話   完


                 2019・6・15 
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