戦国異伝供書
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第五十四話 上洛その九
「そこが弱みです」
「甲斐も信濃も塩が採れない」
「まさにそのことがですね」
「武田家の弱みであり」
「若し塩がなければ」
「その時は」
「米や銭がないことと同じです」
塩がなくなればというのだ。
「そこが問題です」
「ではですな」
宇佐美はそこまで聞いて言った。
「武田殿を攻める時は」
「塩をですね」
「どうするかですな」
「それはしません」
即座にだった、政虎は宇佐美に答えた。
「絶対に」
「塩を止めることは」
「何があろうともです」
晴信が塩のことでどれだけ苦しい状況になろうともというのだ。
「わたくしはしません」
「塩を止める様なことは」
「それをすれば確かに武田殿は苦しみますが」
それでもというのだ。
「しかしです」
「それでもですか」
「民も苦しみますね」
「甲斐や信濃の」
「わたくしの戦は民を相手にするものではなりません」
「民を救うものですね」
「そうです、ですから」
それ故にというのだ。
「ここはです」
「若し武田殿に何かあれば」
その時はというのだ。
「私は甲斐と信濃、そして武田殿にもです」
「塩をですか」
「送られますから」
「越後の塩を」
「そうされますか」
「はい、塩をです」
まさにそれをというのだ。
「そうします、武田殿にも」
「民はわかりますが」
「武田殿ご自身にもですか」
「塩を贈られますか」
「そうされますか」
「はい、武田殿も同じです」
晴信、彼もというのだ。
「敵が弱い苦しむのを楽しむこともです」
「はい、殿はですね」
「されませんな」
「そうしたことは」
「何があろうとも」
「それが武士のすべきことではなく毘沙門天もです」
彼が信仰するこの仏もというのだ。
「されないので」
「だからですね」
「そうしたことはされず」
「そして、ですね」
「是非ですね」
「塩を贈られるのですね」
「そうします」
政虎は家臣達にそれぞれ話した。
「そしてそのうえで」
「戦いそしてですね」
「勝てますね」
「そうされますね」
「武田殿に」
「そうします、そして戦えば」
その時はというのだ。
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