戦国異伝供書
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第四十九話 小田原へその四
「そうだからこそじゃ」
「はい、ここは攻めても」
「駄目とみれば退く」
「そうしましょうぞ」
諸将も応えた、そのうえで沼田城に向かうが幻庵はいざという時の備えもしていた。そうしてであった。
幻庵は自身が率いる軍勢で沼田城に攻め寄せた、そうして城攻めをはじめたがその彼等を見てだった。
景虎は城の者達に対して極めて冷静に告げた。
「出陣します」
「出陣ですか」
「今すぐに」
「そうされますか」
「はい、今が機だからです」
そう見るからだというのだ。
「わたくし自ら出陣し」
「そうしてですか」
「敵を攻めて破る」
「そうされるのですか」
「敵のこれからの動きはわかりました」
今の敵を見てというのだ。
「ならばです」
「これよりですか」
「一気に兵を出して」
「攻めて打ち破り」
「戦を終わらせますか」
「そうします」
こう言ってだ、景虎は言った通りにだった。
城を囲みだした北条家の軍勢に対して正面からだった。
正門を開けて攻めてきた、これには北条の兵達も驚いた。
「何っ、出て来たのか」
「ここでか」
「まさか出て来るとは」
「いきなりとは」
「こんな戦ははじめてじゃ」
「むう、これは」
幻庵もそれを見て言う。
「わしの思っていた以上じゃ」
「まさかいきなり出て来るとは」
「これが長尾殿の戦ですか」
「機を見るとすぐに動く」
「攻めてくる御仁ですか」
「そうした御仁ですか」
「今から攻めようとしたが」
それがというのだ。
「その動こうとした瞬間はな」
「どうしてもですな」
「その瞬間隙が出来る」
「次の瞬間には隙が消えますか」
「武器を構え」
「武器を抜くその時に攻めてきた」
まさに今というのだ。
「これは危ういな」
「左様ですな」
「兵達も浮足立っております」
「すぐに構えましょう」
「一刻も早く」
「さもなければ」
「より攻められてじゃ」
そしてとだ、幻庵はまた言った。
「崩される」
「左様ですな」
「これは危ういですぞ」
「槍を構え弓矢を放ち」
「何とか敵の動きを抑えましょう」
手遅れでもとだ、彼等は言ってだった。
兵達に急いで槍を構えさせて弓矢を放たたせた、しかしそれは最前列にまで及ばずに彼等は景虎が先頭に立つ長尾の軍勢に蹴散らされた。
「駄目だ、これは!」
「退け!」
「これは強いぞ!」
「敵う筈がない!」
瞬時に浮足立った、それで幻庵も言うのだった。
「退く兵達を二陣で収めてじゃ」
「そうしてですな」
「そのうえで、ですな」
「軍勢を退かせますか」
「そうさせますか」
「勝敗は決した」
だからだというのだ。
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