戦国異伝供書
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第四十九話 小田原へその三
先陣の柿崎がまず沼田城に入り景虎が率いる本陣も入った、そうしてから彼は居並ぶ諸将に告げた。
「敵が来ます」
「北条の軍勢がですか」
「来ますか」
「ここで」
「はい、ここでです」
まさにというのだ。
「攻めてきます」
「では、ですか」
「ここはですか」
「我等は」
「この城で」
「戦の用意です、わたくしもです」
景虎自らというのだ。
「必要とあらばうって出ます」
「殿ご自身がですか」
「そうされますか」
「戦となれば」
「うっても出られますか」
「その時が来れば」
そう見ればというのだ。
「そうします」
「ですか、では」
「すぐに戦の用意に入りましょう」
「そしてそのうえで」
「敵を待ちましょう」
「今は」
「そしてです」
さらに言う景虎だった。
「そこで一戦となります」
「では」
「これより」
諸将も応えてだった。
「備えましょう」
「戦に」
これが彼等の返事だった、そうして沼田城に攻め寄せてくる北条家の軍勢を待った。そして実際にだった。
沼田城に北条家の軍勢が向かっていた、白尽くめの軍勢の中に青と赤、黄色、白、黒の北条家の旗五色だんだらがある。その本陣にだった。
真っ白い髭の老将がいた、この度の北条家の総大将である北條幻庵だ。彼は北条家の者達にこう言ってきた。
「沼田城を攻めるが」
「それでもですな」
「無理はせぬ」
「勝てぬと思えば」
「すぐに退きますか」
「そうしますか」
「そうじゃ、この流れはいかん」
今の戦のそれはというのだ。
「長尾家の方の流れじゃ」
「だからですか」
「こうした時はですか」
「駄目だと思えば」
「その時はですか」
「退くのじゃ」
「そして時を待ってな」
そうしてというのだ。
「また攻める」
「そうしますか」
「では、ですな」
「この度は攻めても」
「無理をして攻めることはない」
「そうなのですか」
「その通りじゃ、しかも敵将の長尾殿は」
景虎のことも話すのだった。
「お主達も聞いておろう」
「はい、戦をすれば必ず勝つ」
「見事な勇将の様ですな」
「戦では神がかりなまでに強い」
「無類のいくさ人だと」
「そうした御仁とは迂闊に戦わぬことじゃ」
例え攻めてもというのだ。
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