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戦国異伝供書

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第四十四話 上田原の戦いその三

「火と球を出してじゃ」
「そうしてか」
「敵を倒すというが」
「飛び道具か」
「そうじゃ、元が使ったてつほうの様なものとも聞いておるが」
「あれとか」
「武田はそれを持って使っておるのか」 
 こう思った、だが。
 村上は自分達の軍勢を見た、すると足軽達は皆凄まじい音に驚き動きも考えも止まっていた。それで村上はすぐに落ち着けと言って敵に目を向けさせようとしたが。
 晴信は鉄砲を撃たせると同時にだった、二万の軍勢を一気に進ませた、そうして自らも馬を駆ってだった。
 攻めさせた、だがここで板垣と甘利が晴信に言った。
「お館様、我等にお任せを」
「迂闊に前に出られてはなりませぬ」
「今我等は攻めていますが」
「ここはご自重を」
「しかしここで攻めてじゃ」
 そしてとだ、晴信は自分を止めようとする二人に返した。
「村上の軍勢を攻めてじゃ」
「そしてですか」
「そのうえで、ですか」
「敵を崩し」
「そして勝ちをですか」
「得る時じゃ、また総大将も戦の場におる」
 晴信はこのことも話した。
「そして侍ならな」
「戦の場におるもの」
「だからですか」
「御大将でも」
「ここは前に出られますか」
「そうして攻める」
 こう言ってだった、晴信は自ら前線に出てだった。
 村上家そして小笠原家の軍勢を攻めさせた、戦局は確かに武田家に有利になり兵の多さからも攻めていた。だが。
 村上は軍勢を立て直し槍隊を出してそうして武田の攻めを防いでいた、それで徐々に退いていくが。
 晴信は自ら陣頭に馬をやって兵を攻めさせていた、その彼を見てだった。
 小笠原は兵を退けさせつつ村上に言った。
「村上殿、あそこにじゃ」
「あの兜は」
 村上は小笠原が指差す方を見て気付いた。
「まさに」
「そうじゃな」
「武田殿じゃ」
「うむ、どうする」
「この戦我等の負けじゃ」
 このことは否定出来なかった、最早。
「しかしな」
「一矢報いるか」
「それもまた戦じゃ」
「だからじゃな」
「兵達にあの兜に槍を出させる」
 そうさせると言うのだった。
「あわよくばな」
「そうしてですな」
「うむ、討ち取れれば幸いじゃ」
 こうも考えてだった。
 村上は兵達に晴信に槍を出させた、すると一本の槍がだった。
 晴信の腹を貫いた、それを見て甘利と板垣は咄嗟にだった。
 晴信のところに来てだ、敵の兵達に激しく槍を突き出して退けながらそうして晴信に対して叫んだ。
「お館様、お気を確かに!」
「その傷深くありませぬ!」
「ここは後ろに下がられて下さい」
「そして怪我の手当を」
「ぬかったわ」
 晴信は忌々し気に述べた。
「お主達の言うことを聞いておれば」
「今はそうしたことを言われる時ではありませぬ」
「すぐにお下がり下さい」
「そしてです」
「ここは我等にお任せを」
「そうです、ここはです」
 信繁も晴信のところに来て言ってきた。 
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