戦国異伝供書
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第四十四話 上田原の戦いその四
「下がられて」
「そうしてか」
「傷の手当を、それから」
「あの場にじゃな」
「行かれて下さい」
こう言うのだった。
「この度は」
「ではな、しかしな」
ここで晴信は無念そうにこうも言った。
「お主は言うな」
「はい、軍勢はです」
「退く様にとじゃな」
「今ここに」
はっきりと、という返事だった。
「申し上げます」
「やはりそうじゃな」
「そのお怪我では」
どうしてもと言うのだった。
「これ以上の戦は無理です、そして」
「総大将が退いてはな」
「では」
それではとも言う信繁だった。
「ここは」
「うむ、退こう」
「それでは」
こうしてだった。
晴信は軍勢を退かせた、勝って多くのものを得たがそれでもだった。
彼は軍勢を退かせた、しかし千曲川の北側に降った城がありそこに兵を置いて守りも固めて退いた。
その武田の軍勢を見てだ、小笠原は村上に言った。
「武田の軍勢は退いたな」
「確かにな」
村上も応えた。
「ここにな」
「左様じゃな」
「我等は負けたが」
「軍勢は退いた」
「ならばな」
「ここはよしとするか」
「武田殿に槍が刺さった」
村上はこのことにも言及した。
「その結果じゃ」
「武田殿が怪我を負ってな」
「退いた、しかもじゃ」
「うむ、あの槍の刺さり方を見るとな」
小笠原は確かな声で言った。
「かなりの傷じゃ」
「だからのう」
「武田殿は暫く動けぬ」
「少なくとも武田殿自身はな」
「暫く怪我の手当てをせねばならん」
「だからな」
それが為にというのだ。
「暫くはな」
「こちらは時間が出来た」
「だからな」
それでと言うのだった。
「その間にな」
「我等はしかとな」
「今度武田家の軍勢が来た時に備えよう」
「我等はな」
「そうしようぞ」
「そして万全の用意を整え」
「今度は防ぐぞ」
武田家が攻めてきてもというのだ、それでだった。
葛尾城そして砥石城の守りを固めることにした、そのうえで武田の軍勢がまた来ても防げる様にことを進めていった。
晴信は甲斐に一旦戻った、だが。
傷は深かった、それでだった。
彼はある場所に向かった、そこには甘利や板垣も一緒だった。
「何じゃ、お主達もな」
「不覚を取りました」
「申し訳ないことに」
「それで、です」
「我等もか」
「そうか、ではな」
晴信は彼等の言葉を聞いて笑って話した。
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