ロックマンX~Vermilion Warrior~
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第142話:Anxiety
エックス達がハンターベースに帰投すると、メカニックのダグラス、医師レプリロイドなどのハンターベース職員は息を飲み、科学者のゲイトは表情を顰めていた。
ハンターベースのモニターには、VAVA達に捕われたルナとルミネが映されている。
白と紫を基調としたアーマーを纏うルミネは、モニターの中で、ベースのハンター達を見定めるように正面を向いていた。
珍しい金色の瞳は知性的な輝きと美しさと、どこか冷たい、不可解な不気味さを感じさせた。
「軌道エレベーター・ヤコブの管理官ルミネ…ヤコブ管理官である彼をさらったとなると、イレギュラー達は軌道エレベーターをコントロールするつもりなんだろうね」
暴れるアクセルを強制的にスリープモードに移行させ、何とかアクセルのメンテナンスを終えると何となく敵の思惑を感じ取ったゲイトが不快そうに呟く。
人類が生き延びるための最後の手段“ヤコブ計画”を担うルミネが敵の手中にあるというのは最悪以外の何物でもないだろう。
そして仲間であるルナが囚われの身となってしまったことも最悪以外の何物でもない。
「でも、何のためにそんなことを…」
「それは分からないよ。でもVAVAは、“新しい世界”を創るとか…」
今回は一体何を企んでいるというのだろうか?
VAVAが残した言葉の不可解さ、犯人の真意も実力も明らかではなく、焦燥を禁じ得ない。
だが、イレギュラーハンターの総監であるシグナスは最悪な状況であっても努めて冷静に振る舞う。
「“新たな世界”か…いずれにせよ、奴らを止めなければならない」
司令室にはシグナスやゲイト、エックス、ゼロ、ルイン、アクセル、エイリア、パレット、アイリスがいる。
「………ルナ……」
「アクセル、お前のせいじゃない。気にするな」
「そうだ、誰もあんなことになるなんて予想出来ない」
普段の明るいアクセルからは考えられないくらいに沈んでいるアクセルにゼロとエックスが励まそうとするが、今のアクセルには逆効果である。
「…………予想出来なかったじゃ済まないんだよ!僕の…僕のせいでルナがイレギュラー達に捕まったんだ…!!僕が弱かったせいで…!!」
「アクセル……」
自分を庇って敵に囚われてしまったルナのことを思うと心配で堪らない。
そして簡単に返り討ちにされて、ルナが逃げることも出来ずに死の寸前まで痛め付けられてしまうと言う原因を作ってしまった自分が憎くて堪らないのだ。
「アクセル、あなたの気持ちは分かるわ。でも今の私達ではどうすることも出来ない。今は落ち着いて力をつけて確実にルナを助けましょう」
「アイリス…うん、そうだね。多分ルナは殺されてはいないと思う。私達に対しての利用価値があると分かっている以上は命は取られないはずだよ。だから、アクセル…強くなろう?今より強くなってルナを助けよう!!」
「アイリス…ルイン……分かったよ」
渋々頷いたアクセルに安堵すると、エックス達が食い入るようにモニターを見つめる。
するとアイリスが何かに気づいたのか、モニターに別の映像を映す。
「各地でイレギュラー反応!!8ヶ所で大規模な破壊活動が開始されました!!」
地図上に8つのポイントが灯り、破壊活動を行っているイレギュラーの姿が映し出された。
「破壊活動地域、及びにイレギュラーの情報を入手しました。」
次々に映し出される驚愕の情報に流石のシグナスも驚きを禁じ得ない。
《メタル・バレー》
アースロック・トリロビッチ
《ピッチ・ブラック》
ダークネイド・カマキール
《ドロップ・デッド》
バーン・コケコッカー
《ダイナスティ》
ギガボルト・ドクラーゲン
《セントラル・ホワイト》
アイスノー・イエティンガー
《トロイア・ベース》
オプティック・サンフラワード
《ブースターズ・フォレスト》
バンブー・パンデモニウム
《プリムローズ》
グラビテイト・アントニオン
何とモニターに映る8体のレプリロイドの大半はヤコブ計画に関係する新世代型レプリロイド達であった。
「イレギュラーの大半がヤコブ計画関係者だと?」
「何で彼らが破壊活動を…!?」
「そんなことはどうだっていいよ…!こいつらはルナを拐っていったVAVAの仲間だ…ただのイレギュラーだ!!」
「アクセル…そうですよ…早くルナを助けなきゃ!!いくら生かされてるからってこうしてる間にも酷いことされてるかもしれないですし!!」
昔は顔を合わせるだけで互いに罵声を浴びせ合い、仲裁しようとしてきたエックス達がお手上げになるくらいに険悪な仲であったのに、今ではルナとは趣味を同じくする親友となっているパレットもバレットを携えて今すぐにも出撃しそうな勢いである。
「落ち着いて2人共、今は策を練る時なのよ。ルナが敵に捕われて、イレギュラーが8体もいるのだから…」
「イレギュラーハンターの主戦力であるルナが抜けた穴はかなり大きいわ。今までと同様にエックスとゼロ達ばかりに戦わせるわけにはいかない…」
エイリアとアイリスの言葉はアクセルとパレットに冷静さを取り戻させるのには充分であった。
しかしエックスとゼロは妙に彼女達の発言が引っ掛かった。
「ルナが抜けた穴は私とアイリスで埋めるわ」
「パレット、大変かもしれないけど。あなたに私達全員のナビゲートをお願いしたいの」
「わ、私がですか!?」
パレットが自分を指差しながら驚き、それを聞いたエックス達が慌てる。
「エイリア、何を言ってるんだ!?確かにパレットのオペレート技術は優秀だが、君達も戦場に出ることも含めてあまり賛成は出来ない!!」
「1人で数ヶ所のオペレートをするなど確実にキャパシティオーバーだ。彼女が優秀なのは認めるが…」
「流石に…無理じゃないかな?」
下手をしたらパレットが倒れてしまう可能性があるので、あまりそういうのはさせたくなかった。
「………分かりました。やります!!」
しかし顔を上げたパレットの表情はとても真剣なものであった。
「パレット…いいの?」
「はい、ルインさん!皆さんが頑張るんですから私も頑張らないと!!今は無茶をしてでも早く終わらせないといけない時なんですから!!」
彼女の表情を見て梃子でも動く気配が無さそうなのでエックス達は渋々と受け入れた。
「さて…僕からアクセルについての報告だが…」
空気が少しだけ和らいだのを感じたゲイトはすぐにアクセルのメンテナンスについて報告する。
「何だゲイト?まさかアクセルの体に何か異常でもあったのか?」
「い、異常なんかないよ!僕、全然平気だよ!!」
体を大きく動かして何ともないとアピールするが、ゲイトはアクセルの言葉を肯定するように頷いた。
「確かにボディに関しては何の問題もない。通常通りと言っていい。ただ問題なのはアクセルのコピーチップなんだ。」
「コピーチップだと?」
「どうやらアクセルが額に受けたVAVAの攻撃には最新型のシグマウィルスが組み込まれていたらしい。コピーチップがシグマウィルスに侵食されていた。それでもワクチンプログラムで大体の除去は出来たが、現時点では完全な除去は出来ない。」
その言葉にアクセルは当然としてこの場にいる全員が愕然となった。
冷静であるシグナスやゼロですら動揺を隠せていないのでかなりの衝撃なのだろう。
「う、嘘でしょうゲイト!?」
「嘘じゃない。しかし今は戦力が1人でも欲しい時だ。コピー能力を使わなければアクセルに悪影響が及ぶことはないだろう。アクセル、極力コピー能力は使わないで欲しい。特殊武器入手くらいならコピーチップもあまり使わないから平気だろうが」
「……分かったよ」
不安そうにシグマウィルスに侵されたらしいコピーチップと深く関わっている額のコアに触れるアクセル。
ルナの身を案じている彼はどこか不安定そうに見えた。
彼女の生死が分からない上にどこにいるのかも分からないことが彼の不安に拍車をかけた。
「ルナなら大丈夫よ」
エイリアは安心させるように微笑みながらそっとアクセルの頭に手を置いた。
「え?」
「ルナは大丈夫。証拠も何もないけど、大丈夫だって信じているわ。勿論心配なのは本当。でも、ルナが呆気なく敵の思い通りにはならないはずよ?ただの思い込みだけど、そう思うわ。」
「…うん、そうだね」
「私達も戦うわ、私達は戦えるオペレーターだもの。エックスとゼロ、ルナやあなたやルインには及ばないけど…精一杯戦うわ」
「…うん、一緒に戦おうエイリア…頼りにしてるからね」
「基本的に今回の任務は2人1組で向かえ。そうすれば高確率で任務を遂行出来るようになる。」
「皆さんのナビゲートは任せて下さい!!」
シグナスの言葉とパレットの力強い言葉に全員頷いて出撃準備に入るのであった。
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