戦国異伝供書
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第四十話 上田領有その五
「どういった槍や弓矢、馬もです」
「そして刀もな」
「業物となります」
「そう考えておるからじゃな」
「ですから」
それでというのだ。
「高いものよりも」
「使う者の腕と手入れじゃな」
「馬も草をよく食わせよく教えれば」
「名馬となるな」
「駄馬というものはなく」
ではどうかというと。
「育てればです」
「必ず名馬となるな」
「それがしの馬も」
「同じじゃな」
「はい」
まさにというのだ。
「ですから」
「それも求めぬな」
「はい、ですが」
それでもとだ、幸村は言うのだった。
「それがしは道を進み」
「武士の道をじゃな」
「己を常に高めていきたいです」
「そうじゃな、お主は高みを目指しているな」
「人としてのそれを」
「修行をしてな」
「それがそれがしの望みです」
「そうじゃな、ではじゃ」
「これからもですな」
「お主はその道を歩め」
「それでは」
「はい、では」
「祖父殿達とお会いします」
そして己の考えを話すとだ、幸村は自分よりも年長で落ち着いた顔立ちの兄に述べた。そうして城の中のだ。
真田家の者達の邸宅本丸にあるそれの中で祖父の幸隆と父の昌幸、そして彼の叔父であり昌幸の兄である信綱、昌輝、幸隆の弟でありやはり彼にとって叔父である信伊達の前に出た。そうして深々と頭を下げて一礼した。
彼が顔を上げるとだ、昌幸は彼に優しい笑みで言った。
「いい顔になったな」
「そう言って頂けますか」
「男子三日会わざればというが」
その言葉通りにというのだ。
「また一つ、いや三つは高みに達したか」
「まだまだですが」
「よい、一つずつ達していけばいい」
こう孫に言うのだった。
「それはな」
「左様ですか」
「そうじゃ、それでじゃが」
昌幸は孫にあらためて問うた。
「お主がここに来たのはあれじゃな」
「はい、是非です」
まさにとだ、幸村も応えた。
「武田家にです、我が真田家はです」
「降ってか」
「上田もです」
真田家が治めるこの地もというのだ。
「武田家に入りです」
「そうしてか」
「お館様の下で天下泰平の為につくべきです」
「天下か」
「はい、天下です」
こう言うのだった。
「天下泰平です」
「武田様はそれをお考えか」
「滅多にお言葉に出されませんが」
それでもとだ、幸村は己の祖父そして父や叔父達に話した。その周りには当然ながら兄の信之もいる。自分を見る彼等に話すのだった。
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