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戦国異伝供書

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第三十八話 意識する相手その六

「そうなっています」
「ではすぐにです」
 景虎は使者に答えた。
「この度はです」
「殿にもですか」
「はい、ここにです」
 まさにというのだ。
「来られたいと言われていまして」
「ではです」
「それではですか」
「是非です」
 定実、彼もというのだ。
「いらして下さい」
「では」
 使者も応えた。
「殿にその様に」
「それでは」
 こうしてだった、定実は長尾家の居城である春日山城に来ることになった。そうしてそのうえでだった。
 定実は気品のある線の細い顔で景虎に話した。
「ここまで来たことは」
「北条家のことで、ですね」
「川越での戦以降どうにもならず」
 それでというのだ。
「この度情けないことに」
「左様でありますか」
「それでなのですが」
 定実は景虎にあらためて話した。
「お願いがあります」
「上野をですか」
「取り戻して頂きたいのですが」
 こう景虎に言うのだった。
「長尾殿が宜しければ」
「北条殿は大逆を犯しています」
 景虎は定実にこう返した。
「許し難い大逆を」
「と、いいますと」
「上杉様は関東管領です」
 このことがあるというのだ。
「その上杉様を攻めるなぞ幕府を攻めるも同じ」
「だからですか」
「はい、必ずです」
 景虎は定実に強い声で答えた。
「上野を取り戻し関東管領の地位もです」
「確かにですか」
「させて頂きます」
「有り難きお言葉、では」
 景虎のその言葉を聞いてだ、定実は述べた。
「その際上野から幾分もの領地を」
「そうしたものはいりませぬ」
 きっぱりとだ、景虎は定実の申し出を断った。
「わたくしは天下の秩序の為に引き受けましたので」
「だからですか」
「これは公のことです」
 それ故にというのだ。
「ですからお礼はいりませぬ」
「そうなのですか」
「はい、ではです」
「上野を取り戻して頂き」
「そしてです」
 そのうえでというのだ
「上杉様の関東管領の座も確かなものに致します」
「では」
「上野に向けて出陣します」
 景虎は定実に約束した。
「そうさせて頂きます」
「宜しくお願いします」
 こうしてだった、景虎は上野を攻めることになった。彼は早速家臣達を集めてそうして話す政景が言ってきた。
「一向宗だけでなくですか」
「はい、関東にもです」
 即ち上野にというのだ。
「兵を進めます」
「しかしです」
 政景は難しい顔で景虎に述べた。 
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