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戦国異伝供書

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第三十八話 意識する相手その七

「関東もとなりますと」
「戦が多くなり」
「国や民への重荷が増えますが」
「それは承知しています、ですから金山や特産品の富を使い」
 そうしてというのだ。
「兵達を雇い」
「戦われますか」
「そうします」
「左様ですか、しかし」
「戦が増えて」
「国と民にはです」
 どうしてもというのだ。
「負担がかかります」
「だから無理にはですね」
「出来ぬかと」
 こう政景は言うのだった。
「どうしても」
「ですが関東の秩序があります」
 確かな声でだ、景虎は政景に言葉を返した。
「ですから」
「関東に兵を進められますか」
「そうします」 
 この考えは変わらないというのだった。
「宜しいですね」
「それでは」
「はい、それでは」
 こうしてだった、景虎は関東攻めをはじめることになった。彼はここで直江に対してこう言った。
「留守はです」
「はい、殿が出陣されている間は」
「お願いします」
 こう彼に言うのだった。
「越後のことを」
「わかりました」
 直江は景虎に確かな声で答えた。
「それでは」
「そうさせて頂きます」
「貴方がいれば」
「出陣されてもですね」
「安心出来ます、ですが」
「はい、新五郎殿の言われることはです」
 政景のそれはというのだ。
「正しいこともです」
「事実ですね」
「はい、ですから」
 それでというのだ。
「戦に出られても」
「長く戦わずですね」
「そして無駄に人が死ぬ様なことはです」
 例え戦でもというのだ。
「避けられて下さい」
「その言葉肝に銘じます」
「必ず、そして」
「北条家にですね」
「勝たれて下さい、相手は強いですが」
「相模の獅子ですね」
 景虎は北条家の主である北條氏康の仇名も出した。
「そう言われていますね」
「そう呼ばれるに相応しいまでにです」
「あの御仁は強いですね」
「ただ強いだけでなく」
「切れ者でもありますね」
「はい、ですから」
 それだけにというのだ。
「手強いので」
「だからですか」
「彼との戦いになれば」
 その時はというのだ。
「わたくしは絶対にです」
「気を抜かれませんね」
「そうします、上野から下野に入り」
「武蔵からですね」
「そして相模にです」
 北條家の本拠地のそこに入ってというのだ。
「小田原に攻め入り」
「あの小田原城もですか」
「攻め入ろうとです」
「考えておられますか」
「そう考えています」
「殿、相模まではいいですが」 
 それでもとだ、直江は景虎に話した。 
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