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元気の源

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第一章

               元気の源
 ロシアの女帝エカテリーナ二世は非常に精力的に政務に励んでいた、内政に外交に戦争にと常に多忙であった。
 多忙であるがその中で学問を怠らず自ら戯作を書いてそれを匿名で投稿もしたし様々な芸術品を観て集めていた。
 そのうえ男性遍歴もお盛んだった、それで各国の外交官達は思った。
「実にお元気だ」
「殆ど休まれていないのではないのか」
「政務に学問に芸術に」
「しかも愛人との一時も楽しんでおられる」
 女帝のその日々のことを話すのだった。
「一体何処にそれだけの体力がある」
「ロシアは寒い、生きるだけでも大変だ」
「宮中でも結構な寒さだ」
「我等も苦労している」  
 特に都があるペテルブルグの寒さはかなりだ、北極圏にありその寒さはロシアの中でもかなりのものだ。
 それで彼等もこの寒さに苦労している、あまりもの寒さで冬は過ごすだけで体力を使う。幾ら厚着をして暖炉の前にいても。
 だが、だ。女帝はというと。
「冬も普通に働いておられる」
「政務に学問にとな」
「ロシアの隅から隅まで見渡す様だ」
「まるでロシアの大地そのものだ」
 そこまで確かだというのだ。
 そしてそのことについてだ、彼等は思うのだった。
「それは何故だ」
「何故あそこまで動ける」
「あらゆることに」
「休む間がないのではという程に」
「しかもこの寒いロシアで」
「何故出来るのだ」
 こう言うのだった、そしてそんな時にだった。
 彼等は女帝の晩餐会に招かれた、すると彼等はこう言い合った。
「女帝に直接お聞きする機会か」
「どうしてその様にお元気なのかな」
「そのことをお聞きするか」
「そうするか」
 こう言い合ってだった、そしてだった。
 彼等は女帝の晩餐会に出席することにした、この夜の晩餐会は各国の外交官達即ち彼等を招いての外交上での親睦を深める為のものだった。
 その為場は畏まったものではなく皆楽しく談笑出来るものだった、特にロシアと関係の深いオーストリアやフランスの外交官達は女帝とも親しく話した。 
 食事は次から次に出て来る、その中で彼等は女帝から聞く時を待っていた。
「さて、何時お聞きするか」
「何時お元気な理由をお聞きするか」
「頃合いを見てだが」
「何時にするか」
 女帝の面長で紅色の頬が目立つ顔を見つつ述べた。丸い目は穏やかであり顎が目立つ。ロシアではなくドイツ系の感じがするのは元々彼女がそちらの生まれだからだ。
 だが食事はおおむねフランス風だ、ロシアの宮廷だけでなく女帝のフランス好みが実に強く反映されていた。
 そしてその食事と酒を楽しむ中でだ、彼等は女帝から話を聞く機会を伺っていたがその時にだった。
 新しい料理が来た、その料理はというと。
 白い何か得体の知れないものが多く入った牛乳のシチューだった、人参や玉葱、肉も入っているがその中でもだ。
 その得体の知れないものが多かった、各国の外交官達はそれを見て秘かに顔を見合わせて口々に話した。
「これは何だ」
「野菜の様だが」
「この様なものは見たことがない」
「一体何だ」
「ロシアのものか」
「いや、こんなものロシアの何処にもないぞ」
「見たことがないぞ」
 彼等は顔を見合わせてヒソヒソと話した。 
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