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元気の源

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第二章

「何なのだ」
「これは食べものか」
「そうなのか?」
「食べて大丈夫か」
「いや、女帝陛下が出されるのだから大丈夫だろう」
「まさか我等におかしなものは出さないだろう」
 各国の外交官である自分達にというのだ。
「幾ら何でも」
「戦争をするつもりでないと」
「その為に喧嘩を売るのでもないとな」
「まして女帝陛下はそうした方ではない」
「戦争の仕方も理路整然としている」 
 トルコと激しく戦っているがそれもというのだ。
「我等は今何処もロシアと関係は悪くない」
「むしろお互いに協調したい筈だ」
「七年戦争が終わって暫く経つがな」
「どの国も疲弊した」
 七年戦争とその前のオーストリア継承戦争でだ、欧州の主要国はこの二つの戦争に関わってそれぞれかなり疲弊しているのだ。
 それはロシアも同じだ、だからだ。
「それはないな」
「ロシアもそんなことしない」
「出来る状況ではない」
「しかも女帝陛下は礼儀は守られる」
「無茶なイワン雷帝とは違う」
 同じロシアの帝王にしてもだ。
「ではおかしなものは出されない」
「しかしこれは何だ」
「白いのは牛乳からのものではない」
「元々白いのか」
「そして切られてシチューの中に入れられているが」
「これは何だ」
「皆さん、これは私の好物の一つです」
 いぶかしむ彼等にだ、女帝は晩餐会の主賓の座から微笑んで話した。
「ジャガイモを入れたシチューです」
「ジャガイモ?」
「あのスペインの植民地から入ったものか」
「家畜の飼料だが」
「それは」
「それなのか」
「これが非常に美味で」
 それでというのだ。
「しかも食べると力が出まして」
「まさか」
「ということはだ」
「女帝陛下の元気の源はこれか」
「ジャガイモなのか」
「是非召し上がられて」
 そしてとだ、女帝はさらに言ってきた。
「堪能されて下さい」
「そうですか」
「ではです」
 彼等は自分達の会話を終えた、そしてだった。 
 外交儀礼の場に戻ってだ、女帝に応えた。
「今よりです」
「このシチューを頂きます」
「ジャガイモも」
「そうさせて頂きます」
「騙されたと思って召し上がって下さい」
 女帝は彼等に優雅でかつ気品のある笑みで応えた。
「ジャガイモは。とても美味しいので」
「美味しいですか」
「そうなのですか」
「ジャガイモは」
「そうなのですね」
「そうです、家畜の飼料ですが」
 女帝もこのことについて言及した。 
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