徒然草

百十五．宿河原

百十五．宿河原
　宿河原という場所においてぼろぼろと呼ばれている無宿で世を渡っている人達が大勢集まっていまして死んでも地獄に落ちないようにと念仏を唱えていました。そこに外から入って来たと思われる人がもしかしてこの中にいろをし房というぼろぼろはいらっしゃいますかと尋ねました。そうしますとぼろぼろ達の中からいろをしはここにいますがそのことを尋ねる貴殿は何者なのかと尋ね返しましたのでこの人は自分はしら梵字という者で私の師匠が武蔵においていろをしと名乗る者に殺されたと聞いてそれでその人に会い恨みを晴らそうと尋ねたのだと答えました。するとそのいろをしが出て来ましてそれはよく来られた、そんなこともあったのかも知れないがここで向かい合ったならば場が穢れる、表の河原に出よう、周りの者達も手出しは無用、大勢の迷惑になると折角の法事も台無しだと話をつけたうえで二人は河原に出て思いきり刺し合ってどちらも倒れてしまいました。
　昔はぼろぼろなぞはいませんでした。最近になってぼろんじだの梵字だの漢字だのと名乗る者がで出て来ましてそれがはじまりだといいます。世捨て人の様に見えて自分勝手で御仏に仕える顔をしていますがその実は戦の玄人です。無頼放蕩で乱暴者でありまして命を粗末にして何時でも死ねるのが清々しいと考えていますので人から聞いた話をそのまま書きました。


宿河原　　　完


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　２００９・９・６