ユキアンのネタ倉庫
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Knight's & Magic & Carrier 6
前書き
久しぶりにこっそり更新
「取り付けが甘いぞ!!何年この仕事についてやがるんだ!!もう一回生身でスパナの使い方から覚え直してこい!!そこ、資材はちゃんと積め!!部分劣化を起こすだろうが!!」
「トール、源素浮揚器の調整を手伝ってください」
「ならこっちを任せるぞ。3班、続け!!」
エルと現場を入れ替わり源素浮揚器を調整する。旧王都を開放してから1ヶ月。あの後も何度かイサドラからハニトラを仕掛けられたが全て回避した。明らかにエレオノーラの謀略だが、イサドラ自身も恥ずかしい所を見られたから責任を取らせようと積極的に仕掛けてくる。
エレオノーラの思惑はこうだ。まずはイサドラにくっつける。イサドラは子爵家の一人娘だ。それに嫁ぐということはオレは子爵となる。その後にこの大戦の功績で昇爵させて侯爵か辺境伯辺りにし、その上で情夫とする。正式に王配に付けるのは面倒が多そうだからこんな周りくどい計画を立てている。政治の中核になっている貴族たちは国の面子と借金の事を考えて黙り込むはずだ。
それから逃げ出すためにこうしてムスペルヘイムの飛行ユニットの製造に取り掛かっている。両舷から挟み込むように接舷し、後部のマギスラスタによって航行を可能にするユニットだ。完成すればスレイプニール級にも流用できるので欠点は今の内に洗い出しておきたい。
「トール、あのストームセイガーとか言う旗艦を調べたが、特にこれと言って新技術はないな。精々質の良い部品を使ってるぐらいだ。設計も無駄が多い。バラして資材にした方が良いな」
オレとエルと異なり、鹵獲した皇族専用艦の調査を任せていたダーヴィドが報告に戻ってきた。それにしてもでかいだけか。
「ならバラせ。資材はいくらでも必要だからな。レーヴァンティアの生産の方はどうなってる?」
「あっちの方は楽だな。装甲を剥がしてレーヴァンティアの装甲を付けるだけで済む。剥がした装甲は融かして再利用だけだからな。各地の工房の分は把握してないが、王都近辺で可動中が連れてきた60とこっちで作った20で、今週中には追加で40、来週にはさらに60って所だ」
「数が増えていっているな」
「幻晶甲冑に慣れてきている上に便利だからな。最悪、工房のクレーンなんかが無くても製造というか換装が出来る」
「なるほど。飛行船の増産の方は?」
「北と南で鹵獲分が結構出たから抑えてるらしいぞ。だから規定の分は確保できている。問題は乗り手の方だな。こっちは訓練しないとどうしようもない」
「それはエレオノーラが何とかしている。最低限の航行さえ出来れば問題ない。商家に先行販売をチラつかせて人と物資を出させているみたいだからな」
「それで、今後はどうするんだ?西側を開放して、そのまま逆侵攻までするって聞いてるが」
「ああ、その通りだ。基本的にはオレ達で敵本隊を引き付けておいて、北と南で首都を強襲する形になるだろう」
そのために飛行船は北と南に優先して配備されている。中央の本隊には特機戦力を集めてある。イカルガ、トールギスF、グリッターファルセイバー、グルンガスト、ムスペルヘイム、ザメル3機、銀凰騎士団、近衛騎士団とカスタマイズされたレーヴァンティア。負けることは許されない。
「また激戦区送りか。オレ達、いつも貧乏くじを引いてないか?」
「貧乏くじを引くわけ無いだろう。大きく飛翔するためのちょっと高い目の踏み台なだけだ。その分、予算や資材を多く優先的に回してもらってるんだからな」
「何処かの誰かのせいで火の車だけどな。あと、修羅場が多すぎる!!」
「前回はともかく、今回はジャロウデクの盗人共に言え。飛行船の技術でオレは許すけどな」
夢を実現させるための技術の一端を寄越してくれたのだ。名前ぐらいは覚えてやっても良い。
「よし、調整できたな。次はグルンガストの調整か。若旦那はツールボックスに慣れたのか?」
「何回か派手に墜落してたぞ。まあ、旦那はタフだからすぐに復帰するからな。むしろツールボックスの方が耐えきれるかどうか」
「元がカルダトアだからな。しかも初期ロットの。この大戦が終わったらスクラップ行きだろうな。所詮は実験機だから、モスポール処理を施してまで残しておく必要はない」
愛着がないと言えば嘘になるが、実験機として割り切っていたから遊び倒した。だから、玩具の一つが壊れたという感覚が強い。
「トイボックスは置いてきたんだよな」
「1機も残さないと練習ができないからな」
むぅ、予備機も全部改造してしまったな。スクラップのレスヴァントをスコープドッグのように継ぎ接ぎで一機修復するか?いや、新造するほうが早いな。
「トール、調整が完了しましたよ。トールが舵を取るんでしょう!!」
「当たり前だ!!総員、全機構のチェックを行え。完了次第、ムスペルヘイム改の処女飛行だ!!」
この一回きりの遊びのために艦橋前の甲板に操舵輪を用意したんだ。しかも飾りじゃないんだよな。ちゃんと操艦できるように頑張ったのだ。……エルが。オレは書類と戦ってたからな。
「戦力は整いましたか。北と南も三日で準備が整うと。イレブンフラッグが壊滅的な被害を受けたというのは?」
「あのがめつい国にしては珍しく情報がダダ漏れでした。何でも竜にやられたと」
「竜、ですか」
すこ〜し、嫌な予感がしてきました。
「情報を集めた結果、飛竜船とでも呼べば良いのでしょうか?飛空船を武装させて、竜の形を模しているようです。ただ、性能も竜と読んで差し支えないかと」
「とはいえ、ダインスレイヴがあれば問題にはならないでしょう。現在でも威力過多過ぎますから。問題は北と南が襲われた場合です」
「ダインスレイヴを同じように配備出来ないのでしょうか?」
「さすがに同盟国とはいえ難色を示しています。まあ、あれだけの威力です。自分たちに向けられたらと思っても仕方ないでしょう」
本当は生産する余裕がないだけでしょうが、仕方ありませんね。現状は足りていますから。
「ダインスレイヴが量産出来ないとなると、どうなさいますか?」
「……先に沈める必要があるでしょう。南北の部隊の出撃を予定より一日遅らせつつ、我々の中央の出撃を大々的に知らせます。そのまま決戦に引きずり込みます」
「危険では?」
「時間を与えるほうが問題です。こちらの士気の問題もありますが、向こうに量産、改良する時間を与えてはなりません。整備中に強襲できるのが理想ですが、そこまで高望みは出来ません。本隊の全戦力を持って敵飛竜艦を撃破します」
「却下だ」
トールがノックもなしに入室してくるが、両手が資料で塞がっているなら仕方ない。それに礼儀云々は必要ありません。それだけの戦果を上げていますので。うちの面々には王配候補とも告げてありますしね。
「どのあたりがでしょう?」
「ジャロウデクに寝返っていた連中の扱いだ。王家が滅びかけた以上、寝返ったのは仕方ないし、中には無駄な抵抗を少なくして同胞を少しでも救おうとした奴らもいる。それらを罰するつもりは?」
「当然ありません。王家が責務を果たせなかったのですから、彼らを罰するなら王家も受けなくては」
「そうだな。そして、出戻った彼らは肩身の狭い思いをしている」
「つまり、挽回の機会を与えろと?そのために飛竜艦にぶつけて磨り潰せと言いたいのですか」
「誰がそんなことをするか。唯でさえ人手不足なのに、自分で首を絞めてどうする。最前線に立たせるのは間違っていないが、北と南の連中には本隊が飛竜艦と交戦する直前にジャロウデクの東部領都を攻略してもらう。ここに今回の侵攻を企てた第一王子と第一王女がいる。その首を獲ってもらう。機体はレーヴァンティアを最優先で配備する。さらには女王陛下の有り難いお言葉を直筆で記した手紙も添えてな。手紙の原案は考えてきてやったから適当に2枚選んで模写しろ」
「レーヴァンティアの方はどうするのですか?」
「飛行ユニットが完成したから手が空いた。レーヴァンティアの組み立てを急ピッチで行っているところだ。それをムスペルヘイム改とヴィーンゴールヴ改で空輸する。通常の飛行船より圧倒的に速いからな」
「ヴィーンゴールヴの物まで作っていたのですか?」
「無論だ。バラバラでは真価を発揮できんからな。あの2隻はセットが基本だ。単艦運用はあまり考えていない。フライトユニットは量産しても扱えるのがほとんどないから一旦凍結だ」
「空戦が行えるのは何機でしょう?」
「今のところはグリッターファルセイバー、トールギス、ツールボックス、グルンガスト、移動砲台で良いのなら更にカルディトーレ2機だ」
「イカルガはどうしました?」
「エルがなんとか組み込もうとしたが失敗した。拡張性を犠牲にしてハイスペックにしていたからな。今は組み立て直しているところだ。それでも決戦までには間に合わせる」
数は足りていますか。問題は飛竜艦の戦闘力でしょう。
「勝てますか?」
「最悪、ムスペルヘイムをぶつけて相打ちに持ち込む。やりたくはないが、一度限りの突撃用ブースターも用意した。本当にやりたくないから最後の手段だ」
何処かで聞いたことのあるようなシチュエーションだ。思い出せないけど、喉元に引っかかって気持ち悪い。
「どうしてやりたくないのですか?」
「強引に作ったとはいえ、現行最大戦力だからな。相打ちでも士気が落ちる。どうかしたのか?」
最大戦力と聞いて余計に違和感が出てくる。前世の話を侯爵に聞かせるわけにはいかないので退出させてからトールの質問に答える。
「いえ、何処かで似たシチュエーションを聞いた気がしまして」
私の言葉にトールが考え込む。
「何処に引っかかる?」
「ぶつけるってところと、強引に作った最大戦力というところですね。ですが違和感もあります。それとは別に負けフラグが立ったような、立てたような」
う〜ん、一体何処で違和感を感じたのでしょう。
「エルにも聞いて来る。何かそれに関連するのは?」
「階級が高いのが多かったような」
「階級が高いか。うん?銀英伝の第8次イゼルローン攻防戦か!?」
「第8次、えっと、どれでしたっけ?」
「ガイエスブルグ要塞を持っていってケンプが戦死する奴だ」
「ああ、あれでしたか!!引っかかっていたのはそれですか!!」
要塞と空中戦艦の差はありますが、シチュエーション的にはある程度類似しています。この場合、我々は帝国側ですから
「盛大な負けフラグですか」
「ちょっと幻晶騎士と貴重品を降ろすように通達してくる。あと、脱出艇も作ってくる」
「最初からぶつけに行きますか」
「一応、ザメルと一基だけ持ってきてる大型のダインスレイブを叩き込んでみる。無理そうならぶつける」
「そうしましょうか。その、費用はこちらで持ちますから」
「ああ、うん、物納の分割払いとかでいいから」
物納の分割払いで良いとは太っ腹ですね。
「総員に告ぐ、間もなく本艦は敵との交戦予定空域に到着する。予定の人員以外はヴィーンゴールヴへと移乗せよ。繰り返す、予定の人員以外はヴィーンゴールヴへと移乗せよ」
エルに話しても、やはり嫌な予感がするということでムスペルヘイムをぶつけることが確定した。ダーヴィド達鍛冶師以外にも、というか全員が反対したんだが、俺とエル、エレオノーラが嫌な予感がするからと押し切った。
「それじゃあ、トール。こちらは任せます」
「おう、まさかネタで作った甲板の舵輪が役に立つことになるとはな」
ネタで作った甲板の舵輪と制御盤は艦橋と異なりフルコントロールを可能としている。オレかエルならと条件はつくが、ワンマンシップとして運用ができるのだ。トールギスやツールボックスなどの滞空可能幻晶騎士に抱えられて移乗を済ませていくのを見届けながら格納庫に通信を繋げる。
「ザメル隊、不時着用の元素浮遊機の調子はどうだ?不調があったら今すぐ拾ってもらってヴィーンゴールヴに移乗しろ」
『1番機問題なし』
『2番機同じく』
『3番機同上』
「レーダーはこちらとリンクしている。射撃と同時に飛び降りろ。2発目は地上からだ。まあ、その前にムスペルヘイムで沈めてやるがな」
使える資材や武装は全部ヴィーンゴールヴに移して、乗らなかった分は王都の工房に置き、正面装甲を厚くして自爆用の術式を刻んで来てある。勿体なくはあるが、所詮は急造艦だ。不具合を起こす前に使い捨てにするのは間違っているわけでもない。勿体無いとは思うがな。それでも命とは比べられない。おっと、ようやくか。
「レーダーに感あり、情報をリンクする」
レーダーに写った魔力反応をザメル隊に回す。
『1番機ロック、射撃可能まで12秒』
『2番機ロック、同じく』
『3番機、ロック機能が不調』
「3番機は降下。地上から目視で狙え。この魔力反応、敵はデカイぞ」
予想以上の魔力反応のデカさに少し不安になる。艦首にドリルがあればこんな不安はなかったのに。最悪は、白兵戦か。やれやれだな。暇つぶしに幻晶甲冑を弄っておいて良かったというべきか。愚痴りながらも大型のダインスレイブを起動させてムスペルヘイムを滞空させる。その間にザメルの3号機は地上に降り立ち、後退しながらダインスレイブを上空に向ける。
『目標を目視、あれ、距離が、デカ!?』
ザメルの1号機からの報告にオレも視力を強化して確認する。おおう、本当にデカイな。遠近法のせいでレーダーと見比べると変な気分になる。
「先制攻撃だ、1番撃て!!」
ザメルから撃ち出された鉄杭が敵飛竜艦に一直線に飛び、逸らされた。
「!?まさか、2番撃て!!」
2射目は更に大きく逸らされた。
「ちぃっ!!王都解放戦で使った杭が何本か鹵獲されていたが、朧気ながらにも解析されたか!!」
打ち出した杭は電磁石化しているからな。電磁石の知識があれば大凡の対策は取れる。取れるが、よくもまあ既存の術式だけでどうにかしたな。強引に強力な磁場を生成しているみたいだが、魔力がごっそりと減ってるのがレーダーに映っている。このまま連射すれば
「ちっ、チャージャーを使いやがったか。両機共、地上に降下。当初の予定通り、ムスペルヘイムを食らわせる。それでも落ちなかった時は地上からダインスレイブを撃ち続けろ。おら、喰らいやがれ!!」
魔力の回復に努めている飛竜艦に大型ダインスレイブを撃ち込んで魔力を更に削る。その間にザメルが降下していき、飛竜艦は逃げるように高度を上げていく。マギスラスタジェットらしきものを推進機関にしているみたいだが、ロケットエンジンに近いな。あれは滞空が出来ないなら有用だが、源素浮楊器で高度を維持する以上無駄のほうが多い。
ザメルの降下と同時にオレ自身も幻晶甲冑グリッドマンを着込む。それが終わり次第、源素浮揚器を全開にして一気に高度を上げる。万全の状態とは言えないが、やるしかない。オレの夢を叶えるためにも、とっととこのくだらない戦争を終らせる!!
アームストロングを起動させて感覚で照準を合わせる。照準器を用意できなかったからな。まあ、古来より砲は少しづつ寄せていく物だ。3基6門を飛竜艦に向けて先制攻撃をかける。慌てて移動を開始したようだが、尻尾の先端に直撃して破壊する。
今ので分かった。ダインスレイブ対策とカルバリン対策はされている。カタパルト対策もおそらくはされてる。だが、アームストロングの対策はない。そして乗員はオレ一人。無茶な軌道も出来るな。
「盛り上がってきたぜ!!」
マギスラスタジェットを全開にして飛竜艦を追いかける。最高速度は向こうの方が上のようだが、加速力と運動性では負けていない。それもフルコントロールで性能を十二分に発揮できているからこそだが、代償に鼻血が吹き出してきた。
気分は2隻のコントロールをやっていたユージンの気分だ。時間をかけすぎるとこっちもやばい。それに気づかれると不味い。だから時間をかける訳にはいかない。
追いかけながら先程の砲撃で掴んだ照準の感覚を元に、順繰りで撃ち続ける。それに対して飛竜艦は全身に取り付いている幻晶騎士の法撃で迎撃を試みるが、連携が取れていないのか回避行動で狙いが逸れてまともな迎撃が出来ていない。やはり奴らは戦術ドクトリンを作れていない。自分達の飛空船や幻晶騎士に対してのドクトリンはあるのかもしれないが、それ以外に対しては存在していない。そこを突く。空戦、さらにいえば艦戦がどういったものか、それを見せてやろう。
飛竜艦はこちらの砲塔が上部にしかないことから下に潜り込もうと高度を下げる。それだけで立体的な視野がないことが分かる。高度を変える必要はない。仰角を下げるだけで上空から滅多打ちが出来る。爆雷なんかがあればなお良かった。更には高度を下げたためにザメルからのダインスレイブを防御して魔力を減らし、高度を上げようとするのをアームストロングで牽制しながら高度を下げさせる。このままなら無様な死が待っている。だから、追い詰められる前に強引に反転してこっちに向かって突撃してきた。
「まあ、最初からその気だから問題ないんだよな」
使い捨てのブースターと自爆術式を起動させて飛竜艦に突っ込む。誰にも話していないが、ぶつけて食い込むまでオレは脱出できない。話せば絶対に止められると分かっていたから自爆術式も全て一人で組んである。ここで死ねば、オレはそれまでだったというだけだ。
オレは絶対に飛竜感を認める訳にはいかない。あんな邪道を艦だと思われたくない。艦っていうのは、色々な形があっていいと思っている。機能最優先に突き進んでも良い。有り合わせの拙い技術で作っても良い。生物的であるのはそれはそれで美しい。邪道からは新たな天啓を得ることも出来る。だが、飛空艦が生まれたばかりのこの時期に飛竜艦という邪道を許してはならない。
これから育つ飛空船が邪道の所為で拡張性を失ってしまう可能性が高い。技術というのは軍事から民生へと流れていく。飛空船の登場は大航空時代の始まりを告げる。だが、飛竜艦は民生には流れない。流せるような仕様になっていない。単艦で突っ込んで暴れる。それだけなのだ。民に、特に商人に戦うためだけのものだと思われては駄目なのだ。だから潰す。
回避しようと回頭を始めていた飛竜艦の土手っ腹にムスペルヘイムの艦首が突き刺さり、フレームが歪んで砕けていく音が響く。だが、操縦席を外したのか引き剥がそうと動き出す。ロケットアンカーを射出して飛竜艦に逃げられないように巻き付ければ、それを外そうと砲座兼魔力タンクの幻晶騎士が動き出す。
それを止めるために操舵輪を手放し、飛び出す。
「ネオ超電導キック!!」
ドロップキックと同時に風系統の魔術でバランスを崩させる。それだけで、後は転がり、落下する。飛竜艦の上だから出来る芸当だ。スパークビームを模した雷弾を周囲の幻晶騎士の装甲の隙間に叩き込み操縦系統を焼き切る。そろそろ逃げ出そうとしたところで飛竜艦の首元が開き、騎操士が姿を現す。
「貴様!!なぜ我らの邪魔をする」
一瞬、何を言われたのか理解できなかった。
「我らは崇高なる大義の元に」
「あ〜、はいはい、すごいですね。かっこいいよ。で、綺麗なお題目を掲げて盗みを働いて騙し討ち、不利になればこうやって馬鹿を晒す。アホらしい。敵は潰す。それだけだろうが。そんな事も知らずに戦場に立つんじゃねえ!!」
放って置いても問題ないが、せめてもの情けだ。オレの手で討ってやる。
「グリッド、ビーム!!」
逃げ出す分の魔力以外を左腕に取り付けられているアクセプター内のスクリブトに流し、グリッドビームもどきを放ち、騎操士を殺す。それと同時に飛竜艦から飛び降りる。余裕を持って脱出できなかった付けは爆風に巻き込まれて着地を失敗することで払うことになった。左足が変な方向に曲がり、幻晶甲冑もボロボロになってしまった。降り注ぐ破片から片足で飛び跳ねながら逃げ、安全圏まで逃げ切ったところで地面に転がる。未だに小さな破片が降り注ぐ。
油断していた。それは本当に小さな握りこぶしほどの破片だった。そいつは電気を溜め込んでいた。飛竜艦にはダインスレイブを反らせるほどの磁場を発生させる電力が流れていた。それがかすった瞬間、オレの意識は一瞬で飛んだ。
飛竜艦撃墜から既に2ヶ月もの月日が流れた。飛竜艦の撃墜と共にトールの捜索が始まり、ボロボロの幻晶甲冑を纏い、心肺停止状態で発見された。発見したイサドラが蘇生処置を施して何とか息は吹き替えしたけど、そのまま意識が戻らない。
ジャロウデクとの戦争は勝敗が覆らない状況にまで追い詰めた。他国の介入も出来ないように領土を削り、国内生産の3割を賄う穀倉地帯と輸送のコストを減らすために東側に作られていた幻晶騎士の生産工房も抑えた。エルフとの公益路も抑えた。あとはゆっくりとすりつぶすだけだ。
だから、先日エル達はフレメヴィーラに帰っていった。飛空船の技術を幻晶騎士に綺麗に落とし直すそうだ。トールは、動かさないほうが良いだろうと預かっている。
王都の復興を行いながら工房にはトールが設計していたファットアンクルを生産させる。飛空船に比べれば小さいが、生産効率と輸送効率が優れているので商家からは喜ばれている。それらの殆どをフレメヴィーラに売り払い、残っている分で支援物資を満載して戻す。王都から復興度合いに合わせて物資を再分配して各地に送る。輸送に特化したガンタンクも量産しているので輸送量もスピードはかなり早くなっている。
それでも手が足りない。正確に言えば文官が適応しきれていない。従来どおりの処理では追いつかないのだ。仕方なく商人に力を借りている状況で、他にも未亡人である程度の研修で使える者やその子どもたちを預かる託児所を用意したり、とにかく効率重視で慣習を無視して復興を行わせている。それらも全てトールが纏めていた計画書の通りだ。
戦後の復興計画も全て作成してから飛竜艦との戦いに挑んだのは、死ぬ可能性が高かったのではないかと疑っている。真実はトールにしかわからない。
その日の仕事を終わらせ、トールの部屋を訪れる。いつものように寝ていると思っていたのだが、上体を起こして頭を抱えている。
「トール、目を覚ましたのですね!!」
トールがこちらに視線を向けて何かを考え込み、やっとのことで言葉を絞り出す。
「……エレオノーラか?」
「トール?」
「すまん、記憶が混濁している。変な感覚だ」
「2ヶ月も意識がなかったんです。今は、ゆっくりしてください」
「すまんがそうさせてもらおう。体がまともに動かない」
そう言うと、再び倒れて寝始めたトールを見て一安心する。良かった、気づかれていないようだ。イサドラと一緒に色々とトールの息子にイタズラをしていたから違和感を持たれたらどうしようかと思っていたのだけど。このまま内緒にしておきましょう。
「あ〜、やっと最低基準かよ!!やってられねぇー!!」
地面に転がりながら呼吸を整える。意識が戻ってから2週間が立つ今、リハビリと猛訓練でようやく騎士として最低限のレベルにまで肉体が戻ってきたところだ。記憶の方はエピソード記憶の8割が死んだ。人の名前はかろうじて覚えているのが救いだろう。
視界にファットアンクルが入ってくる。フレメヴィーラからの帰りだろう。エルネスティ達はオレを置いていったらしいが、記憶が飛んでる以上変な気遣いをされずに済んだ分ラッキーとでも思っておこう。
「トール、ここにいたのですか」
「イサドラか、どうした?」
「フレメヴィーラの先王様より通信の先触れが来ています。あと5分ほどで通信に出てほしいと」
ここから通信設備まではゆっくり歩いても3分ほどの距離だ。身だしなみを整えるには十分だ。起き上がって騎士服の汚れを簡単に払って身だしなみを整える。簡単に汚れが落ちるから騎士服は楽でいい。
『トルティオネス、息災にしておるか』
「体の方はそこそこ回復してきましたが、記憶の方がやられました。思い出に値するものの大半を失った状態です。回復の見込みもありません」
『ふむ、思い出か。それはトラウマも含めてか?』
トラウマ?
「特に心当たりが無い以上、トラウマも含まれていると思います。何か問題が?」
『いや、こちらの話だ。それとエルネスティからの提案を聞いた。こちらで幻晶騎士を、そちらで飛行船の開発をメインに行うと』
「え〜、そこらへんも記憶が飛んでいるのですが、おそらく開発が一杯一杯でリソースが中途半端になっていたのだと思います。エルネスティの夢は幻晶騎士、オレの夢は飛行船が叶えてくれる物で。無論、技術交流は行いますし、フレメヴィーラの方を優先して艦を作る予定です」
『その分、復興支援を滞らせるなと言いたいのであろう。既に現場から改良案が上がってきておる。それに合わせた物を製造せよ。無論、それに見合う対価は払う。また、お主をそちらに置いておく正当性のある身分と肩書を用意しておく』
「御意」
この時ほど通信機にモニターを付けていなかったことを後悔したことはない。通信の向こうで先王陛下は絶対にニヤついていたはずだ。通信から2ヶ月後、いつの間にか陛下の養子となっており、そのままクシェペルカの王配として婿入する羽目になった。しかも、イサドラを側室として娶ることにもなった。記憶を失う前のオレ、一体どんなヘマをした。
式自体はまだ先だが、婚姻は交わしてしまった。逃げることはできん。あと、初夜って式の後じゃないのか?王族が自分一人だけだと不都合の方が多いから例外?騙してないか?いや、不都合なのは分かるけど、式の時に大きいと問題だろう?今まではそうでも今は飛行船があるから問題ない?確かに伝達して集めるのに時間はショートカットできるが、えっ、心配させた罰?
本当に記憶を失う前のオレは何をしたんだ。
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