ユキアンのネタ倉庫
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Knight's & Magic & Carrier 7
銀凰騎士団から航空戦艦の製造依頼が来た。ファットアンクルやジャロウデク製の飛行船を使っていく中での問題点が幾らか判明しており、それらの対策も込みで銀凰騎士団に相応しい旗艦をと。それとは別ルートでフレメヴィーラから輸送艦の製造依頼が来た。
銀凰騎士団の旗艦ともなれば求められるのは快速性とどんな状況でも仕切り直せば巻き返せる即応性だろうな。そのうえで問題となっている空中型闘士級魔獣への対応。鳥型や翼竜型が多いそうで、ガンタンクだけでは厳しいそうだ。幸い、スピルナーで落とせることは分かっている。対空機銃としてスピルナーを配備すれば、それならガンタンクで十分のはず。ああ、なるほど、船底に潜られると手がつけにくいのか。輸送艦の方も、予定していたルートを大幅に変更させられたりするのでどうにかして欲しいと。
う〜む、これは難しい。対空性能を上げるだけなら簡単だが、その所為で運用が難しくなるのは戴けない。それに対空性能を上げれば何かを犠牲にする必要がある。ああ、そうか、船団を組めばいいだけの話か。護衛艦として対空防御に特化した船で護衛すればいいだけの話だ。被害をすべて護衛艦で吸収できれば良いんだ。更に整備性が良ければ言うことなし。
そうなるとブロック工法だな。破損した部分をブロックごと取り外して入れ替えれば済む方式で。形は、そうだな、2Lペットボトルでいいだろう。ペットボトルの底側が艦首として飲み口部分にスラスター、船底側だけは格納式で前方と後方以外の4面に合計2連装32基を設置。艦首には新型砲であるVTA(可変火力式アームストロング)を設置する。基本はアームストロングと一緒だが、火力を調整することが出来る。最大火力はアームストロングの1.5倍で、最小火力はスピルナーだ。ただし、スピルナーの場合は照射することが可能で照射中に砲の角度を調整することで薙ぎ払うことも出来る。
そして一番のこだわりは操艦システムだ。なんと最小操艦人数1名。ワンマンシップなのだ。無論、フルスペックとは言えないが、空を飛んで弾をばらまく程度なら何の問題もない仕上がりだ。最大操艦人数は80名ほどだ。殆どが銃座に座ることになる。
さらに輸送艦としてガルダ級を引っ張り出す。こちらも気持ちスピルナーの数を増やして、船底に格納式を設置しておく。
問題は銀凰騎士団の旗艦だ。別にモデルに悩むことはない。ヴィンゴールヴが残っているんだからマクロス級をモデルにするのは確定だ。問題は可変システムだ。搭載したくはある。だが、ノウハウがない。納期もある。そうなると、可変システムのないクォーター級だな。マクロスキャノンは撃てるようにしておきたい。そっちは、予算の都合でムスペルヘイムには積めなかったが、今回は予算が大量にあるからな。オレがデスマーチになるだけで。
「イサドラ、トールの様子はどうでした?」
「また大量の鼻血を出しながら作業をしていました。それでも10日でほぼ完成しているようでしたが」
「イサドラ、あまり分かっていないようだけど、あれが完成した暁には飛竜艦は敵じゃなくなるわ。ただの的よ。それも使い捨ての」
銀凰騎士団旗艦マクロス・クォーター。4分の1の大きさではなく完成度25%の意味で名付けられた艦の特殊砲、マクロスキャノン。全部品を魔力転換炉と同じ材料で作られた化物大砲だ。わかりやすく言えば超特大サイズの魔力転換炉の出力を全て放射だけに注ぎ込んだ文字通りの怪物。何に向かって放つつもりなのか聞きたくない。
魔力転換炉と同じ材料を使っているのも簡単な理由だ。それ以外耐えられる鋼材がないからだ。その魔力転換炉と同じ鋼材ですら術式で強化する必要があるぐらいだ。説明するとようやくイサドラも理解したようだ。
「本当に必要なのでしょうか?」
「本来なら必要ないと言いたいんだけど、例の飛竜艦の開発者、どうも逃亡しているみたいなのよね。ご丁寧に研究資料毎」
行き先は何処かわからないけど、時代は大航空時代に突入する。飛竜艦の開発者は飛空船の開発者でもある。国の上層部としては喉から手が出るぐらい欲しい人材だ。イレブンフラッグスの可能性は殆ど無い。研究者と商人は相性が悪いから。商人は目に見える成果を欲しがるが、その過程を出し渋る。そうなると、北のどれかでしょうね。だから対応策として目をつぶっているのです。
「それにしても、幻晶甲冑を外部から同時に10機も操作ですか。鼻血程度でよく無事に済んでいますね」
「現場から起動するたびに思いっきりえびぞりになって怖いと訴えられたのですが」
「ならトールを楽に出来るように腕を磨きなさいと伝えて。高い給料は何のためにあるのかも。王は国の奴隷とはよく言ったものよ。それはこの書類の山を見れば分かるでしょう」
ここまでの会話でイサドラとは一切目があっていない。合わせる余裕がないのが正しい。我が執務室は戦場だ。既に何人もの文官が負傷者として担ぎ出されている。全く、か弱い乙女がこれだけ頑張っているのに逃げ出そうとするなんて。
「陛下はか弱くもありませんし、乙女でもないのでは」
「トールに比べればか弱いですし、心はいつまでも乙女のまま。何も問題ないですね」
「すごい強引な理屈ですね」
「わがままは女の子の特権です。まあ、見極めは重要ですが」
ここまでなら許してもらえるというラインの見極めができないとすぐに見捨てられることになります。あと、逆鱗の把握もしっかりしておかないと酷いことになります。
「それと座乗艦をどうするのかと大臣たちから来ていますが」
「そこはトールとの相談になるのよね。今は色々とノウハウを確立させていっているところだから、その後に集大成の座乗艦を作るって言っていたわよ。どっちにするのかも悩んでいたわね」
「候補が既にあるのですか?」
「開発方面だけよ。儀礼用にするか、それとも儀礼用にも使えるバリバリの戦闘艦にするか、儀礼なんて知ったことかと割り切った戦闘艦か。仮のデザイン図だけはあるわよ」
引き出しからデザイン図を引っ張り出してイサドラに渡す。前からゲーム版のギャラクシーエンジェルのエルシオール(クロノブレイクキャノンは別資料にまとめてあった)、バディ・コンプレックスのシグナスをベースにOOのプトレマイオスのコンテナのように着脱可能の空母をくっつけたアルバトロス、SRWのクロガネ(もちろん艦首は超回転鋭角)。
「最後のは、流石に辞めたほうが良いかと」
「一番のお気に入りなんですけどね。まあ、アルバトロスになるでしょう。そのためにこんな企画書を上げてきてるんだし」
手元にある書類をイサドラに渡す。
「空中騎士団?」
「時代は空に移り変わっていく。無論、陸もだが速度を考えると行動範囲の差は歴然だ。それと同時に新たな脅威も現れている。鳥型、翼竜型の闘士級魔獣だ。これらは我々西側領土でも確認されている。そしてそれによる被害もだ」
そこで一度話を切り、集まった候補生を見渡す。何人かが顔を歪めている。被害にあった者たちだろう。
「だからこそ、我らは新たな剣を手にする。空を駆ける騎士団、銀鷹騎士団をここに結成する!!」
候補生たちが歓声を上げているが水を指すことになる。
「とはいえだが、そもそも練習機すら完成していない」
先程までの歓声が嘘のように静まる。
「現在、練習機は組み立て中だ。だが、はっきり言って操縦系統がものすごく独特だ。その上で体質的に無理な者も出てくるだろう。ここまでで質問は?」
「体質的に無理とはどういったものでしょうか?」
「はっきり言おう。慣れていないと落下時の浮遊感に耐えられない者がいる。ある程度は慣れるが、どうしてもなれないと言う者もいる。これは体質でどうすることもできない。髪や瞳の色が異なるのと同じような個性だ。次に現在組み立て中の訓練機も含めてだが、速度が速い。どれぐらいかと言うと、トールギス並の速度を出せる。一般用のチューンでだ。意味が分かるよな。隊長用のカスタマイズ機は更に上のチューンを施す。こら、そこ、逃げようとするな。適正持ちを探すのは大変なんだから。新人が最優先で調べられるだけで人数が足りなかったら各地に配置されているベテランも引っ張り出されるんだから。というか、王配のオレが騎士団長の時点で悟れ。名だけなんじゃなくて適正が低いのを見越した上でのことなんだよ。安心しろ、フレメヴィーラから一人生贄を調達してある。多少はオレにも楽をさせろ」
後に大陸一勇猛なドラゴンスレイヤーと呼ばれる銀鷹騎士団の結成式はグダグダに終わることになる。
映像を送受信出来るようになった通信機でエルネスティと互いの成果を報告し合う。
「とまあ、可変機構のない練習機としてメタスの試験飛行は問題なく完了したわけだ」
『くっ、可変MSの存在を忘れてしまうとは。僕自身も固定概念に囚われてしまっていましたか』
「元素を貯める部分として胴体を選ぶのは悪くない発想だとは思うぞ。人魚型とは恐れ入った」
『こっちではシルフィーネが最適解と認識されてしまいましたからこのまま進めようと思います』
「分かった。製造中のクォーター級をシルフィーネに合わせて改良する」
『頼みます。僕の斑鳩に関してはオーバーコートプランで進めています』
「オーバーコートプランで?それこそ着ぶくれして問題じゃないのか?」
『ふふん、失敗は成功の母ですよ。物理的に元素を溜め込まなくても術式で固定する方法が見つかりました。まあ、結構魔力を食うので特機クラスじゃないと使えないのが難点です』
「ふ〜ん、ちなみにオレもメタスに新型術式技術を搭載してるんだよな。これがあるからメタスが安全に空を飛べるんだよ」
お互いに無言になる。考えていることは同じだ。ただ、以前までと違い簡単に情報のやり取りができない。というわけで日本語と英語を混ぜた資料をお互いに見せあってその場で全て覚える。大まかな部分だけを覚えて後は各自で細かい調整を行う。
エルとの通信を終えると急いで部屋に戻り、忘れないように紙に書きなぐってからギターを手にする。資料を見ていたときから気になっていた曲と合わせる。恐ろしくマッチする。びっくりするぐらいマッチしてしまった。さすが夢の国の愉快なリーダーの曲だ。大丈夫だよな?暗殺者が送られてこないよな?
どうした、エレオノーラ。もっと構え?鏡を見てみろ、はっきり言ってオーバーワークだ。お互いにな。ああ、添い寝で手を打ってくれ。ほら、もっと寄れ。では、我が腕の中で息絶えるが良い。逃がすかボケ!!エレオノーラはもっと胸部装甲が薄いんだよ!!はい、諜報部にご招待!!
ちっ、こっち方面も人材不足か。オレはともかくエレオノーラとイサドラは自衛できるか?エレオノーラはギリギリだろうなぁ。イサドラは無理。護衛につくしかないな。鍛冶仕事が滞るが仕方ない。マクロスキャノンは完成してるんだ。忘れがちだがクォーター級はブロック工法なのだ。全部で5つのブロックで分けられている。艦橋部分とエンジン部分は完成していて、マクロスキャノンと空母部分も修正が入るがほぼ完成している。あとは、鍛冶師たちでも大丈夫だろう。
クシェペルカから納品された銀凰騎士団の新たな旗艦、クォーター級1番艦、マクロスを徹底的に調査している。そしてその出来に脱帽する。
「さすがトールですね。今持てる全ての技術がこの艦に注ぎ込まれています。僕の斑鳩以上のこだわりが感じられます」
「なあ、幾ら何でもあの大砲は不味いだろう。大型のダインスレイブ以上の化物じゃねえかよ!?しかも、超小型のダインスレイブまであるんだが!?」
親方が慌てていますが、先日の通信で飛竜艦の開発者が北の方で目撃されたと聞いていますからね。今も生きていて士官先を探している時点で第二の飛竜艦が現れる。出くわしたら何としてでも潰せという意思表示でしょうね。少なくとも数十年は、自分が生きている限りは許すつもりはないんでしょう。
「トールが言うにはこれが本来のダインスレイブの大きさらしいですよ。使い捨てでコスパが悪いからと大型化して艦に取り付けていたのが今までの物です」
「だからって、格納庫に搭載できるシルフィーネの数だけあるんだが」
「攻撃力の低さを補ってくれるということです。実弾ライフルの一発限りの強力なものだと思えば問題ないはずです」
カルディトーレをすぐにダインスレイブ搭載機に改装する設計図も送られて来ていたのは内緒にしておこう。右腕と一体化したダインスレイブの本体はこっそり作っておくけど。
「さて、とりあえずはマクロスの習熟訓練ですね。性能から何から勝手が違うでしょうし、新技術もてんこ盛りですから」
「その分、予算もてんこ盛りなんだろうが!!なんだこの請求書の額は!?」
「ファットアンクル70隻分ですね。まあ、ファットアンクルが安すぎなのですが」
「ムスペルヘイム改の倍以上じゃねえか!!」
「その価値は十分にあります。トールが僕たちに相応しい艦として用意したんですから」
「つまりどういうことだ?」
「無理無茶無謀に付き合わせても頑張ってくれる男の子です!!いや、船ですから女の子かな?あと、名前が示すとおり完成度25%で随時バージョンアップを施していくそうですから」
「25%って、問題じゃねえか!?」
「普通の飛空船としては100%です。それで20%、残りの5%はあのマクロスキャノンで占められています。まあ、僕たちが生きている間に50%に到達すれば良いなぁ程度に考えたほうが良いですね」
可変機構までは絶対に盛り込むはずですし、ピンポイントバリアまでは意地でも完成させるでしょうが、その先が厳しすぎます。恒星間航行にフォールドは無理でしょう。
「あの大砲、そんな名前だったのかよ」
「アレはいずれクォーター級の連綿を継ぐ全ての艦の代名詞の一つとなるはずです。マクロスキャノンが無いのなら別の艦の方が良いに決まっています」
「代名詞の一つ?他にもあるのか?」
「ええ、とはいえまだその機能は搭載されていません。今頃は実験中でしょう。僕はマクロスの完成形を知っていますから予想はつくんです」
メタスを作っている以上、絶対に可変させるはずです。どういう可変機を揃えるのか気になります。まあ、何種類か揃えるでしょう。マルチロール、ファイター、ボンバーは揃えてくるでしょう。それと特殊作戦機、近衛でも別のを揃えるはず。艦と艦載機はセットですからね。
「それよりもマクロスの技術を流用して僕の天・斑鳩を完成させますよ!!」
やはり空戦に必要な技術の習熟度や切り込み方が僕を一回りぐらい上回っています。そしてその技術は幻晶騎士にフィードバックしやすい。なにせマクロスは、超巨大ロボットと捉えることが出来るのですから。巡航形態でも強行形態でも問題なく使える技術で作られているのですから。ロボットに扱えて当然の技術なのですから!!
やはりトールは良い!!僕の好みを分かってくれている。僕なら十全に扱ってくれると分かってマクロスを作ってくれている。ダウンサイジングは行わなければならないですが、それ以外は全て終わらせてくれている。
トールと僕では目指す先が異なる。艦とロボ、そんな違いは些細なものだ。僕とトールの違いは明確な目標があるかどうか。僕はロボットと言うカテゴリーに憧れた。目を心を魂を奪われた。そのロボットの中で一番のものをと思ってしまった。それは終わりのないマラソンだ。トールは何らかの艦、おそらくは宇宙戦艦ヤマトに全てを奪われた。頑なに設計図すらも引かないのは、作ると決めた時点での全てを捧げるため。
遥高みかもしれないが存在する目標と、何処にあるかすら分からない目標。
この差が僕とトールを大きく分けている。はっきりと言えば、人としての壊れ具合は僕がぶっちぎりです。なんせ、そのことを自覚した上で何も感じないのですから。悩んだり、答えを既に出している二人と違って、僕は初めから問題にすらしていない。マッドと呼ばれる部類で間違いないのですよ、僕は。
「さあさあ、しばらくは眠る暇もないですよー」
僕が止まるのは僕が死ぬときだけです。
後書き
原作もそうですが、エル君は人として壊れていると思っています。ロボへの愛が強いと言うか、それ以外で対して感情が動かない時点で人として壊れているはずです。平和な日本に生まれて生きていた記憶があるのに、幻晶騎士同士の戦いで人が死んでいるのに、壊れていくのもまた美しいという感想が一番に来ている時点で確実に壊れています。この作品ではそれを表現していきたいと思ってます。特にアディとの結婚時での心象とかは完全オリジナルになる予定です。
次回からは、新たな転生者も登場。トールはほとんどお休みですね。
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