永遠の謎
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83部分:第六話 森のささやきその六
第六話 森のささやきその六
白い宮殿を思わせる建物の中でだ。二人は会った。王はにこやかに彼女に言うのであった。
「お久し振りです」
「はい」
美女もだ。にこやかに彼に応えた。
「貴方もお元気そうですね」
「お陰様で。今日はよくこちらに来られました」
「私が一人でいないのは珍しいでしょう」
美女はここではその言葉に少し自嘲を込めた。
「そう言う者が多いですね」
「御気になさらずに」
王はその彼女にこう返した。
「下らぬ言葉なぞ。耳に入れることもありません」
「オーストリア皇后として相応しくないというのですね」
「そうは言いません」
王はそれは否定した。二人が今いるその場所は白い円柱に壁に。そして薔薇とジャスミンに囲まれて緑の庭がある。白をベースにして様々な色で飾られた。そんな場所であった。
そこにおいてだ。王はそのオーストリア皇后、自身にとって七歳年上であり従姉エリザベートに対して。親しく声をかけるのであった。
「ただ。貴女の御心を痛ませるだけですので」
「だからですね」
「そうです」
「有り難うございます」
皇后は王に対して静かな礼を述べた。
「ではそのお言葉。有り難く受けさせて頂きます」
「私としてもそうして頂けると何よりです」
「左様ですか」
「はい。それでなのですが」
王からの言葉であった。
「皇帝陛下はどちらにおられるでしょうか」
「こちらに」
いるというのだった。
「御会いになられますね」
「できれば」
そうしたいと。王も述べた。
「御願いします」
「わかりました。それでは」
皇后が案内をする。こうして二人はその宮殿、神殿を思わせるその中を進んでいく。その中においてであった。
皇后は。王を案内しながらこんなことを言ってきたのであった。
「音楽家と会われたそうですね」
「ワーグナーですね」
「はい、彼をミュンヘンに招いたとか」
「はい」
その通りだと。王は答えた。白いその廊下を進みながら。
「会わずにはいられません」
「会わずに、ですか」
「今はこうしてここにいますが」
それでもだとだ。言葉に出ていた。
「ですが。彼の芸術のその全てがです」
「ワーグナーといえば」
ここでだ。皇后もまたそのワーグナーについて話すのだった。
「ウィーンではちょっとした有名人でした」
「トリスタンのリハーサルですね」
「七十七回もそれを行い」
リハーサルの数としては尋常なものではない。ワーグナーは完ぺき主義者であった。その為リハーサルも徹底して行う男なのである。
そのことをだ。皇后も知っていてそれで今話すのであった。
「しかしそれでもです」
「上演されなかったのですね」
「はい、そうです」
その通りだというのである。
「ウィーンの歌劇場においては」
「オーケストラも困難ですが」
まずそれもなのだった。
「数が非常に多いのですね」
「ワーグナーのオーケストラはどれもそうと聞いていますが」
「そうです、壮大なのです」
そうであるとだ。王は七歳年上の従姉に半ば恍惚として語る。
「その壮大さもまたワーグナーなのです」
「それもですね」
「そうです。それに」
「それに」
「歌手もです」
それについても話すのだった。
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