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永遠の謎

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82部分:第六話 森のささやきその五


第六話 森のささやきその五

「もうな」
「ではデザートだけですね」
「そうだ。何があるか」
「アイスクリームがあります」
 それがあるというのだ。アイスクリームだというのだ。
「それで宜しいでしょうか」
「わかった。ではそれを頼む」
「はい、それでは」
 こうしてだった。王はそのデザートを楽しむのであった。
 そうしてであった。彼は食事も楽しみながらそのうえで従姉のところに向かった。そうしてそのうえでだ。フランケンの鉱泉の町キッシンゲンに着いた。
 そこは美しい公園や庭園があちこちにあり薔薇が咲き乱れていた。紅や白や黄色の花々を見ながらだ。王は満足した顔でこう言った。
「やはりいいものだな」
「薔薇がですね」
「私は薔薇が好きだ」
 こうだ。また侍従達に話すのだった。
「見ているだけで幸せになる」
「そしてですね」
「この花も好きだ」
 今度は青い花も見ていた。それは。ジャスミンであった。他の花もあったのだ。
「青い花もな」
「陛下は青がお好きですね」
「いい色だ」
 目を細めさせての言葉だった。その整った青い目のだ。
「青い花は種類は少ないがな」
「そうですね。チコリやヤグルマギクがありますが」
「スミレや菖蒲はあっても」
「全体的に少ないですね」
「どうしても」
「だからこそかも知れない。私は青い花が好きだ」
 こう言うのであった。その青いジャスミンを見ながら。
「願わくばだ」
「願わくば」
「一体」
「私は最後はこの花達に見送られたい」
 こうだ。ジャスミンを見ながら話す。
「そう思う」
「陛下、そうしたお言葉は」
「どうかと思いますが」
「そうだな。確かにな」
 王も侍従達のその言葉に頷く。いわれてみればなのだった。
 そうしてだ。彼はこう言い換えるのだった。
「この花達に囲まれて生きていたい」
「それは何時でもできますので」
「御安心下さい」
「そうだな。薔薇だけではなく青もだ」 
 薔薇も出す。しかし青もなのだった。
「私は共に愛する」
「青い薔薇というのはありませんし」
「それは」
「やがてできるかも知れない」
 王の言葉はここでは希望を見ているものだった。
「やがてな」
「やがてできますか」
「そうした青い花も」
「そうだというのですね」
「そうだ。世界は常に前に進んでいる」
 そのことが無条件に信じられていた時代でもあったのだ。だから王はこうして話すのだった。話すことができるのであった。
 その希望を見る目でだ。王はさらに話す。
「だからこそ。やがては」
「青い薔薇もまた」
「出て来ますね」
「私は見ないだろうが」
 それは諦めていた。無理だとだ。
「だが。やがては生まれるだろう」
「左様ですか」
「青い薔薇もまた」
「青は人を清らかにさせる」
 ここでも青を見てだ。いとしげに話した。
 その青いジャスミンの園を歩きながらだ。彼はそこに向かった。
 そこにいたのは。茶色がかり波になっている極めて長い、しかも豊かな髪を持ち琥珀を思わせる神秘的な輝きを放つ目を持っている。細面であり鼻が高い。目鼻はどれもまるで彫刻の如く整い何かの芸術品を思わせる。長身でありすらりとしている。その長身を白いドレスで包んだ彼女がだ。そこにいた。
 
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