戦国異伝供書
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第二十二話 川中島にてその四
「だからお主達もふんだんに食って寝よ、よいな」
「その様に」
家臣達は皆頭を下げて応えた、そうしてだった。
彼等は実際に飯をたらふく食いはじめた、柴田は人一倍飯を食いながらそのうえで共に食う者達に言った。
「織田家は戦の前は絶対に大飯じゃ」
「ですな、何つけても食え」
前田も大飯を食いつつ応える、二人共大柄なこともありかなり食っている。
「殿はいつもそう言われますな」
「戦の前にたらふく食ってじゃ」
「そうして寝て」
「存分に戦え」
「いつもそう言われますな」
「そして実際にたらふく食わせてくれる」
とかく食う柴田だった、その大きい口が大飯によく似合っている。
「有り難いことじゃ」
「お陰で思う存分戦えますな」
「我等はかつてじゃ」
柴田は今共にいる織田家の主な将帥達を見た、誰もが政の場でも戦の場でも長い付き合いでお互いによく知っている。
「関東管領殿と戦った」
「そして敗れましたな」
佐々が応えた、それも忌々し気に。
「完膚なきまで」
「そこで殿が来られて再戦となってな」
「引き分けましたが」
「上杉の軍勢は強い」
「武田に勝るとも劣らぬまでに」
「まさに天下の二強」
「全くですな」
そこまでの強さだというのだ。
「そのうちの一つは降したにしても」
「まだ正念場ですな」
「次の敵も」
「あの強さは恐ろしいものでした」
明智も言ってきた、見れば食い方は礼儀正しく柴田の様な豪快さはない。しかししっかりと食っている。
「それがしも武田にもです」
「勝るとも劣らぬな」
「そうしたものを感じました」
こう柴田に述べた。
「手取川では」
「お主もそうであるか」
「危うく命を落とすところでした」
謙信との戦いでというのだ。
「多くの兵達も失いましたが」
「我等もな」
「まことに危うくです」
まさにあと一歩だったのだ。
「命を落とすところでしたな」
「そう思うとな」
「あの強さは折り紙付きです」
そこまでの強さだったというのだ。
「ですから」
「この度の戦もな」
「油断せずに」
そうしてというのだ。
「行っていきましょうぞ」
「殿の命に従いな」
「必ずな」
「殿の策の通りにすれば」
そうすればとだ、明智は柴田に強い声で述べた。
「勝てます」
「そうじゃな、あの上杉家にもな」
「この川中島で勝ちますと」
どうなるかとだ、蒲生は静かに述べた。
「上杉家の軍勢に深手それもかなりのものを負わせるでしょうし」
「両家の戦自体の勝敗が決する」
金森が強い声で述べた。
「必ず」
「そうなりますな」
「だからこそな」
「相手も決死で向かってきますな」
「只でさえ強いが」
「だからこそ気が抜けぬ」
村井はあえてこの言葉を出した。
「勝ち鬨を挙げるまでは」
「かつての川中島では朝目の前に軍勢がいたという」
川尻は武田家の視点で話した、山本勘助が啄木鳥の戦法を使うと謙信はそれを見抜いて一気に妻女山を下り信玄の本陣に急襲を仕掛けたのだ。
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