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戦国異伝供書

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第二十二話 川中島にてその一

               第二十二話  川中島にて
 信長が率いる織田家の軍勢は信濃の北にある川中島に向かっていた、信濃の途中まで来ると信玄が整えていた道のお陰でだった。
 進軍が速くなった、それで信長は言った。
「よし、この道ならばじゃ」
「川中島まで順調に行けますな」
「このままいけば」
「そうなりますな」
「うむ、そしてじゃ」
 それでというのだ。
「我等は上杉の軍勢と戦うが」
「殿、その上杉の軍勢ですが」
 忍を率いる家臣の一人である蜂須賀が言ってきた。
「越後にいますが」
「それでもか」
「はい、春日山城にはです」
「まだ入っておらぬか」
「若し我等があの城を攻めようとすれば入られますが」
 それで籠城される位の場所にいるというのだ。
「このまま我等が進めばです」
「我等が川中島に着く頃にはか」
「まだ信濃に入れませぬ」
「そうか、では我等はな」
「川中島より先に着き」
「戦の用意をするとしよう」
「そうされますか」
「それも充分にな」
 戦の用意、それを行うというのだ。
「そしてじゃ」
「そのうえで」
「我等は戦い勝つ」
 そうするというのだ。
「必ずな」
「その為の用意ですな」
「その通りじゃ、しかし上杉家も速いのう」
 信長は謙信が率いる彼等の動きについても述べた。
「北陸の道を急いで戻ってきたか」
「流石は毘沙門天の化身でしょうか」
 生駒が考える顔で言ってきた。
「ただ戦に強いだけでなく」
「軍を上手く率いてな」
「そしてですな」
「その速さかなりじゃ」
「そうですな、では」
 それではとだ、蜂須賀は信長に応えて述べた。
「我等も油断せずに進み」
「川中島に入るぞ」
「わかり申した」
「しかしな」
 ここでこうも言った信長だった。
「流石は武田信玄じゃな」
「道が整っていますな」
「領国内のそれは」
「お陰で我等も進みやすいです」
「実に」
「信濃から遠江や三河を攻めるつもりはなかったな」
 信玄は駿河も領国にしている、その為であることは明らかだった。
「それでじゃな」
「しかしですな」
「そちらは別にして」
「それでもですな」
「領国の中は」
「うむ、実に整っておってな」
 そしてというのだ。
「道も然りじゃ」
「善政を敷いていると聞いていましたが」
「これはかなりですな」
「それでこの通り道も整い」
「動きやすいですな」
「全くじゃ、善政はこうした時にも役立つ」
 軍を進める時もというのだ。
「わしも手本にせねばな」
「殿もですか」
「そうされますか」
「うむ」
 頷いての返事だった。 
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