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デジモンアドベンチャー Miracle Light

作者:setuna
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第66話:メタルグレイモン

一度現実世界に戻り、光子郎に事情を説明すると光子郎も深刻そうな表情で頷いてくれた。

全員が解散したことを確認すると、光子郎に暗黒のデジメンタルを差し出す。

「大輔君、この水晶玉は?」

「スカルグレイモンから退化したアグモンの近くに転がっていました。多分、この水晶玉の力でアグモンを進化させたんだと思います」

「これで?アイテムによる進化、まるで…」

「はい、アーマー進化ですね。多分カイザーはアーマー進化ならデジメンタルだけで進化出来る利点に着目してこんなふざけた物を作ったんだと思います。」

「…くっ、これほどの物を作れるだけの才能や技術がありながら何て恐ろしいことを…」

紋章にも匹敵するほどの技術が用いられ、造り出された暗黒のデジメンタル。

正しく使われるべき技術を悪用する治に光子郎は怒りに震えた。

「大輔君、それを貸して下さい。解析してみます。もしかしたら…」

「え?」

「僕だって人並みに怒ることだってあります。正しきことに使うべき技術を己の私欲のために悪用する輩には相応の報いを受けてもらいます」

光子郎の目に宿る怒りに大輔は彼を信じて暗黒のデジメンタルを差し出した。

「明日、アグモンを助けに行きます」

「ええ、出来るだけ早く終わらせておきます」

大輔もパソコン室を後にして、自宅に戻る。

翌日の放課後、全ての事情を聞いたヤマトと空が急いでパソコン室に向かっていた。

何か力になれればと思ったのだが、既に向かってしまったかもしれないとパソコン室の扉を開けると…。

どうしたものかと頭を悩ませる光子郎と真っ白な灰になっている京の姿があった。

「…何があったんだ?」

「ええっと、実はですね」

光子郎がヤマトと空に説明する。

それは今から数十分前に遡る。

学校掃除で遊んでいる同じ班員のせいで何時もより遅くなってしまった大輔とヒカリとタケルと賢。

パソコン室に着くと既に太一と芽心、光子郎と伊織がいた。

『すみません、遅くなりました。同じ掃除班の奴らが遊んだせいで俺達も巻き込まれちゃって…』

大輔が深々と太一に謝罪して周囲を見渡す。

『ブイモン、京は来たか?』

『いや、来てないぜ。』

『は?授業は既に終わってるだろ?何してるんだあいつは…』

『だったら捜しに行ったらどうなんだよ!!』

『…太一さん』

つい、語調が荒くなってしまう太一。

大輔に当たっても仕方ないとは思うのだが、アグモンがどうなったか分からない不安と苛立ちに、ちょっとした事が気に障ってしまうのだ。

芽心が隣の太一を見遣って悲しそうにする。

それに気付いて気まずそうに口を閉ざした。

大輔も気持ちが分かるため、頷いて京を捜そうとする。

ところが、件の人物は教室の出入り口のすぐ横に立っていたのだった。

『…何をしてるんだお前は?そんなとこで突っ立って?』

『ごめん…遅くなって…』

太一といい京といい、何だかおかしな雰囲気だ。

京の何時も無駄に高いテンションはどこへやら、意気消沈した様子で教室の中に入っていった。

『京さん、何時もの掛け声を』

『…………』

賢に促されても京は無言のままだ。

D-3を持ったまま恒例の台詞を言おうとしない。

『京さん?』

『おい、どうした京?』

『具合が悪いの?なら保健室に行きなよ』

『そうじゃなくて…』

賢や大輔、ワームモンが言うが、京は口ごもる。

『……分かった。デジタルワールドに行きたくないんだな?』

【え?】

全員の視線が理由を察したブイモンに向けられた。

『そりゃあそうだろうな。今まで危なくても楽しい冒険だったのがいきなりマジモードになったんだ。いきなりの落差に戸惑わないはずがない。でもな、京。こうしてる間にもアグモンは大変な目に遭ってるかもしれないから、今はお前の気分に付き合い切れないのも確かなんだ……さて、京。お前の今までのトラブルメーカーとしての仕事っぷりは見事だった。ああ、実に見事過ぎるくらいに見事だったとも!!お前がやらかしたドジやヘマのせいで危険度やら難易度やらが馬鹿みたいに上がったりしたこともあったからな。まあ、それでもある程度の挽回はしてたけど今回の騒動に限ってはお前の存在は邪魔でしかないのだよ。思い出してみるといい!お前のドジとヘマが無ければ今までの戦いの危険度や難易度がどれほど下がったと思う?今回は下手をすれば太一のアグモンが一生変態仮面の奴隷にされてしまうかもしれない事態だ。苦楽を共にした仲間がそうなるのは困るんでね。だからトラブルメーカーのお前にはここに残っていてもらいたいんだよ』

ノンブレスで言い放ったブイモンに全員の表情は引き攣り、京は真っ白な灰となった。

ブイモンの言葉を分かりやすく説明すると。

“おめえがいると邪魔だからここに残ってろ”である。

『何てこと言うのよあんた!!事実だとしても普通そこまで言う!?』

『ぎゃふーーーんっ!!?』

『だって時間が惜しいじゃん。京のウジウジ病に付き合いきれないし。これ以上待ったら太一がキレるから俺のこの発言は全て太一のせいだ』

『俺のせいにすんな!!』

『黙らっしゃい。京のウジウジタイムとアグモンの身の安全。どっちが重要かなんて猿でも分かる。ほら行くぞお前らー。ヒカリ、何時もの台詞、夜露死苦ぅ!!』

『あ、うん…分かった。それじゃあ…』

流石に言い過ぎではないかと詰め寄るテイルモンだが、ブイモンはどこ吹く風、馬の耳に念仏とばかりに涼しい表情。

何処までも我を行く、大輔LOVE・ヒカリLOVE・テイルモンHATEワハハハハなブイモンであった。

ヒカリに何時もの台詞を促す。

ヒカリは表情を引き攣らせながらも光子郎を見遣る。

『はい、ここは僕が何とかしますから皆さんはアグモンを』

『お願いします。デジタルゲートオープン。選ばれし子供達出動!!』

光子郎に灰となった京を任せてヒカリ達はデジタルワールドに。

これがヤマトと空がパソコン室に来る前の出来事である。

「「ああ~」」

道理で京が真っ白な灰になっていたわけだと納得したヤマトと空であった。

「ヒック…グス…確かに私、みんなに迷惑かけてる自覚はありましたけど…それを本人に向かって笑顔でドストレートに言いますか普通!?」

灰から元に戻った京がヤマトと空に泣きながら言う。

「ん~まあ、あの子は遠慮がないと言うか、素直と言うか、純粋だから思ったことをポロリと言っちゃうとこあるしねえ…」

「パートナーデジモンは俺達パートナーの鏡映しって言われてるしな。大輔も素直な性格だからブイモンもポロリと言っちまうんだろうな」

空もヤマトも頬を掻きながら言うと京は立ち上がった。

「あそこまで馬鹿にされてまでウジウジしてるような私じゃないわよ!!私が超大活躍してブイモンに単なるドジとヘマをやらかすだけの役立たずじゃないってとこを見せてやるわ!!」

「「…………」」

ブイモンに怒りを向ける京。

どうやら怒りで復活したようだが、本当に役立たずじゃないってとこを思い知らせられるかどうかは謎だ。

「よし、出来た」

「「ん?」」

光子郎は満足そうに暗黒のデジメンタルを見つめていた。

「光子郎、その水晶玉は何だ?」

「これは一乗寺治さんがグレイモンを暗黒進化させる際に使用したデジメンタルです」

「それがか?」

「はい、大輔君が回収したのを解析したんです。これは大輔君達が使用しているデジメンタルを参考にしているのですが、大輔君達のデジメンタルとは違う点は選ばれし子供のパートナーデジモンであるならばどんなデジモンだろうと暗黒進化させることが出来るんです。」

「なる程、一乗寺治はあのアグモンが太一のパートナーデジモンだと知っていて操ったのか…くそ、どこまで性根が腐ってるんだあの野郎!!」

他人のパートナーデジモンを奪っただけでなく、それを当然のように扱う治にヤマトは怒りがこみ上げるのを抑えきれない。

「ヤマトさん、このデジメンタルを渡しておきます。」

「は?」

「僕はこれを解析して、このデジメンタルの暗黒進化のプログラムを書き換えておきました…。このデジメンタルには対象のデジモンの一段階上の進化を可能にする力があるようなんです。成熟期の状態でこれを使えば…分かりますよね?」

「…完全体か」

紋章をデジタルワールドに解き放ってからブイモンを除いたデジモン達は完全体への進化がし難くなってしまった。

「一応聞いとくけど完全体の状態でやれば究極体も可能か?」

「その可能性は充分に。しかし流石にそれも万能ではないみたいで、会得出来てない進化…例えばテントモンですけど、究極体への進化が出来ていないから、アトラーカブテリモンより先の進化は不可能です」

「流石にそこまで便利じゃないか。さて…」

「ヤマト。それ…使う?」

「いや、第一線を退いている俺よりも使うべき奴らがいる。」

ヤマトの脳裏に今、戦っている大輔達の姿が過ぎる。

大輔はずっと前からデジメンタルを使っての戦いだから除外。

因みに3年前と現在とでは同じアーマー進化でも微妙に異なる(何でも3年前までは紋章の力で鎧を構築してアーマー進化していたのに対して、現在はただデジメンタルそのものを身に纏ってアーマー進化している違いがあるとのこと)らしいが。

だからヒカリ、賢、タケルの誰かに譲るべきだろうとヤマトは考えている。

「…やっぱり、ここはヒカリちゃんかもな」

今回捕まっているのは太一のアグモンでヒカリにとっても縁深い存在だ。

「と言う訳で、京ちゃん。俺達も連れて行ってくれ」

「分っかりました!さあ、待ってなさいブイモン!!私が単なる役立たずじゃないってとこを思い知らせてやるんだから!!」

京は燃えていた。

ヤマトと空は苦笑しながらデジヴァイスを構えてデジタルワールドに。

一方大輔達は、アグモンを捜してデジタルワールドを歩き回っていた。

重くなる雰囲気の中、ダークタワーを発見して破壊しようとした時、ウッドモンが現れたが、フレイドラモンで一蹴。

運良く得られた情報で町に立ち寄る。

「デジモンはいないか」

町の住人であるはずのデジモンの姿はどこにもいない。

皆が治に連れ去られてしまったのだろうか。

「あの野郎を追い詰めすぎたな。他人のパートナーを奪うとかなりふり構わない行動に出ていやがる。」

「全く兄さんは、一度徹底的に痛い目に遭わせないと分からないようだね」

「僕にどうやって痛い目に遭わせるんだ愚弟?」

真上から聞こえてきた声に全員が上を見上げる。

そこには治と…。

「メタルグレイモン!?」

ウィルス種のメタルグレイモンであった。

「ふふふ…感謝したまえ。君のような凡人のパートナーデジモンが僕が初めて完全体を支配することが出来た証になれたのだから」

「何だとこの野郎!!」

「…ん?輪の形が変わってる?」

賢がメタルグレイモンの腕に填められている輪の形状が何時もと違うことに気付いた。

「イービルスパイラル。イービルリングの改良型だよ。イービルリングでは成熟期程度なら支配出来るが完全体となるとデータ処理が追い付かない。だから螺旋状にすることでデータ処理の効率を上げたのさ。つまりアンドロモンの時のような不具合は起きない」

「そんな…そんなはずあるか!!メタルグレイモン、俺だ…分かるよな?」

「話しかけても無駄だよ」

呆然と歩み寄る太一に、治は残酷に言い放った。

「もうお前のパートナーデジモンではない……僕のしもべだ。さあメタルグレイモン、散々僕の邪魔をした奴らに完全体のパワーを見せてやれ!!」

治の声に応えてメタルグレイモンが吠えると、太一に向かってメタルアームを振り下ろした。

「デジメンタルアップ!!」

「ブイモンアーマー進化、サジタリモン!!メテオギャロップ!!」

サジタリモンにアーマー進化し、メタルグレイモンに跳躍蹴りを叩き込む。

不意を突かれたために体勢を崩した。

「止めろサジタリモン!!アグモンを攻撃するな!!」

「はあ!?何言ってるんだ!?何もしないでやられるつもりか!?」

「そうじゃない、頼むから待ってくれ!!」

叫ぶ太一を大輔が羽交い締めにして後ろに下がらせる。

「サジタリモン、イービルスパイラルだけを狙うことは出来るか!?」

「出来なくはないけど…」

目隠しをしていても的に的確に当てることが出来るサジタリモンだが、必殺技の矢は威力がありすぎるために加減を間違えたらメタルグレイモンの腕が吹き飛ぶ。

「待て!頼むから、ちょっと待ってくれ!!」

「………」

「危ない!!」

ヒカリの声にハッとなり、サジタリモンが向こうを見遣ると起き上がったメタルグレイモンのミサイルハッチが開いて有機体ミサイルを放った。

「やばい!!」

全員が退避し、何とかミサイルの直撃は免れたが、しかし爆風で吹き飛ばされてしまう。

「あははは、流石完全体だ、呆気なくケリが着いた。メタルグレイモン、お前がいればデジタルワールドの征服もすぐ終わる!!」

メタルグレイモンの上に飛び乗り、去っていく治。

太一がメタルグレイモンに向かって手を伸ばすが、操られたメタルグレイモンはこちらを振り向こうともしなかった。

「さあ行け、メタルグレイモン!次のエリアへ!!」

邪魔な岩をメタルアームで粉砕しつつ、メタルグレイモンは地平線の向こうに消えていった。

「参ったな、まさかメタルグレイモンが敵になっちまうなんて…」

「どうすれば……どうすればアグモンを取り戻せるんだ」

大輔と太一の呟きが響き渡ったその時…。

「みんなーっ!!」

「あ、役立たず」

「誰が役立たずよー!!」

ブイモンの呟きをしっかり聞いた京が叫ぶ。

2台のトロッコに乗った京とヤマトと空が線路を走ってやって来て大輔達が駆け寄る。

「さっきはしょぼくれててごめんね」

「いいえ、きっと来てくれると信じてました!」

「トラブルが無くなるからこのまま現実世界に残ってればいいのになー」

「黙らっしゃい!!」

「俺達としちゃ、京ちゃんが残ってくれてて助かったよ……ところで一体今、どういう状況なんだ」

「実はですね」

賢がヤマトに事情を説明するとヤマトが溜め息を吐いた。

「そういうことか」

「ヤマトさん、強烈なのをお願いします」

「任せとけ」

大輔に言われずとも太一に歩み寄ると強烈なのを一発。

「え、ええ!?」

いきなり太一が殴られたことに芽心は目を見開くが、空は芽心の肩をポンと叩いた。

「良いのよあれで」

「ヤマト…」

「目が覚めたか?」

「お陰で目が覚めたよ。俺が躊躇しちゃ駄目なんだ。普通にやっても敵うかどうか分からないのに、躊躇なんかしてたんじゃ、絶対敵いっこない……全力で戦わなきゃ、アグモンは取り戻せない」

「そう。アグモンだってきっとそれを望んでいる。あんな奴の手先になって利用されるくらいなら、倒される方がマシだってな」

「ああ……なあみんな、頼みがある。今度メタルグレイモンと戦う時は、遠慮なんかしないでくれ!!」

「……それでいいの?」

「腕の1本は覚悟してもらえますか?」

「…ああ、腕1本だろうとアグモンがあんな奴の言いなりにされたままよりずっとマシだ!!」

ヒカリと大輔の問いに頷く太一。

「太一の言う通りよ。いいわね、みんな。アグモンを想う気持ちがあるなら、絶対に躊躇しちゃ駄目よ!!」

【了解!!】

「よし、行こう!……あっ、これは京さんの役でしたね」

右手を振り上げたタケルが気付いて頭に手をやった。

京が何時もの台詞を言う。

「選ばれし子供達、出動!!」

全員がトロッコに乗る。

子供達が目指すのはメタルグレイモンが進んだ南の方向。 
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