レーヴァティン

「酒はな」
「そうたいな」
「しかし。仙人は酒豪か」
「酒仙たい」
　香織は笑ってこうも話した。
「うちはそれたい」
「本当に酒飲みか」
「李白さんたいよ」
　笑ってこうも言うのだった。
「言うならば」
「ああ、そういえば」
　謙二も飲んでいる、そうしつつの言葉だ。
「李白も酒好きでしたね」
「そうたいな」
「舟遊びをしながら飲んでいて湖に写った月を取ろうとしたとか」
「それで溺れ死んだとよ」
「そうも言われていますね」
「これは実は違うそうたいが」
　伝説の話だ、尚彼と並び称される唐代の詩人杜甫は貰った牛肉を食べ過ぎて死んだという伝説があるがこれもあくまで伝説だ。二人共実際はそれぞれ違う死に方をしている。
「ロマンティックと言うべきか」
「どうにもと言うべきか」
「言うのに困るとよ」
「飲んで水に入るな」
　幸正はそこは言った。
「溺れるし心臓にも悪い」
「お風呂にもたいな」
「下手したら死ぬぞ」
　幸正は香織にこう返した。
「サウナも駄目だ」
「本当に心臓に悪いとよ」
「そうだ、だからな」
「飲んだらたいな」
「時間を空けてだ」
「それからお風呂に入るべきたいな」
「そうだ、しかしそれだけ飲むと」
　とにかくぐいぐいとうわばみの様に飲む香織にだ、幸正はこうも言った。
「後が大変だろう」
「二日酔いたいな」
「今我等が飲んでいるのは焼酎だ」
　普通の酒より強い、それが焼酎だ。
「それをそこまで飲むとな」
「もう二升は飲んでいますよ」
　謙二も香織に言った。
「それでもですか」
「だからうちは酒仙たい」
「お酒には強いですか」
「そうたい、これ位は平気とよ」
　焼酎を二升飲んでもというのだ。
「大丈夫たい」
「それならいいですが」
「安心するたい、じゃあ江戸に着いたら」
「そうしたらだな」
「十一人目探すたい」
　香織もというのだ。
「そうするとよ」
「そうしましょう、しかし揺れますね」
　謙二は飲みつつ今揺れたのを見て言った、盃の中の酒はもう飲んでいたので零れる心配はなかった。
「この場所は」
「この辺りは揺れる」
　実際にとだ、幸正は謙二に答えた。
「よくな」
「こうした風にですか」
「そうだ、だからだ」
　それでというのだ。
「驚くことはない、しかしな」
「船に慣れていないとですね」
「ここは船酔いする場所だ」
　よく揺れるが故にというのだ。
「皆酔っていないみたいだな」
「十一人全員が」
　彼等全員がとだ、謙二が答えた。